795 :中谷@ホムチあなうめ話 :03/09/09 16:58
思いついたので書いてみます。あまり上手くはないのですが・・・。
名前を呼ばれたのは檜山の方が先だった。
ついて行きたいけれどそれが許される筈もなく、
俺たちはいつも舞台裏でやっている合図をしてから別れた。
それから、自分の名前が呼ばれるまで、時間が凄く長く感じた。
自分の名前が呼ばれた瞬間、俺は一気に外へと駆け出した。
「待ってるから。」
別れる直前、小さく告げられたその言葉を信じて。
796 :中谷@ホムチあなうめ話 :03/09/09 17:05
「・・・っても、どこで!?」
勢いで外に出てしまってから気付く。待ち合わせ場所聞いてないじゃん!
辺りを見回すが人影はない。でも、遠くで銃声が響いている。
「・・本当、なんだ。」
バトルロワイヤル。今でも冗談のように聞こえるこの言葉。
けれどこれは紛れもない現実、なんだ。
「檜山は、どこに・・・・」
檜山はそう簡単にやられる奴じゃないと思って、
既に殺されているかもしれないという考えを無理矢理削除する。
それでもこんなに広い場所で、たった一人特定の人物と出会うことはかなり困難だ。
「檜山が行きそうな所は・・・」
もしくは、俺が行きそうだと想定して檜山が先に行動している場所は。
時間は無かった。こうしている間にも、ゲームに参加する人数は確実に増えていく。
急がなければ。
与座は、少し考えてから、また走り出した。
797 :中谷@ホムチあなうめ話 :03/09/09 17:09
「だからツメが甘いって言われるんだよなー・・・」
草の間に隠れながら、檜山は一人自己嫌悪に陥っていた。
「待つ」とは言った。
でも「待つ」にはそれなりの「場所」が必要だということまでは頭が回らなかった。
「与座ぁ。」
口の中で呟く。こんな状況ではうかつに探しに出る事も出来ない。
とりあえず、少しは与座が来そうな方向を選んだつもりだが、確立は余りにも低い。
・・・何が怖いって、この状況自体十分すぎるほど恐怖だが、
このまま与座に出会えない事が一番怖かった。
「与座。」
今度は小さく声に出す。絶対、今は死なない。与座に会うまでは死ねない。・・・・・・よし。
意を決した檜山が立ち上がったのと、与座が檜山を見つけたのはほぼ同時だった。
798 :中谷@ホムチあなうめ話 :03/09/09 17:17
「檜山ぁ!?」
驚きの声の先を見ると、与座が嬉しそうな顔でこちらに走ってくる。
「よかった檜山無事だったんだねって・・・・もがっ。」
「声!!声大きい!」
与座の口を手で塞ぎながら草むらの中に引きずり込む。
「ったく、心臓止まるかと思った・・・。」
「あ!あー・・ごめん。」
「ゴメンじゃねえよ。・・・でも、」
檜山は一息ついて、
「会えてよかった。」
本当に、そう思った。
799 :中谷@ホムチあなうめ話 :03/09/09 17:23
なんか長くなる気配がします。ごめんなさい・・
「なあ、どうしてここだって分かったんだ?」
檜山の素朴な疑問に、与座は笑って、
「ええっと、もうなんか、過去の記憶とか無駄知識とか総動員して、五感も第六感も霊感も全部使って、
で、なんとなくここ来た。」
「最終的にはなんとなくなんだ。」
苦笑しながらも、檜山は心の底から感謝した。
「あ、でも。檜山も俺が来そうな所選んでてくれたでしょ?」
思い出したように与座は言った。
「え、何で?」
「太陽の向き。ここは、えーっと、南方向になるのかな。
俺なら太陽に向かって歩いてくるっておもったんでしょ?」
にいっ、と与座は笑った。
「別に太陽の事までは考えてなかったんだけど・・・・・」
「あ、そーなの?」
「ただこの方角なら・・・・・このずーっと先には、お前が生まれた島があるんだなあって思ってさ。」
「・・・・・そっか。」
与座は小さく呟いた。
「ありがとう。」
もう帰ることはないかもしれない、遠い遠い自分の故郷を思い出して、
与座は少し、泣いた。
800 :中谷@ホムチあなうめ話 :03/09/09 17:29
「ところでさ、お前武器なんだった?俺のは・・・・」
「あ、そだ。これも言おうと思ってたんだ。檜山、あのさ、そのー・・・」
「・・・そういやお前、何も持ってねえな。
まさか、他の奴らにやられたのか!?」
「いや、そうじゃなくて、そのー・・・」
与座は檜山と目を合わせないようにして話を続ける。
「檜山が先に外行っちゃって、俺すげー不安で、
檜山を追う事ばっか考えてたから名前呼ばれた瞬間飛び出してきちゃって・・・だから・・・」
「まさか・・・」
「・・・もらってくんの、忘れちゃった。」
へへっ、と与座は笑った。
「この、バカー!!!」
檜山のツッコミがむなしく響いた。
801 :中谷@ホムチあなうめ話 :03/09/09 17:38
「わー檜山っ、声大きいっ!!」
「ってかお前、マジで言ってんの!?俺の武器もハズレなのに・・・」
「ごめん、本当にゴメン!」
一生懸命謝られてもどうしようもない。
「コントじゃねーんだからさぁー・・・」
「ね。俺もそう思った。」
真剣な顔で言われてしまっては、檜山はもう脱力するしかなかった。
その時。
803 :中谷@ホムチあなうめ話 :03/09/09 17:47
――――パンッ
わりと近くで銃声がした。
「!!」
二人は息を飲む。
「・・・どうしよ、気付かれたかな?」
「檜山があんな大声出すからだよー。」
「あれはお前がっ!」
「シーッ!静かに。」
「・・・・これ以上近づかれる前にここから離れた方がいいな。」
「でも!もし知り合いだったら?」
「知り合いなら、俺らの声聞いて撃ってくるってのは避けていただきたいけどな。」
「・・・そうだね。」
二人の間に緊張が走る。
「で、どっち行く?」
「うーん・・・、どうせなら海の方、行きたいかなあ。」
「――了解。」
そして二人は静かにその場を離れた。
804 :中谷@ホムチあなうめ話 :03/09/09 18:00
この時檜山は、たいした武器も持たない自分達の運命を、なんとなく察していた。
――なあ与座、わかってんの?海に向かうって事は、
もう、逃げ場はないって事なんだよ?
生き残るには、自分以外を殺さなきゃいけない。
なんなんだろうこれは。こんなのおかしいよな。間違ってるよな。
けど、俺達は今必死に走っていて、みんな必死に走っていて、
間違っている道を必死に生きていて。
生きたい。生きていたいよ。だけど、
だけどそれが、人を殺す理由になんかならないのに。
805 :中谷@ホムチあなうめ話 :03/09/09 18:23
目の前を走る相方の背中をみる。
コイツは今、何を考えているのだろう。何か考えているのだろうか?
俺がお笑いの道に連れ込まなければ、コイツはこんな目にあう事はなかったのに。
・・・・・・もう、遅いけど。
それでも、と檜山は思った。
それでも、こんな異常な状況の中で自分達が一寸も相方の事を疑わないでいられるのは、
幸福な事なのではないか。
走りながら、檜山は少し笑った。
絶対に与座と離れない。そう心に誓いながら。
それは二人の名前が放送される、少し前のお話。
814 :B9@天津とブロンクス :03/09/15 14:55
中岡はとりあえず向との死闘があった修道院へ戻ってみることにした。
向の行方をしる手がかりがあるとすればそこしか思い当たらなかった。
それに中岡はやり残した事があった。
修道院へはそう離れてもないので意外とすぐについた。
まず中岡は唐戸を埋めた場所へと足を運んだ。
そこは野口と共に唐戸を埋めた日から何も変わってはいなかった。
冷たい土・・・この下に冷たくなった唐戸が眠っているのだ。
そんな実感はまだ湧かないし信じることも認めることもできないけれど
中岡はあぐらをかき手のひらを地面につけて唐戸に語りかける。
「唐戸さ、野口君かばって死ぬなんて格好つけすぎ。中学ん頃から変わらへんね、そういうとこ。
『俺、ちょっとイケてるんちゃうん』とか思ってるでしょ?
