198 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/15 23:47 
Part3>>705の続き

一軒の民家の中で、
柴田英嗣・山崎弘也は(アンタッチャブル)は、
目の前の迫撃砲をぼんやりと眺めていた。

数時間前。
柴田が立川談志に言われた方向に行って見ると、
スマイリーキクチが、今まさに相方を殺さんとしているところだった。
抑えに抑えてきたキレ芸人の血を爆発させた柴田は、
拳銃と右足による蹴りでスマイリーを殺し、
勢い余ってその後十数秒間に渡って死体を散々蹴りつけたが、
正気に返り、満身創痍の山崎をここまで引き摺って来た。
その玄関先で、彼は3つの死体と出会った。

森永秀康(元ツインカム)の死体は、首から下はほとんど原型を留めていない。
近くの地面には、持っていたと思われるマシンガンがあった。
その反対側には、海原はるか(海原はるか・かなた)こぼん(おぼん・こぼん)が、
蜂の巣状態で転がっていた。
海原はるかの横にはビックリ箱、そしてこぼんの横には、
最後の力を振り絞って森永を死に至らしめた武器、迫撃砲があった。

199 :書き忘れた :02/06/15 23:49 
【森永秀康(元ツインカム)海原はるか(海原はるか・かなた)
こぼん(おぼん・こぼん)死亡】
200 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/16 00:02 
スマイリーにやられた怪我の治療を受けている最中、山崎は泣き通しだった。
「俺、もう2度とお前に会えないと思ってた…」

「何言ってやがんだよ!」と笑い飛ばしてやる事は柴田にはできなかった。
自分が到着するのがあと一歩遅れていたら、
談志に出会えていなかったら、
山崎はスマイリーに殺されていたに違いない。

そう。みんな殺されてしまった。

「絶対にこのゲームをぶっ潰す!俺がバカ爆を復活させる!」

ゲーム開始当初に立てた固い誓いとは裏腹に、
ドラドラが死んだ。虻川が死んだ。マンブルが死んだ。今野が死んだ。
石川が死んだ。児島が死んだ。飯塚が死んだ。おぎやはぎが死んだ。

「児島さんが死んじゃあ…ゲバルトも出来ねぇじゃんか……」
誰に言うともなく柴田は呟いた。

205 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:00 
※最後ってことでメアド欄のおまけ付きです

>>82の続き


”ごめん”

”俺、お前のことどうしても信じられなかったんだ”
”だから逃げたんだ、お前から”



まるで紙に黒インクを染み込ませるように、
脳の内側に、広がりを持った音が重く響く。
空耳と呼ぶには明瞭過ぎる、低く曇った声。
それは人を殺すことの快感に翻弄され、
マスノが忘れかけていた、しかしよく知っていた声だった。
「…マスノくん…!?」
事態が掴めず、目を白黒させている豊本の声も掻き消す程に
その声は大きくなっている。

がっちりとした身体。ストパーのかかった色素の薄い髪。
その影からこちらを見降ろしていた優しげな目。
ずっと思い出せなかった姿が今、はっきりとマスノの脳裏に浮かんだ。
「松下……!!」
声の主が決定的に思い起こされると同時に、
心のどこかで、現実を受け止められない自分が声を張り上げる。
206 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:02 
>205の続き


  嘘だ。
  一番最初に、この手で殺したはずだ。

  原形も留めないほど切り刻んで、バラバラにして、
  鈍く銀色に光る大きな鍋に放り込んだんだ。

  彼はもうこの世にはいないはずだ。
  会うことも、言葉を交わすことも、二度とかなわないはずだ。
  なのに。


否定しようにもできるはずもない事実。
疑うのも馬鹿馬鹿しいほど確かな記憶を辿り終えると、
マスノは大きく目を見開いた。



  ──それなら何故、こんなにも鮮明に彼の声が聞こえるのだろう。


207 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:04 
「何が『ごめん』だよ…」
納得のいかない思いに駆られながらも、マスノは搾り出すように言葉を放った。
「……勘違いしてんじゃねえ…
何で謝んだよ!!
お前に謝られる筋合いなんかねえよ、
俺だって…最初からお前のことなんか信用してねえんだから!!」
自分の言ったことを直ぐに確かめる余裕もなくなっていた。
頭が割れそうになるほどの痛みと耳鳴りに翻弄され、
マスノは激しく苛立ち、惑乱し、歯軋りして髪を掻き毟った。


そうだ。
誰も信じてなんかいない。
この殺し合いのゲームが始まってから。
違う、ゲームが始まる前からずっと。



しかし、マスノはその頑なな心に何か引っ掛かるものを感じていた。
208 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:06 
P-MANに殴られた時にできた口の中の傷が、
今頃になって再び開いたことに気付く。
乾いた舌を支配する鉄の味。
同時に、蘇るP-MANの言葉。


『自分の相方を真っ先に殺したお前に何が分かんねん!!』


直後、咄嗟に反論しようとした唇を反射的に抑え、
さんざ痛めつけるつもりだったP-MANを一瞬にして殺してしまった。
その血に濡れた包丁を拭きながら、
言い訳をするように独りで喋り続けたことが頭に浮かぶ。



自分は何をどう弁明しようとしていたのだろう。
思い出してはいけない、あの感情は何だっただろう。


209 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:07 
>208の続き

鈍痛に耐えるマスノの耳へ、松下の声が絶えることなくこだました。

”お前に殺されて喰われた時、これは罰だ、と思った”
”俺、お前のこと勝手に疑って、逃げたりして
ほんとに悪かったと思ってる”
”お前……ずっと俺の後をつけてきてたんだろ?”

その一言に、マスノの眉間に一層深い皺が刻まれた。
「………バッカじゃねえの…!?」


マスノは無意識的に松下にウージーを向けた時の光景を思い返した。
それと共に、当時の自分の感情も。
210 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:09 
>209の続き


そんなはずはない。
ムカついたから殺した、それだけだ。



『ヒデ……!』
振り向きざまに崩れゆく松下の身体を、冷笑して見下ろした。
吹き抜ける風と連動するように、
バランスを失って倒れた胴体を眺めていた。
ざまあみろ。
死んでしまえばいい、お前なんか。
そう心で呟いて、それでも気持ちが収まらずに
腹いせにその身体を刻んでシチューを作った。



──どうして?



どうしてあんなにも彼に腹が立ったんだろう?


裏切られた、と思ったから?


だからってどうして腹を立てる必要があったんだ?

