17 :突然参加再
part2.>>795

突然かけられた声に、田中は一瞬反応が遅れる。
一拍間をおいて松本の声が届くと、田中は慌てて答えた。
「そ、そうですね・・・。あ!僕ちょっとこの辺見てきますわ!!」
そう言うと、田中はこれ幸いとばかりに立ち上がる。
しかしすぐに、松本の声に引き止められた。
「・・・待てや」
「は、とととと!は、はい!?」
勢いよく飛び出そうとしていた田中は、思わず2、3歩たたらを踏んだ。
振り返ると、松本が岩から身を起こしこちらを見ている。
松本はいつになく神妙な顔をしていた。つられて田中も真面目な表情になる。
「まぁ、座れ」
「は、はい・・・」
田中は松本の正面に腰を下ろした。
18 :突然参加再
>>17

しばらく、沈黙が続く。

「どうしはったんですか、松本さん。なにか・・・」
空気の重さに耐え切れず、田中は自分から喋りだす。
しかしそれを遮り、ようやく松本が口を開いた。
「・・・ホンマは、キムが帰ってきたら言おう思てたんやけど・・・・・・」
「な、なんでしょう?」
「これから、どうするかについてや」
松本は、じっと田中の目を見て話し始めた。
「田中、お前はどうしたい?」
「え、僕ですか?僕は・・・・・・」」
19 :突然参加再
>>18


聞かれて田中は口篭もる。
自分はこれから、どうするのか。
正直自分では、具体的には何も考えていなかった。
改めて訊かれると答えることが出来ない。
「僕は・・・松本さんたちについて行こうと思ってます」
田中は、それだけ返した。

「そうか・・・」

松本はふっと目をそらすと、岩陰から見える海の方を見遣った。
「俺もな、いろいろ考えててん」
「いろいろ考えて、そいで・・・・・・。
 結局、どないしたらええかまだよう分からへんねんけども。
 でもな、一つだけ、決めとることがあんねん」
そこで松本は小さく息をついた。
「このまま、普通には終わらしたらん」
20 :突然参加再
>>19

「え・・・と、言うと?」
田中の問いかけに、松本が田中の方を向く。
「このゲームは、ここに折る奴らどんどん殺してって、最後に残ったもん一人が勝ちっちゅーもんやろ。
 さっきから聞いとったら、みんな、どんどん殺していっとるみたいやな。
 結構知っとる名前も挙がってきとる」
「・・・はい」
田中は思い出していた。親しかった先輩、同期の仲間、後輩たちの名前が放送で告げられた、
その時のことを。やるせない思いが込み上げてきて俯く。
悔しさにぐっと両手を握り締めと、伸びた爪が手のひらに当たって痛い。
「せやけど、それでええんかなぁ」
「え・・・?」
田中はぱっと顔を上げる。
「俺らは、何やねん。芸人ちゃうんか?
 芸人が、普通に殺し合いしとって何がおもろいねん。
 そんなんアホでも出来るわ。そんなんちゃうやろ?そんなん、ちゃうねん・・・
 せやから、」
言いながら松本は、再び海に視線を戻していた。

「せやから俺が、
 思っきりおもろくしたるわ」
21 :白雪姫さん@小人いっぱい。
今、死ぬ程真剣にアルチュン見てました(ワラ

前スレ>>764続き



・・・こんな時に限って、誰も、現れない。
福田は、何の宛てもなく森を歩く最中、
小さな遊園地に通りかかった。

どうせ、歩いても向かう所はないのだ。
ならば、もう、歩きたくはない。
頭がぼんやりとして、何も考え付かない今、
どこかで、これからの事をゆっくりと
考えたかった。

福田は遊園地の入り口を塞いでいる
チェーンを力なく、またいだ。
ガチャン、という、乾いた音が、
静まり返った園内に響き渡る。


誰か。
もう、自分を殺してくれ。

福田は、この数時間、
そんな事をぼんやりと思っていた。
22 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>21ケンコバはやっぱ声いいですね。続き。



徳井の仇はとった。
自分のやりたかった事は成し得た。
もう、生きている、理由が無い。
そうは思っても、自分で自分の首を
掻っ切る様な真似が出来るほど、
福田はこの状況を割り切れている訳でもなかった。

「・・・ただの、根性無しや。」

そう、つぶやくと、福田は、並ぶ遊具の上に
へなり、と座り込む。

どさり、どさ。
その振動で落ちたナップザックから
バラバラと荷物が散らばる。
「あっ・・・。」
その光景を前に、福田の動きが止まる。
福田はここに来て初めて、このナップザックが
自分のものでないという事に気付いたのだ。
23 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>22