でも言うけど全然かっこよくないからね!
・・・残された俺らの気持ちも考えへん唐戸くんはアホ!ほんまにアホ!!
だいたいさ・・・なんで・・・なんで死ぬん?・・なぁ?なぁ!?答えてや!!」
中岡は拳を握り締め地面に叩きつける。
何度も、何度も、強く、強く。
今まで野口がいたから我慢していた感情が溢れてはじけた。
悲しくないはずがなかった。
拳に血が滲み、涙が溢れ嗚咽を洩らす。
≪お前が・・・≫
「うるさい!!」
頭に響く声は次第に強くなっていた。
狂ってしまえば楽になれるのか?でも頭の中の声に身を委ねるともう自分は
自分でなくなってしまうことは分かっていた。それは嫌だった。
「唐戸・・・」
815 :B9@天津とブロンクス :03/09/15 14:56
その時、温かい風が吹き中岡の涙を伝う頬をくすぐった。
中岡は顔を上げた。
『ごめんて』手を前で合わせ苦笑いで謝る唐戸が見えた。
そして次の瞬間には消えてしまう。
幻だ、わかってる。しかしあまりにも「らし」すぎて笑ってしまう。
「・・・ばか」
わかってる。唐戸だって別に死にたくて死んだわけじゃない。
中岡は立ち上がるとカバンから銀紙を取り出す。
これは野口の武器として支給されたものだった。
銀紙をひらく。
そこには小さな袋が束になっていた。
816 :B9@天津とブロンクス :03/09/15 14:56
そこには様々な花の種が入っていた。
何故、武器としてこんな物が入っていたのかは謎だが中岡はその種をまく。
この地に誰もいなくなっても美しい花が咲くように・・・。
この花が自分達が生きた証となるように・・・。
「バイバイ」
唐戸に別れを告げる中岡の顔には悲しそうではあるがいつもの笑顔が戻っていた。
817 :B9@天津とブロンクス :03/09/15 14:59
唐戸との別れの儀式を終えると中岡は向の背中に鎌をつきたてたあの場所へ行く。
この広い場所で普通に向を探して見つける事は困難である。
わずかな手がかりでもいい、中岡は必死に探す。
すると赤黒い血痕がわずかだが残っている事に気付く。
雨で流されてしまい見失いそうになるくらい小さなものだがそれは間違いなく続いて道となっていた。
それはヘンゼルとグレーテルが落としたパンくずのようだった。
中岡はお菓子の家へ導かれるように血痕の跡を辿る。
血はある所で円のように広がっていた。向がここで力尽き倒れたであろうことを物語っていた。
そして不思議なことに円から引きずったような跡がずっと先まで伸びている。
「ん?」
怪訝な顔をしながら中岡は引きずった跡にそって歩いていく。
引きずった跡は民家の前で消えていた。
中岡は銃を構え、窓から中を覗く。人の気配はない。
足音を消してゆっくりとドアを開き中へ入る。
「うっ」中岡は咄嗟に口を手で覆った。
鼻をつく鉄臭い血の匂い。そして目の前には首のない男の死体。
さすがの中岡も吐き気をもよおす。
足に何かがあたる。足元に目をやると見覚えのある赤いキャップ。
それはどこにでもあるような帽子であったが・・・。
よく見ると男の着ている服や靴も見覚えがある。
「井上さん・・・?」
818 :B9@天津とブロンクス :03/09/15 15:00
修道院から続いた血の跡。
引きずられた形跡。
そして井上の死体。
中岡の中でピースが一つの形になっていく。
「向さん・・・」
一足遅かった。でも向は間違いなくここにいた。
中岡は井上に手を合わす。せめてもの供養だ。
「敵はとりますから、安心して眠ってください」
向はここからどこへ行ったんだろう?
自分が向さんなら・・・と中岡は考える。
背中の傷も痛むはずだ。そんな向がむかう場所。
勘でしかないが中岡は足を進める。
しかし確信はある、自分は絶対向に会えると。
運命というものがあるとすれば歯車はかならずそう動いていると・・・。
819 :B9@天津とブロンクス :03/09/15 15:01
―――和田と野口のいる小さな家。
そこはまるで殺し合いの場に存在してるのが嘘のように平和だった。
平和なんて突然いとも簡単に壊れてしまう脆い物であることも和田は知っていたが
だからといってピリピリすることもなかった。
自分にできることをすればいい。今は野口の世話をすることだ。
この場所に来て和田は自分が意外とマメな性格だということに気付いた。
面倒臭がり屋の和田にとってこれは意外な発見で「悪くない」と思った。
不思議なものである。
野口はあれからずっと眠っていて目を覚まさない。
眠り姫のようでこの世界から離れたどこかで存在しているようだった。
このまま眠り続けている方が野口にとっては幸せなのかもしれない。
しかし中岡が戻るまでには目を覚ましてほしい。
中岡が戻ってくる保障なんてどこにもないけど和田は中岡は必ずもどってくると信じていた。
和田はコーヒーをたてると野口の様子を見ようと部屋のドアを開ける。
野口は起き上がりベットの上に座り外の風景を眺めていた。
820 :B9@天津とブロンクス :03/09/15 15:02
「野口!目覚ましたんか!よかった・・・野口・・・?」
駆け寄った和田の方に顔をむけると野口はゆっくりと口を開く。
「***********」
「お前・・・・。」
閉めていたはずの窓が風で乱暴に開いた。
疾風が部屋を渦巻き、和田は固まったように動けなかった。
821 :B9@天津とブロンクス :03/09/15 15:08
またヘマしてしまった・・・814は>>761です。
前回感想くれた方々ありがd。長々と続いたこの話ももうすぐ終わります。
よければもう少しお付き合いお願いします。
828 :小蝿 ◆ekt663D/rE :03/09/23 12:54
>>744-748 の続き
丑三つ時を過ぎ、ほんのりと東の空が白み始めてきた、そんなひとときに。
村田は一本の樹の根元に腰を下ろしていた。
俯き加減のその様子は、何か深く考え事をしているように見えなくもないが。
規則正しく頭が上下に揺れている所を察するに、少なくともそういった状態ではないようである。
「・・・・・・おい。」
桶田が呼び掛ける声も、村田の耳には届いていない。
仕方なく桶田は村田の肩を揺らし、彼の意識を現実へと引っぱり出す。
「・・・・・・・・・・・・。」
ゆっくりと目を開いた村田は、自分の身に何が起こったのかも理解できないほどの呆けた顔。
今まで充分に休息をとっていたとは言え、
明け方に差し掛かったこの時間帯となれば、さすがに少しは眠くもなる。
しかも、慣れない山歩きをずっと強いられているのだ。
休憩がてらにうつらうつらも仕方ないところであろうか。
「何かなぁ、昔の夢を見てたわ。ほら、ネタ見せの為に上京してた頃の。」
ぼんやりした様子のまま、一人呟く村田に桶田は軽くため息を付く。
「まぁいい。休憩は終わりだ。移動するぞ。」
「・・・・・・・・・あぁ。」
「夜明けまでには・・・南の市街地に出ていたいからな。」
桶田に答え、村田は島の中程にある山の方を見上げてみる。
一際大きい地震が起こって煙が山から上がって以降、山の中腹からは常に煙が上がり、
山火事だろう赤い炎も見る事が出来ていた。
前に見た時よりは燃えている範囲が広がっているようだったが
遠近法の魔術も手伝って、まださほど燃え広がってもいない様子である。
とはいえ、風向き次第では一気に辺りにまで延焼してくる事も考えられて。
「せやけど確かに目が覚めて・・・ローストされてたら、洒落にならんもんな・・・。」
ポツッとまた村田は呟き、早くも先へ進もうとしている桶田の背中を追い掛けた。
829 :小蝿 ◆ekt663D/rE :03/09/23 13:00
「そういや・・・また誰か、死んだん?」
腕時計で今の時刻を確認し、それから村田は桶田に訊ねる。
「言うても、もうみんな死んでしもたからな・・・もう気にする方が変なのかも知れへんけど。」
自嘲気味に付け加え、再び村田は山の方へと視線をやった。
今火が燃えさかっているだろうあの場にも、きっとどこかの芸人の死体が転がっているのだろう。
随分早い時期に殺された面々の死体は、今となってはもうどうしようもない状態に違いない。
それらをあの炎は包み込んで、焼き払って。
もしかしたら村田も良く知る芸人の物かも知れないそれを、浄化してくれているのだろうか。