211 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:10 
>210の続き

「…違う……!!」
辿り着いてしまおうとする結論を、
マスノは手で強く後頭部を押さえつけ、必死に打ち消そうとした。
今までの行動を支えていた何もかもが崩れていく。
関東若手一の狂気と騒がれ、恐れられていたことへの誇りが
短い夢だったかのように、一気に暗転する。

想起したくもない、ゲーム開始直後の記憶が蘇った。

棒立ちのまま、拳を強く握り締めていた。
校門の前、黒い屈辱感が隙間なく胸を埋めた。
先に名前を呼ばれても待っていた自分には目もくれずに、
次々と森の中へ消えていく芸人達の中に混じり、逃げるように走っていったそれは
他でもない松下だったのだ。


……”待っていた”?

212 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:11 
>211の続き


信頼していた?



俺が?
松下を?




嘘だ。


幾多の人間を殺めてきた裏付けが、
その衝撃と快感の理由が、
こんなことであっていいわけがない。


嘘だ。
そんなはずはない、
そんなはずは……


213 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:13 
>212の続き

目まぐるしく回転するマスノの思考とは裏腹に、
松下の声は全くテンポを変えず、静かに、淡々とマスノに語りかけた。

”俺がついてれば、お前がこんなに多くの人を傷つけて
同時に自分を追い込むことにはならなかったかもしれないって…
死んでからすごく後悔した”
”ずっとお前の腹の中で、何とかしてお前を止めようとしてたんだ”
”お前がどんどん壊れていくのを見てられなかったから”


いつの間にか、マスノの目からは血の涙が滴り落ちていた。


泣く理由などどこにもないはずだった。
なぜ泣いているのか自分でも理解できなかったし、したくもなかった。
しかし、どうにかして止めようとしても
涙は後から後からとめどなく流れてきて、
俯いた顔を濡らし続けていった。
「…………」
じわじわと眼を滲ませる赤い涙が、
頬を伝って零れていく様子が視界を満たす。
松下を、多くの人間を殺しては
何度となく見てきた血の色だった。
214 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:15 
>213の続き


それは見事なほど鮮やかな赤。
去年の誕生日、松下がくれた薔薇の花の色。


ふざけんな。
死ねばいいんだ、お前なんか。

もう一度そう言おうとしたが、声が出ない。
既にほぼ全ての感覚が振り切れ、消えかけていた。
体感したことのない不可解な気分だった。
限界を超えた頭痛も、耳鳴りも、狂った涙腺も、
自分とはかけ離れた、どこか遠い所で起きていることのように思われた。


なおも続く声。


”もうこれ以上、自分で自分を狂わせることなんかない”

”終わりにしよう、ヒデ”


その声が鼓膜に反響するが早いか、
喉の奥から温かいものが一気に込み上げてきた。
紛れもなくそれは、この汚れた生涯に終焉を告げるものだった。
215 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:17 
>214の続き


口内いっぱいに、自らの熱が満ちる。

内臓が強く強く握り潰される感覚。
脳天を突き抜ける痛みの絶頂に、
マスノは弾け飛ぶような自分の最期を見た。





   死   ぬ





「…ぐあ…あああああああああああああああ!!!」





病院で爆発音が轟いた。


豊本の眼鏡、頬、首筋に吐血が落ちた。
マスノは豊本の体の上に身を伏せ、そのまま動かなくなった。



216 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:19 
>215の続き

点火の遅れた花火が勢いよく上がった。
赤や黄色、色とりどりの火の欠片が舞い上がり
黒い煙の中に吸い込まれて消えた。


煤で黒ずんだ、筋張った手が日村の肩を揺らした。
「日村先生、しっかりして」
設楽さんの真似、と付け加えて、豊本は微笑みを浮かべる。
「……似てるよ…やめろって、マジで凹むから」
うつ伏せに横たわった体を、弱々しい声が震わせた。
「設楽ぁ……」
そう呟いて顔を向こう側に向ける日村。
その姿からは、かつての殺人鬼の面影は
もはや寸分も見られなくなっていた。

身体に染み入る疲労感を振り払う気にもなれず、
豊本は冷たくなったマスノの背中に目をやった。
「どうしちゃったんだろうね、マスノくん……」
「俺が知るかよ」
気だるそうに呟く日村をよそに、
血に濡れた自分の肩を指差して、豊本はおもむろに喋り始めた。
「ていうかさ、さっきのまだすげえ痛いの。
ちょうどね、ここの所にスコップの角っちょが
こう当たっちゃってさあ」
217 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:20 
>216の続き

「”角っちょ”って…」
おかしな表現に思わず日村が吹き出す。
記憶から消滅しかけていた、人間の透き通った笑い声。
豊本は少し驚いてその様子を見ていた。


「こんな時でも、人間って笑えるんだね」
天を仰いで、豊本はぽつりと言った。
「あ?何だよ、急に」
日村が怪訝な表情を向け直す。
そこにはただ、全てを悟ったような温和な笑顔があった。
「いやね、仲間も死んで、自分も死にそうだっつうのに
まだ笑わすことってできるんだ〜と思って」
豊本はそれから、大きく息を吐いて
ひとつひとつ噛み締めるように言葉を並べていった。


「…俺さ、お笑いやっててよかったかも」


「……」
日村は豊本の顔をまじまじと見た。
鬱陶しい前髪も、四角い眼鏡も、何ら普段と変わってはいなかったけれど
いつも見ていたその顔が、今は何だか神聖なものに見えた気がした。
218 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:21 
>217の続き

「ヒムケン」
しばしの間の後、豊本が不意に声を掛けた。
「まだ落とし穴掘るの?」
無意味に周辺の草を引きちぎっては投げ捨てていたその手が
萌黄色に染まっているのが日村の目に映る。
日村はため息をついて、力なく言った。
「…ぶっちゃけ、もうそんな気起きねえよ。
なんか…色々疲れた」
「そっか」
返された答えに、豊本は小さく頷いた。
ポケットの中へ静かに手をやりながら。



次の瞬間、日村は首筋に何か細く冷たいものが突き刺さるのを感じた。
「…え」
注射器の針は確実に血管を貫いていた。



「さっき落としてくれた仕返し」



そう言う豊本の半笑いがぼやけていくのが見えた。
日村の意識はぷっつりと途絶えた。

「これも使うとこ間違っちゃったかなあ…」
眠るように目を閉じ、地に身を委ねた日村を一瞥して
豊本は透明な注射器を繁みに投げ捨てた。
小さな武器の残骸は、一瞬、弱い光を放って
藪の中へと吸い込まれていった。
219 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:25 
>218の続き