配給されたナップザックは色形共々、皆どれも同じで、
一目見ただけでは、個々の物は意外と判別がしにくい。
きっと、倉庫から出て行くとき、他の誰かのナップザックと
入れ替わったに違いない。
陣内の物か、コバヤシの物か、はたまた、たむらの物か。
・・・もしかしたら、徳井の物かも知れない。
ほんの僅かな期待を込めつつも、
福田は、荷物をかき集め、落ちたナップザックを拾い上げる。

まず、目に入ったのは、金槌と、釘だった。
「・・・ランディーズ?」
一瞬そう思ったが、そんな、万分の一の確率で
その様な持ちネタの武器が当たるとは考えにくい。

福田は持ち主が判らぬまま、更に、ナップザックを探る。
カッターナイフ、それから水の入ったペットボトル
ボールペン、それに、明らかに生活必需品ではないであろう
ゴチャゴチャとした訳の解らない玩具のような物と紙。
ナップザックのサイドポケットに膨らみを感じ
紐を解くと、中からは、煙草とライターが滑り落ちた。


24 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>23

はなからそんな期待を込めていたわけではないが、
これで、このナップザックの持ち主が
我が相方ではないと言う事がはっきりとした。
ころがる煙草の銘柄は、相方のマルボロでなく、
セブンスターだった。
福田は、足元の煙草を拾い上げる。
「セッタ、って事は・・・コバヤシさんかな?」

この、要らないガラクタだらけのナップザックの
中身から考えても、恐らく、一番妥当な線であろう。

事もあろうに、憎き敵の物と間違えて持ってくるなんて。

福田は、自分の不運を嘆くかのように、がくりと
首をうな垂れた。
やっぱり、駄目だ。
全然、駄目だ。

「・・・ははは。」
間抜けな自分に、急に笑いがこみ上げてくる。
「ははははははははは・・・はぁ。」

福田はひとしきり笑うと、ぼんやりしていた
頭が漸く冴えてきた。
25 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>24

「・・・こんなとこでウダウダしてても、埒あかんわ。」
徳井君を探しに行こう。
せめて、探し出して、花でも手向けてあげたい。
最期まで、やりとげないと。
死ぬ事ばっかり考えていては、きっと、徳井に笑われる。
決意を込めた福田の表情は、疲れてこそいたが、
もう、先ほどの死んだ魚のような、目ではなくなっていた。
さあ、出かけるか。
時間は待ってくれない。
何も武器はないけれど、今なら何とかなる様な気がする。
徳井と再会するまでは、きっと、彼が守ってくれる。
もちろん、それは何の根拠もない自信だけれども。

立ち上がったその時。


・・・あれ?

冷静なった頭に、突然過ぎる一抹の不安。

26 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>25

・・・武器が、入っていない?

おかしい。
コバヤシの口ぶりだと、どうやらコバヤシは
徳井以外にも数人の者を襲って、数々の物を
手に入れている筈だった。
が、このバックには、凶器と成りえるのは
カッターナイフと、金槌のみしか入っていない。
しかし、その金槌には、使った形跡が全く無く、
ほぼ新品に近かった。
カッターナイフも、かなり小型の古い物で、
硬い物を削ろうならば、今にも折れてしまいそうな
もろい刃である。

これだけ・・・?
福田はそんなはずは無い、とカバンの中を再度探る
が、やはりこれといって、凶器になるものは、
ナップザックから出てこない。
菅の話では、徳井はナイフで滅多刺しにされた、と聞いた。
そして、菅の手負いの傷から考えて、
コバヤシは少なくとも銃を持っている筈だった。
だから、自分は、対抗すべく、菅からライフル銃を借りたのだ。

27 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>26

ナイフはまあ、小さい物ならポケットにでも入るだろう。
しかし、カバンの中には銃も見当たらない。
普通に考えて、いつ、誰に襲われるか解らないこの状況下では、
逃亡にも備えて、銃の一つくらいは、直ぐに持ち運べる、
ナップザックに入れておくものである。
例え、銃弾がなくなってしまい、使えなくなったとしても
陣内ならともかく、ある程度頭の回るコバヤシなら、
空になった本体を捨てる様なバカな真似はしない筈だ。
28 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>27
福田が考えを巡らせているその時、背後に何かの気配がした。
その気配に、ゆっくりと、福田は振り返る。
誰も居ない。
でも、眼下に微かに入ったもの。

重なり合うように、横たわる、男女の死体。
その横には、小さなベニヤの板きれ。

福田はそれにゆっくりと、一歩づつ近づく。
距離を経るにつれ、その死体が、
かつみさゆりの2人であることは即座に解った。

が。
これが人間の六感、というものだろうか。
何か、大きなとてつもない、恐ろしい予感にひかれ、
福田は2体の死骸の前を通り過ぎると
まるで何かに惹き付けられるかの如く
側に、ぽとりと落ちているベニヤを拾い上げた。

