211 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/02/19 23:54 
>>77-81 の続き

心臓が、痛い。頭が、重い。身体が、全身が、意識を拒んでいる。

家畜小屋の角から牧場の方へ駆け抜けようとして、また足元をもつれさせて。
松丘はもう立っている事が出来ず、大地に跪く。

過呼吸による眩暈と共に吐き気を覚え、口元にやったその手の指の隙間より
胃から逆流した液体が流れて落ちた。

・・・げほっ、げほぉっ
ひとしきり咽せ込んでも、松丘の呼吸はなかなか楽にならない。

背後から村田の気配が近づいてこない事を確認して。
松丘はそのまま、汚れるのにも構わずに前のめりに倒れ込んだ。

遠くから、地鳴りのような音が聞こえる。
さっきから身体が揺れているような気がするのは、もしかしたら気持ち悪いからではなく。
今も何処かで地震が起こっているからなのかも知れない。

「・・・・・・ど・・・う・・・・・・スマン、な・・・」
松丘の口元が、微かに動く。


松丘の、ただでさえ弱っていた意識に更なる打撃を与えたのは何だったのか。
それは・・・村田の知りえる筈のない、彼が牧場から走り去った後の挿話である。



212 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/02/19 23:58 
ドォ・・・ン
山の方から火薬の炸裂する音が微かに聞こえたような気がして。
松丘は一輪車を押す手と、足を止めた。

・・・今度は誰が死んだのだろうか。
爆発の被害にあったのが、せめて自分の知っている芸人でない事を祈りながら、
松丘はまた一輪車を押そうと全身の筋肉に力を込める。

早く、あの車に・・・この黒い物体を詰め切らなければ。

何もできない自分だけど、せめて桶田さんの計画が早く始められるようにしなければ。
その想いが、今の松丘を動かす原動力となっていた。

しかし、そんな松丘の意気込みとは裏腹に。
一輪車を止めた拍子に泥に引っかかったのか、車輪はなかなか動き出そうとしない。
それどころか、強引に一輪車を押し込もうと勢いと力を込めた途端。
一輪車はバランスを崩して、盛っていた黒い乾いた物体を周囲にぶちまけてしまう。

「・・・・・・あー・・・何やねん、もうっ!」
思わず口に出してから、松丘は反射的に周囲を見回した。
桶田さんはいない。そして、村田さんも。
誰も見ていない・・・それは松丘を咎める者はいないという事。
松丘は安堵して散らばった黒い物体を、また一輪車に盛ろうとしゃがみ込んだ。
そして、ふと気づく。

いつもなら、松丘が何か些細なミスをしでかしてしまっても。
周囲には誰かしらがいて。笑ったり呆れたりというリアクションを返してくれた。
それが・・・今はもう、ない。
213 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/02/19 23:59 
・・・これが遺される、という事なのだろうか。
黒い物体を拾いかけた、その姿勢のままで松丘は動きを止めた。
南の方から吹いてきた風が、前髪を揺らすその音すら聞こえそうなぐらいに。
周囲がシンと静まり返る。

長い沈黙や静寂はどうも怖く感じられて、松丘が立ち上がろうと足に力を込めようとした時。
鈍い、こもったような音が微かに聞こえた。

「・・・・・・・・・?」
気のせいかと思いながら立ち上がり、それでも松丘はもう一度意識して耳を澄ませてみる。

ごん、ごん、ごん

確かに、小さな音が。どこか近くから聞こえてきていた。

「・・・村田さん? ・・・違うな・・・・・・・・・なぁ、どこやっ!」
「・・・・・・・・・・・・!」

恐る恐る呼び掛けると、声のような音も聞こえる。
黒い物体を拾う事を一旦止め、松丘は音の発生源を捜して、視線を巡らせた。

・・・回りには誰もいない。何もない。

けれど、確かに松丘の耳には何かを叩いている音が届いてくる。
更に松丘は周囲を注意深く見やった。


・・・まさか、コレ・・・か?
214 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/02/20 00:00 
松丘の視界にある中で、唯一何か怪しいと思えた物。それは焼却炉だった。
日々の中で生じた雑多なゴミを処理しているのだろう。大型で、使い込んでいる様子が見受けられる。
近づいてみると・・・心なしか音は大きくなっているように感じられた。

不気味ではあったが、訳の分からないまま放置するよりは正体を知っておく方が良い。
吸い付けられるように松丘は焼却炉に取りつくと、閂を外し、扉を開けた。

「う、うわああぁぁ!!」
重い扉を何とか開けきった途端、絶叫と共に焼却炉の中から黒ずんだ物が飛び出してきて、
松丘を突き飛ばす。

強烈な体当たりに、思わず尻餅を付いてしまった松丘が、何とか焼却炉の方を見上げてみると。
小柄な人間が身体を小刻みに震わせながら、立ち上がっているのが見えた。
「・・・・・・・・・っ!?」

・・・何故、焼却炉の中から人間が?
当然のように、松丘はそう考えるけれど。
それ以上の思考を紡ぐ前に、まず松丘の口から言葉が放たれる。
「・・・須藤っ! お前、須藤やろ!」

手や顔も、衣服も髪も、焼却炉の中のススで真っ黒に染めた人物が
赤く充血した瞳を大きく見開いて松丘を見た。

彼は、松丘の事務所の後輩にあたる、須藤 祐。
元はチョーダイ、そして今は魚でFというコンビを組んで、笑いの道を進んでいる人間である。
死亡者を告げる放送で、彼の名は聞いていなかったから。
どこかで生きているとは松丘も漠然と考えていた。
けれど、まさかこんな所で出会えるとは。
215 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/02/20 00:03 
「まつ・・・・・・松丘さん・・・? ぅあああああああ・・・マッチョぉっ!」
相手が知っている人間だとわかって、のそっと身を起こした松丘に。
須藤は叫ぶように声を絞り出しながらしがみ付いてくる。
松丘の腕に食い込むその指は、普段の強気な彼が嘘のように小刻みな震えを隠そうとしなかった。

「須藤・・・・・・良かった。お前、生きとったんやな・・・・・・」
そんな須藤の素直さが妙に嬉しく思えて。
松丘は告げながら、子供をあやすように彼の背中をさすってやった。
須藤が顔を擦り付けてくるお陰で、松丘の服は汚れるけれど。
そんな事、どうでも良い。生きている人間の温もりにまさる物はない。

けれど。
・・・何で須藤はこんな所に?