雲は暗く落ち込み、今にも雨が降り出しそうな様子だった。


ふと、向こうからけたたましい奇声が聞こえた。
声に聞き覚えはない。
おそらくまた一人、狂気に支配された若手芸人が暴れ回っているのだろう。
不思議な事に、恐怖感はもうどこにもなかった。
むしろ、心を占める漠然とした安堵感のようなものが
口元に浮かんだ笑みをより柔らかなものに変化させてさえいた。
「…さ、俺も行きますか」
目に入った前髪を軽く払う。
この不明瞭な視界ともサヨナラか、という思いが頭を掠める。
らしくもない感傷に浸っている自分が妙におかしかった。


そうこうしている間に、奇声が徐々に近づいてくるのが分かる。

すべてが終わり、本当に『ひとり』になってしまった自分が
取るべき手段は唯一つだった。
220 :ヒマナスターズ@最終回 :02/06/17 00:25 
>219の続き

豊本は立ち上がり、藪に忍ばせていたネックレスとスニーカーを取ると
自らの血に染まったスコップと同様、
日村の横に、供えるようにきちんと揃えて置き、合掌した。



そして、ゆっくりした歩調で
声がする方へと歩いていった。






【マスノヒデトモ(バカリズム)
日村勇紀(バナナマン)
豊本明長(アルファルファ) 死亡】
238 :新参者@ジョン・カヴィラの通訳は余計なことが多すぎる :02/06/22 00:44 

 長井の体はとっくに限界を過ぎていた。
 それでも彼は歩いていた。
 そうすることが義務であるかのように。
 
 先ほどの放送で、彼にとってショックなことがあった。
 エレキコミックのふたりが呼ばれてしまっていたのだ。
 禁止エリアの放送を聞こうとした耳に入ってきたふたつの名前。
 『えーと次はエレキコミックの…ふたりともですねえ。谷井と今立。次は…』
 一瞬、信じられなかった。
 今まで幾人もの死を目の当たりにしてきた。
 自分で殺したことも、あった。
 それは総て自分の大切な仲間ではない者のことであって…。太田が助からないと
思い、離れたのにはふたつ訳があった。
 太田を失った田中と一緒にはいられないと判断したから。
 そして、太田の死を、間近で見たくなかったのだ。
 今まで一緒に過ごしてきた者の最後を看取る…それは『死』を受け入れてしまうようで、
長井はそれをしたくなかったのだ。

239 :新参者@ジョン・カヴィラの通訳は余計なことが多すぎる :02/06/22 00:47 
>>238の続き(ちなみに>238は>>45の続きです、書き忘れスマソ。

 しかし…目の前で起こったことならともかく、赤の他人から告げられる声で彼らの
死を認めろというのには無理があるように長井は思えた。
 青木に刺された傷を手当てしてくれたふたり。重くて仕方なかった三国志全巻を
持っていったふたり。きっとバカふたりのことだ、ムチャクチャなことをやらかして
生き残るに違いないと勝手に長井は思っていた。
 ふたりの笑顔が頭の中に甦る。
 舞台に上がっているふたりの楽しそうな笑顔が…。
 思い出にするにはまだ早い。
 自分は生き延びている。それもきっと、ふたりの手当てがあればこそだろう(長井は
あのまま目覚めても、簡単な応急具すら持っていなかったのできっと重傷のままだったで
あろうし、あの傷ではすぐに手当てをしなければ危うかったかもしれない)。たまに傷が
疼くが今のところ支障は無い。
 それなのに、そのふたりは…。
 認めたくなかった。
 しかし、事実だったのだ。
 
240 :新参者@ジョン・カヴィラの通訳は余計なことが多すぎる :02/06/22 00:51 
>>239の続き
 
 「何のために、こんなめんどくさいこと…」
 長井は小さく呟いた。
 誰―それとも得体の知れない『何か』―に対して怒りをぶつければいいのか。
 数多の芸人の命を理由もなく奪う『何か』。
 生きる意志を無視する『何か』。
 きっと、こんな世界の人間だ、「死にたい」なんて思ってるやつなんていないだろう。
 それなのに、こんな『ゲーム』を始めて――。
 「もう、全部が狂ってたんだろうな…」
 長井はそう呟き、また歩き出した。
 諦めにも近い感情が全身を支配していた。
 彼の心の中ではエレキコミックのふたりの死(『の、放送』。彼は信じたく
ないせいかそう思い込むようにした)が尾を引いていた。

 ――しかし。
 「大丈夫、アイツは呼ばれてない…」
 ユリオカの名前が呼ばれていないことに安堵する心が、少なからず残っていた…。
 
242 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/22 20:15 
>>200続き

「なぁ、アレやろうよ」
砲弾を掌で弄びつつ、山崎が提案した。
「ほら、映画でよくあるじゃん。空に向かって銃とか撃つやつ…」

「アレか…」
弔砲というやつか。
1人1人個別に弔ってやりたいところだが、生憎その遺体は何処にあるのかも分からない。
そもそもゲーム開始以来柴田が遭遇した人力芸人は、今隣にいる相方が初めてなのだ。

「その1発しかないんだよな?弾は」
「うん」
ならば、使い道は1つしかない。
「人殺すのに使うよりはさぁ…」
「ああ。その方があいつらも喜ぶに決まってる…やるか」
「うん」

2人は砲身を担ぎ上げてリビングを出た。



243 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/22 20:45 
玄関を開けると、先程目にした3つの死体が嫌でも視界に入る。
「一応、他の人達の分もやっといたほうがいいんじゃねぇかな…」
「…そうだな」
庭先で、たった1発残された弾を装填し、
2人で左右から担いで砲身を空へと向けた。

山崎の頭に真っ先に浮かんだのは、同じ事務所の芸人ではなく、
自らの手で殺した野性爆弾の片割れの事だった。
(アイツ、名前なんつったっけ)
矢で後頭部を射抜かれ、無邪気にはしゃぐ相方の背後に崩れ落ちる姿が鮮明に甦る。
(何であんな事しちまったんだろ)
後輩の遺体を目にした時は、怒りに任せてほとんど無関係であろう名倉に斬りつけた。
過去の私怨を支配され、ルート33の増田に殺意を抱いた事もあった。