福田は軽くそれの土を払い落とすと、そっと、板を裏に返した。

「・・あ!」
29 :白雪姫さん@小人いっぱい
>>28

そこには、baseメンバーの名前が、びっしりと
油性マジックで綴られていた。
先輩から順に、何人もの見知った名が書き綴られたその板。
もちろん自分の名前も、徳井の名前も、書き込まれている。
しかし徳井と自分の名前の書き方で、決定的に違ったもの。
それは、
徳井の名前の上にはナイフかなにか、鋭利な物で
幾度も切り付けられた後があるという事。
キンコンの西野の名の上にも同じような傷がついている。
最初、福田は、放送であった、死亡者の名を、
baseメンバーの誰かが一つづつ消していった
板なのだと思った。
しかし、よく見ると、フジワラの2人や、梶原、
他、何人かは上に『死』というマークが
マジックで書き込まれている。

この傷は、死、という意味ではないのか?

そして、その、beseメンバーの名の下には、
後から付け加えたかのように、小さな字で
『番外編・かつみさゆり』と書き込まれていた。
その名の上には、もちろん、例の傷。
30 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>29

福田は、その瞬間、目を見張った。
かつさゆの名の下に、何故か
自分の名前。しかも、名の上には、ハートマーク。
そして、その福田の名の横に、陣内の名と
信じられない言葉が付けたし、綴られていた。


混乱する頭。
解りたくない。
だが、気付いてしまった。
こんな筈はない。
これは幻覚だ。
夢だ。
なんども、自分に言い聞かせた。
でも、どれだけ逃避しても



これがどうやら真実らしい。


31 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>30

これで、全てが、つながった。
頑ななまでに、
「コバヤシは殺していない」と必死で
否定し続けていた陣内。

殺されかけているというのに堂々として、
命乞いすらしなかった小林。

「コバヤシが殺した」と認めた陣内が、
何故かずっとコバヤシに謝り続けていた訳。


これで、不思議だった点が、全て、つながった。


カタン!

福田の手から、ベニヤ板が滑り落ちる
目は、見開かれ、喉が一気に渇ききった。
手は、ガタガタと異常なまでに震え出し、
なによりも、その時の福田の顔は、
紙のように白かった。

32 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>31

福田は、その瞬間、何も考えず、すぐに走った。
荷物も持たず、もの凄い勢いで、走った。
森の中を、草むらを、走って走って。

元来た道を、もの凄い勢いで走り抜ける。
草木で服や体が切れ、血が飛び散る。
しかし、そんな事には気付きもせず、走った。


ああ、どうして自分は気が付かなかったのだ。
どうして、いとも簡単に信じてしまったのだ。

人を積極的に襲うような人間が
抵抗もせずに、殺されるはずがない。

『気にするな、それでええ。』

コバヤシの、最期の声が、頭の中に響きわたる。

あの時、彼は、どんな気持ちだったのだろう。

あの言葉は、陣内一人に向けられたものではなく、
いつか、本当の事を知ってしまった、福田の為にも
投げかけられた言葉だったのだ。


俺は、俺は・・・何もしていない
コバヤシさんを・・・殺した!

33 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>32


福田が去った、園内に、ごおおっ、と風が吹き荒れる。



一つ、ぽつんと残されたベニヤ板には、マジックで
はっきりとこう、綴られていた。


『一石二鳥徳井復讐大作戦実行中・
 福田さん、ガンバレーvv陣内さんガンバレー!』



そして、そのbaseメンバーの名前リストの中には、ただ一人
菅の名前だけが、なかった。



34 :久々カキコ
前スレ>>798の続き

「・・・誰や。」
男の口から低く重い声が漏れる。

「渡辺です!渡辺鐘ですよ!」
渡辺がそう返すと、その男ははゆっくりと顔をこちらへ向けた。
その顔は確かによく知るジュニアだった。
しかし・・・

冷たく沈んだ目。
暗く澱んだ生気のない表情。

渡辺は背筋がゾクッとするのを感じた。
-----この人・・・・生きてんのか・・・?