こんな狭くて暗い所。
ダブルブッキングの川元ならいざ知らず、長時間入って気持ちのいい居場所ではない。
いや、TVの企画としてある程度の環境は保護されていたあの箱よりも、
こちらの方が確実に劣悪な環境である。川元でも一体どれだけ耐えられるだろうか。
正直、松丘には1時間と耐えていられる自信はない。

松丘が気づくまで、今までずっと内側から壁を叩いていたのだろう。
須藤の拳の皮はベロッとめくれ、肉の赤がススの間から覗いている。
そうだ、7人の子ヤギを気取るにしては焼却炉の戸の閂は外から閉められていた。
須藤はここへ逃げ込んだというよりも閉じこめられていた・・・と考えた方が良いのだろう。
216 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/02/20 00:05 
「マッチョ、なぁ、みんな・・・無事なのかなぁ。」
須藤の声が、松丘の思考を現実に引き戻す。
「そうだよ・・・富田も、無事に逃げ切れたかなぁ・・・」

「・・・お前、富田と・・・一緒やったんや。」
松丘が訊ねると、須藤はコクと頷いた。
富田 鉄平。彼はチョーダイの時の須藤の相方だった男である。
彼らがコンビを解散して以来、松丘は彼の姿は見ていないけれど。
コンビ別れした成子坂もここで出会っているのだ。
彼らも同じように出会っていたとしてもおかしくはない。

「なぁ・・・須藤・・・・・・」
・・・お前も、一緒に来るか?

思わず口に出しかけた、その言葉を松丘は無理矢理押さえ込んだ。
林に同じ事を持ちかけて・・・その揚げ句、林に首を絞められた時の事を
もう忘れているほど、松丘もトリ頭ではない。

ただ、曖昧に笑みを浮かべながら。
松丘は須藤の震えが収まるまで、もう少しだけじっとしている事にした。
220 :蟹座 :03/02/22 18:16 
>>185の続き

 銃声と誰かのうめき声に続き、何かを引きずるような音。
 たけしは部屋の入り口に向け銃を構えた。
 「内村か…」
 現れた小柄な黒い影。その白い面は汗と血にまみれ、右足を引きずっている。
 「よくここまで来れたな。相方はどうした」
 「オレがここにいるってことは……、」
 呼吸を整えながら内村は答える。
 「南原がやるべきことをきちんとやってくれたんだと……
 そういうことだと思います」
 たけしは内村を改めて見た。武器らしきものは何も持っていない。
 着ている黒のパーカーに被弾の痕があるにもかかわらず大したダメージ
もなさそうなのは、防弾チョッキを着込んでいるからだと思われた。
 「武器は? 丸腰で俺と一戦交えようってのか…?」
 「……たけしさん」
 内村はたけしをまっすぐに見つめ、ゆっくりと口を開いた。
 「オレは信じてるんです」
 「デビューしてから今までいろいろあったけど…」
 「オレたちを見て笑ってくれた人たちは、オレが人を殺すとこなんか見ても
 喜ばないって…」
 たけしは黙って内村を見ていた。表情は読み取れない。
 「オレ、間違ってますか」
 内村も目を逸らさない。辛抱強く相手が口を開くのを待つ。
 「なんで今更そんなこと俺に聞くんだ?」
 たけしは少し顔をゆがめて笑った。
 「それぞれ自分のやり方を通せばいいんだよ」
 次の瞬間、たけしが脇に身を除けた。

221 :蟹座 :03/02/22 18:17 
>>220

 銃声を聞き、内村は前にのめった。
 後ろからの衝撃。赤い飛沫が視界を掠め、右の二の腕が粉々に砕け
散ったかのような激痛を感じた。遠のこうとする意識を気力で引き戻す。
なんとか倒れずに踏みとどまる。自分の背後に軍団の一人が立っている
のが見えた。
 南原…。
 残してきた南原。
 一瞬その顔を思い浮かべ、その次の瞬間には内村の身体は宙を舞い、
たけしのアゴを蹴り上げていた。たまらずよろけるたけしの右手に再度
蹴りを入れて拳銃を弾き飛ばし、腕と右足の痛みにバランスを崩しながらも
後頭部に回し蹴りをなんとか決める。たけしは顔面から床に突っ伏した。
 そこへ二度目の銃声。
 内村が再び前にのめる。今度は持ちこたえられずに膝を付いた。腰の
辺りに焼かれるような激痛が走り、鮮血がほとばしる。
 「殿、大丈夫ですか?」
 「ああ、」
 ダンカンが駆け寄る。倒れていたたけしがゆっくりと立ち上がった。
銃を拾う。銃口をピタリと内村の眉間に合わせた。
 内村は痛みに耐えながら、黙ってたけしの顔を見つめている。
 「甘いよ、内村」
 三度目の銃声が辺りに響いた。

222 :蟹座 :03/02/22 18:19 
>>221

 (また、銃声だ…)
 大地に横たわりながら南原はぼんやりと思った。
 何度目だろう…。
 内村のことだから最後まで何かしら抵抗しているのだろう。
 (ごめんな…、一人取り逃がしちまって…)
 建物の前にはガダルカナル・タカをはじめ数人のたけし軍団が倒れて
いた。南原が仕掛けた足止め工作のために無傷なものは一人もいない。
自らも致命傷を受けながら、誰をどう倒したのかは覚えていなかった。
ただ、ひとりだけ建物の中に入れてしまったこと、それだけが心残りだった。
 内村…。
 目を閉じて18年来の相棒の顔を思い浮かべる。浮かんだ顔は笑顔だった。
 前髪が目にかかった、
 思わずウザったいとかき分けたくなる相方の…。
 (ちぇ…、これじゃアイツの言ってた通りじゃねえかよ…)
 南原は笑った。
 悔しいような、うれしいような、妙な気分のまま、意識を混沌にゆだねる…。
 大量の失血にもかかわらず不思議と寒さは感じなかった。
 まるで大地が温かく南原の身体を包んでくれているかのように…。

 訪れた夜の闇の中
 南原に最後の時が静かに訪れようとしていた。


223 :蟹座 :03/02/22 18:20 
>>222

 「男前が台無しだな…」
 倒れた内村を見下ろし、たけしはつぶやいた。
 血の海に沈んだ内村の横顔。
 黒髪に白い肌が映え、それを今彩るのは鮮血の赤。
 薄く目を見開き、どこか遠くを見ているような、
 まるで一片の絵画を思わせるような、そんな死に顔だった。
 「甘いよ、おまえは」
 続けて何かを言いかけ、しかし、その先は口には出さず、
たけしは内村に背を向けた。窓の外に目をやる。何かに気付いた
ようにしばらく窓の下を見つめてから軍団を呼んだ。
 「おい、」
 「あとで内村の死体、そこの窓から放り出しておけ」
 「え、ですが、殿……」
 窓の下は山の斜面に面している。何故もう死んでしまった者に
そんな仕打ちをするのか。意図が飲み込めないで戸惑うダンカンに、
たけしは窓の外を見るよう促す。
 ダンカンが近寄ると窓の下、山の斜面に、建物から漏れる微かな
明かりに照らされて、もはや動く気配のない南原の姿が見えた。