「やっぱ、どっかおかしくなってたのかな」
「お前もか」

驚いて隣を見ると、柴田が沈痛な面持ちで自分の目を覗き込んでいた。




244 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/22 21:10 
「俺の武器、拳銃3つだって言っただろ、さっき。
あれ、元はプラドラの持ち物なんだよ。
……ま、正当防衛っちゃ正当防衛と言えなくもないかもしれねぇけど…」
「…そっか」
「ゴメンな。隠してた」
柴田の声は次第に、先程自分がそうであったように涙声になってきた。
「いいってば。隠してたのは俺も同じだしさ」
「あいつら、多分気が動転してただけなんだ。ちゃんと話し合えば、俺…」
「大丈夫だよ。これやればきっと許してもらえるから」
「そうか?」
「そうだよ…」

砲身を立て直すと同時に、それぞれが手にかけた芸人の顔が思い浮かんだ。
(スマイリーキクチの顔はそれに含まれていなかったが)
「ごめん」
2人同時に全く同じフレーズが口をついた。
そして今度こそ、死んだ人力芸人の顔を思い浮かべた。
「今までありがとう。あの世でも、また皆でやろうな」

発射音を聞きつけた人間に狙われるなどという懸念は微塵も頭になかった。
むしろ心の何処かでは、それを望んでいるのかもしれない。


245 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/22 21:53 
ヘリコプターの回転音が遠く聞こえる。
(こんな死体だらけのイカレた島に近付く奴がいるのか、酔狂なこって)
一瞬雑念が頭をよぎったが、すぐに振り払った。
「せーの」
2人同時に引き鉄を引く。

轟音と共に砲弾がまっすぐ飛んで行った………筈だったが、
砲身の重さと発射の衝撃に耐え切れずにややのけぞってしまい、
実際には後方に大きく弧を描いて飛んで行った。
だが、目的は達せられたのだ。

「これからどうするよ?」
役目を終えた砲身を無造作に地面に置き、山崎が尋ねた。
「………」
柴田はポケットから拳銃を2丁取り出し、再び相方の目を覗き込んで言った。
「いいか?」

「構わねえよ。お前とだったら心中…」

言い終わらないうちに、後方で凄まじい爆発音が響いた。



246 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/22 22:38 
若手が勝手に潰し合うのを待っていればいいんだ。みすみす自分が面倒事に首を突っ込む必要はない。
そう考えて、ある初老の芸人は、とある民家にずっと見を潜めていた。
食料は豊富にあったし、途中で拾ったサブマシンガンという強力な武器も備えてある。
幸い誰にも侵入されなかったし、禁止エリアからも逃れ続けてきた。
そうして、彼はひたすら終わりの時が近付くのを待っていた。

ところが、待てど暮らせどその時が近付いてくる気配はない。
放送を聞く限りでは、確かに着実に人が減ってはいるのだが、
「あと○○人」というフレーズがないのを考えると、まだ相当数の人間がいるのだろう。
死者の大半は名前を聞いた事もない若手だ。一体何人が参加しているんだ?

しかも途中から水道水にはどういうわけか毒らしきものが含まれており、
飲み水が尽きる度に、こうして外の井戸まで補充しなくてはならない。
まあ、井戸があるだけラッキーだが。
「誰だよ毒入れたの…自分の首絞めるだけだろうがよ…」
井戸の中のロープを手繰りながら、初老の芸人……タモリはボヤいた。

247 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/22 23:05 
「結構重労働なんだぞ、これだって…………っと」
ようやくつるべを引き上げ、大きく息をついた瞬間、
「お久しぶりです、タモさん」

ハッとして顔を上げると、目の前にいたのは河田貴一(BOOMER)だった。
いや、河田だけではない。後ろには大勢の人間が控えていた。女性の姿もある。
何人かはタモリ倶楽部で見たような覚えもあるが、
はっきり判別できたのは、ノッチ(デンジャラス)と入江慎也(カラテカ)くらいだった。
1人の例外もなく、げっそりとやつれ、肩で息をしている。
「お、おう。どうしたんだお前ら」

「分かりませんか?俺らの共通点」
何の事やらさっぱりだ。
「な、何だよ」

「相方の最後すら看取れなかった哀れな若手です」

248 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/22 23:18 
そう言えば、
BOOMERの伊勢やデンジャラスの安田の名前は放送で聞いたような気もした。

「1人取り残された者同士、自然に集まったってわけですよ。で、考えたんです。
協力して皆で生き延びようったって、結局最後に生き残れるのは1人なんでしょ。
最後には同士討ちする事になる。じゃあせめて、
芸能界で大した功績を残せなかった若手の意地を見せようじゃないか、ってね…」
疲弊しきっていた河田達の目が、段々と興奮の色を帯びはじめた。

地面に置いていたサブマシンガンを拾おうと手を伸ばした瞬間、
無数の弾丸が体を貫いた。
若手達の大半の手に、拳銃がある。
「最初はね、このゲームを取り仕切ってたたけしさんを殺すつもりだったんですよ。
でもいくら探しても見つかんなくて。
そのうち、大御所だったら誰でもいいかって雰囲気になったんです。
さっきもいかりやさんとホンジャマカの石塚さん見つけましてね。
ええ、殺しましたよ」

言い終わると同時に、タモリの体はバタリと後方に倒れた。

249 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/22 23:33 
1度もタモリの手で使われる事のなかったサブマシンガンを拾い上げ、
おびただしい血に染まった体を満足げに見やってから、河田が全員に声をかけた。
「じゃ、行こうか」
皆、一斉に回れ右して歩き始める。
誰もが殺戮の…と言うより、下克上の快感に酔いしれていた。
普段は気弱なカラテカ・入江慎也とて、その例外ではない。
「次はどんな大御所を殺すんですかねぇ、ノッチさん?」
すっかり饒舌になっていた彼は、
普段なら萎縮してとても話しかけられないであろう先輩にも気軽に声をかけた。
「そうだね、次はウッチャンナンチャンあたりを」

銃声と共に、ノッチのこめかみに穴が開いた。
いや、ノッチだけではない。周囲の人間が次々と倒れていく。
入江は音の方向を向いた。
血まみれのタモリが、サングラスノ奥の目に怒りの炎をたぎらせ、
トカレフを握りしめていた。

255 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/24 01:41 
>>249続き

「うわぁ!?」
咄嗟に入江は近くにあった車の脇に隠れた。

充分すぎるほどの弾丸を受けたにもかかわらず、タモリは生きている。
彼の放った弾は、入江以外の若手を一撃のもとに殺していた。
元来の器用さはまだ失われていなかったのだ。
「俺に何しやがったんだよ、若手風情が」
いつのまにか、手にはトカレフ以外のもう1丁の銃が握られていた。
「どうやらお前は銃持ってないみたいだな。じゃあ行くぞ」
一歩ごとに激痛に顔を歪ませながらだが、着実に入江に近付きつつある。