昔からなじみの男である。
尊敬すべき先輩でありながら、良きライバルだった。
お互いに才能を認めあう心を許せる仲。
こんな時に出会えたらうれしい、はず、なのに・・・。
ジュニアを包む重苦しい空気に押され、渡辺はうごけなくなっていた。


35 :久々カキコ
>>34

「渡辺・・・おまえ・・・」

ジュニアの声に渡辺ははっと我に返り、歩み寄った。
「ど、どないしよってんすか。なんかあったんですか?」
近付いてみると、ジュニアの頭や肩には白く小さな氷の結晶がつもっていた。
濡れたままでいた為、夜の森の空気に冷やされたのだろう。
ジュニアは渡辺に目もあわせず、投げやりに呟いた。
「・・・・何もないわ・・・何もないねん」

その時、渡辺はセイジの名前を告げた放送を思い出した。
この男の兄であり相方でもあるセイジはすでに何者かにより殺されていたのだ。

-----あぁ、そうだった。この人は・・・・。

ふっ、と渡辺の表情から緊張が消えた。

36 :久々カキコ
>>35

渡辺はジュニアの目を覚まそうと、肩に手を置いて静かに語りかけた。
「ここ危ないっすよ。何かないかと思ってうろうろしてたんですけど、ろくなトコやないです。
 すぐそこに山下も居るんですよ。ってお前今さらジャリズムやんのかい!みたいなね。」
渡辺は昔よくやったように、ジュニアに向かって悪ガキっぽくはにかんでみせた。
「一緒に行きましょう、ジュニアさん。昔よく家来たやないですか。」

「・・・もうええねや。」

空ろな目のままそう呟くと、ジュニアの体は糸のきれた操り人形のように崩れおちた。
「!」
渡辺はなんとか抱きとめたが、ジュニアは力なくうなだれたままだった。
肩に寄り掛かる長身でガリガリの男。
渡辺は大阪時代ミナミで一緒に夜遊びした事を思い起こし、懐かしそうに微笑んだ。

37 :久々カキコ
>>36

「大丈夫っすよ。きっと。今までやって来ましたやんか・・・。」

二人の男は夜の森の中をゆっくりと歩き始めた。



 【元ジャリズムコンビから渡辺一時離脱、千原兄弟Jr.と合流】
38 :吟醸生
前スレ >>684 の続き

 一方その頃、宇治原は菅の行方を捜していた。
 あれから街へと向かったものの、そこは略奪と殺戮で大混乱に陥っており、とてもではないが菅を探すどころの話ではなかった。
 街のそばの林の茂みに隠れながら、レーダーのスイッチを入れてみる。閉鎖が迫っているせいだろう、いくつもの点が街の外へ向かって移動していた。
(この中のどれかが菅かもしれん・・・くそ、どれや!?)
 まるで見当がつかない。宇治原は舌打ちしながらレーダーのスイッチを切った。
(こういう時は機械よりも頭で考えるしかないか・・・)

39 :吟醸生
 とはいうものの、菅がどこで何をしているのか、まるで見当がつかない。
(待てよ。もし、オレがあいつやったら、今どうしているやろう・・・?)
 宇治原は考えてみた。
 菅は前日、後藤の銃撃で手を負傷している。傷が癒えるまではなるべく、いや絶対に派手なアクションは起こさない。むしろ、戦闘は避けたいくらいだ。
(案外どこかでじっとしているんとちゃうか・・・?)
 とすると、平原に出るとは考えにくい。身を潜めやすい森か山に逃げ込んだ可能性が高い。途中で隠れ家になるような小屋や洞窟が発見できれば、そこに身を潜めるだろう。
(よっしゃ。とりあえずはその線でいこう。) 
 宇治原は、森の中を捜索しながら通り抜け、山を目指すことにした。
40 :吟醸生
前スレ >>545 の続き

空は、落日の時を迎えつつあった。
島の東側にある山の頂きに立つ男が一人。
男は、手にしていたスピーカーの電源を入れると、大きく息を吸い込んだ。
次の瞬間。


「川島あー――――ッ!!」


藤井隆の声が、島中に轟いた。

41 :吟醸生
「麒麟の川島!!お前よ!聞いてる?田村は私が預かったわ。返して欲しければ明日の夜、森の奥にある遊園地にいらっしゃい!!来なかったら相方の命はないわよ!」

 藤井は一呼吸置くと、さらにこう続けた。

「それから野次馬は容赦なく殺すわよ!命が惜しければ遊園地には近づかないこと!いいわね!」

 藤井はスピーカーを地面に置き、カバンの中に入れていた手書きのビラの束を空に向かって投げ捨てた。ビラには、たった今藤井が叫んだことと、同じ内容が記されていた。
 たちまち風に乗り、島中に散らばっていくビラ。その光景を眺めながら、藤井はで唇をなめた。
「準備完了♪いよいよね、川島・・・・・・」


