11 :書いていいですか :02/03/22 00:46 
ありがとうございます。がんばります…

前スレ>>807の続き

「無礼講やったら、後輩の命令聞いて下さい!!」
陣内は泣き顔になっていた。
拳銃を握る竹若は、そのままゆっくりたちあがる。
「俺な、木村だけは殺したくなかってん。だから、これ、
 木村に教えてなかった。脅されたフリ、しとった」

「陣内!川島が来る!早く!」
松口の叫ぶ声。

「…3人でおったんか、気付かへんかったわ」
「そんなんいいです!はよ行きましょ!!」
「木村が死んだ俺なんか、生きててもしゃあない」
「え…」

「川島は俺がとりあえず止めたる、だから逃げ」

12 :書いていいですか :02/03/22 00:48 
>>11

「竹若さん!!」

「相方の嫁はんにも、申し訳たたへんやろ?こうでもせな」
「いやや!いやや!もう誰も死なんとってよ!!」
陣内は泣きじゃくった。
その間も、川島はゆっくり4人に近づいてるようで。
ハリガネの二人も、二人を見殺しに出来るはずもなく。

「コバ死んだとき、お前一緒におったんか」
竹若の質問に少しだけ頷く陣内。
「じゃあ尚更生きなあかん。コバに守ってもらったんやろ」
何故ここまで竹若は自分の状況がわかるのだろう。
察しがいいからだろうか、自分が天ボケだからだろうか。
「俺が殺したんです…」
「嘘やな、陣内は嘘下手や。」
そう言うと竹若は陣内を、ハリガネのいる方向へ押した。

こんなに自分を分かってくれる先輩がいた。
頭がいいだけじゃない、自分のことを好きでいてくれただろう先輩がいた。
どうして一緒に仕事をしていて気付かなかったんだろう。
こんな状況で気付いてしまった。情けなすぎやしないか…。

13 :書いていいですか :02/03/22 00:50 
>>12

「じゃあ、生きて帰って、俺の遺体、見ること出来たら」
「…え?」
「またパーマ当てといて。みんなキショイ言うけど気にいってんねんから」
「いやや」
「その仕事するために、お前は、生き」

そこまで言いきると、山林を走って下って行った。
―川島がいるだろう方向へ、自ら。

「いやや!いやや竹若さん!!」

14 :書いていいですか :02/03/22 00:51 
>>14

ハリガネの二人が陣内の手を引いて逆の方向に走った。

「何でやねん、なぁ、何で竹若さん死ななあかんの?!」
二人は黙ったままだった。
「なぁ」
「…」
「なぁ!」
「…」
「お前ら薄情やわ!!」

自分でも思ってもみなかった言葉。
松口と大上が悪かったんじゃない。悪いわけない。
「陣内、このゲームで生き残る為には」
「何やねん!」
「自分以外の人間が全員死ぬしかない」
「他に方法探そうやぁ!」
「落ちつけ陣内…竹若さんと木村さんと、コバに貰った命大事にせえ」

大上は陣内の顔を振り返る。
陣内はそのときはっとした。
大上だって悲しい。松口だって悲しい。
その証拠に二人共、泣いていた。

それから陣内は黙り込み、静かに、二人に手を引かれ走った。



【 バッファロー吾郎・木村死亡 】
18 :コテハン無し@お腹いっぱい。 :02/03/22 16:31 
前スレ>617続き。不躾ながら、書かせて戴きます

後ろは振り返らずに。
ひとり砂浜を離れ、暗がり始めた空を見つめた。
チカチカと星が瞬く。
風に乗って流れる雲に、月が見え隠れした。
何のことない、普通の景色。
だが、どこか物悲しく感じるのは何故だろう。
人は死ぬと、星になるという。
この景色の中には、何人の知り合いがいるのだろうか。
少し歩き、丁度いいくらいの大きさの岩に座った。
名倉は思い、考えた。

確かにこの「ゲーム」が始まった頃は、何の情も無く他人を殺した。沢山。
自分でも馬鹿だったと思う。
だって「恐かった」んや。
自分がいつ殺されるかわかったもんやない。
なら、殺される前に殺すしかないんや。
そう思っとった。
しかし間違いには、早く気付かなアカンな。
こんなにも命が尊いとは。
なくなったモンはもう戻ってこん。

こんなにも心が痛いなんて。
19 :コテハン無し@お腹いっぱい。 :02/03/22 16:32 
>>18

一体何人の人間が、悲しい、苦しい思いをしたんやろか。
この状況、この場所では、甘い考えであるとは思う。
でも俺らは、普通の人間や。
戦争とかテロとか、そーいったコトに縁の無かった、日本に住んどる普通の人間や。
この間まで、カメラの前で台本通りの仕事をしとった、「芸人」という生き方を選んだ人間や。

こんなん違う。

こんな事をする為に東京出て来たんとちゃう。
生きる為に人を殺し、大切な仲間を失い、命を奪い合う醜い戦いをする為に生まれてきたんちゃう。

こんな事考えた奴は誰や。
俺ら芸人の人生を無茶苦茶にしくさって。

…何や知らんがムカついてきおった。

俺は、特に生き残る気もないんや。
だったら、ウップンくらい晴らしてもええよな。

「アカンかな?健、泰造…」

…総元締めは誰や?