・・・無数の才能の昇天。
そんな綺麗な言葉で片づけられるような光景でもないのだが。
美化して何かのオブラートを掛けでもしない限り、やはり精神的に来る物がある。
「・・・松丘が、死んだ。」
ふと考えに没頭しかけた村田の耳に、桶田の言葉が届いた。
「・・・・・・何、やて?」
「二度も言わせるな。松丘の奴が死んだ。」
瞬時に我に返って問い直す村田に、桶田は淡々とした口調で答える。
「正直な所、生理的に受け付けなかったが・・・役には立ったな。」
表情にも哀悼の意をまったく示す事なく、涼しげに言い放った桶田に、村田はしばし言葉を失った。
実際に放送を聴いていないという事もあるのだろうが、
松丘が死んだ、という意味がどうにも村田の頭にしっくりこない。
「僕らのようなのは、これから沢山でてくるやろ。」
830 :小蝿 ◆ekt663D/rE :03/09/23 13:02
畜産農家の二階のベランダで。
酔いから顔を真っ赤に染めながら、呟く松丘の言葉が村田の脳裏に甦る。
「で・・・僕らよりもっともっと何でもできる人らが、僕らよりもっと立派にもっと美しく、
笑ろたり笑わせたりして行くんやろな。」
せやけど、と。
松丘は村田を見据えて言葉を続ける。
「そいつらの為にも、そいつらを待っとる人の為にも・・・道標が、必要やと僕は思うねん。」
「みち・・・しるべ?」
「村田さん達なら、きっと・・・その役目も果たせると思う。」
そこまで口にして、松丘は照れたように目を細め、苦笑を浮かべて俯いた。
「全部僕の買い被り過ぎなのかも知れへん。それに・・・アカンな、酔ぉてる。」
一体、あのやり取りからどれだけ時間が経ったのだろう。
何で今、自分が生きて松丘が死んでいるのか。
村田の頭の中は寝起きという事を差し引いても混乱の兆しを見せ始めていた。
「随分と・・・冷たい口調やな。」
冷静になろうと一度深呼吸して、それから村田は桶田に言う。
「もう少しは気を使ったらどうなんや? 一応は仲間やったんやし。」
「仲間ぁ?」
いかにも意表を突かれました、と言わんばかりの素っ頓狂な桶田の返しが、どうにも村田の癪に障る。
「そんな、仲間な訳ないやろ。あれはあくまで便利な手駒。」
免許も持ってたし、絶対に刃向かってこないヘタレだし。アレは言う事なかったな。
付け加えて桶田は小さく笑った。
「お前、そんな・・・・・・。」
確かに、松丘には拳銃を突き付けられて村田も危ない思いをさせられたけれど。
あれはこの『ゲーム』に惑わせられていた、それだけの話。
松丘の村田も怪我はしなかったし、あの事件以降の松丘はちゃんと仲間として
行動できていたはずじゃないか。
831 :小蝿 ◆ekt663D/rE :03/09/23 13:05
何とかして桶田に反論したかったが、村田の頭の中では思考が言葉の体を表さない。
村田の見ていた限り、松丘は常に桶田にゾンビか何かのように従っていて。
確かに手駒と言われればそうだったのかも知れない、そんな気にさせられる。
逆に。
「大勢の人間に何かをさせるためには、どうすればいいと思う?」
村田の方を向く事なく、薄い笑みを湛えたまま前方を見据えながら。
桶田が村田に訊ねてきた。
いきなり違う話題に変えられ、村田にはその答えを出す事も難しい。
「・・・みんなを集めて、説明するしかないんちゃうん?」
しばらく無言で考え、ようやく村田はそんな言葉を口にした。
それが何よ、と続けて桶田に訊ねたい気分に駆られたけれど。
ほど近くで草木が揺れる不自然な音が上がって。
村田の言葉は見事にその喉元で留まった。
音が上がった方へと視線を向けると、男が一人、ポツンと立っている。
暗がりの中、辛うじて判断できたシルエットだとその男は華奢な体格で、髪型は坊主頭のようだ。
もっとも、この『ゲーム』の最中で髪を切る余裕もないようで、
性格には五分刈りに近い様子となっていたけれど。
「・・・誰や!」
村田は反射的に声を張り上げ、人影に呼び掛けた。
こいつ阿呆かと言わんばかりに桶田が舌打ちをするが、もう遅い。
「その声は・・・・・・村田さん!? 僕です! 僕ですよぉ!」
どこか朴訥とした素っ頓狂な声が闇の向こうで上がると同時に、人影がガサガサいう音と共に
村田らの方へと駆け寄ってきた。
明らかに聞き覚えのあるその声に、村田は声の主の顔を思い浮かべて安堵するけれど。
桶田は無言のままズボンのポケットから拳銃を引っぱり出し、人影の方へ向けて構えた。
元々は松丘に与えられ、彼から没収して以降は常に桶田の手元にある、愛用の武器。
832 :小蝿 ◆ekt663D/rE :03/09/23 13:07
無造作に、そして自然に執り行われる桶田の所作に、村田の表情が引きつった。
「何、やって・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・。」
桶田は村田には構わず銃の安全装置を外し、トリガーに指を掛ける。
「・・・・・・お前、止めぇや!」
怒鳴るような大声を上げて、村田は咄嗟に桶田の腕にしがみ付く。
それと殆ど同時に銃声が鳴り響いた。
銃弾こそは村田の行為によって大きく逸れたようだったが、彼は銃声に酷く驚いたようで。
思わずその場にぺたりと尻餅を付いてしまう。
「早ぉ逃げや! お前、死にたいんか!」
俄に険しい表情になる桶田には構わず、村田は桶田の腕を掴んだまま更に喚いた。
「・・・末高!」
自分を撃とうとした人物と、自分を守ろうとしてくれた先輩。
桶田の姿を目視できていない今、何故その二人が一緒にいるのかは
さすがに彼・・・末高 斗夢には理解できなかったけれど。
自分に銃口が向けられたのは紛れもない事実で、彼は村田の言葉に従い、慌てて逃げようとする。
「しまって・・・行けないか。」
尻餅を付いた拍子に辺りに散らばった私物に構う余裕など有るはずがない。
小さく呟いて末高が立ち上がり、村田らに背を向けた、その時。
背後から何かに貫かれる、そんな衝撃を受けて。
末高は手で腹部を押さえ、つんのめるような形で再び地面に倒れ込んだ。
数秒送れて彼の耳に届くのは、銃声。
起き上がろうにも腕や足に力が入らない。
地面に這うような体勢のまま、末高は何とか首だけ村田の方へ向けた。
「・・・・・・・・・!」
末高の目に映ったのは腕にしがみ付いていた村田を軽々と振り解いた桶田が、
末高へ銃口を向けたまま平然と次弾の照準を合わせている所だった。
833 :小蝿 ◆ekt663D/rE :03/09/23 13:09
・・・危ない。
そう思う間もなく銃口が火を噴き、凝縮された熱が末高の身体を貫く。
「・・・末高ぁ!」
叫ぶ村田も口だけでなく、何とかして桶田を止めようとしていたようだったけれど。
それは結果として末高の余命を十数秒ほど長らえさせるだけでしかなかったらしい。
何とかして立ち上がろうとする彼の身体が、力無く地面に崩れおちた。
「・・・・・・何で、こいつまで殺さなアカンねん! こいつが殺されなアカンねん!」
今までずっと、人の来ないような場所で身を潜めて生き延びていたのだろう素直で優しい青年の。
もう何も・・・駄洒落すら言えぬ死体の傍らで。
村田は両こぶしを固く握りしめ、怒りを露わにして桶田に問いかける。
その怒りには、迂闊に末高に呼び掛けてしまった自分のミスへの怒りも含まれているのだけれど。
「だが・・・味方のフリをして駆け寄ってきて・・・襲ってくる奴だったらどうするつもりだったんだ?」
桶田の言葉に、村田はそれはない、と首を横に振る。
「こいつは・・・松丘以上に人を傷付けられる奴やない。」
「・・・知り合いなのか?」
「あぁ、お前は知らないやろけどな。純粋で・・・みんなから愛されとる奴やったんや・・・。」
村田の熱っぽさとは対称的に、そう、と素っ気ない口調で桶田が呟く声が聞こえた。
834 :小蝿 ◆ekt663D/rE :03/09/23 13:10
「さっき言った『大勢の人間に何かをさせる』方法だけどな。
答えは・・・そいつらの目の前で、具体的な成功例を示してやる事だ。」
そうすれば、後は連中が真似して追随するのを高見から眺めていればいい。
目の前の末高の事などもうどうでも良いのか、村田も忘れかけていた話題を桶田は引っぱり出してくると
拳銃の熱を冷ますためか、微妙に手元で振り回しながら村田に告げた。