 狂気に満ちた決戦の火蓋が切られた――――

42 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>33一応キリ番。続き


「はあっ・・・、はああっ・・・っ。」
福田が漸く、元の倉庫がある丘に辿り着いたのは、
時計の針が、丁度、午前10時を切った頃だった。

何時間も走り続け、足は、感覚を無くしている。
息をする度に、ヒュー、ヒュー、と喉や肺に
冷たい感覚が残り、気分が悪い。
酸素を欲した呼吸器官が、空気をさかんに吸入する為か、
喉が異常に渇ききり、粘膜と粘膜が引っ付いて
苦しくて。
それでも、福田は足を休めなかった。
よろよろと、しかし、着実に一歩づつ倉庫に向かい
地を蹴り、足を進める。

「はあ・・・っ、はあっ・・・どこ・・っ?」
とうとう、目的地に辿り着いた福田は、ぐるりと
倉庫内を展望する。
しかし、そこには既に人の姿はなく、
冷たい地面に昨日の惨劇を物語るかのような
生々しい血痕だけが残されていた。

43 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>42うわ!42番!続き


とりあえず福田は、そこで一旦乱れた呼吸を整える。
「・・・っ・・・、遠くには・・・行ってないよなっ・・・」
異常な喉の渇きに、吐き気さえしてくる。
しかし福田には、ゆっくり休む暇などなかった。
福田はまだ酸素が行き届かずに、ふらつく脳を
必死で回転させた。

最期に見た、陣内は、呆然としていて、
とても動ける様な状態ではなかった。
陣内があんな状態である限り、
まだそんな遠くには行っていない、
いや、行く事が出来ないのは確かであろう。

ならば、一体何処に。

ふ、と視線を、窓の外の緩やかな谷へと送る。
小さな、煙が谷の底で上がっている。
それはモクリ、モクリ、と上がっては、風に紛れて、
消えてしまいそうな、頼りのないもので、
人目に付きにくくはあったが、
この倉庫の位置からは、簡単に確認できた。

44 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>43

急いで、福田は、倉庫の外へと飛び出すと、
建物の反対側に回り込み、谷を降る。
長い草に足をとられ、転びそうになりながらも、
その斜面を一気に駆け下りる。
しかし、先ほどまで筋肉を酷使していた為だろうか。
濡れた草に足が滑ってしまい、
福田は削れた急斜面をもの凄い勢いで
転がり落ちる。
「・・・った・・・。」
しかし、その急な坂を降りてみると
唐突に視界が開け、福田の目には焼却炉が飛び込んできた。
「そうか、火葬しようと・・・」
ならば、陣内達はまだ
ここに居るかも知れない。

福田は、焼却炉に向かい、走った。
走って、走った。
45 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>44

会って何を言おうか、
どうすればいいのか。

殺される、かもしれない。
でも、それでも良かった。

許されないのは解っている。
死んでも、きっと償いきれない。
それでも、謝らないと
絶対に、謝らないと。


コバヤシに、
陣内に、
たむらに、

そして、徳井にも。

46 :白雪姫さん@小人いっぱい。
焼却炉の近くに人影が見えた。
福田はそれを目にして全速力で駆け寄る。
たむらだ。
焼却炉の前には、たむらが、
蹲るように座っている。
「ったむらさん・・・!!」
呼びながらも、福田は最期の20mもない距離を
一気に走りぬく。
たむらは、気付いていないのか、振り返らない。

漸く、焼却炉の目の前まで辿り着いた福田が、
たむらの肩を、がしっと、掴み、我が方向に向かせ、叫んだ。
「たむらさん!おれ・・・おれえっ!」

ふらり。

同時に、たむらの体が揺れた。
思わず福田は、その体を支えた。
「!!!」
どさり、と倒れこんできた、たむらの胸と腹は、
大量の血で、真っ赤に染められていた。
「たっ・・・たむらさんっ!!!!」
突然の出来事に思わず福田は、悲鳴をあげた。
47 :吟醸生
>>41 の続き

 川島の耳に、どこからか声が聞こえた。

(タムラ・・・・・・・・・?
アイカタ・・・・・・・・・・・・?)

 川島は激しく身を震わせた。
 頭の中を、2つの言葉が幾度となく反芻する。
 胸が、しめつけられるように痛い。
 
「ウオーーーーーー!」
 川島は、持っていたアーミーナイフで、周囲を狂ったように切りつけた。
 タムラ。アイカタ。俺にとって大事なもの。
 しかしいくら考えても、頭の中に”それ”の映像が浮かんでこない。

48 :吟醸生
「明日の夜・・・・・・遊園地・・・・・・・」

 川島は、よろよろと歩き出した。
 何故かは分からない。しかし、明日の夜はどうしても遊園地に行かなければならない。行かなければ――
 やがて日が沈み、闇が島を侵食し始めた―――

49 :白雪姫さん@小人いっぱい。
>>46吟醸生さん、何だか交互でスミマセン。
   こっちの田村はタムケンです。続き



たむらの体は小さく、カタカタと、震えていた。
目を、ぎゅっと閉ざし、痛みに耐えるかのように
苦悶の表情を浮かべている。
「・・・たむらさ・・・。」
福田の震えたその声にうな垂れていた
たむらはピクリと反応し、薄く、瞼を開いた。
「お・・ま、ぐふっ・・」
喋りかけて、たむらは、その口から血を吐いた。
げほげほと咳き込む、たむらの口からは、
真っ赤な血が、何度も飛び散り、
福田の膝を濡らす。
福田は、泣きそうだった。
手も、足も、体中が震えて、声すら、満足に出せない、と。

ガシリ!