 ダンカンの返事を待たず、たけしは黙って部屋を出る。

 やがて、どさりと、何かが落ちる音がした。
 それはたけしが部屋を出て、わずか数分後のことだった。
 
 
 【ウッチャンナンチャン・内村、南原 死亡】

232 :ヒマナスターズ :03/02/24 11:59 
>>65の続き


藪で隠れた入口の奥には、思いのほか広い空間が広がっていた。
一見、周辺の草むらの延長としか思わせないようなその玄関は、
よほど注意して探さない限り、普通の人間なら気にも留めることなく通り過ぎてしまうことだろう。
ぬか喜びしそうになる気持ちを抑えつつ、先客がいないことを確認しながら
隠れるにはおあつらえ向きな洞窟の中へと、二人は吸い込まれていった。

「誰かいる?大丈夫?」
「…たぶん誰もいないと思…うわっ!」
「な、何?何?」
暗がりの中、今仁の服の裾を掴んでいた五十嵐の手の力が増す。
絶対的に光源の足りない空間で、頼れるものは聴覚と触覚ぐらいだった。
「何、どうしたの?」
「大丈夫です、ちょっと脚ぶつけちゃって…ってーな……
気を付けた方がいいですよ、そこら辺、岩とかいっぱい転がってるみたいだから」
さほど大きな声は出していないのに、軽い湿り気と狭さが拡声器の役割を果たすので
互いの小さな息遣いでさえもが当てつけがましく耳に届く。
それが余計に恐怖感を増幅させて、
暗さに目が慣れるまで、二人の足取りが早まることはなかった。
233 :ヒマナスターズ :03/02/24 12:00 

「あ、ここで行き止まりっぽい」
安堵の混じったため息とともに、
今仁がやっとのことで辿り着いた硬い壁をコンコン、と叩いた。
五十嵐もその言葉に息をつき、ぺたりと座り込む。片手をついた岩肌が冷たい。
そのうち目の前に浮かび上がり始めたのは、限りなく明度の低いコントラスト。
決して明瞭ではないけれども、周囲の物がかろうじて黒い影として認識できる程度に
視界は深い闇へと馴染みつつあった。
「でもこんな場所ってあるもんなんだね〜。びっくりした。
入口とか、今仁が見つけなかったら俺全然分かんなかったもん」
「ここにいればしばらくは安全でしょうね」
「でも何かこう灯が欲しいよな。こんな暗いんじゃ周りもよく見えないし。
あー、俺が持ってるのがライターとかマッチだったらなー…」
宙に向かってぼやいた声が、乾いた音となって薄く何重にも反響する。
いまいち距離感は掴めないが、その音で洞窟の大体の広さが把握できた気がした。

「……マッチか」
マッチと煙草。
声に出すことなく、五十嵐は口の中だけでそう呟いた。
これといって何ということのない単語の組み合わせが、五十嵐の心の琴線を震わせる。
ポケットに突っ込んだ煙草の箱の輪郭を布の上からなぞりながら、
五十嵐は脳裏に相方と演じたコントの光景を思い巡らせた。
234 :ヒマナスターズ :03/02/24 12:00 

自分が煙草に、彼がマッチになって、
薄暗い照明の下、たわいのないやり取りを淡々と繰り返す。
それだけ。
華やかな山場はおろか、これといった起伏も特にないけれど、
たとえ客の印象には残り難くても、
自分たちにとっては、これ以上ないほど濃密な数分間。

あのコントのような”それだけ”の日々が、これからもずっと続いていくと思っていた。
しかし、平和な日常は思いがけず不確かで脆かった。
彼の顔を見ないまま、どのくらいの時が経っただろう。
今頃、彼はどうしているだろうか。


考えたくないことに触れそうになり、五十嵐は慌ててフードを被る。
昔からの現実逃避の癖がまだ生きていた。
ふと隣に視線をやると、腰を下ろした今仁と目が合う。
ただそれだけのことなのに、不安定なままの潜在意識がそうさせるのか、
まるで自分の胸の内を読まれたように思えて、
妙に気恥ずかしくなった五十嵐はおもむろに立ち上がった。
「…俺、その辺に落ちてる枝とか拾ってくるわ。火、起こせるように。
お前はさ、その間にそこのでかい岩とか適当にどけててよ。こういう時のためにいるんだから」
「ぶん殴りますよ?」
「やめてよ!まあいいや、とにかく行って来るからね?」
そう言って出口への一歩を踏み出そうとした瞬間、
五十嵐の笑顔が急に途絶えた。
235 :ヒマナスターズ :03/02/24 12:01 

「……どうかしました?」
つられるように今仁にも真顔が戻る。
それを察してか、五十嵐は慌てて表情を今までの物に戻して言った。
「ううん、今、なんか声みたいのが聞こえた気がして……あんま気にすんなよ」
吉野の声に似ていたとは言わないでおいた。
不確かな憶測は、いたずらに不安を煽るものでしかなかったから。
それ以上問い詰められて逃げる自信のなかった五十嵐は、
あいまいな作り笑いを翻して、そのまま外の白い光の中へ飛び出した。
小枝拾いという目的は、既に頭から消えかけていた。


微かにしか聞こえなかった声。
それも普段の声とは違う叫び声だったのだから、
簡単に仲間のものだと仮定してしまうのはあまりにも迂闊だ。
でも、なぜか胸騒ぎが止まらない。
頭に浮かぶ悪い想像を振り払いきれない。


嫌な予感がする。


草の匂いを掻き分けて道無き道を突き進んでいく間中、
五十嵐の心は一向に凪ぐことはなかった。
それでも、”落ち着け”、という自分への警鐘だけは忘れずに打ち鳴らしていた。
唯一の頼りである方向感覚と勘だけでも、せめて狂ってしまわないように。
236 :ヒマナスターズ :03/02/24 12:02 


「黒田さん」
「うわっ!」
その大げさなのけぞり方は、声を掛けた吉野の方が驚いてしまうほどだった。
背後から肩を叩いてきた人間の顔を見て、
黒田はほっとしたように息をつく。
「吉野!何だよ、びっくりした〜」
「あの、何してんですか?こんなとこで」
「……」