名倉は、本部を探し始めた。

チカチカと星が瞬く。
風に乗って流れる雲に、月が見え隠れした。
何のことない、普通の景色。
だが、自分勝手に輝く星を見ていると、心が顕れる気がするのは何故だろう。
21 :書いていいですか :02/03/22 19:51 
バッファロー竹若の続き。ちょっとだけ。


「さ、カッコエエことゆうたけど、どうしよかな…なぁ木村?」
竹若はそう呟き、自分の手の中にある拳銃を見た。

竹若は不思議と、殺したことに罪悪感を感じなかった。
殺人が楽しいというわけではない。
ただ、木村もきっと、この芸人の中なら、竹若に殺されたかったのでは無いか
という気持ちがあったからだ。
それはエゴだったかもしれない。けれど確かめる術はもう、無い。

木村と一緒に何度も舞台に立った。楽しかった。
フジワラやナイナイ、雨上がり達と一緒にやった天然素材も楽しかった。
思い残すことはない。

心の中でどうにか区切りをつけた。
目の前には、狂人と化した川島がいた。

竹若はしっかりと拳銃を握り締めた。
木村を撃つ為の一発、自分を撃つ為の一発(目的は急遽変更されたが)の二発。
残り、たった一発しか入っていない拳銃を。

「オイ、川島、こっちや」


22 :通りすがればいいじゃない :02/03/22 22:11 
>前スレから。お久しぶりでございます。

加藤は当てもなく彷徨っていた。

濱口を追い詰めて、復讐を遂げるべきか。
優勝して生きて帰るべきか。
あるいは適当な崖から飛び降りてしまうべきか。
あれやこれやと考えを巡らせていると、足元の障害物に気づかずに蹴つまづいてしまった。

足元を見れば、死体が転がっていた。ご丁寧にもダウンジャケットを被せられている。
顔も覆い隠されていたが、加藤にはそれが誰の死体かすぐに分かったのだが、
それを分かった上で死体のわき腹を軽く蹴り上げた。
「チッ、邪魔だな・・・」
ダウンジャケットがばさりと落ちて顔が露になった。
真っ青な顔をした、相方の山本であった。
23 :通りすがればいいじゃない :02/03/22 22:14 
>22

加藤は相方にすがりつき泣くこともなく、ダウンジャケットを再び被せてやることもしなかった。
まるで汚いものでも見るかのように、立ち尽くしたまま山本の死体を見下していた。
「なに寝てやがる、このブタが・・・」
ため息混じりにそれだけ言うと、加藤はその場を後にしようとした。
ところが、どういうわけか急に苛立ちを覚えた。
恥ずかしい過去を晒されたような、胸がムカつく苛立ちだった。

「クソがっ!何だオラ!寝てんじゃねえぞ!オラァ!!」
力いっぱい罵声を浴びせながら、山本のぼってりとした腹を何度も蹴りつけた。
普段ならば山本が飛び掛ってきて、その辺の斜面から二人で絡み合いながら転がり落ちるところだが、
今日の山本はぐったりしたまま動こうとしない。
それが余計に加藤を苛立たせ、蹴りを入れる足に力がこもった。
加藤の全身を不快感が襲う。いくら山本に八つ当たりしても、不快感は治まらなかった。

「先にいって待ってろ、山本」

肩で息をしながら、加藤はその場を後にした。
24 :新参者@お腹いっぱい。 :02/03/23 00:30 
 太田の死を放送で聞いた長井は、複雑な気持ちであった。
 一緒に仕事をやってきた仲間。俺は爆笑の腰巾着、と
自虐的なことを言って笑っていたのはついこの間のこと。
 しかし―もう、何を言っても無駄なのだ。
 長井が悲しんでも泣いても、太田は戻ってこない。
 悲しむ暇があったら、―歩を進めるべきだ。
 死者のことを考えている心の余裕は生まれることはなかった。
 まあ、この状況を見たら当たり前のことだろうが。誰しも。
 ともかく、生き残るしかない。

 ―何のために?
 
 答えは見付からずにいた。 
25 :新参者@お腹いっぱい。 :02/03/23 00:37 
>>24の続き

 長井はふと呟いた。
「そういや谷井たちはどうしてっかな…まだ名前
呼ばれてねえみたいだけど」
 自分の命の恩人を思い出していた。
 青木に刺された傷を手当てし、武器まで残していった
オッペケコンビのことを…。
 「今ごろ赤壁の戦いの巻で戦ってるかもなあ」

 ちょっとは余裕あったんだな的な長井であった。

26 :書いていいですか :02/03/23 01:28 
>>14の続き

「base芸人、相当狂ってもうたゆーことやな」
大上は木村のことがあり、再確認してしまった事実を口にする。

今3人は大通りの見える深い茂みにいる。
その大通りが、久しぶりに見せた普通の街中の風景であり、
しかし車は勿論人さえ歩いていない現状を見せ付けられ、複雑になった。

「菅に川島に…木村さん…きっと、他にも」
「みんな殆ど死んでもうたな」
松口が、みんなを疑いたくないかのように大上の言葉を遮る。

「川島を倒すことが先決ちゃうか?」
松口が言う。
「いや、正直、無理やと思う」
大上は相方の目を見て、言った。
「じゃあどうしたらええねん!俺ら、遅かれ早かれ死ぬっちゅうことやんか!」
「ダイレクトに言うな、アホ。」