たむらの手が、ブルブルと、わななきながら、
しかし、もの凄い力で、福田の襟首を掴んだ。

50 :白雪姫さん@小人いっぱい。

「お前っの・・・せいや・・・!」
たむらは、体をわなわなと震わせて
搾り出すように、低く、くぐもった声を発した。
憎しみがこもった、地を、這うような声。
たむらはブルブルと、震える手で、更に
福田の体を、もの凄い握力でガシリと掴みあげた。
「っつ・・・」
普段のたむらからは想像出来ないほどの、
憎悪に満ちた、形相。
そして、血走った、たむらの両の目じりからは、
ボロボロと、大粒の涙が幾筋も零れ落ちた。
「全っ部・・・何もか、も・・・っお前のせえやぁあ!!」
そう叫ぶと、たむらは、近くに落ちていた大きな石を拾い上げ、
福田の頭めがけて殴りかかった。

福田はそれを避けなかった。
もう、ここに来るまでに自分は覚悟を決めてきたのだ。
ギュッと目を閉じ、
福田は、石が自分の頭を砕くのを待った。

51 :書き物屋
前スレ>684よ菅の真後ろを歩く高井が、菅の行動を見逃すはずが無かった。
ポケットから取り出され、手に握られるその黒い影。
森は薄暗くあまりはっきりと見て取れなかったが、
明らかに殺意を持って向けられるそれに、自分の目を疑った。
一番前を歩く中川は全く気がついていない。
今なら、まだ間に合う。
高井は手にしていたコルトを菅に向ける。

菅も高井の行動を見ていなかった訳ではなかった。
やはり、狙ったとおりの行動に出た。

(かかりましたね。高井さん。)

あえて気付かないふりをして顔を伏せ、菅はにやりと笑う。
タイミングは今しかない。
高井が引き鉄に指をかけ引く寸前に行動を起こす。

菅の心の闇など知らないまま。
震える高井の指が、引き鉄を…手前へと…引いた。
52 :書き物屋
「危ない!」

菅は無理やり中川の服をつかみ横へ突き飛ばす。
そして直ぐに森の静寂の中に響きわたる銃声。
「わぁっ!菅、お前……」
急に突き飛ばされ、中川は藪の中へと倒れこむ。
藪がクッションとなり、大した衝撃はなかった。
「いたたた…菅〜何やっとんねん〜…」
中川は大げさに頬をさすりながら、藪の立ち上がる。
だが、菅はいたって深刻な顔のまま残酷な事実を伝える。

「高井さんが中川さんの事狙おうとしてたから…
 俺…助けなくちゃって思って……すいませんでした。」
菅は何度も中川に頭を下げた。
「…お前、本気か?」
嘘だと思った。いや、嘘だと思いたかったのに。
中川には高井が自分を狙っていた事が信じられなかった。
だけど、一度沸いた疑惑の種は確実に心の中に根付いてゆく。

53 :書き物屋
「いや、そんな事ないって、逆に菅がお前を…」
いつもの中川なら、あまり深く考えずに話を流してしまう。
しかし、今は場所が違う。
こんな状況下の中、一度疑われたという事実が、高井の心を深くえぐる。
「俺が、中川さんのこと殺したいとか思ってるわけないじゃないですか。」
今にも泣き出しそうな瞳で中川を見る菅。
その目に嘘は一つも感じられなかった。
「菅がそんなこと、思うわけないやん…。俺らの後輩やで?」
「中川…お前、騙されんなや!!」
流した涙を指で拭い、中川の後ろに隠れまた嗚咽をあげる。
「もう、いいです。俺のことなんて信用してもらえへんで当たり前ですよね。
 こんな時に…でも俺は…二人の事信用してたから今こうやってついて来たんですよ?」

「高井君、もうええわ。その手に持ってるピストルがまだこっち向いてるのは何でや?
 しかも、一回撃ったんやろ?いつか自分も、俺を殺そうと狙ってたんやろ?
 そりゃ、そうやわなぁ。ここで勝ち残るのは1人やから。
 誰だって、自分が生き残りたいわなぁ…。」
54 :書き物屋
何時も温厚そうに笑う中川の初めて見せた冷たい、目。
自分に対して見せたのは初めてだった。
長い間コンビを組み、信頼も十分築いて来た筈なのに。
中川の冷たい目が、その積み重ねてきた時間を打ち砕く。