「…あれ」
ためらいがちに黒田が指差した先には、一人で佇んでいる川元の姿があった。
いや、一人ではない。
足元には人間が一人うずくまっていて、
その少し先には彼と対峙しているもう一人の人間が立っている。
ナイフを構えるその人影。
対して、川元は丸腰のようだ。
「え…?」
思わず黒田の顔を見やる吉野。
しかし黒田は動こうとする気配もなく、繁みに身を隠したまま
じっと一点を見つめている。
状況が理解できず、吉野はすがるようにその肩を揺すった。
「ちょ、何やってんですか!川元さんがっ」
「しっ!」
黒田が必死の形相で人差し指を立てる。
有無を言わせぬその勢いに押され、
吉野も急遽声のボリュームを落とし、囁くような声で喋った。
237 :ヒマナスターズ :03/02/24 12:02 

「……な、何で…」
「…あのさ、ちょっと静かにして、見ててみ」
言われるがままに、吉野は視線を黒田と同じ方向に向ける。
あまり体勢を考えずにしゃがんだせいで、膝が少し痛い。
その痛みさえも忘れさせるかの如く、
きつく張り詰めた空気に押されて、鼓動が激しく胸を打った。


それから先は、全くの沈黙の中での出来事だった。


相手との距離をゆっくりと縮める川元。
その手が後ずさりする胴体にそっと触れるや否や、
人影は瞬く間にその場にくずおれて、うずくまってしまった。



地面に伏している死体はとうに見慣れていた。
けれど、目の前で人が倒れたのを見たのはこれが初めてだった。
声一つ出せずに、ただただ唖然とするしかできない吉野。
その耳元で、黒田がそっと囁いた。
「……なあ、さっきから考えてるんだけど」



「あいつ、どうやって人を殺してるんだと思う?」


238 :ヒマナスターズ :03/02/24 12:03 

「…え?」
短い間を置いて、吉野は黒田の方を振り返る。
「俺さ、たまたま見かけてからずっとあいつの後付けてんだけど…
どうも武器らしい武器は持ってないみたいなんだよね。
でも、あいつに近付いた人間はみんな、今の調子でバタバタ死んでってんの」
それを聞いて、背中に鋭い悪寒が走った。
ひとつだけ胸に刺さっている虫ピンのような心当たりが、
懸命に目を背けているのに、否が応でも眼前に迫ってくる。
考えないようにすればするほどより近くに寄せてくるその現実に、
吉野は自分が何か壮大な罠に引きずり込まれていくような感覚を覚えていた。

「それがすげえ気になって…」
言いかけて、黒田は言葉を止めた。
向こうへと歩き始めた川元のポケットから、小さな白い紙が舞い落ちたのが見えた。

「今の紙、何だろう」
「え、あの、まだ近づかない方が」
制止の前に黒田は繁みを抜け出していた。
まだ完全にその場を離れてはいない川元の陰に注意を向けつつ、
吉野も恐る恐るその後に続く。
と、


「………!!」


拾い上げたその紙を数秒眺めていた黒田の表情が変わった。
そして、視線を一瞬前へ戻したかと思うと、
突然踵を返して走り出した。
239 :ヒマナスターズ :03/02/24 12:03 

「黒田さん!?」
慌ててその背中を追いかける吉野。
その瞳に一瞬映った黒田の青ざめた顔に触発されて、
先ほど消したはずの疑念が、一気に勢いを持って湧き上がり始めた。


『あの噂、知ってる?』
『噂って?』

『このバトロワ。ホリプロがさ、なんか裏工作したらしいって話…』


盗み聞きした他芸人たちの会話。
頭の中で何度も回り続けるそのやり取りに気を取られていた吉野は、
木の影から現れた何かに思い切りぶつかった。
「痛って!な、何だ!?」
返ってきたその声を聞いた途端、顔を見るまでもなく名前が口をつく。
「…高橋さん!」
「あれ?吉野?」
「すいません、あの、黒田さんが…!」
事情を説明している時間はない。
吉野はそこまで言うと、遠ざかっていく背中を再び追い始めた。
「おい!ちょ、待てよ!!」
背後に高橋の声と足音とを聞きながら、
呪文のように吉野は繰り返した。
240 :ヒマナスターズ :03/02/24 12:04 


どうか、嘘であってくれ。
自分の考え過ぎであってくれ。

それだけは、それだけは本当に洒落にならない。


疾風のように流れていた景色が静止した。
やっと掴むことの叶った黒田の腕を離さないまま、
吉野は乱れた息を合間に挟みながら尋ねた。
「………どうしたんですか、一体…」
「吉野…」
同じく息切れした黒田が振り返る。
と同時に、痛いほどの力で吉野の肩を掴み返してきた。
黒田は顔面蒼白になっていた。
「……ヤバい!!」



「あいつの武器は、…細菌だ……!」





(続く)
247 :ラーク :03/02/25 21:52 
VOL、3>183の続き

走っていた。体中を流れる汗、無数の切り傷、胸を打つ鼓動。
繰り返し前へと飛び出る足を止めることが出来なかった。
ただ走っていた。誰かを追っているのだろうか、いや、追われているのだろうか?
よく分からないがなんだか楽しかった。
踏み込む土がとても柔らかくてそのまま空へと飛べそうだ。

空を飛べたらもう走ることはないだろう。青い空の中、下でもがき苦しみながら
前へと進む人間を笑いながらだって自分は前へと進んでいける。そうだ、俺はスゴイ
人間なのだ。そこら辺にいる奴らと同じに考えられるなんてどうかしてる。
いつだって俺は他人より強い力と才能を持って生きてきた。
俺は空だって飛べるはずだ・・・

248 :ラーク :03/02/25 21:53 
>>247

クスクスと笑ってしまう自分を抑え、ふと顔を上げた瞬間何か石のようなものに躓き
思い切り前へと倒れこんだ。
『あれ、おかしいな、今まで何ともなかったのに異様にのどが渇いたなぁ。水分が
足りんのか?』少しそんな事を考えただけだった。突然体が力を失い疲れが増した。
うつ伏せに倒れた体をゆっくり起こし、そのまま今度は仰向けになった。

そうして異変に気付いた。

今まで森の中にいたはず・・・なのに今自分の目の前に広がるのはいつしか闇だった
土の柔らかさも、体に当たる葉も枝もない。青い空ももうどこにもなかった。
夢から覚めたような気分・・さっきまで勢いよく走っていた自分と、今倒れこんで
疲れている自分とを区別する事が出来なかった。


249 :ラーク :03/02/25 21:59 
>>248

『俺は一体今まで何をしてきたんだ・・・?』

ぼんやりと今までのことを思い返す。

『ずっと走っていた。・・・なんで?なんでやろう?ただ走らなあかんかってん。
・・・なんで?なんでや?なんで走っててん・・俺』

辺りを漂う空気がやけに冷たくて体中がピリピリと痛む。特に胸の痛みが強い。
『どうなってんねん、これ』

何もない暗闇の中、一人倒れこんだまま一生懸命今までの事を思い返した。
しかし何も思い出せない。少しでも心にひっかかりがあるのではなく、自分の心の
中もこの暗闇のように何もなかったのだ。
250 :ラーク :03/02/25 22:11 
>>249