タモリの言葉通り、入江の支給品は木刀だった。
他の芸人の死体の周囲に散乱した拳銃を取りに行く事など出来ない。丸見えになる。
この位置からでは、他の場所に逃げる事も出来ない。タモリの射撃の腕を考えれば尚更だ。
先程までの高揚感はすっかり消え、ただの一若手芸人に戻った入江には、
恐怖に身を震わせる事しか出来なかった。
「矢部君…ど、どうしよう…」


256 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/24 01:43 
その時、亡き相方矢部太郎のある姿が脳裏に甦った。

さる番組のロケで、極寒の雪山の中、上半身裸で空手の修行に励み、
結果、1枚も割れなかった瓦を3枚割るまでに成長した矢部。

「カラテカ」
何となくコンビ名を呟いてみる。
今まで特別な意識など抱いた事のないその名前が、
かつてない重大な意味を持って、自分の頭に響くのを感じた。

曲がりなりにも武道家の端くれだった相方矢部太郎。
遺志を継いでやれるのは自分しかいない。
「矢部君…僕、やるね」

木刀を大上段に構えた矢部は、咆哮と共に車の陰から飛び出し、
大先輩に向かって突進した。


257 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/24 01:44 
即座にタモリが放った弾丸3発は正確に入江の胸を貫いたが、
その突進も咆哮も止める事は出来なかった。
距離は既に1mにまで狭まっている。
「何なんだよお前は!」怒声と共に放たれた新たな弾丸が額を貫いた。

一瞬体を揺るがせたあと、入江は前のめりに倒れ、
そのまま、剣道の面の要領で、木刀をタモリの眉間に叩き込んだ。
サングラスが真っ二つに叩き割れた。

「がはっ…」
ゆっくり歩を進めつつ銃の引き鉄を引くのが精一杯だったタモリには、
避けようのない一撃だった。たまらず仰向けに倒れる。
そのまま意識を失うに充分な一撃だったが、
「……ナメやがって!」
強固な精神力でもって、何とか倒れるだけにとどめた。


258 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/24 01:46 
顔もろくに知らない若手に瀕死の重傷を負わされるのは、これ以上ない屈辱だった。
「絶対死なねえ…死んでたまるか…」

喉が乾いていたのを思い出し、体を仰向けからうつ伏せに反転させた。
それだけで体を引き千切られそうな激痛が走ったが、何とか堪える。
「水…水だ…」
激痛を水への欲求だけで抑え込み、井戸へと体を這わせた。

ヘリコプターの音がした。
そう言えば、あと2、3分ですぐ近くのエリアが禁止エリアになるのだった。
兵士を配備するためにやって来たのだろう。
そんな事はどうでもいい。とにかく今は、水だ。
目の前には水を湛えたつるべがあった。
「やった……」
犬の様に顔を突っ込んだ瞬間、


何かが風を切る音の後、頭上で爆発が起きた。


259 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/24 01:47 
飲みかけた水を勢いよく口から噴射し、空を見上げた。

ヘリが一機、炎を吹き上げながら落下してくる。
「……何だあれ」

横倒しになった格好で、プロペラが盛んに炎を撒き散らている。
「嘘だろ…」

目が霞んでよく見えないが、そのヘリが自分のすぐ真上にあるのだけは間違いない。
「ちょっと待てって……!」


先程よりも大きな爆発が起こった。
数名の芸人の死体に加え、井戸、車、民家の壁まで吹き飛んだ。

「どっかの馬鹿が水道に毒さえ入れなけりゃ、こんな事には………」

【いかりや長介(ザ・ドリフターズ)石塚英彦(ホンジャマカ)
河田貴一(BOOMER)堀口文宏(あさりど)山本栄治(アンバランス)
平子悟(エネルギー)和田貴志(CUBE)高橋健一(キングオブコメディ)
小原正子(クワバタオハラ)ノッチ(デンジャラス)田中健三(熊本キリン)
山野拓也(ブラックパイナーSOS)入江慎也(カラテカ)タモリ 死亡】
263 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/25 23:59 
>>148続き

「おい、いい加減起きろよチビ」
頬を棒のような物で叩かれる感触で目を覚ますと、そこには、ヒロミがいた。
両手に銃を構え、下卑た笑顔で自分を見下ろしている。

田中は顔に何の感情も浮かべず、ゆっくりと立ち上がった。
背後にはライフルを持った勝俣州和と、スタンガンと警棒を持った所ジョージ。
少し離れた場所では冷やし中華はじめましたと5番6番が、
マシンガンを持った木梨憲武によって1ヶ所に固められ、動けずにいた。
ろくな武器を所持していない彼らが、重武装の集団に対抗すべくもない。
いや、武器の比較以前に、
一度も顔を合わせた事のない大先輩に命を狙われているという事実そのものが、彼らを凍りつかせていた。
彼らの顔色はもはや青を通り越し、紙の様に白くなっている。

すぐ横にあるのは、相方太田光の死体。
誰かに足蹴にされたのだろうか、血まみれの上着には靴の跡がついていた。



264 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/26 00:02 
ヒロミ以外の3人も、これから始まる殺戮の期待に打ち震えている事は、顔を見ずとも容易に分かる。
全身から発せられる下品な殺気を、田中は静かに感じ取っていた。
「田中君、君、よく今まで生きてこられたねぇ」
スタンガンの火花を耳元に近付けながら、所がわざとらしく感心する。
「俺も、相方はともかくコイツはソッコーで死ぬと思ってましたよ」
ライフルの銃口で頭を小突く勝俣。
「いやー、でも君には感謝してるよ。『光が死ぬわけね〜んだよ〜』なんてデカい声がしたから行ってみたら、丸腰同然の奴らが6人もいるんだもん。こりゃ殺しがいがあるわ」
マシンガンを振り回す木梨は、銃口の先の獲物が縮み上がるのを見て頬をだらしなく緩ませた。
反撃の機会を伺う者などいる筈もない。
「俺ら、さっきよゐこの濱口でしくじってんだよ。
せっかく獲物を見つけたと思ったら、何か甲高い声の奴がいきなり邪魔しやがってさ」
「おかげで俺ら全員ちょっと怪我してんですよね」
「そ。で、イライラしてるところに現れたのが…」
「田中君、君達だというわけですよ」