「・・・・・・できるんか? そんな真似が。」
視線を足元の末高に落としたまま、村田は桶田に問う。
「誰かを自在に笑わせる事が出来るのなら・・・泣かせる事も、怒らせる事も。
思い通りに操る事も出来るはずだろう?」
「そうやなくて!」
桶田の言葉を遮り、村田は大声を上げた。
「人の気も知らんで・・・殺してばかりの人間に! 仲間一人新しく抱える度胸もない人間に!」
村田は桶田を睨み上げる。
「そんな真似、出来るはずがないやんか!」
桶田は一度肩を竦め、くってかかってくる村田を軽く手でいなした。
「・・・別に仲間はもう必要ない。寧ろここから必要なのは・・・切羽詰まった群衆だ。」
その為の疑似噴火、そして山火事。
『ゲーム』を破壊するための『舞台』は着々と整いつつある。
あとは二人で『舞台』に立てば良いだけというのに。
顔を赤銅色に染め、キーキーとしつこく喚く村田の様子に、桶田はため息を付かざるを得なかった。
それが更に彼の怒りを煽る事になるとわかっていても。
835 :小蝿 ◆ekt663D/rE :03/09/23 13:16
【末高 斗夢 死亡】
村田編は終わりが見えてきそうでまだ見えてきませんね・・・w
今年中に完結できればいいのですが。
851 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:11
>>820
大きな木にもたれかかり死んだように動かない男がいた。
白い服(といっても汚れてもう白ではない)に股上の浅いズボン、NONSTYLEの石田だ。
薄っすらと開いた目にはもう何も映っておらず微かに動く渇いた唇だけが
彼が生きて呼吸をしてるというのをかろうじて示している。
「死にたい・・・」
石田がこの言葉をつぶやくのはもう何度目だろう。
目を閉じて世界との交渉を絶ってみる。するともうこのまま解放されるような気がした。
意識が遠のく・・・・。
852 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:12
「・・・だ!石田!!」
自分の名前を呼ぶ声に意識を揺さぶられる。聞き覚えのある懐かしい声。
この地で自分の事を知っている人間なんて限られている。
ゆっくり目を開くとそこには天津の向が立っていた。
「む・・かい・・・さん?」
だんだんと意識が戻り、頭がはっきりしてくる。
石田は腰に隠してあった自分の武器である銃を慌てて向に突きつけ「近寄らんといてください!!」と
怒鳴った。がくがく震える手でしっかり銃を握ったまま「俺・・・もう誰も信じないことにしたんです!
近寄ったら・・・たとえ向さんでも殺しますから!だからもう何も言わず俺の目の前から消えてください。」と
声を裏返らせて石田は叫んだ。
向もさすがに、いきなり石田が銃を突きつけてくると思ってなかったのか驚いた顔をしたあと冷静に
「冷たいな。井上とは違って」と抑揚のない声で言い放った。
【井上】という言葉に石田の眉がかすかに動き、怪訝な顔をする。
「あいつに・・・井上に会ったんですか?」
「んー、おぉ、まあな」
「あいつ何か言うてました?」
「なんか石田と待ち合わせしとったけど石田がこうへんかったから一人で
寂しかった、俺の事だけは信じてくれてると思ってたからつらい、とか言うてたな」
石田は下唇を噛みしめ「そう・・・ですか」とうつむく。
「なんや?石田、井上に会いたいん?」
「えぇ・・そりゃあ、まぁ。でも・・もう井上は・・死・ん」
途切れ途切れつらそうに喋る石田を尻目に、向は何やらカバンをごそごそと漁りだす。
そして「はい、井上」と言って石田の目の前にかつて井上であったものを提示した。
石田は視界が真っ白になりふたたび意識が遠くなるのを感じた。
853 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:13
石田は井上と約束をしていた。
石田も井上もそれぞれ仲良くしていた芸人はいたけど結局「殺し合いの場」で
信用できるほどの人なんていなく気がつけばコンビで目配せしていた。
石田が教室を出るとき井上に紙を渡され、そこには待ち合わせ場所が書かれていた。
石田は井上との約束の地へとむかった。
息を切らし誰かと会わないように焦りながら、ただひたすら走った。
しかし土地勘のない地は石田の方向感覚をくるわせ、すぐ到着するはずだった待ち合わせ場所に
なかなか辿りつけずに彷徨うはめになってしまったのだ。
石田は泣きそうになったがグッとこらえ、見えない敵に怯えながら地図と自分のいる場所を
照らし合わせ目的地を探していた。
石田を悲劇が襲ったのは、そんな時だった。
森を抜け平原を走っていると、石田の足元で『カチッ』と音がした。
なんの音か分からなかったが嫌な予感が全身に走り鳥肌がたつ。
そして次の瞬間、閃光が石田の体をつつんでいた。
「 !!!!!!」
石田の叫びは爆発音にかきけされ、爆風で体が吹っ飛ばされる。
気がつけば石田は地面に伏していた。
「うっうぅ・・・・」
最初、痛みはなかった。痛みさえ感じなかった。
しかしショックで麻痺していた感覚がだんだんと取り戻されてくるとその激痛に石田は転げまわった。
こんな痛みは味わった事ない。全身がちぎれるような痛みだ。
特に右足が燃えているかのように熱く、激痛が襲ってくる。
「ぐ・・ッ・・あぁぁ・・・」
体を動かそうとしても全然動かない。
854 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:15
『なんで俺がこんな目にあわなあかんねん。』
歯をくいしばり、こぶしを強く握る。
そして肘をつき上半身だけなんとか起こす。
白いシャツと白いズボンと白いネクタイ、石田を象徴するそれらは土や泥ですっかり汚れてしまっている。
「痛っ!ぐぅ・・・はぁ・・」
痛みをこらえながら、激痛の酷い足へと目をやる。
「!!?」
ドクドクと全身の血が逆流しているような感覚にとらわれる。
『なんで・・・』
石田は目に映るソレを信じることができない。
『なんで俺の右脚ないねん・・・』
石田の股上の浅いズボンは血で染まり細い右足は長さがたりない。
痛みさえも忘れるほどの恐怖が石田を襲う。
「うわぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」
喉がはちきれんばかりの悲鳴が辺りに響きわたった。
『なんやねん、何がおこってん!?なんで俺の脚ないねん!もう、嫌や!なんやねん、どないなってんねん!!!』
855 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:16
「ひっかかった〜♪ひっかかった〜♪」
混乱した石田をよそに妙にマッタリとした弾んだ声がして、ドシドシという足音が石田に近づいてくる。
「なんや〜、ノンスタかぁ。もっと大物やったら良かったのにぃ〜」
石田の顔を覗き込みながら残念そうな声をあげたのは元西中サーキット(現すずらん改め南海キャンディーズ)の
山崎静代だった。山崎は巨体を揺らしながら「わ〜〜!脚ないやん!血いっぱい出てるしグロぉ」と緊張感のない
喋りを続けている。
石田は激痛と朦朧とする意識に耐えながら『お前の言動のほうがグロいやろ・・』と心の中でツッコミを入れる。
「なー武器ちょうだいやぁ。私の武器、地雷だけやってんやんかぁ〜。自分、何?」
その山崎の言葉で、やっと石田は自分が山崎の仕掛けた地雷を踏んだという事に気付く。
「何?死んだん?生きてるんやったら返事し〜やぁ」
「武器・・ほしいん・か?」
「そう言うてるやん」
「ほんならくれてやるわ」
石田は腰に隠していた小型銃を取り出し山崎にむけて発砲した。
バン!!銃口から煙が立ち上がる。
「痛っ!!」小型銃とはいえ反動で脚に響き激痛が走る、石田は歯をくいしばり何とか耐える。
山崎は「わーー、撃ったぁ。怖ぁ〜〜。今ちょっと顔にかすったやーん。
顔に傷ついたらどうしてくれんのよぉ。別にいいけどさぁ。」と銃を向けられたとは思えない反応で
口を尖らせている。石田が2発目を構えると山崎は「わぁ〜〜殺されるぅ〜〜」とやっぱり
緊張感のないままドシドシと逃げて行った。
「はぁ・・はぁ・・・」
とりあえず助かった(のか?)