落ち着いて深呼吸をしてみると体がギシッときしんだ。
あまりの激痛にたまらず声が出た、と思った。だが腹の底から出た声はのどを通って
言葉になる前に、胸のあたりで「ヒュウ」という頼りない音とともに消え去った。

目を見開いた。とにかく声を出した。ありったけの力を込めて叫んでいるのにまた
「ヒュウッヒュウッ」と空しく音を立てただけだった。
一体自分の身に何が起こったのか?
恐る恐るきしむ体を抑えながら自分の胸へと手をやった。

ベタッ・・・ドクドクドク・・・・・・

もう、胸は胸でなかった・・・
指を打ち返す肌と肌の弾力がなく無数に空いた穴へと指がズズっと入った。
柔らかい肉を触って、もう少し奥へ指をやると固いものが指に触れた。
冷や汗が体を濡らし、早まる自分の鼓動がすぐ近くに感じた。
そして液体が流れ出た。それは鼻を突く生臭い匂いで血だとすぐ分かった。
血は止まることなく流れ出て、いつしか自分の身を浸している事に今気付いた。
251 :ラーク :03/02/25 22:23 
>>250

手がパタンと地に落ちると血たまりがしぶきをあげて周りに散った。
不思議と痛みはなかった。そのかわりに嵐のように不安が渦巻き言い知れぬ絶望感
がじわりと襲った。
ただ怖かった。怖くて恐ろしくて、叫んで取り乱す事も出来ず、動かない体に刻々と
近づく何かをゆっくりと感じていくことが耐えられない・・怖い・・!
夢中で周りを見渡していた。

『俺は、誰かを探してるんか?・・・一人では怖いというんか・・・?』

必死で目を凝らした。何度も瞬きをして、その度流れる涙にも気づかず何かを探して
いた。だが、目に映るのはただの闇。
針であけた穴のような光さえもない、完全な闇だった。

『嘘や・・嘘や・・嘘や・・!!何なんだ一体!?体が動かへん!何も思いだせん!
嫌や!!俺はこんな所で終わる人間とちゃう!!誰か・・誰か助けてくれ・・!
まだ見てない、知らん世界が光があるんや!!まだ死にたく・・ない。死にたくな
いんや!!!誰か助けてくれっっ!!ここから連れ出してくれーーーっっ!!』


252 :ラーク :03/02/25 22:33 
>>251

「あははははははははははは!!!はーーーっはっはっはっはっ」

『!? 誰や!?誰かいんのか?』

「あはははは!!おかっ・・・おかしいっっ・・・くくく・・ははは!!」

『誰や!?何笑てんねん!何がおかしいねん!!』

高らかに笑い転げる声の主を見つけ出せない。だけどその笑い声は確かに自分の耳へ
と届いている。左後ろで聞こえたかと思うと、次は足元で聞こえる。今度は耳元で聞
こえる!人を馬鹿にしたような欺いた笑い声。
闇にむけ広がり、大きな苦しみとなってやがてまた闇に溶ける。その淀んだ闇が体を
包み、心までをもまとい、中から殺されていく。姿のない悪魔に支配されそうになる

ふと、笑い声がやんだ。ヒュウ、ヒュウと胸に開いた穴から音が漏れる。血は止まる
ことなく流れ出ている。痛みがない。不安もない。ある事に気付いてしまった・・・
253 :ラーク :03/02/25 22:39 
>>252

『俺は・・死んだのか?』

耳元で誰かが口から息を吸い込んだ音が聞こえた。ニイッとのびる口元だけがかろう
じて見える。

「そうや」

狂ったように笑う声ではなく、低く深い声が響いた。きっとさっきの笑い声の主と
同じだろう。そして、その声はどこかで聞いたことがある・・よく聞いた事のある
懐かしい声。

「お前は胸をナイフでめった刺しにされて死んだんだ。死んだんだ。死んだんだ」

どこまでも深く深く体の中から響き渡る。

254 :ラーク :03/02/25 22:48 
>>253

『殺されたのか・・?』

クスリと声の主が笑う。きっと男だろう。そしてきっと歳も若い。

「そうや。どうや?気分は」

消えそうになる自分の意識をつかみながら感じていた。
体も動かない、声も出ない、血も止まらない、もう何もする事が出来ない。
でも・・でもこうしたまだ自分は自分としての意識も考えもあるじゃないか・・
きっとこれは夢なのだろう。
朝目が覚めて、汗に濡れた体を拭いて悪い夢を見たんだと、ホッと息をつく。
そうしてまたいつものように、仕事場へむかってあいつと・・いつものように・・
仕事・・・?あいつ・・?

「クスクスクス・・・ははは・・・」

俺は・・・一体俺は何なんだ?
今まで何があったんだ!?どうしてこんな夢を見るんだ!!こんな・・ひどい・・
こんなひどい殺され方があっていいのか!?いつもの毎日って何なんだ!?!?

「ふはははは・・・はーッはっはっはっはっはっはっは!!!!!」

『!?』
255 :ラーク :03/02/25 22:56 
>>254

沈黙を守っていた男が急に高らかに笑い出す。
心底おかしいといったふうに笑いが止まらない。口元が笑いながら目の前をうろつく
この口もよく見た口だ・・・ぼんやりそう思った。

すると突然脳裏に強い光とともにある風景が浮かんだ。

『なっっ・・・なんだ!?目が覚めたのか!?』

生い茂る草木、柔らかな土、どこまでも高く青い空。あぁ飛べると信じて疑わなか
った俺の世界がある。こんなにすがすがしい場所があったなんて。思いっきり空気を
吸い込んだ。
「あーいい気分」
声も出る。間抜けな音はもうしない。体も動く!足も!首も!手も・・・!!