265 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/26 00:05 
「つーわけでだ。お前らにはなるべく苦しんで死んでもらうからな」
「全員の片方の睾丸を切り取るってのはどうっすかね?」
勝俣の提案に、4人は一瞬顔を見合わせ、そして大爆笑した。
「いいねぇ。それを一塊にして田中君に食ってもらおうよ」
「そしたら前よりデカい立派な睾丸が出来るかもね!」
「いやそれ以前に俺らナイフ持ってねえしさ。切り取れねーよ」
笑いを堪えながら、ヒロミが的外れなツッコミを披露した。
左手には小銃を持っている。元々は田中の支給品で、太田が原田泰造を殺した際に手渡した物だ。
右手に持っているのは先程まで砂浜に落ちていた、メーターにヒビが入ったレーザー銃。
田中の眉が、ほんの少し、ぴくりと持ち上がった。

「お前の相方、死んだみたいだな」
殺戮行為自体の興奮と、レーザー銃という耳慣れない武器を手にした興奮とに胸を躍らせたヒロミが、爛々と目を輝かせた。


266 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/26 00:07 
「生意気なんだよ。タメのくせに何時の間にか俺より売れやがってよ。
どうせだったら太田も俺がこの手で殺してやり…」

ヒロミの腕は自分の意思とは全く無関係に動いた。
右手のレーザー銃の照準が勝俣の額に、左手の小銃のそれが所の心臓に合わせられ、
そして、これまた意思とは無関係に、指が両方の引き鉄を引いた。

自分の身に何が起きたのかすら把握できなかったに違いない。
粗野で残虐なニタニタ笑いを顔に貼り付けたまま、
2人はのけぞって倒れ、2度と動かなかった。
同じ笑みを浮かべたまま田中の後輩達を眺めていた木梨が、突然の銃声に振り向いた瞬間、
再び発射された小銃の弾丸が、木梨の首を深く抉った。
赤い噴水を撒き散らし、前のめりに倒れる木梨。

ほんの一瞬の出来事だった。
田中の後輩達とヒロミは、ちょうど向かい合う格好で、口をあんぐりと開けるしかなかった。
先程、彼らの知らない場所で、田中も同じ表情を浮かべていた事も知らずに。
「な…あれ?え?あ…い、痛ぁああああああ!!!」

267 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/26 00:08 
ヒロミの眼前には田中の姿は無い。
それについて首を捻る間もなく、両手が万力のような力で締め付けられた。

誰の目にも留まる事なく、田中はヒロミの懐に潜り込んでいた。
そのままヒロミの両手を掴んで動かし、ヒロミの指ごと引き鉄を引いた。
テレビで見る姿からは間違っても想像できない俊敏さ、器用さにより、一瞬にして3つの骸を作り上げ、そのまま手に更に力を込める。
「いい、痛い痛い痛いいい!!!、や、や、やめ、やめて!!!」
乾いた音と共に、ヒロミの手が潰れた。

田中が手を離すと同時に、ヒロミは砂浜に倒れ込んでのた打ち回った。
だがそれも一瞬の事。
小銃の弾が額を穿ち、ヒロミの目障りな動きを止める。

「……」
たった今自分が殺した相手に一瞥をくれると、
田中は傍らに落ちているレーザー銃を拾い上げ、肩で紐を担いだ。

268 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/26 00:10 
「あ、あの……田中さん?」
ようやく体の自由が利くようになった能海が声をかけるが、
田中は周囲に落ちている武器を拾うばかりで、顔すら上げようとしない。
今しがた自分が作った4つの死体にすら、全く目もくれない。

武器を全て拾い集めた田中は、ここ数日ろくに食事を摂っていなかった事を思い出し、
木梨のナップザックからパンと水を取り出すと、太田の亡骸の横に座り込み、
猛然と食べ始めた。

「田中さん……だ、大丈夫ですか?」
競争相手でもいるかのような勢いでパンを食らっていた田中は、
樋口のその言葉に顔を上げ、微笑を浮かべて言った。
「怪我ないか?」
「はい、お、おかげさまで」
それだけ聞くと、再び凄まじい勢いでパンを食べ始める。

立て掛けてあったナップザックが倒れ、中から回収した警棒とスタンガンが顔を覗かせたのを見た高崎が、躊躇いがちに声をかける。
「あのー、ちょっとすいませんが…」

269 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/26 00:12 
「この警棒とスタンガン、良かったら僕らに譲ってくれませんか?
僕らろくな武器持ってないし、第一田中さん1人でこんなに武器抱えてたら重…」

再び食事の手を休め顔を上げた田中に、
その場の全員が震え上がり、一歩後ずさった。

目の前に、かつて一度も見た事のない田中裕二がいた。
一辺の隙も見せずに、殺気にも似た鋭い眼光を後輩達に投げ掛けている。
その姿はむしろ、亡き太田を彷彿とさせた。

“1個たりとも人には渡さない”
目で語りつつ、田中は少し表情を崩して言った。
「約束したんだよ」


言葉の意味が全員の頭に浸透するまで、そう時間はかからなかった。


270 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/26 00:14 
「そう…っすか……そうですよね」
頷く鈴木。
「そういう事なら、田中さんが持ってください。無理言ってすいませんでした」
高崎が軽く頭を下げる。
「すまねぇな…」
隣の亡骸に目を落としつつ、田中が呟いた。

ナップザックから、各々の武器が取り出された。
猿橋は彫刻刀セット、樋口は角材、高崎は錐、鈴木は釘抜き、能海は殺虫スプレーを、
いつでも使えるよう、手に持っておく。


先輩同様、彼らも1つの決意を固めていた。
「何が何でも、この人だけは守ろう」


【木梨憲武(とんねるず)
勝俣州和(K2)
所ジョージ 
ヒロミ(B21スペシャル)死亡】

288 :新参者@こっちは二度手間だよ :02/06/30 23:40 
>>240の続き

 (さて…これからどうするか…)
 誰とも徒党を組むつもりはもうなかった。
 自分が知っている仲間は、ほとんどこの『ゲーム』から退場してしまっていた。
 退場したとは―死んだ、とは―思いたくない。しかし、それは紛れも無い事実であった。
 この状況の中で、これから自分はどうすればいいのか…答えは出る筈も無かった。
 それでも彼は生きることを望んだ。
 ただのエゴイズムかもしれない。 
 それとも、本能かもしれない。
 『生きる』という意志が、彼の中で確固たるものになっていた。
 何もかも狂ったというのなら、その中で『狂おう』。
 死というものが当たり前―…肯定されている世界から、距離をおこう。
 長井はそう心に決めていた。
   