さっきまでパニックに陥っていた石田だが緊張感のない山崎との遭遇でずいぶん冷静さを
取り戻すことができた。脚の痛みは酷いが早くこの場を去る必要がありそうだ。
自分の右足をスーツの上着でくるみ激痛に耐えながら体を引きずり移動する。
ナメクジが通った後のように石田が体を引きずった跡には血の道ができる。
856 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:17
血の量は半端じゃない、いつ死んでもおかしくない。地雷を踏んだ時点で死んでいても不思議じゃないのだ。
なんとか人目につかない木陰までやってきて一息つく。
体温が下がってきているのか寒い。意識も何とか自分にとどめているが
気を抜くとそのまま魂ごとどこかに飛んでいきそうだ。
『井上と約束した場所行かな・・・』
そんな状態じゃないことは分かっている、しかし石田の頭をまっ先によぎったのは井上との約束だった。
視界がぼやけ痛みさえ感じなくなっている。真っ白だった衣装は血で真っ赤に染まっている。
『あぁ・・・俺、死ぬんかな・・・』
全身から血の気が引いていくのがわかる。
その時、石田の耳に「ズッズッチャ、ズッズッチャ・・・」という変なリズムが届いてくる。
その音(?)はだんだんと石田に近づいてくる。
『ん?なん・・や?もしかして死ぬってこういうことなん』
かすれていく意識の中でそんな事を考えていると石田の前に見覚えのある小柄でスケッチブックを小脇にかかえた
年齢不詳の男が現れる。
「どうも〜どうも〜どうも〜、もうどー、モード学園!!!!・・いや〜、ラジカセ漫談の
ネゴシックスですけども〜。今日はね、いろいろ教えちゃるから聞いてって!!!
はい、じゃあQ&AってこれP&Gじゃねーかよ!!アホか!お前!!はい、じゃあ最初の質問、ヒーターは
いつ出したらいいんですかっ!!これ!!みんな迷うよね・・・・」
そう、石田の前に現れたのはピン芸人ネゴシックス(根来川 悟)。
突然現れた彼は石田の前で淡々とネタを始める。
857 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:18
「ネゴ?・・なにしてんの?ネゴ??」
朦朧としながら石田が尋ねても「パックマン描いてしまいましたぁ!」とネゴシックスは石田の声なんて
聞こえないかのようにネタを続けるだけである。
「みんなぁ!!気をつけてね!!!どうも、ありがとうございました」ネゴシックスは
ネタが終わると頭を下げた。石田は訳もわからず拍手を送る。
するとネゴシックスは石田に近づいてきた。石田は銃を取ろうとしたが
「いや〜、ね!これねアフターサービスだから!!ね、ね。気にしなくていいYO!
ほんの、真心っ!!!なかなかないよ〜ここまでしてくれる所!!でもね、聞いてる?お兄さん?」
そういうとネゴシックスは石田の脚を水で洗い消毒液をかけ包帯を巻いた。(どうやらネゴシックスに
支給された武器は救急箱のようだった)そして「あ〜ん」とネゴシックスは石田に口を開けさせ
「痛み止めだけんね!!」と言い薬を石田の口に放り込んだ。
「よしっ!!!」ネゴシックスは立ち上がり「スケッチブック漫談のネゴシックスでした!!
ズッズッチャ、ズッズッチャ」と言いながらスケッチブックと救急箱を肩に抱え去っていった。
「ありがとう、ネゴー!!」石田が礼を言うとネゴシックスは後ろを向いたまま手をヒラヒラさせ消えていった。
『いや、かっこええな!!なんやねん・・・あいつ。助かったけど、変な・・奴』
急な展開に石田は呆然としながらも突然現れ突然去る戦場の看護婦ナイチンゲールことネゴシックスのおかげで
なんとか一命を取りとめたのである。そして今に至る。本当は井上の所に行こうと何度も試みたがやはり無理だった。
858 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:19
井上とは友達だった。イキった格好つけで本気でミュージシャンになれると思ってるちょっと痛い奴だったけど
いい奴だった。一緒にストリート漫才を始めてあのコブクロと人気を二分しbaseよしもとの
オーディションを受けるようになった。
最初はお揃いのノンスタTシャツを作って出たりベタな事もした。今、思い返すと恥かしいがあれもいい思い出だ。
楽しくネタをする。それだけを意識して今まで頑張ってきた。
気がつけばそれなりに自分達のスタイル、自分達の足場の確保もできてきていた。
でも井上は友達から相方(ビジネスパートナー)へと変わっていった。
もちろん相方は井上以外考えられないが仕事が絡むと意見がすれ違う事もあって、時に井上が煩わしく感じる事さえあった。
それなのに、こんな状態に陥り井上との約束がこんなに自分にとって糧になるもんだとは思ってもみなかった。
「現金やなぁ・・・人間て」
そんな言葉を呟きながら痛みを堪え24回目の試みの途中で井上の死を放送で知ったのだ。
「井上・・・?嘘・・や・ろ・・・」
石田は泣き虫だ。かなりの泣き虫だ。ちょっとした事で泣いてしまい芸人仲間にもよくからかわれたりもした。
でも【相方の死】には涙は出なかった。なぜだか自分でも分からない。
悲しいとか・・そんなのではなくて空っぽになった、という表現が一番近い気がする。
体が自分ではなくて、ただの器になった・・・そんな感じだった。
目を閉じると井上との思い出が次々湧いて・・・そして消えていった。
859 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:19
もし、俺が地雷なんか踏まんかったら
もし、井上と会えとったら
もし、・・・・・
もし、・・・・・
もう終わってしまってどうすることもできない仮説ばかりが頭をグルグル回る。
もし・・・・だったら、井上は死んでなかったんじゃないのか?
もちろん、そんな事わからない。
だが『俺のせいや!!!』その想いだけが石田の中で波紋のように広がっていく。
石田が悪いわけではない。しかし自分のせいにでもしないと心が壊れてしまいそうだった。
でも、やっぱり涙は出なかった。石田はそんな自分を心底恨んだ。
『相方が死んだのに涙の一つも出えへんなんて・・・俺は・・俺は・・』
今、冷静になって考えてみると相方の死はショックだったけど
こんな世界で死んでしまうっていうのは十分ありえる話で(現に石田も生と死の狭間を彷徨ったわけで)
どこかで覚悟を決めてる自分もいたはずだ。だけどやっぱり井上の死はショックで
それはいつしか石田の生きる意味・頑張る力を井上との約束に託してしまっていたからだという事に気付く。
そこからの石田はもぬけの殻のようだった。物も食さず、水も飲まない。
木陰で放心したまま、ただ時間が過ぎるのに身をまかせる。
「死にたい」何度も呟く言葉。
【生】への執着がまったく感じられず痩せこけ、もともと出ていた頬骨はより強調されていった。
860 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:20
そんな廃人同然の生活を過ごしている時に向がやってきたのだ。
別に死んでも構わなかった。でもそれ以上にもう誰かと関わりを持ちたくなかった。
関わったってどうせこんな世界では皆死ぬのだ。つらい思いはもうしたくない。
「俺の目の前から消えてください」これは石田の切実な願いだった。
しかし、向は去るどころか目の前に信じられないものを提示してきた。
最初ソレがなにだか解らなかった。だって・・・そんな・・・
「ぃ・・のぅ・・・ぇ?」消え入りそうなかすれた声でソレの名前を呼ぶ。
かつて井上であったソレは瞳孔の開いた焦点の合わない目で石田の方を見ている。
口は半開きで何か言いたげである。でも、もうその口が動き石田につっこみを
入れることは恐らく・・いや、絶対にない、二度とない、一生ない。
・・・・涙が出た。泣き虫な石田のこの戦いに参加させられて初めて涙。
脚を失っても相方の死を知ったときも出なかった涙が今、堰を切ったように流れ出す。
「泣き虫やなー、石田は」向がからかうようにニンマリ笑う。
「向さんが・・・井上殺したんですか?」
「おぉー」
「許しませんから・・許しませんからぁぁーー!!!」
石田は小型銃を何発も乱射する。しかし、それでなくても脚への負担が
かかる上に物も食さず水も飲まずのふらふら状態の石田は上手くあてることが出来ない。
(しかも山崎をあんな至近距離でもあてれなかった石田は銃の扱いが下手だ)
「下手くそやなぁ・・・狙いはココやろ?」向は自分のひたいを人差し指でコンコンと指す。
呼吸を乱しながら石田は向を睨みつける。こんな他人を憎いとと思ったのも
こんなに他人を殺したいと思ったのも初めてだ。
スゥ〜〜と息を吐きゆっくり向のひたいに銃口をむける。
バン!!!