「何や・・?」

自由に動く手を空にかざし、じっくりと見つめた。・・血だ。手が真っ赤に染まって
いる・・・。

「何やねん!!?」



256 :ラーク :03/02/25 23:04 
>>255

あわてて血を拭おうと服で手を擦った。するとどんどん腕までも血で染まっていく。
「!?」
ようく自分の姿を見た。するとどうだろう、全身血にまみれ、赤く染まっているでは
ないか。
「・・・何や?何やねん!何でやねん!!」

錯乱しながら血を拭おうと必死だった。拭いても拭いても血で染まるだけ。泣き出し
そうになりながら、遠くに川があるのを見つける。
水につかってしまえば血はとれる。あわてて一歩足を踏み出した。

  ムニッ

石ではない、土でもない柔らかい何かを踏みつけた。
ゆっくり、踏みつけた足元を見た。・・・どうしただろう、足元には無数の死体が
転がっていた。全員が見に覚えがある顔で・・・いや・・この人達は・・・

「うわああああああああああああああああああ!!!!!!」

泣いていた。声が水のように流れ出て足がガクガクと震えた。

「ウっうっうわああああああぁぁっ・・あぁっっ・・あーーーーーーーっっっ!!」

257 :ラーク :03/02/25 23:23 
>>256

踏みつけた死体を無我夢中で胸元へ抱き寄せた。その死体は徳井だった。
近くにある死体は皆、仲の良かった芸人だ。高井、中川、木部・・皆苦楽を共にして
きた仲間だった。どうして?一体どうしてこんな酷い事に・・

「あああああ・・うっ・・うっ・・・うわあああ・・・・・うじ・・宇治原・・?」

たくさんの仲間達の中に一人だけいないのにはっと気付いた。相方だ。誰よりも一番
大切な相方。宇治原の姿がどこにもない・・。

「宇治原ぁぁーーー!!宇治原ぁぁーー!!」

抱き寄せた徳井を地へ寝かせ、気がつくと夢中で走っていた。草木を掻き分けて、川
を渡って行く当てもなく、ただ宇治原の姿を求めて・・・

走っていた。体中を流れる汗、無数の切り傷、胸を打つ鼓動。
繰り返し前へと飛び出る両足を止めることは出来なかった。
ただ走っていた。誰かを追っているのだろうか、いや、追われているのだろうか?
よく分からないがなんだか悲しかった。
踏み込む土がとても柔らかくてそのまま空へと飛べそうだ。


258 :ラーク :03/02/25 23:27 
>>257

空を飛べたら・・空を飛べたらいいのに。早くもっと早くあいつを見つけれるのに。
今もどこかで倒れているかもしれない。誰かに襲われて傷だらけになっているかも
しれない。早く早く死ぬ前に・・宇治原が死ぬ前に!!俺が見つけてやらなきゃ!
空を飛べたら、あいつを見つけてやれるのに・・・

分かったんだ・・・俺はこんな時だって魔法は使えない。強い力もない。
ただ走って、汗を流して、走るしかない。そうして笑って泣いて怒って、同じ事を
情けない位繰り返しながらあいつと走ってきたんだ・・

俺は普通の人間だったんだ・・俺は・・空は飛べない。

259 :ラーク :03/02/25 23:43 
>>258

ゆっくりと目が覚めた。涙でぐちゃぐちゃになっていた。体はやっぱり動かなかった
・・なんだか笑いたくなった。

『皆を殺してきたのは俺だったのか・・』
「クスクス・・・そんなに泣く事はない。傷付く事もない。・・悲しむ事もない。」

声の主は近づいてきた。闇に目が慣れたのか、背格好が見て取れる。
少し背の低い中肉の男。よく見た姿だ。よく知っている、この男を。

『お前は・・・俺だな』
ニイィっと口元が伸びると、男の姿がはっきりと目に映った。
誰でもないさっきぬけるような青い空の下で血にまみれていた自分の姿だった。

「そうや。俺はお前だ。」
『お前が皆を殺したんやな?』
「何言うてんねん・・はは。俺が殺した奴はお前が殺した奴やろ?
あんなに楽しそうにしとったやんか。たくさんの人間を虫けらみたいに殺してきた
んはお前やろ!!」
『うるさいうるさい!!黙れ!お前が俺ん中に潜んどったんや!息を潜めて、笑い出
すのをこらえて、大切な仲間を次々と殺していったんや!!』
「あははははは!!大切な?仲間?笑かすなや。そのセリフ、お前が一番嫌っとった
やないか!誰かがそのセリフを言う度笑い転げとったやないかぁあはははは!!」

『黙れぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっっ!!!!!』



260 :ラーク :03/02/25 23:55 
>>259

動かなかったはずだ。力ももう残っていなかった。けれど何かが俺をつき動かした。
震えるほどの力が手に余って足に伝わって体が持ち上がった。
気付くと俺は俺の首元へとつかみかかっていた。

『ハァッハァッハァッ・・・』

「あんま動かん方がいいでぇ?気付かんうちにパッタリと終わってまうでぇ?
そしたら俺がお前を支配する事になんでぇ?ギャハハハ!!もうなってるけどなぁ」

『ハァッ・・ハァッ・・お前なんか・・お前なんか死んでしまえ!!』

ありったけの力を込めて俺の首を締め付けた。とたんに自分の首が苦しくなった。
・・・なんてことはない。さっきから体はもう限界だ。これしきの痛み・・・皆の
と比べたらなんともない。

「お前が俺を殺すという事は、どういう事か分かってんねやろうなぁ・・・?」

『ハァッ・・ハァッ・・ハァッ・・』

「そうか・・そうやなお前はここで死ねばいい。悲しくも辛くもないやろう。
大切な者なんてお前にはいーひんかったはずや。」

『・・お前が死んでも・・俺は死なへん・・俺には大切な人間が・・かけがえのない
人間がいてるんやぁぁ!!』



261 :ラーク :03/02/26 00:06 
>>260

「ガハァァァッッ・・・」

渾身の力が尽きた。今まで何回も限界を感じてきたけど、これが本当に限界を超えた
のだろう。足から腰から全てが消え失せた。
空っぽになって体が浮くのを感じた。最後に俺の首がやみに笑いながら溶けていった
のを見たような気がする。そんなついさっきの記憶ですら落ちていく。
『宇治原・・俺は、お前に追われててんな・・。俺を助けようと追ってくれててんな
・・俺・・今頃気付いたわ・・あほやで・・・ありがとう』

体がどんどん軽くなる。天へと昇っていきそうだ。

『やっぱり。俺空飛べるんちゃう?』

「菅・・」 「宇治原・・?」

俺を呼ぶ声がした。目はもう開かないけど。なんだか暖かい。優しくて、柔らかで、
気持ちがいい。いつものように俺の横で笑ってる気がした。・・それでいい。
268 :18 :03/02/27 00:33 
まだ登場していないみたいなので・・・・

「みんなエライ簡単に死んでんなぁ。」
放送された仲間の、先輩の、後輩の名前を書き出しながら
フットボールアワー後藤は乾いた笑いを浮かべた。
森を、街を、海を大量の芸人たちが必死で彷徨っているのに、
後藤は一人優雅に一服している。
誰がどこに行ったかなんてどうでもよかった。
始めは相方やみんなに合流する事を少しは考えたものだが、
冷静に考えて、合流したところで無意味だという結論に至ったのだ。
どうせ生き残るのはたった一人。
「あーあ、早よ終わったらええのに。ごっつ暇やわ。」