「違う…俺のこと信用できへんのか?
 何年も一緒にコンビ組んでるのに、信用してくれへんのか?」
「この状況下において、人を信用する事が、
 どれだけ愚かな事か知っててそんな事言うんか!」

ずっと中川を信用してついてきた高井は中川の言葉に
ショックを隠しきれないでいた。
握られたコルトが小刻みに震える。

「菅!お前が…お前がおらんかったら!!」

ガタガタと震える手で高井は菅に銃口を向ける。
震えて上手く狙いが定まらない。

………だけど。
銃声が高井の方ではなく、別の場所でおこる。
そして…同時にその場に崩れ落ちる高井。

55 :書き物屋
「ッ……中…川…」

高井の目には銃口を自分に向けた中川が映っていた。
その光景が高井には信じられなかった。
ごちゃごちゃになる頭の中。
…でも。中川が自分を撃ったという事は覆しようの無い事実だった。

 信じていたのに。
 ずっと、信じていたのに。
 何があっても、お前なら裏切らないと信じていたのに。

何度も、そう高井の頭の中で繰り返される。言葉。

「ごめんな。俺、もうお前の事、
 信用できへんようになるかもしれへん。
 そんな事になる前に、俺の中のお前との思い出、
 キレイなままで終わらせたかってん…。」

相方を、この手にかけてしまった。
ただ、その事実だけが中川の心に重く圧し掛かる。
多分、この事は一生心を縛る枷に…なる。
56 :白雪姫さん@小人いっぱい。
が、
しばらくしても、石が頭を直撃する気配はなく、
福田は恐る恐る、瞑っていた目を開けた。

そこには、殴る一歩手前に、
自分の目の前で息絶えてしまった、
たむらの姿があった。
たむらの、顔は、先ほどの、苦悶の表情からは、
想像もつかないほど穏やかなものになっている。

「たむらさん・・・何で・・・。」
一気に力の抜けた、福田の目から
涙が一筋零れ落ちる。
コバヤシを殺してしまった上、
たむらまでもが、自分の目の前で、
自分を恨みながら、死んでいった。
訳が解らなかった。
一体、何が、どうなって、こうなったのか。
陣内の姿も、見当たらない。

でも、一つだけ解った事は、
自分のしてしまった事の、重さ。


57 :書き物屋
「中川さん……」
「菅、いこか。あいつの苦しんでる姿…俺見られへん…。」
苦しむ高井から目を逸らし、中川は高井に背を向けた。
だが、菅は振り返ることは無かった。
「…中川さん、真実から目を逸らしちゃ駄目ですよ。
 高井さん、苦しんでるの中川さんのせいでしょ?」
「菅?」
「コンビだったら、苦しみも分かち合わなくちゃ…ね。」
菅は口端を大きく歪める。
中川の背中に、衝撃と鈍い痛みが何度も走った。
「もうちょっと、シナリオに一捻り欲しかったんやけど、
 やっぱり、二人じゃ役不足でしたね〜。」
手にしたバタフライナイフを中川の背中から抜き取り菅は笑う。

「殺すか殺されるかしか答えがないこの時に、
 他人を一度でも信用したあんたが悪いんですよ。中川さん。」

ナイフを何度も振り、付着した血を払う。
「…じゃあ、今までありがとうございました。…先輩。」
倒れこんだ二人に、菅は邪気のない笑顔で礼を告げた。
だけど、その感謝の気持ちだけは嘘ではなく本当の気持ち…だった。

58 :白雪姫さん@小人いっぱい。
『全っ部・・・何もか、も・・・っお前のせえやぁあ!!』
先程のたむらの悲痛な叫び声が、頭の中に蘇る。

「・・・ごめんなさいっ・・・。ごめんなさいぃ・・・
 たむらさん、っ・・・ごめんなさい・・・」

福田は、あの時の陣内の様に、
たむらに何度も何度も謝った。

たむらの体を抱きしめ、壊れたラジカセの如く
何度も何度も謝った。
何度謝っても、足りない。
声が枯れるまで、謝っても許されない。

こんな事をしても無駄なんて事は、解っている。
でも、今の自分には、これしか出来ない。
こんな事ぐらいしか出来ない。

福田は、その日、日が暮れるまで、
その体制で、たむらに謝り続けた。



【たむら けんじ  死亡】



59 :書き物屋
レーダーに映る3つの光。もしかしたら…と、
宇治原は期待と不安を抱きつつ森を進む。
街の方面へ行ったものの、肝心の菅の姿を見つけることは出来ず、
また来た道をレーダーを頼りに引き返してきたところであった。