陣内は不思議だった。
この状況では、松口の反応が普通だろう。
なのに、大上は如何なる時でも落ちついている。
自分も何度も取り乱した。
なのに大上は、少なくとも自分と合流してからは全く取り乱さなかった。

大上には何か策がある、のか…?
27 :書いていいですか :02/03/23 01:29 
>>26

「何やねん陣内、見すぎ」
余裕のある相変わらずのツッコミ。
「なぁ大上」
「何や」
「お前、なんでそんなに…落ちついてられるんや?」
まっすぐな陣内は、そう、ストレートに聞くしか出来なかった。
同時に自分がビビっていることを証明してしまう言葉だったけど、それでも。
大上は、自分の鞄をあさりだした。
そして一つの黒い塊を取り出す。

「何やねんそれ?」
大上の大きな手と丁度同じ大きさの、どこか見たことのある形。
「…トランシーバー?」
「そうっぽい」
28 :書いていいですか :02/03/23 01:30 
>>27

携帯電話のように、いくつかのボタンが並んでいるが、全て異国語表記だった。
多分、何処かの国の軍隊が使っていた使い古しか何かなんだろう。
「これ使えるんかぁ?携帯とか電話、通じへんのやろ?ここ」
松口がいつものしかめ顔を見せる。
「まだやってへん。けど、つながらへんようなもん、武器にせぇへんやろ普通」
「っていうか、これ、何処で手に入れたん?」
陣内が大上の手から奪い、上から、下から、いろんな方向からソレを見た。
「お前らが拾って来たんちゃうんか?俺の鞄に入ってたで?」
「知らんで俺。松口は?」
言いながら陣内はソレを松口に手渡す。
「知るわけないやんけ。いつ分かったんや?」
「風呂あがったときや。てっきりお前らかと思ってたわ。
 見つけたんと同時に、竹若さんが来はったから、言うん遅れてすまん」
松口から、また大上に戻る。

少し沈黙があり、松口が口を開く。
「やっぱ使ってみなあかんで。どこに繋がるかわからへんけど」
二人は黙って頷いた。
29 :書いていいですか :02/03/23 01:31 
>>28
と言っても、ボタンは沢山ある。
ちょっとやそっとで壊れやしないとは思う3人だが、やはり慎重に。
一つボタンを押し、耳に当て、更に次のボタンを押す。
何度か繰り返しているうちに、ラジオのような音が聞こえた。

ザー。ザ、ザー。
ぶつっ

雑音が途切れ、電話の無言状態のような感じ。
「え、繋がってんの?もしかして」
向こうからの声。関西弁。
「うわっ!」
突然の耳に届いた声に、トランシーバーを投げ出す大上。
すかさずそれを拾って、松口が言う。
「…繋がってるで…誰や?」
恐る恐る聞く。
大上と陣内はその松口を静かに見守る。
「お前が先名乗れ。そやないとこっちは名乗らん」

松口は、はっきりとはしないもののその声に聞き覚えがあった。
「…今田さん、っすか?」


30 :書いていいですか :02/03/23 01:32 
>>29
「…お前、誰や」
「今田さんですよね?!」
「だから、誰や。関西弁っちゅーことは若手か?吉本か?」
松口は先輩の声に嬉しくなり、二人の了解も取らずに名乗った。
「松口です、ハリガネロックです!」
陣内と大上は一瞬背筋が寒くなったが、余計な心配だったようだ。
「ああ、ハリガネかいな」
「今田さん、今どこにいるんですか!」
「その前に一個答えろ」
「え?」

「お前は誰か、殺したんか?」

今田の質問は完全に疑心暗鬼になってる証拠だった。
松口が一瞬固まり、大上が松口の肩を揺らした。
「どうしたんや?」
「…俺、誰も今まで、殺してへんよな」

やっぱコイツ、覚えてへんのや―。
大上はまた、何だかわからない不安に包まれる。
とりあえず自分が生きている間は、松口を守ろう、そう思った。

大上は無言頷いた。


「誰も殺してません」

31 :書いていいですか :02/03/23 01:34 
>>30

「そうか…お前、俺と合流したいんか?」
「出来れば…」
「俺は今、にいやん…DTの松本さん達を尾行中や、どうする?」

…どうするとはどういうことだろう?
松口がその意味を考えている間に、今田は言う。

「来たかったら勝手に来い。今E-5におる。海に向かえ。」

回線は一方的に遮断された。
何度呼びかけても、最初のラジオのような音しか聞こえなかった。
どのような仕組みで設定されているのか分からない。
もしかしたらもう繋がらないかもしれない…。
しかし、「にいやん」という呼び方、声、やはり相手は今田だっただろう。

「今田さん…何て言うてた?」
陣内は松口に向かって聞いた。一重瞼にクマ。いつもより目が小さく見える。
「今田さん、今E-5におるって、DTの松本さん尾行中やって」
「尾行?何でやろ…仲良かったんちゃうんか、あの人らは」
大上は眉間にしわを寄せた。
「『どうする』『来たかったら勝手に来い』って言いはった…」
32 :書いていいですか :02/03/23 01:34 
>>31