後藤はスタート地点からほとんど動いていなかった。
使われていないプレハブ教室らしき場所にずっと滞在していた。
ナップザックの中にはS&Wが入っていたが、
一度もそれを手にしていない。
拳銃が入っているなんてラッキーな方かもしれない。
けれど後藤は興味を示さず、
この退屈な時間が早く終わる事だけを望んでいる。
「頭良くても運動できても死ぬねんて。」
まだほとんど吸っていないタバコをもみ消すと、
ナップザックを枕にして、ゴロンと寝転がった。

269 :18 :03/02/27 00:51 
(相方は生きてるんよな。)
天井をぼんやり見上げながら、後藤は考える。
後藤が思い当たる限り、岩尾は決して器用な方ではない。
余程武器に恵まれたのか、マグレか。
どちらにしても運のいい男だ。

「なんや、このプレハブ。」
この殺し合いが始まって、後藤は初めて他人の声を聞いた。
心臓が一気に高鳴る。
関西弁、どこかで聞いたことのあるような声ではある。
「おいー、そんな気軽に近付くなや。」
「大丈夫やって、いざとなったら武器もあるし。」
2人だ。
「baseで生き残ってる人、減ってもたやん。
 もう味方に出来る人ごっつ少ないねんぞ。」
「うっさいなぁ。
 もし誰もおらんかったらここで休めるやんけ。」
この声を自分は知っている。この声は・・・
「とりあえず入ってみよーって。
 そんな恐かったら津田はここで待っときぃな。」
ダイアンだ。
後藤は初めて武器を手にし、壁際に静かに寄った。
銃口をドアに向けると、静かに深呼吸を繰り返す。
(悪いけど、死ぬんはゴメンやしな。)
270 :18 :03/02/27 01:03 
「そこにおるん誰や!?」
外から聞こえる叫び声に、後藤は息を飲む。
「西澤っ、誰か俺らのこと見てた!」
「どこから?」
「あっちの茂みや。でも俺の声聞こえたはずやのに、
 攻撃して来ぇへんかった。baseの誰かかも・・・」
どうやら2人の注意は小屋から逸れようとしている。
「・・・分かった。ちょっと様子見に行こ。」
西澤の言葉で、2人の足音は遠ざかって行った。
後藤は安堵のため息をもらすと、銃を床に置いた。
手のひらにはじっとりと汗がにじんでいた。

その日の夕方の放送でも、相方の名前は呼ばれなかった。

271 :18 :03/02/27 01:19 
その時は突然やってきた。
翌日の昼の放送の時である。
とうとう相方の名前が呼ばれた。
「岩尾が、死んだ・・・」

数分前にさかのぼる。
岩尾はbaseの後輩数人と行動を共にしていた。
仲良しこよし、互いに守りあいながら。
ところが一人の後輩がふと疑問を口にし、
仲良しの輪は簡単に崩れてしまった。
「これって最後、どうなんの?」
「え?」
「こんな風に徒党組んでて、でも優勝者は一人なんやろ?」
「ああ、そうやけど・・・」
その言葉で全員に敵対心は生まれた。
そしてそれぞれが相手を殺す心の準備をし始めたのだ。
しかし岩尾は焦っていた。
ナップザックに入っている武器は「おたま」だ。
そんなもの、どう工夫しても殺人兵器にはなりえない。
「殺し合いするん?じゃあ、俺の勝ちかなぁ。」
後輩の一人が嬉しそうに笑った。
「っていうか、ある意味全員ゲームオーバーかな。」
「は?」
全員が訝しげにしていると、その後輩が武器を手に取った。
「ほな、さようなら。」
あたりを大きな閃光が包んだ。
その後輩の武器は、手榴弾だった。
会話を進めながら、すでに手の中でピンは抜かれていたのだ。

「早よ、baseに帰りたいなぁ。」
そう呟いた後藤は、大粒の涙を流していた。
272 :18 :03/02/27 01:37 
後藤の潜伏しているプレハブの建物は、
あまりにもスタート地点、つまり本部と密接しすぎていた。
当然の心理として、
参加者の殺意の矛先はこのゲームの本部にも向けられる。
「アホやなぁ、みんな。」
T・K・O木本は手押し車にポリタンクを積んで、
そのプレハブの前で立ち止まった。
そしてその中身を次々とプレハブの前にぶちまけると、
手にしたガスバーナーを点火する。
木本の武器はガスバーナーだった。
始めは案外使い勝手が悪いとは思ったが、
古びた民家に置き去りにされたポリタンクと出会って、
この作戦を思いついたのだ。
人目を避けながら、ゆっくりと木本は準備を着実に進めた。
このプレハブと本部は隣接している。
ポリタンクの中身はガソリン。
このプレハブが爆発すれば、本部も大打撃を受けるはずだ。
木本は軽く深呼吸をして、プレハブから離れる。
できるだけ離れると、プレハブに向かってバーナーを投げた。
瞬く間にプレハブは炎に包まれ、大爆発を起こした。
木本は満足そうに頷くと、足早にその場から走り去った。
273 :18 :03/02/27 01:44 
後藤は突然の火災に泡を食った。
そして慌ててナップザックを持ったが、
息をついてその場に腰を下ろした。
そしてタバコをくわえようとした瞬間、プレハブは爆発した。

合方が死んだ瞬間に、すでに生きる事を諦めていたのかもしれない。
だから後藤は、タバコを手に取ったとき、
諦観の笑みを浮かべていた。


長く書いてしまってすみませんでした。
フットボールアワーの2人を書きました。
拙い文章、失礼いたしました。
278 :中西哲夫@チンポジなおすな!! :03/02/27 16:11 
哲夫は鼻歌を歌いながら軽い足取りで歩いていた。
その姿は花柄ワンピースでショッピングにいく乙女のようで、殺し合いが行われてる
場にいるようには到底見えない。というのも哲夫には奇妙な自信があった。
タコ・イカ芸人にこの俺が殺されるわけあらへんし
俺を殺せる奴は俺を殺せるくらいすごい奴やから殺されてもしゃーないわ。
でも、厄介な事に巻き込まれるのは面倒なのでなるべく人に見つかりにくい森の方へ
行く事を決め、その足を進めていたのである。