すぐ近くで聞こえる数発の銃声。嫌な予感に胸を痛める。
これ以上もう誰も傷つくのは耐えられない。
その気持ちが、疲労しきっている宇治原の足を前へと進めた。
だが、目の前の藪の中に広がった光景に宇治原は足を止める。

「高井…さん……中川…さん…」
唖然となる宇治原の目の前に倒れているのは
先輩であるランディーズ二人だった。
辺りを見回し見かけたことのある後姿を見る。
あの、後姿は…間違えない。…菅だ。
だが、今は側にいる傷ついた二人を置いては行けない。
倒れている二人は互いに傷を負い、酷く出血している。
いつも、後輩である自分を支えてくれたリーダーの高井。
いつも、みんなを和ませる存在だった中川。
二人からはその雰囲気が消えていた。
60 :書き物屋
それでも、二人は宇治原に笑顔を見せる。
後輩である宇治原に余計な気を使わせまいとしているのか…。
「…宇治原……ごめん……なぁ。もっと早くお前に会えれば…。」
「高井さん、もう…それ以上喋らんといてください…」
「うーじーはーらー…ヒーローの…登場遅すぎんで…。」
「中川さんも……もう…」
二人の間で立ち尽くす宇治原。
目の前にいる人間を救う事が出来ない自分。
ここでも、自分の無力さを思い知らされた。
「…宇治原、早く菅を…」
「で、でも…俺二人を置いてなんて…」
「アホ。宇治原。……空気読めや。」
「もっと、お前アドリブ…きかせや…。なあ。」
「まだ、今なら、間に、あう…から。」
立ち尽くす宇治原を促す二人。
宇治原はぎゅっと目を瞑り、菅の逃走した方向へ駆けていく。
わかっていた。二人はもう助からないと。
だから、最後まで後輩として、同じユニットの仲間として。
…側に居たかったのに。
こんな形での、永遠の別れは絶対に嫌だったのに…。
涙がとめどなく溢れてきた。今の宇治原にはそれを止める術がなかった。
61 :書き物屋
宇治原が走り去ったのを確認した高井はようやく安堵の表情を浮かべる。

「なぁ…たーちん…………俺ら、こんな事なったけど
 …友達。やんなぁ…。最後の最後まで、こんな一緒やなんて。
 テレビ的には、凄い……おいしいやん。」

高井が中川のあだ名を呼ぶ。
いつしかいい年をした男同士があだ名で呼ぶのは恥ずかしいから…
と呼ぶのを止めてずっと呼べなかったその名前。
何年ぶりかはわからなかった。
コンビを組んだ時の初々しい気持ち。そして、初舞台の時の気持ち。
初めてコンクールで最優秀賞をとった事。
初めてテレビでレギュラーを貰った事。
大道芸の修行の為に見知らぬ異国を二人でまわった事。
コンビを組んだ何年もの時間の記憶が蘇る。

しかし、これ以上二人の時間が流れる事は永遠にない。
止まったままの時間。全てが終わりになる…。
それでも良かった。
二人で一緒に最期を共にする事が出来る。
ただそれだけで、なにも、怖くない。
二人…一緒だから。死ぬ事も、怖くない。

62 :書き物屋
「オイシイ…な。最後まで、お笑い芸人貫き通せて、
 俺も、凄い…嬉しいわ。あと、ごめん…なぁ…
 お前の事、最後の最後で裏切ってもた…。」
「……最後やから、許したるわ……たーちん。貸し、一つ。な。」
「わかった。じゃあ最後に仲直りの握手…しよか?」
すぐ側に倒れる高井に中川は手を差し伸べる。
「…うん。たーちん、俺とコンビ組んでくれて、ありがと…な。」
答えるように中川に差し伸べた高井の手が、
その願いもかなわぬまま、ぱたりと地面に落ちた。
「……何や、高井君…自分、もう死ぬんか?まだカメラまわっとんで…?
 お前も、お笑い芸人…やろ?エンディングまでは、笑顔で映ろうや…。…な?」

 死ぬ事は怖くないんやで?お前も一緒やからな。
 でもな、俺をおいて先に行かんといてな。
 俺、めっちゃ寂しいやん…。
 寂しがり屋のおっさんなんて滑稽やろ?
 でも、もうすぐ、追いつくから。
 これで、俺もお前も寂しくないんやで…。

63 :書き物屋
言葉は声にならず、風の中へと消えて行く。
中川の言葉がこれ以上続く事はなかった。

再び訪れた静寂の中。

使い慣れた高井の釘が、
主を失い土の上で寂しそうに…光っていた。

【ランディーズ 高井・中川 死亡】







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