その松口の言葉を聞いて、大上は分かった。
『どうする』『来たかったら来い』
これは多分、俺らの命を保証しないということだ。
M-1グランプリで会ったきり、DTの松本とは面識はない。
俺らは何の躊躇いも無く切られる可能性があり、
今田にはそれを阻止する力は無いのだろう、と。

「死ぬかもしれん。けど、すごい味方になるかもしれん。行くか?」
大上は続けた。
「それとも、まだ川島が来てない。竹若さん生きてるかもわからん。
 そっちに行くか?」

松口と陣内は顔を見合わせる。そして俯く。
言った本人の大上も、俯いた。

しかし、俺達には時間が無い―。

34 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 12:51 
>23

加藤は、有野と出会った廃工場に戻ってきていた。
「誰も殺さない」と誓った場所だ。辺りは水を打ったように静まり返っている。
まだ生きている人間はかなりの数がいるはずだが、それさえも忘れそうになるほど静かだった。
荷物を降ろし、木箱に腰掛ける。
一服しようと懐に手を伸ばしたが、煙草は先ほどの雨で湿気てぐしゃぐしゃになっていた。
ちっ、と舌打ちしながら、箱ごと握り潰し投げ捨てる。

加藤は、ぼんやりと考えた。
なんのためにこのゲームが行われているのか。誰が仕掛けたゲームなのか。
今まで散々考えてきたことだが、あまりに現実離れした事実に対して回答は見つからないままだった。
だが、有野の死を境に、加藤の考えは変わりつつあった。

ゲームの目的なんて、俺の知ったこっちゃねえ。
35 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 12:52 
>34

加藤の思考はその先に到達した。
俺たちは芸人だ。芸人の仕事は何だ?
それは人々を笑わせ、楽しませることだ。
その使命を帯びた芸人たちが集められ、行われているこのクソゲーム。
ならば、このゲームが実施される意義とは、誰かを楽しませることではないか。

このゲームを楽しんでいる傍観者がいる、ということには薄々気づいていた。
なんとかしてそいつらに一泡吹かせてやりたい。加藤の思考はそちらへ向いた。
足元に置いたロケット砲を眺める。
砲身は、さながら爬虫類の身体のように鈍い光を発している。
次にズボンにさした拳銃を抜き出してみる。
ここに来る途中に拾ったものだ。顔も名前も知らない芸人の死体の傍らに転がっていたのだ。
リボルバー式の銃に弾丸が4発。前の所有者が何発か撃ったらしい。
その弾で誰か死んだかもしれないが、加藤には関係なかった。
この鉄の塊で命を絶つことができるとは、今ひとつ実感が沸かなかったからだ。
36 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 12:52 
>36

そして加藤の思考はある一点に到達し、ぴたりと止まった。
散々大暴れして、お望みの残酷シーンをたらふく見せてやる。
それこそゲロ吐くまでたっぷり食わせてやる。
残虐なショーでオーディエンスの腹がパンパンに膨れ上がったところで、自らの命をこの手で絶つ。
優勝者なし、クソゲームはどっちらけで終了。
これが加藤が考え得る最低のシナリオだった。

そんなことを考えている加藤の右手側から、不規則な足音が聞こえた。
よろよろと頼りない足音はこちらに向かっている。
そちらをちらりと見やる。
さして動揺するそぶりも見せず、加藤は言葉を発した。

「また会ったな、濱口」
37 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 17:20 
>36 一気にいきます。長いです。

泣き疲れた濱口は、ふらふらになりながらも歩き続けていた。
まだ左手には、有野の眼球を突き破ったときの感触が生々しく残っている。
だがそれが信じられなかった。
なぜ自分が有野を殺したのか。
そもそも本当に自分が殺したのか。

加藤なら知っている。
あの場に居合わせた加藤なら、一部始終を知っているはずだ。
加藤に会って確認がしたかった。


有野を殺したのは自分なのかと。



38 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 17:21 
>37

濱口の頭の中にある、記憶のアルバムには様々な写真が貼り付けられている。
頑是無い子供のころの微かな記憶。
有野と出会ったばかりのころの記憶。
芸人として駆け出しだったころの記憶。
そのアルバムに貼られた最も新しい写真は、有野の死に顔だった。
それを振り払うために、昔の楽しかったことを思い出そうとしても、
目玉からアイスピックを生やした有野の笑顔がそれを許さなかった。

「嫌や、嫌や・・・」

この不快感を払拭する方法は一つしかない。
壊れかかった濱口の頭には、それしか思い浮かばなかった。
そして、再び加藤を求めてふらふら歩き出した。

渇望するのは「死」の一文字。
全てを知っている加藤に、殺してもらえば全てが終わる。
加藤にアルバムを破り捨ててもらわなければ。

濱口の視界に廃工場が飛び込んできた。
誰かいるかもしれない。重い身体を引きずるように、足をはこぶ。
人影が見えてきた。近づけば近づくほど、姿かたちがはっきりしてきた。
加藤が座り込んでいる姿だった。

死ねる喜びに、濱口の身体は打ち震えた。
39 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 17:23 
>38