森の中を音を立てないように歩いていると見覚えのある後姿が見えた。
あれ?西田やん。
西田はきょろきょろと辺りを見回しながら歩いている。
容姿も手伝って、その姿は怪しい奴以外の何者でもない。
なにやってんねん、あいつ。よし、後つけたろ。
西田は茂みに入っていった。どうやらそこが西田の隠れ場所のようだった。
哲夫は好奇心が湧き、しばらく西田を観察してみることにした。
気持ちの悪い話だが西田は見てて飽きる事はなかった。
10分に1度の割合で口をポカンと開け放心状態になったり
気がついたかと思うと鼻くそほじったり、突然「ジャガバタ」と呟いたり
普通に草を食べだしだ時にはさすがに笑ってしまった。(あいつ草食うとるで・・ぷぷ)
だが哲夫の脳裏に再び好奇心がわいた。
あいつ俺を見つけたらどういう反応するんやろ?
声をかけるのだろうか、かけないのだろうか、はたまた襲いかかってくるのか。
それらの疑問は時間が経つにつれ哲夫の中で大きくなっていった。
よし、試したろ。
哲夫は荷物を持つとわざと音をたてながら西田のほうに向かって行った。
声はかからない・・・ぷぅぅ〜〜〜
その音に哲夫は思わず噴出しそうになるのをこらえ「誰や」と西田の方に向かって
叫んだ。西田が草むらからショボクレながら出てくる姿に哲夫は
心の中で大爆笑。こうして哲夫の実験は屁でアピールされるという想像もつかない結果で
幕を閉じた。(大満足)
279 :中西哲夫@チンポジなおすな!! :03/02/27 16:13 
相方は近くで見ると前以上に痩せていた。(草ばっかり食うてるから)
哲夫は自分のパンを西田にあげようかと思ったが恥かしくて自分で食べだして
しまった。(結局西田に取られたので結果オーライ)
そうしてるうちにまた好奇心が湧いた。
俺がこいつ殺そうとしたらこいつどうするんやろ?
深く考える間もなく気がつくと体が動いていた。最初の一振りは失敗したが二度目は頭に当たった。
「たっ」と言ってよろめく。哲夫は狼狽している西田にすこしガッカリした。
もっと面白いリアクションをこいつなら返してくれる、と期待していたからだ。
西田が顔を上げた時、哲夫は不覚にも恐怖を覚えた。
その目には狂気とタナトスが渦巻いて深い闇を作り出していた。そしてザシュと左肩で音がした。
熱い、めっさ熱い、ごっさ熱い。左肩が燃えるように熱い。
哲夫は重力に引っぱられ後ろに倒れた。
「うわぁぁ、哲夫!哲夫!」そう言いながらかけよって来た西田はいつもの
西田だった。西田は泣いていた。哲夫は西田の涙を初めて見た。
今まで感じたことがないほどの罪悪感がこみ上げてきた。

そんな時、ふと哲夫の頭に浮かんだのは幼い頃の記憶。
奈良のそうめん屋の息子だった哲夫はサッカーが得意なやんちゃ坊主だった。
何でも器用にこなせるので、その頃から自信過剰ぎみではあったものの
ごくごく普通の男の子だった。哲夫には幼馴染のみっちゃんという女の子がいた。
みっちゃんは小さくて、いつも真っ赤なホッペをしていて、とても可愛かった。
ある日、哲夫が友達と遊んでいるとみっちゃんがウサギのぬいぐるみを
大切そうに抱きながらトボトボ歩いているのが見えた。
「なにやってるん?」哲夫が聞いたが、みっちゃんは何も言わずうつむいた。
何も答えないみっちゃんに「何持ってるん?」と顔を覗き込みながら尋ねたが
みっちゃんはやっぱり何も答えない。哲夫は「ちょお、これ貸して」と
みっちゃんの持っているウサギのぬいぐるみを指差した。
すると、みっちゃんは過剰なまでに反応した。
280 :中西哲夫@チンポジなおすな!! :03/02/27 16:14 
「いやや!!これはあかんの!」
その反応に哲夫は無性に腹が立った。
「ええやん、少し見せろ言うてるだけやろ!」
「あかんったらあかん!!」
哲夫はみっちゃんのぬいぐるみを無理やり奪い取り仲間うちで回して遊んだ。
「やめてぇ〜やぁ」泣きながら取り返そうとする、みっちゃんをからかった。
哲夫らが飽きてぬいぐるみをほっぽり出すとみっちゃんはボロボロになった
ぬいぐるみを拾い上げ真っ赤な目で哲夫を見ていた。
その目は悲しみでもなく憎しみでもなく・・・幼い哲夫はそれがなんていう
感情なのか分からなかった。ただその目は今でもはっきり思い出せるほど
哲夫の胸に突き刺さった。母親にそのことを話すと「人の大切なモノを
奪ったら心が痛くなるもんなんよ、でも奪われた方はもっと痛いんやで」と
言われた。数日後、病弱だったみっちゃんのお母さんが死んだ。あのヌイグルミは
みっちゃんのお母さんの手作りだという事を知った。
でも哲夫は謝れなかった。そのまま、みっちゃんは引越しした。

「人の大切なモノを奪ったら心が痛くなるもんなんよ、でも奪われた方は
 もっと痛いんやで」

今さらながらに母親の言葉がフラッシュバックする。
なぜだろう?西田の目がそうさせたのかもしれない。
今の西田の姿はどこかみっちゃんとかぶる。
この場合、どっちが奪った方でどっちが奪われた方なんだろう・・・。
いや、俺が奪わさせたんやな。大切なモンかはわからんけど。
281 :中西哲夫@チンポジなおすな!! :03/02/27 16:15 
そう思うと、このまま自分が苦しみながら死んでいく姿を、これ以上
西田に見せるのが辛くなった。
「殺してくれへんか・・?」
自分でもびっくりするほどスンナリ言えた。

西田にこんな事をさせたのも、こんな結果を招いたのも全部哲夫が
原因を作ってしまった。みっちゃんに言えなかった分も含め今言わなければ
言える日はもう一生ないだろう。

「ごめんな」――――その言葉の代わりに出たのは「俺、天才やろ?」
あいつは少し驚いた顔をした後、キュと目をつむり深く息をはき
微笑を浮かべ「お前は天才や」とはっきり言った。

やっぱり謝れへんわ。恥かしい。
ほんま、ごめんなぁ・・・別にお前を悲しませるつもりも、残酷なこと
押し付けるつもりもなかってんで、ただ「どうなるかな〜」て思てん。
それと、お前に殺されるのも悪ないなーって・・・ほんま、ごめん。
お前が気病ます事ないで、これは俺が願った結果なんやから。
あかん・・伝えたい事ぎょうさんあるけど、どれ一つ言葉にならへん・・最悪や。
あ、考えてみたらこの死に方めっちゃ普通やん!!なんかおもろい事・・・
えっと・・・銀歯の抜けたお婆ちゃんは・

ザシュ

お前・・ツッコミ早い・・ね・ん・・・・・か・わ・・・れ・・・・・・






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