渇いた銃声。
しかし「ぐっ・・ぅ・・」と唸ったのは向ではなく石田だった。
脚に走る激痛。向は冷ややかな目で相変わらず石田を見ている。
石田はすかさず2発目を撃とうとする。
861 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:21
しかし・・・・カチャ、カチャ、ガチャ
『弾切れ・・・』絶望感が石田を襲う。
予備の弾はカバンの中に入っているはずだがもう取り出して補充している暇はない。
そうしてる間に向は石田の方に近づいてきた。そして石田が膝にかけていた上着を
剥ぎ取り少し驚いた顔をした後「ふーん、逃げへんし立たへんし変やと思ったけどそういうことか」と
納得の表情を浮かべる。
「とりあえず冥土の土産にコレやるわ」向は井上の頭を石田に渡す。
そして口元を歪ませ「楽になろか」と銃口をピッタリと石田の額に当てた。
石田は井上をじっと見る。涙が再びこみ上げてきて井上の顔がぼやけた。
そして額に突きつけられた銃を見上げる。
その先にある向の感情のない瞳。
『殺される』
石田の腕にブワッと鳥肌が立つ。
「嫌や・・・死にたくない」
感情が意識とは無関係に石田の口からこぼれ落ちた。
この場において生にすがり付く石田を向は哀れむように一瞥した後
「考えてみろや、生きててどうなるん」と物分りの悪い子を諭すような口調で尋ねる。
「でも俺、生きてるんです。ここにいるです!」
「ほんまにそう思てた?一度でも『死にたい』って思わんかった?」
向の言葉に何度も自分の中で呟いた『死にたい』の言葉が今さらのように石田に纏わりついてくる。
「・・・・思いました。それでも生きたいって思うのは傲慢ですか?」
「生きたいんやなくて死ぬのが怖いんやろ?」
「・・・・生きていたいです。」
「みんなが死んでいった世界でも?」
「・・・・。」
「泣くなや。なんも怖いことないて」
「なんでっ・・・なんでなんすか?あんなに・・・優しかったのに。
向さんはあんなに優しかったやないですか!!」
862 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:21
「俺は此処で二度目の誕生を迎えた。自由になれた。特別な存在に・・・」
「ここはゲームの中じゃないんです!向さんは向さんでしかないですよ!いいじゃないですか、それで」
「うるさい!」
「向さんが殺戮を繰り返すのは【死】が怖いからでしょ!!」
「違う!!」
「死ぬんが怖いから人を殺すんや!」
「うるさい!黙れ!!」
パン!!
「ぐわぁぁぁぁーー!!うぅ・・・・」
向は感情をあらわにすると石田の太ももにむかって発砲する。
銃弾は見事に石田の左足の太ももにめり込み石田はその痛みに転げまわる。
「はぁ・・・はぁ・・・うるさい、うるさい」
歯をギシギシといわせながら向は血走った目で石田を睨みつける。
そんな向を負けじと睨み返す石田は「怖いんでしょ?弱いんでしょ?
でも向さんだけちゃいますって、皆そうです。だから認めて受け入れてあげましょうよ!」と
痛みに顔を歪めながら一身に叫ぶ。
「うるさい・・・うるさい!!」
「「パン!」」
向の放った銃弾は石田の右下腹部を貫通する。
しかし向の撃った銃声に重なるようにもう一つ銃声が鳴り響き、背後から飛んできた銃弾が
向の左腕をかすり肉をわずかにもっていく。
「痛っ・・・!!」
向が振り返るとそこには銀色に光る銃口をむけた中岡が立っていた。
「やっと見つけましたよ、向さん。」
「おま・・え、なんで!?」
「向さんを殺しに来ました」中岡は笑顔でさらりと言い放つ。
863 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:23
「て、ことで死んでください」
笑顔を崩さず中岡は2発目を発砲する。銃弾は向の肩に命中し肩の骨を打ち砕く。
「ぐあぁぁぁ!」
向は跳ね飛ばされ転げまわるとヨロヨロと立ち上がり慌てて逃げる。
「逃げれると思ってるんですか?」
中岡はさらに妖艶な笑みを見せると数発続けざまに撃つ。
しかし木陰を縫うように逃げる向になかなか当たらない。
追いかけようとした中岡を「なかぉ・・か・・・待・っ・・て」と消え入りそうな声が呼び止める。
「石田さん!?」
「頼むわ・・・」
向を追いかけて行きたい所だが血だらけの先輩を置いていくわけにもいかない。
たとえもう生きる望みがなかろうが…。
「大丈夫ですよ。ここにいますから、どうしました?」
急所はかろうじて外れているのか苦しそうではあるが石田は何とか息を整え中岡の服をキュっと握ると
「ごめん・・・な・・もぅ・俺・・死ぬから・・・最後に頼んで・・ぇぇか・・?」と力を振り絞り
喉から声を絞り出す。
「はい、なんでも」
「いのぅ・・ぇ・は?」
中岡は壊れやすい物を扱うように井上を拾い上げ石田のもとへと運ぶ。
864 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:24
「いの・・ぅぇ・・・・」
井上を前にして石田は言いたい事がありすぎて言葉に詰まる。
でも、もう言葉なんていらないような気がした。
自分が井上のことを理解しているように井上もきっと自分のことを分かってくれているだろう。
それがコンビであり相方というものなんだと思う。
「なかぉか・・・ごめん・な」
「なんで石田さんが僕に謝るんですか」
「だってさ・・・か・はっ・・・」
微かに笑うと石田は口から大量の血を吐く。
「大丈夫ですか!?もう喋らんほうがいいですよ」
ダラダラと血を流す石田が唐戸と一瞬かぶり中岡は下唇を噛みしめると石田から目をそむける。
「ぁほゃ・・・俺、幸せ・ゃった・・のに・・・・」
石田は木々の隙間から覗く雲ひとつない青い空だけをその瞳に映し涙を目に溜める。
「・・・ぁの頃に・・もどり・た・・・」
865 名前:B9@天津 投稿日:03/10/07 23:24
「石田さん!石田さん!」
全てを言い切らぬうちに石田の息吹は消えた。
もう息をしていない石田の目から一筋の涙が伝い、そして落ちた。
死体になった石田の体を抱え中岡は石田の瞼をそっと下ろす。
手のひらに涙の滴が付着した。
中岡は唇を噛み締めると拳をギュっと握る。
そして立ち上がり向が逃げていった方をきゅっと睨みつける。
地面を見ると血がポタポタと道を作っている。
向の肩口の傷からこぼれた血の跡だ。
それは中岡を導く聖道のようだった。
終わりの鐘の音が近づいてきている事を中岡は感じた。
そして血の跡を辿って歩き出す。
【NONSTYLE 石田死亡】
876 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:19
>>828-834の続き
末高の荷物から見つかった、彼の武器は壁掛け時計だった。
「…時計って。」
呆れたとも哀れむとも取れる、ボソッとした口調で村田は時計を手に呟く。
「壁掛け時計ってのもありえへんけど、何よ、これ。秒針止まってしもとるやん。」
これじゃ時計としてぜんぜん意味ないやん、と続ける村田を、桶田は黙って眺めていた。
「しかも7時ぃて。また中途半端に微妙な時間に揃ってしもて。
こう言うのはせめて12時か3時って決まっとるモンやろ。自分、何がしたいのか良ぉわからんわ。」
思いつくままに次々と言葉を吐き出していた、村田の口がそこで止まる。
彼の視線の先には、大地に横たわる末高の姿。
桶田が放った銃弾の一発が急所を貫き、彼は既に息絶えている。
『成子坂さんの事、小学生の時、TVで見てましたよ!』
彼が興奮気味にそんな事を村田に言っていたのは、一体いつの事だっただろう。
そんな彼は銃器や刃物、そして爆発物といった多様な武器が芸人達に配られる中、
壁掛け時計という外れ武器を引き当てて。
これまでの長い間、一人で。狂う事…実際に彼が狂気に侵されていたかは
彼の死んだ今となっては知りようもないが、村田はそうではないと信じたかった…もなく。