Tシャツにトランクスといういでたちの濱口は、格好だけなら悪戯小僧のようであった。
ただ、その顔からは生気が失せ、黒目がちな瞳からも輝きは発されていなかったが。
「お、俺、あ、あり、有野、こっ、こ・・・、殺したんかな?」
話している内容はとんでもないことなのだが、驚きは少ない。
自分を見失った馬鹿な濱口は、どもりながらふざけた質問を投げかけてくる。
「そうだろ、オメーが殺したんだ」
加藤は教え諭すように答えた。

「そうだ、そうとも。お前が殺したんだよ」
「そうかあ、やっぱり。そうやなぁ・・・」
濱口は加藤のほうを向きながらも視線は合わせず、他人事のように呟いた。
「それしか、考えられへんよなぁ・・・」
濱口は左手で垂れ下がった右腕をさする。
その右腕は青黒く変色している。脱臼したまま放置したせいだろうか。
40 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 17:25 
>39

残虐ショーの初演は、奇しくも濱口が舞台に上がることになったようだ。
復讐劇の始まり始まり。ちゃんと見てるか、誰かさん!?
加藤は見えないカメラに対して怒鳴りたくなった。
「安心しろ、今すぐ有野に会えるぞ」
やや芝居がかった口調で濱口に語りかける。
「ホンマ!?えっ、どうしたらええの!?」
不意にプレゼントを受け取った子供のように、濱口は興奮した声を出した。
ケッ、中々いい芝居しやがる。

「そうだ、今すぐな」
拳銃を真っ直ぐ濱口の眉間に向ける。
「アイツどこにおるん?なあ」
濱口には拳銃が見えないのだろうか。のん気にも周囲をきょろきょろ見回している。
撃鉄を起すと、かちゃり、と音がした。後は引き金を引くだけ。
そうすれば残虐ショーの開演を知らせる狼煙が上がるのだ。
「意地悪せんと、早よ教えてやぁ!」
コイツ完全に壊れてるな。泣き出した濱口を見て加藤は思った。
まあ、演出はこの辺で十分かな?
引き金にかけた指に力がこもる。
41 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 17:26 
>40

「もう、意地悪せんと、殺してやぁ・・・」
予想しなかった濱口の台詞にどきりとした。
動揺で手が震える。

狂ってるのは、壊れてるのは誰だ?


濱口か?それとも俺か?



42 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 17:26 
>41

「殺して、殺して・・・、早よ、殺して・・・」
動揺している間に、濱口は加藤の足元にひざまずき自らの死を懇願している。
なんだ、この有り様は。無様すぎる。
まるで駄々をこねる子供のように、加藤の足にすがり付いてくる。
ただ、おねだりしているのは玩具ではなく、自分の死なのだが。

「し、死にたかったら、望みどおりにしてやるよ」
うろたえながらも無意味な芝居を続けてしまう。
なんだ、なんなんだ?
震えが止まらない。

ついさっき腹を括ったばかりなのに、なんたる様だ。こんなことでは優勝できない!
ショーはまだ始まったばかりだぞ?相手が濱口だからだめなのか?
濱口だと思うな!これは濱口じゃないぞ!!

必死に自分に言い聞かせるが、震えがまったくと言っていいほど止まらない。
むしろ強くなるばかりだ。
43 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 17:28 
>42

すると濱口は動く左手を伸ばし、加藤の震える手から拳銃をむしり取った。
そして、加藤が止める間もないまま、銃口を咥え躊躇うことなく引き金を引いた。
こもった爆発音が小さく鳴ると、濱口の後頭部から鮮血が迸った。
膝立ちだった濱口の身体が、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
後ろ頭にぽっかり開いた穴から、どくどくと血があふれ出てきている。
呆気ないショーの幕切れ。トイレ休憩の時間ですか?

濱口の頭に穴が開いたのを見ると、加藤の心にも穴が開いたような気分になった。
死にやがった。あっさりと。

敵は死んだ。有野を殺した憎き敵は自ら命を絶った。
それにも関わらず、そこに在るのは強烈な喪失感。
何もかも失った気分だ。
山本、有野、濱口。友と呼べるものは皆死んでしまった。
あとに残っているのは、我が命のみ。
44 :通りすがればいいじゃない :02/03/23 17:28 
>43

濱口はまだ拳銃を握り締めている。
左手の指を一本一本剥がしながら、拳銃を取り上げる。
そして、銃口を覗き込んでみる。微かに煙が立ちのぼっている。

ちゃちな鉛弾の分際で、人様の命を奪い去るとはいい度胸だ。
俺と勝負しろ。

ほんのり暖かい銃口をこめかみに突きつける。
再度、撃鉄を起す。もう手の震えは無くなった。
空を見上げると、星がきらめいている。
空を覆っていた雲はもう晴れたようだ。

二発目の狼煙は、ショーの終わりを告げるものとなった。

【濱口優(よゐこ)・加藤浩次(極楽とんぼ) 死亡】
45 :新参者@お腹いっぱい。 :02/03/24 23:22 
>>25の続き

 長井はこれからのことを考えた。
 ―太田が死んでしまったからには、田中といる
ことも避けたほうがいいだろうと思い、あの場から
退散したまではいいが、さて、どうしたものかと。
 長井はこの『ゲーム』下で人間不信に陥っていた。
 一緒に行動しようと誘いながらも、自分を刺した
青木(しかし彼女は放送で呼ばれてしまっていた、
複雑な気持ちだった)、仲間になろうという誘いを
断った途端に中華包丁で襲い掛かってきた松田
(咄嗟のことだったので拳銃で撃ってしまった)。
 ―結局、みんな、『そう』なのかと思った。
 思ったというよりは、確認をした、といったほうが
良いだろうか。
 