289 :新参者@こっちは二度手間だよ :02/06/30 23:41 
>>288続き

 ここに留まっていても仕方が無い。
 またいつ誰が来るかも解らない。
 歩き回るのが危険なことは解っていたが、一箇所に留まっているとそ
れはそれで危険だ。
 いつ禁止エリアにひっかかるか解らない。
 長井は次第に追い詰められていく感覚を肌で感じ取っていた。
 この『ゲーム』下では一回の失敗も許されない…。
 失敗は『死』を意味するものであるということを長井は否応でも知ってしまっていた。
 
290 :新参者@こっちは二度手間だよ :02/06/30 23:42 
>>289続き
 
 「あー、えーとそこの君、ちょっといいかな?」
 この『ゲーム』下ではかけられないであろう呑気な声に、長井は思わず振り向いた。
 背中に忍び寄る気配にまったく気付くことが出来なかったので、自分の五感が限界に
来ていると長井は思った。
 しかし、それは今考えるべきことではなかった。
 この状況の中、気軽に声をかけてきた相手に向き合う必要があったからだ。
 「あんたは…」
 そこにはマギー司郎、審司の師弟がいた。司郎の後ろに隠れるようにして審司が見えた。
 あれ、審司は放送で呼ばれた気が…と思ったが、現にこうしているわけだから、聞き間違いなのだと
長井は考えた。
 
291 :新参者@こっちは二度手間だよ :02/06/30 23:44 
>>290続き
 
 「あー良かった。見つけたよ、ホラ、審司くん」
 司郎が後ろにいる審司にそう言うと、審司は
 「良かったですね師匠」
 と、いつもの笑みで返した。
 (余裕あるな、コイツら…)
 長井はそんなことをふと感じた。
 「何か用か? 俺はひとりでいるんだ…仲間は作らないから、行かせてもらう」
 声をかけてきた様子からして、あまり好戦的な方ではないだろうと判断し、長井はその場を
立ち去ろうとした。
 「ちょ、ちょっと待って」
 司郎は慌てて長井の方へ手を伸ばした。
 「…何ですか?」
 長井はいつもの面倒くさそうな表情で振り向いた。

292 :新参者@こっちは二度手間だよ :02/06/30 23:45 
>>291続き

 「あのねー、僕の秘密を君知ってるでしょう? あれはね、誰にも知られちゃあマズいんだよね」 
 いつもの口調で司郎がそう言うと、後ろにいる審司が驚いていた。
 「し、師匠、それは僕も知らないことなんですか?」
 「審司くんはちょっと黙っててね」
 「はい…」 
 シュンとして、また司郎の後ろに隠れてしまった。
 「…だったらどうなんだ?」
 今まで出会った者達とは違い、この『ゲーム』に関することを尋ねない司郎に長井は少なからず
困惑した。
 マギー司郎の秘密…。彼には思い当たる節はあった。
 だからといってこの状況で自分を追ってくるとは…。司郎の執念に長井は恐れる前に呆れて
しまった。
 
293 :新参者@こっちは二度手間だよ :02/06/30 23:46 
>>292続き
 
 「だからね、君を殺すことにしたのね」 
 そしてサッとハンカチを出した。
 「これからやるマジックでね、君を殺しちゃおうって思うのね」
 「し、師匠?! そんな…」
 先ほどのスガジーのように、向かって来た者ならともかく、戦う気の無い長井を殺そうとする
司郎に、審司が驚きの声をあげた。
 「タネはね、明かせないんだけどね、ゴメンね」
 そう言いながら司郎はハンカチをサッと左手にかけた。
 これから起こる事態を考え、側にいた審司は思わず目を瞑った…。

294 :新参者@こっちは二度手間だよ :02/06/30 23:47 
>>293続き

 「あ、あれ?」
 司郎が何か攻撃したにしては、何の音も聞こえない。
 「し、師匠…? 長井さん…?」
 審司がそっと目を開くと、そこには司郎が倒れていた。
 司郎は小さな声で、
 「う、うーん…何でこうなっちゃったの…」 
 と、うめいていた。
 先ほど『攻撃』を仕掛けようとしたのは司郎であって…しかしここに倒れているのも
司郎であって…。審司には訳が解らなかった。
 一方で長井はさしたる外傷もなく、少し苦虫を噛み潰した表情で司郎を見下ろしていた。
 
295 :新参者@こっちは二度手間だよ :02/06/30 23:48 
>>294続き
 
 「師匠!!」
 審司が慌ててしゃがみ司郎の様子をうかがう。どうやら、気を失いかけているだけのようだ。
 「殺してはない。安心しろ。俺は行くから、もう追ってくんなよ」
 長井の声が頭上から聞こえる。
 「な、長井さん、あなたは何を…」
 恐る恐る審司が顔を上げたとき、長井は既にふたりに背中を向けていた。
 「俺が司郎の秘密を知っているってことは、これから司郎がやろうとすることも俺は
全部お見通しってことなんだよ」
 その言葉だけ残すと、長井は静かに去っていった―…。
 
 「結局、師匠の秘密って何なんだろう…」
 …―審司に疑問を残して。

307 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/07/07 02:44 
>>245続き

何が起こったのか理解出来ず、
しばらくの間、彼らはその場に立ち尽くしていた。

「今の………もしかして、俺らが撃ったやつが当たったの?」
「うん……状況的に、それしか考えられねんじゃねぇの……」

殺人に使うよりは、死んだ戦友を喜ばせるような使い方をしたい。
そう考えて撃った砲弾が、またしても誰かを傷付けることになるとは。

「でもさぁ…民間人じゃないと思うよ。ほら、もうすぐ禁止エリアが増える時間じゃん。
だからさ、兵士の奴らを配備するために来たんだよ、多分」
「だよな……うん、そうだよな。だったら問題ねぇか」
こんなイカれたゲームを取り仕切る奴らに、せめて一太刀浴びせる事が出来た。
そう考えれば少しは溜飲も下った。
果たして本当に本部のヘリだったのかは確認のしようがないが、
無理にでもそう思い込むしかない。

「さてと…って、誰だよお前ら!?」



308 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/07/07 02:46 
全く気付かなかった。
いつのまにか、周囲を7、8人の兵士に包囲されていたのだ。
それぞれ2人掛かりで羽交い締めにされ、残りの兵士にナップザックを奪い取られる。
「何すんだよ!返せコラ!」柴田が吠えるが、鍛え上げられた兵士には抵抗すべくもない。
果物ナイフ、紙切り鋏、ジッポライターに至るまで、
所持品の全てを強奪すると、1人が無線機に口をあてた。
「柴田、山崎両名の所持品を全て押収しました…はい…了解」
2人の体を地面に乱暴に投げ倒すと、彼らはまた、疾風の様に去っていった。