耐えて耐えて生き延びてきた、『ゲーム』から救われるべきだっただろう人物の一人だったのに。
「…気が済んだか?」
相変わらず、桶田の口振りは平淡で。
罪悪感の欠片も感じられないのが、村田としては信じられない。
「先を急ぐぞ。」
877 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:20
「待てや。」
相変わらず片手に壊れた時計を持ったまま、村田は桶田へと呼び掛けた。
「もしも、や。」
「………。」
「もしも、次…また、ホンマは敵意も何もない芸人が俺らの目の前に出てきたら。
そいつが俺らに助けを求めてきたら。お前はその時どないするつもりや?」
言葉を選びながら、ゆっくりと村田は唇と舌を動かす。
「愚問だな。」
ぼそぼそと漏れた村田からの質問に、桶田は即座に答えた。
「いくら策があるとは言え、俺達は人であって神じゃない。
手を差しのべられる人数は自ずと限られてくるし、確実に助けられる人間は…片手の指でも多いぐらいだ。」
「……よぉわからんけど…要するに、殺すんか。」
「仕方ないだろう。アレもこれもと欲張って、当初の目的が果たせないのが一番馬鹿馬鹿しいからな。」
それよりも、先を急ぐぞ。
そう小さく言い残して、早速歩き出していく桶田の背中をようやく村田は振り向いて見やる。
・・・撤回や。こうなったら全部撤回や。
村田の唇が、音を立てずにそう言葉を紡いだ。
お前がおらんと俺は何もできない、そんな気がしたのも。
この『ゲーム』が終わったら、お前ともう一度コンビ組むのもエエなと思った事も。
…お前は、危険や。
お前は『ゲーム』を終わらせるフリをして、芸人を殺しまくっているだけやないか。
今までの奴のように、末高のように、そして……確証はないけど松丘のように。
そうや。お前は、敵や。 俺 ら 芸 人 の、敵や。
878 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:21
一度そうと思い込んでしまったら、もう容易に収拾をつける事は出来ない。
朝方近い最後の闇が、村田の思考をどんどん侵食していく。
お前の敗因は、俺を側に置いた事。
さしずめ、俺に人を殺す所見せて・・・ビビった様を楽しもう・・・そんなトコなんやろけど。
生憎、俺はいつまでも昔の俺やない。
お前と別れて一人になって。色々味わって、俺も変わったンや。
せやから。今の俺は・・・
今の俺はお前かて殺せんねや!
村田は時計をバッグの中にしまうと、ベルトに挟んでいた懐刀にそっと服の上から触れる。
一度固い手触りを確認し、それからゆっくりと先を行く桶田の所作に注意を払いながら
懐刀をベルトから抜いた。
小振りで見た目では頼りない刃物ではあるけれど。人を一人あやめるぐらいの役には立つはず。
鞘から刃を抜き放ち、低く腰だめに構えて。
村田は息を殺して駆け出した。
「…………?」
背後から急に近づいてくる気配に、桶田はふと立ち止まって。
振り向こうとした、その視界の中に小柄で見慣れた影を捉える。
彼がそれが何なのかを理解する間もなく、桶田の懐に入った村田は刃を目前の脇腹に突き刺していた。
879 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:23
「お前・・・。」
「仇討ちや!」
柔らかい手応え。冷たい刃がもたらす灼けるような痛み。
呟く村田の黒い瞳の奥で淡く狂気の光が揺れている。
村田は一度桶田に突き立てた懐刀を抜いた。
途端に傷口から血が滲み出て、桶田の衣服を汚す。
「お前が今まで殺してきた芸人のォ!」
叫びながら村田は再び、桶田に懐刀を突き刺した。
「そしてこれ以上お前に殺させへん為に・・・俺が先に殺ったンねん!」
今の村田の脳裏には、悪を打ち倒す正義の味方という図でも浮かんでいるのだろうか。
強引に桶田を押し倒して馬乗りになると、村田はひたすら遮二無二懐刀で桶田を刺しまくった。
村田の一刺し毎に桶田の血が周囲に飛び散ってゆく。
桶田も何とか村田を沈めようと腕を伸ばすけれど。
生暖かい液体に濡れた手は虚空を滑り、返り血で汚れていく村田へは届かない。
やがて、それが何度目になるのかはもう数えられないけれど。
懐刀を振り下ろそうとした時、血で濡れる村田の手から懐刀が滑って飛んで。
ようやく村田は桶田の上からのろのろと離れた。
一仕事が済んだかのように深く息をつくと、生臭いにおいが鼻につく。
「あは・・・はは・・・・・・殺ったったで・・・・・・」
高揚状態からどんどん素へと戻っていく、その過程で。
酷い脱力感に教われ、村田は呆けたように桶田の側の木の根に腰を下ろした。
そかしそれは腰を下ろすと言うよりも、足が身体を支えきられなくなった様に似ていて。
コトッという微かな音が村田の耳に届いた。
880 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:23
桶田が動き出したのか、と村田は即座に視線をやるけれど、そうではなかったらしい。
村田の傍らに、携帯が一つ転がっていた。
携帯のデザイン、そして付けられているストラップからして、それは村田の物ではない。
地面に落ちたショックで閉じられているべき携帯は僅かに開いていて、液晶が弱々しく光を放っている。
随分前・・・といっても実際は昨日一昨日といったレベルではあるが・・・に急に圏外になって以来
村田は携帯になんて触ってもいなかった。
何だか懐かしい感じを覚えながら、光に吸い寄せられる虫のように村田は携帯へと手を伸ばす。
見れば、液晶の画面は送信メールボックスのままになっていた。
メールの送信先から推察する辺り、この携帯は松丘の物らしい。
赤岡、島田、磯山、野村・・・・・・と、既に死んでしまった芸人達の携帯へメールが送られている。
しかし、一つ村田が気になるのはメールボックスの一番上にある、作成中の未送信メール。
件名は「村田さんへ」。
これだけでも厭な予感が村田の脳裏をよぎるけれど。
思いとは裏腹に、指は止まる事なくなおも携帯を操作する。
「・・・・・・う・・・嘘や、嘘や・・・こんなん、嘘に決まっとるわぁっ!」
メールの本文に目を通しきるまでもなく大声で喚き、村田は携帯を投げ捨てた。
樹木の根っこに命中したそれは、乾いた音を立てて真っ二つに分解される。
881 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:24
まずはこんな形でメッセージを残す事を許して下さい。
僕はこれから死にに行きます。
何でや言うとそれが桶田さんの計画の一つやからです。
桶田さんが言うにはどうしても僕がやらなアカンようなんです。
正直死ぬのは怖いです。死なずに済むならそっちがエエです。
でも僕が死んで誰かが助けられるんやったら我慢してみようと思てます。
これを読んで桶田さんが僕を殺しただとか思わんといて下さい。
あくまでも僕は僕の意志で死にに行くんやから。
それよりもどうか桶田さんと協力して一緒にみんなを助けたって下さい。
桶田さんは本気でみんなを助けるつもりでおらはるし
あの人の計画なら実際みんなの事も助けられるはずや思います。
そして僕らがおった事を忘れないで下さい。お願いします。
その先にも、最初に誤って襲ったりしてすまなかっただとか色々打ち込んであったけれど
そこまで読みとる余裕は村田にはない。
さっきまで懐刀を握っていた村田の手が小刻みに震えだした。
空はうっすらと青みを帯び始めていて。
夜の終わりと新しい・・・そして生き延びていく上で重要になるだろう
一日の始まりを告げる鳥の鳴き声が遠くで響いている。
「・・・どこまで鈍くさいねん、あの阿呆! 空気読めや!」
その一方で悲鳴に似た叫びが村田の口から放たれ、周囲の空気を震わせていた。
882 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:25