 みんな自分が可愛いんだ、ということを。
 
 「まあ、俺もそうなんだけどな…」
 小さく呟いて、自分を嘲笑った。
 ―ふと長井の耳に、繁みを進む足音が聞こえた。

 (…誰だ?)
49 :コテハン無し→コテシ@お腹いっぱい。 :02/03/25 15:41 
>>19 何も考えずに書くと、エライコトになる…(汗

「あかん、暗なってきた」
夜の行動は何かと危ないし。
なんだかんだで疲れたし。
名倉はとりあえず、寝床を探すことにした。
「…寝てる時に襲われたりせぇへんやろか」
と思ったが。
そうなったらなったで、なるようになれ。
「何とかなるわ」
難しい事は考えたくなかった。
とりあえずこの疲労を何とかしたい。眠りたい。
そう思った。
ナップサックを引きずって適当にチビチビ歩いていると、岩場と洞穴がひとつになったような場所に着いた。
「誰もおらんかったらココで寝よ…」
そろりと中を覗いてみた。
シーン…。という擬音が似合うことこの上ない。
「オッケーやな」
誰に言うワケでもないのだが、声に出して確認した。
静かに中に入り、腰を落とす。
ドッと、一気に疲れが出てきた気がした。
「あかん、寝る。おやすみ…」
今日の出来事を振り返る事も無く、サックを枕の代わりにして眠り始めた。
55 :新参者@お腹いっぱい。 :02/04/02 00:14 
>>45の続き

 「…あれは…」
 間違いなかった。彼の友人であるユリオカ超特Qだった。
 ふと見ると近くには小屋があり、もしかしたらそこに
いるのでは、と長井は推測した。
 ―一緒にトークライブを行っているほど気心の知れた
ユリオカに会い、長井の心は揺れた。

 手を組むことを持ちかけるべきか?

 しかし、今までの―今までのことが、瞬時に甦った。
 組もうと持ちかけたくせに自分を刺した青木。
 仲間を探すことを望んだ光浦と岡田を撃ち殺したマシンガンの人間。
 組むことを拒んだら襲ってきた松田。
 
 (ダメだ、もうダメだ)
 ひとりよがりな決定だったかもしれないが、もう長井には余裕が
なくなっていた。
 これ以上誰かに裏切られたら、きっと狂いだしてしまうだろう。
 ユリオカが彼の信頼を裏切るはずはない、と思っていても、
長井には『信じる』ということができなくなっていた。この
狂った状況が、彼の精神を確実に蝕んで―歪ませていった。

56 :新参者@お腹いっぱい。 :02/04/02 00:17 
>>55の続き

 身を隠そうとしたのも束の間、長井の姿はユリオカの
視界に入った。
 「長井?」
 ユリオカがそう問い掛ける。長井はしゃがんで息を
殺していた。
 「長井だろ、俺だよ…解るだろ? 出て来いよ、何も
しないから」
 「……」
 長井は状況を整理した。
 ユリオカは武器らしいものを持っていなかった(ように
見えた)。話をするだけなら、大丈夫だろう。
 もし万が一(きっとないと思うが、それでも、)襲って
きてしまったら、後ろのポケットにあるライフルで威嚇
して逃げればいいと判断した。
 長井にとって、それは『賭け』であった。
 ユリオカまでが自分を裏切ってしまったら、きっと自分は
本当におかしくなってしまうだろう。
 でも、そんなこと彼に限ってはないと、最後の最後まで
信じていたかったのだ。
 ライブで一緒になると帰路を共にし、ふたりでトークライブを
催し…気心の知れたユリオカのことを、長井はやはり信じて
いたかったのだ。

57 :新参者@お腹いっぱい。 :02/04/02 00:20 
>>56の続き

 「…よお」
 この場にはそぐわない言葉だったかもしれないが、それで
ユリオカは安心したらしい。
 「良かった、生きてたんだな」
 放送で呼ばれてないから知ってたけど、と付け加えて
ユリオカは笑った。
 「あんたは? ひとり…か?」
 「いや、テツトモや田上なんかと一緒だ」
 「そうか…」
 「そこの小屋で今休んでる。俺が見張り…って
とこだな」
 「そうか」
 「お前も一緒に来いよ。どうにかして…」 
 「いや、俺はいい」
 長井の言葉にユリオカは目を丸くした。
 「折角こうして会えたじゃないかよ! 何でだ?!」 
 「…やらなきゃならないことがある」
 「…やらなきゃならないこと?」
 「ああ」
 それはでまかせだった。しかし、そうでもしないと
拒否できなかった自分がいた。
 