「おい!何だってんだよてめえら!」
後を追おうとする柴田を「ちょっと待て!」山崎が制した。
「何か…あちこちで大勢の人が動いてる気配がすんだけど」
言われてみるとそんな気もする。「ほらあそこ!」「え?」
遠方で1人の兵士が、横たわる誰かの死体に駆け寄り、何かを回収して去っていくのが見えた。
「何だよ…何だっつんだよあいつら…」

その時、島中に大音響が響いた。

309 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/07/07 02:48 
「えー、定時放送の時間ではありませんが、緊急事態発生につきお知らせさせて頂きます。
TBSアナウンサー安住紳一郎です。
つい先程、ゲーム執行本部の兵士10名を乗せたヘリコプターが撃墜されるという前代未聞の事件が発生しました。兵士の生存は絶望視されております。
本部の迅速な調査の結果、撃墜の原因となる砲弾を発射したのは、
アンタッチャブルのお2人、柴田英嗣さん、山崎弘也さんである事が判明しました」
「な…」
「嘘だろ…何でバレんだよ…」

「これはゲームの進行を著しく阻害する、明確な本部への反抗であり、
通常でしたら即刻、首輪の爆破による処刑の対象となります」
2人は思わず首輪を押さえた。

「しかし、そのように簡単に殺害してしまっては視聴………ゴホッ!
し、失礼しました。執行本部の気がおさまらないという事で、お2人には、
ゲームをさらに盛り上げる為のアトラクションになって頂く事になりました」
「……はぁ!?」
「……っざけんな!」

310 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/07/07 02:50 
「お2人以外の参加者の皆さん、朗報です
アンタッチャブルのお2人を殺害した方には、賞品として、
マシンガン2丁、防弾チョッキ1着、3日分の食料、そして24時間禁止エリア免除権を差し上げます。
本部のレーダーを使用すれば、誰が何処で殺害したかまですぐに分かりますから、
近くにいる兵士の方が、賞品を進呈に……」

全身の力が抜けていく。
がくりと地面に膝を落とし、両手を地面についた。
「おい柴田…立てって…」
山崎に抱き起こされながら、柴田はうわ言のように呟いた。
「マジかよ……」

「お2人はまだ有名とは言い難いですから、中堅、大御所芸人の方々の中には、
顔を御存知ない人もいらっしゃるでしょう。
しかし、特徴はあえて言いません。
顔に覚えのない若手の芸人さんを見かけたら、ひとまず殺害してください。
そうすれば話は早いです」

311 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/07/07 02:52 
「なお『自殺されたらどうする?』との心配をなさっている方も当然おられるでしょうが、
その心配は御無用です。
御本人は気付いていらっしゃらないかもしれませんが、
お2人は現在、数名の兵士の方々に、付かず離れずといった絶妙の距離を置かれて監視されています。
自殺を図るような事があったら、即座にそれを阻止する為です。
禁止エリアにわざと侵入しても、射殺されるような事はありません。
力ずくでそこから叩き出されるだけです。どこかに隠れようとした場合も同様です。
それ以外にも、たとえば飛び降り自殺できそうな崖ですとか、
包丁やプロパンガス等自殺に使えそうな物がある民家のような場所にも、
それぞれ兵士の皆さんが配備されております。
亡くなられた芸人さんの近くに落ちている武器も、自殺に使えそうもない物を除いて、
現在総力を挙げて回収にあたっているそうです」


312 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/07/07 02:54 
「あ、首輪を無理矢理外そうとしても自殺できないそうですよ。
お2人の首輪だけ、爆破設定が完全に解除されたとのことです。
まぁ、レーダーから消えられるとまずいので、
すぐに監視の兵士の方々によって、新しい首輪を着けて頂きますが…」

もう柴田の耳には、安住の言葉の半分も届いていなかった。
「柴田!ちゃんと立てってば!」
絶望に頭を支配され、ただ山崎に身を預ける事しか出来なかった。

「柴田さん、山崎さん、ちゃんと聞こえてますかー?
お2人が、襲ってきた芸人さんを何とか撃退したとしますね。
その場にはその人が所持していた武器が残されるわけですが、
当然これも兵士の方々の手で迅速に回収させて頂きます。自殺される前に」


313 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/07/07 02:55 
あ、最後の注意点です。
どなたかがお2人を殺害なさったとしても、
それが明らかに“自殺幇助”とみなされた場合は、
その場で首輪の爆破により処刑されますからね。くれぐれも注意してください。
では皆さん、ふるってご参加ください。
アンタッチャブルの柴田さん、山崎さん、必然的に素手で応戦する事になりますが、
頑張って切り抜けてください。以上、TBSアナウンサー安住紳一郎でした」


「なぁ柴田。頼むからちゃんと立ってくれよ。とりあえず逃げるぞ」
「どこにだよ…」
「…」
「どこに逃げ場所なんかあるってんだよ…」

返す言葉はなかった。

314 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/07/07 02:57 
「別にさぁ…普通に殺される分にはいいよ。
でもさぁ…何でこんなふうに最後までオモチャにされて殺されなくちゃなんねんだよ…
俺らが一体何したっつんだよ…何でこんな目に遭わなくちゃなんねんだよ…」

突然、柴田は身を起こすと、
庭に転がる石を拾い、周囲に投げまくった。

「隠れてねぇで出て来い!全員ぶっ殺してやらぁ!
なぁ!監視してんだろ今も!出て来いよこのクソ共が!おいコラァ!」

見えない敵に向かって半狂乱で暴れる相方を、山崎は呆然と見守るしかなかった。

318 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/07/09 15:32 
支給された武器はトランシーバー。
一体どうやって生き残れと言うのか。こんな物で人を殺せる訳がない。
いや、もしちゃんとした武器を支給されていたとしても、
これ以上、見たくもないものを増やしたくはなかった。
今ほど、自分の特異体質を呪った事はなかった。

行く先々で、地縛霊となった芸人達が蠢いていた。
成仏できた霊とはどこが違ったのか。それはさすがに分からない。

「もっと早くこうすりゃ良かった」彼は岸壁から跳んだ。

荒れ狂う海面に吸い込まれる瞬間、彼は柄にもなく祈った。
「神様、僕の命を奉げます。だから成仏できないで苦しんでる皆を救ってあげてください」

【中村豪(やるせなす)死亡】






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