ここで松丘に八つ当たりしても意味がない事ぐらい彼自身わかっている。
しかし、もっと少し早くこのメッセージに気づいていれば。
どんなに疑心暗鬼になろうとも、桶田の事を信じていられたかも知れないのに。
最も、疑心暗鬼になっていたあの時は、このメッセージも無理矢理打たされた物だと
考えたかも知れないけれど。
今の村田には、これが松丘の切なる本心だと断言できる気がしていた。
それだからこそ。松丘に、そして自分に怒鳴らないと精神の平静を保てそうもないのだ。
何せ、今さっき、自らの手で桶田を刺し殺してしまったのだから。
「何で・・・何で俺は・・・・・・」
桶田へ襲いかかった時の勢いと興奮はどこへやら。
拳の震えは今や村田の全身に及び、震えを止めようと肩を掴もうとしても、
その手は、服は血で濡れていて。否が応でも更なる震えを呼び起こしてしまう。
「・・・ようやく落ち着いたか、坊主。」
だから、こうして微かに上がった声に。
村田は悲鳴を上げて後ずさるというリアクションを取る事しかできなかった。
「まったく・・・無様な真似を・・・・・・晒してんじゃ・・・ねぇよ。」
掠れた声でぼやきながら、桶田は刺し傷だらけの上半身を起こすと座り、樹の幹にもたれ掛かった。
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・どうした? 幽霊でも見るツラして。まぁ・・・そういや俺が幽霊になったコントもあったっけな。」
言葉のでない村田に向けて桶田が浮かべる笑みはあからさまに痛々しい。
「しっかし・・・痛かったぞ・・・・・・死ぬかと思ったし・・・な。」
「殺す気で・・・刺したからな。でも、何で俺は・・・・・・」
ようやく村田は桶田に告げ、彼のもたれる樹まで歩み寄ると、立ったまま樹に寄りかかった。
883 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:26
「・・・結果はともあれ・・・お前がてめえで選択した行動なんだ。だから・・・・・・もっと胸を張れ。」
「そんなん・・・・・・」
「できなくても、やるんだ。」
そんな事、出来る筈がない。そう言おうとした村田の言葉を桶田は先に遮る。
しかしキッパリと言い放ったせいでだろうか。
桶田は急にむせ返り、口元を押さえた指の隙間から血がこぼれて落ちた。
やはり、彼の負ったダメージは尋常の物ではない。
「・・・・・・・・・・・・!」
日が昇ってきたのに伴って、今までは黒っぽい物としかわからなかった血が
やはり鮮やかな赤だという事を認識させられる。
腹部や胸部を中心に刺されたため、桶田の上半身はすっかり血で汚れていて
流れ広がった血は彼のズボンまでも変色させてしまっていた。
「気にするな・・・。」
そんな事が出来るはずないのだろうけれど、言葉を失う村田に桶田は告げて。
俺の知っている村田渚という男なら・・・こんな時でももっと堂々としている筈だと続けて笑った。
そして桶田は、今までの秘密主義が嘘のように、最後の力を振り絞って喋り続けた。
佐野にこの『ゲーム』の事で相談を受けた事。
考えた結果、『ゲーム』をぶち壊すために佐野と『ゲーム』に参加する事にした事。
計画を進める上で須藤や冨田を利用し、切り捨ててきた事。
その他、彼が黙して語らなかった計画についての話を。
そして、村田はそのいずれをも黙って聞いていた。
口を開く度に力を失っていく桶田の声を、記憶に焼き付けようとしているかのように。
決して涙する事なく、歯を食いしばって。
朝日が、木々の枝の隙間から射し込んでくる。
遠くでは・・・島の中央の山では佐野達が起こした山火事がまだ燃え広がっていた。
884 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:29
「そういや・・・もう・・・・・・これも・・・邪魔だな。」
力無く呟いて、桶田は自らの首に巻き付く首輪に指を掛ける。
そのまま腕が重力に引かれるのに任せて首輪を引っ張ると、首輪はするりと桶田の首から外れた。
「それは・・・。」
カチャリと音を立てて地面に落ちた首輪を見やり、村田は目を丸くする。
「俺の武器の・・・スタンガン・・・使ってな・・・外したンや。」
桶田は虚空を見上げて村田に答えた。
「途中で・・・底ぬけ・・・・・・古坂と小島の死んでるの見つけた・・・その側に・・・ヒントが落ちてたんだ。」
首輪は強引に外そうとしたり、水に濡れたりした時の備えは万全だったけれど。
強力な電圧を加えて内部の回路を破壊してしまえば、あっさりと外す事が出来るのだという。
古坂達が武器として与えられた機械を改造する際に書き残したメモなどからそれに気づいた桶田は
スタンガンを使って確かに首輪を外す事に成功した。
しかし、彼らと同じ轍を踏まないために、かみ終えたガムで金具を止めて。
今までやり過ごしてきたのだと桶田はゆっくりと語った。
「そういや、あいつらは・・・本部の判断で殺されたんやったな。」
火薬や刃物、鈍器と言った類はこの島の芸人達に大量に配られているけれど。
ゲームや漫画ならいざ知らず、電撃を武器にできる人間などいるはずがない。
首輪にそんな欠点があったにせよ、運営側からすれば深刻な問題と取られる事はなかったのだろう。
「・・・・・・・・・・・・。」
村田は息を付いて天を仰ぎ見た。
古坂達と言えば、ライブのエンディングでバナナマンの日村にイチャモンを付け、
舞台上の面々で襲いかかっては日村に返り討ちにされる・・・というプチコントを仕掛けたりして。
必然的にスタッフ側から入る巻きをも無視して伸び伸びと振る舞っていた、その姿が思い起こされる。
・・・そう言えばその日村も、結局死んでしまったんだったか。
見上げた空は青く、村田は鼻の奥がツンとなるのを感じた。
885 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:31
「阿呆やな・・・ホンマ、俺。」
村田は微かに呟く。
みんな、この島で何とかしようと藻掻いていたのに。自分と言えば、桶田にノコノコと付いて行くだけで。
あまつさえ、あの畜産農家で酒盛りをするなどといった馬鹿な真似までしでかして。
「・・・気付けたんなら、次はもう・・・・・・同じ間違いは・・・しない・・・だろ?」
「さぁ、どうやろな。」
力無く答えて、村田は空から桶田へと視線を戻した。
樹に寄りかかっていた桶田の身体は、地面の方へずれてしまっている。
それでも姿勢を正そうとしない辺り、それどころではないと言った所なのだろうか。
桶田の顔色は蒼白で。瞳には力などなく、唇も小刻みに震えているように見えた。
「なぁ。」
村田は桶田へと呼び掛けた。失われつつあるだろう彼の聴覚でも拾えるように、はっきりと声に出して。
「・・・何、だ?」
「なぁ、もし・・・例えば、ここにギターがあって、俺がおって。」
・・・お前は、今度はどっちを選んで持っていく?
そう、村田がおずおずと訊ねると。桶田は微かにその顔に笑みを浮かべたように見えた。
「 。」
何とか掠れがすれに言葉を絞り出し、桶田は一つ深呼吸をする。
そして、目を閉じると。それっきり、彼は何も喋らなくなってしまった。
「・・・・・・阿呆。」
村田は桶田から視線を外し、乾いた言葉を洩らす。
「いや、阿呆は・・・・・・俺やな。」
呟いて、村田はズルズルと滑り落ちるように地面に座り込んだ。
口を閉ざし、俯いて。周囲を風が通り抜ける微かな音を耳に聞く。
空腹も睡魔も彼を避けていったようで、ただ酷い絶望と深い虚脱感だけがそこにある。
村田にはもう何一つ身体を動かす事など出来なかった。
886 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/10/14 12:32
それからどれぐらい時間が経ったのかはわからないけれど。
彼が良く知る声が、慌てた様子で彼と桶田の名を呼ぶまでは。
【桶田敬太郎・元フォークダンスde成子坂 死亡】
|