58 :新参者@お腹いっぱい。 :02/04/02 00:21 
>>57の続き

 ユリオカとだけなら、行動を共にしたかもしれない。
 しかし、彼は仲間といる。
 今自分が仲間に入って、その空気を変えることは
できないと思ったからだ。
 (そしてそれは自分の身の危険にも繋がると思った)
 「俺、行くわ。…それじゃあ」
 長井が背を向ける。
 「長井」
 ユリオカが彼の名を呼ぶ。
 「……」
 長井が立ち止まった。
 「ふたりとも帰れたらさ、同行二人…すぐやろうな」
 「…ああ」
 長井は背中を向けながら答えた。
 そして、後ろ手で手を振り、別れた。

 長井は歩きながら、思った。
 まだ信じられる人間がいる。
 そう思うと、安心して涙が出てきてしまった…。 
61 :ヒマナスターズ :02/04/03 02:10 
前スレ>>787の続き


幾度血を見たか知れない。
自らの手で殺した人間は数え切れないほど。
でも、最初に殺したときの体中に電流が走るような衝撃は
あれ以来感じることができずにいる。
そう、一番最初に殺した──

「…何のつもりなんだよ」
日村の声がマスノの思考を止めた。
「何が」
背を向けたまま答えるマスノ。
日村は一瞬たじろいだが、意を決して言葉を紡ぎ始めた。
「矢作のこと」

炎上する病院を眺めていたマスノが、ゆっくりと日村の方へ顔を向ける。

振り返ったマスノの目は据わっていて、
明らかに機嫌が傾いているのは日村にも分かった。
下手をすれば自分の身に刃が降りかかることは重々承知していたけれど、
それでも日村は心の不安を訴えられずにはいられなかった。
62 :ヒマナスターズ :02/04/03 02:11 
>61の続き

拳銃を渡したマスノと受け取った矢作を見た時、
日村はこのゲームが始まって以来初めて、背筋が凍りつく感覚を覚えた。

日村は欲望の赴くままに人を殺してきただけだった。
殺される恐怖と殺す恐怖を超越してからというもの、
他人が物理的に悶え苦しむ姿を眺めることに一途に快楽を見出していた。
その気持ちはマスノも同じだと思っていた。
だからこそ仲間になり、行動を共にしてきたのだ。

だが、無抵抗の矢作にあまりにも酷な選択を強いた挙句
それを愉しげに嗤うマスノに、日村は別の恐怖を感じた。
それは”侵蝕する恐怖”。
人の心を操り、狂わせる恐ろしさ。


獣同然の醜い死に様を見ていられればそれでよかった。
他人の内面を蝕むことなど頭にはない。
マスノが理解できない。


マスノが『怖い』。


しばらく黙り込んだ後、日村は口を開いた。
「……ナニ考えてんだ?お前」
63 :ヒマナスターズ :02/04/03 02:13 
>62の続き

小さな唇が微かに動き、舌打ちをする。
「あいつを助けたいんだったら助けに行けば?」
先ほどから原因不明の倦怠感と不快感に悩まされていたマスノは、
苛立ちを隠す気にもなれず、あからさまに不機嫌な顔をしていた。
「何なんだよ、今更」
マスノはゆっくりと日村に近づいた。
日村の態度を、無性に腹立たしく感じていた。

濁った目で思いきり睨まれ、日村は息を飲んだ。
「今まで散々殺してきてんだろ?なに急にマトモぶってんの。
中途半端だよな。そういうの一番ムカつく」
そう言い終わるか言い終わらないかのうちに、
小柄な体からは想像がつかないほどの強い力で胸倉を掴まれた。
動悸が響いた。

マスノは何の脈絡もなく、切り出した。
「あんたの相方がどこにいるか教えてやろうか」

「ここ」
マスノは日村の腹部に目をやった。
日村は言葉を失った。
64 :ヒマナスターズ :02/04/03 02:14 
>63の続き

「御馳走したカレー、美味かった、って言ったよな」
ぎりぎりに近づいた顔は静かな笑みを称えていて、
それが下らない冗談では決してないことを暗に示していた。
日村の顔から一気に血の気が引いた。

「辛い?悲しい?」
マスノの血走った目は笑っていない。

「どうなんだよ」
途端に手を離され、はずみで日村は地面に倒れた。
その腹にマスノの容赦ない蹴りが入る。
「ぐっ!!」
「柔らかいなー、日村さんの腹…」
マスノはうっとりと悦に入るような表情を浮かべていた。
そして抵抗する暇も与えず、同じ場所を更に強く蹴った。
「う…っ……」
低い呻き声は空耳によってかき消された。


”ヒデ…”


その声すら、今のマスノには届かなかった。
マスノは蹴るという行為をひたすら楽しんだ。
殺さずとも、飽きるまで。



65 :ヒマナスターズ :02/04/03 02:20 
>64の続き

「おおーい!トヨモトー!」
自分を呼ぶ声に豊本は面を上げた。
見ると、向こうの植え込みの影から谷井が手を振っている。
小走りで駆け寄ると、谷井は今立と共に心配そうな顔で迎えてくれた。

「おい、大丈夫か!?」
「何とかね…」
体じゅうについた煤を払い落としながら、豊本は出来る限り微笑んでみせた。
汚れきったその服を見て、何かが起こったことは二人にも何となく想像がついたが
豊本が独りであることに気付くなり、谷井は咄嗟に次の一言を口走っていた。

「みんなは…」

反射的に、笑みが消えた。
「…………」
無言でうなだれる豊本。
事態を察した谷井は決まり悪そうに頭を下げた。
「……ごめん」
静まり返った空間を、付近一帯ごと炎の匂いと音が塗り潰していく。
と同時に、今頃になって豊本の体を激しい疲労が襲った。
無意識に吐いたため息は音もなく足元に落ちた。

66 :ヒマナスターズ :02/04/03 02:27 
>65の続き

豊本は淡々と事の成り行きを説明した。
飯塚と矢作と小木の死。
二人は俯いて豊本の話に耳を傾けていた。
どこか遠い異国の、悲しい昔話でも聞くような感覚で。


ひととおり話が終わると、三人共、沈黙した。


仲間が死んでしまったという実感が湧かないのは、
谷井と今立はもちろん、現場にいた豊本も同様だった。
ここで後ろから死んだはずの飯塚たちが現れたら、今し方喋ったこともすべて忘れて
無条件で彼らの生存を信じてしまうだろうとさえ思われた。
所在無くなった豊本は薄汚れたTシャツの裾で眼鏡を拭いた。
大して綺麗になったようには見えなかったが、
再び目を通したレンズに憔悴しきった二人の表情がはっきりと映ったことで
視界が幾らか鮮明になったことを知った。
67 :ヒマナスターズ :02/04/03 02:28 
>66の続き

気まずい空気に堪り兼ねて視線を反らす。
ふと、座り込んでいる小林の姿が目についた。
自分の方には目もくれず、ただ一点を見つめている姿に
違和感を感じた豊本は何気なく尋ねた。
「小林、どうかしたの?」

その質問に、谷井と今立の顔色が変わる。
二人は互いに困惑した顔を見合わせた。

程なくして、話し始めたのは今立だった。
「逃げる時に転んで足くじいちゃって動けなくなってんだ。
一応手当てはしたんだけど…」
「だけど?」
聞き返した豊本に、間をおいて谷井が答える。
「…ヘンなんだよ」
68 :ヒマナスターズ :02/04/03 02:29 
>67の続き

「どうした?おい」
豊本が肩を軽く揺すったが、小林は応えない。
その視線は今まさに豊本が逃げ出してきた、燃え上がる病院に向いていた。
「さっきからずっとこの調子なんだ」
「いやさ、最初は痛い痛いって泣きじゃくってたんだけど
火の勢いが増してきたらそれに見入って何も喋んなくなっちゃったのね」
「……ふうん…?」

じっと見開かれた小林の眼に、豊本は何かしら不穏なものを感じ取っていた。
しかし、豊本にも谷井達にも小林に何が起こっていたのかは分かるはずもなかった。
7歳の頃の小林の記憶を知る術などなかったのだから。


その時、小林の脳裏には
燃え盛る炎に重なってある光景が広がっていた。


69 :ヒマナスターズ :02/04/03 02:30 
>68の続き

──ひとつ向こうの部屋から、昼の時報が聞こえる。
隣に立つ母親は昼食のスパゲティを茹でている。
さほど腹が減っているわけでもなく、自分は暇を持て余している。
先ほどの礼拝で歌った賛美歌がまだ耳に残っている。

  あめなるよろこび こよなき愛を
  たずさえくだれる わが君イエスよ、
  すくいのめぐみを あらわにしめし、
  いやしきこの身に やどらせたまえ。

テレビでは死亡事故のニュースが流れている。
降って湧いたようにその疑問は一瞬にして頭を支配する。
躊躇することを知らない自分は、
気がつくとその言葉を口にしていた。


『おかあさん、ひとは死ぬとどうなるの?』


母親の横顔。
床の冷たさ。
立ち上る湯気。
ガスコンロの火。



(続く)
70 :名無しさんお腹いっぱい :02/04/03 13:14 
前スレ634続き
「あ、おはよ〜。」
「うあ。」
いきなりトモがアップで現れたものだから思わず驚きの声をあげた伊藤。
彼女は起き上がり辺りを見渡す。
「・・・ね、よしえさん。ここどこ?」
枕もとにいた田上に彼女は問う。
「民家。さっきの歌丸さんとのバトルで伊藤ちゃん、疲れてたみたいだから。
ここで休憩を取ることにしたんだよね。私たちも疲れてたし。」
「しっかし。伊藤。よく寝てたな?・・・俺、そのまま伊藤が
死んだのかと思った・・・。」
「てっちゃん!縁起悪いコト言わない!」
相方に叱咤されるテツ。
「・・・あ、ごめん。ごめん。言い方が悪かった。」
「もう。何やってんの。」
と、トモ。
71 :名無しさんお腹いっぱい :02/04/03 13:15 
「・・・・・・。」
伊藤は気付かぬうちにテツトモを彼女とかつていた相方、虻川美穂子と重ねていた。
ずっと前まで、伊藤は虻川とともにいて・・・
話し、歩き、共に戦った。
しかし、今。伊藤のそばには相方がいない。
虻川を伊藤の傍から消した犯人、桂歌丸を倒したあとでも
彼女の心の傷は癒えることはなかった。そして今・・・。
「虻ちゃん・・・。」
伊藤は今彼女が寝ている布団を強くつかみ、肩を震わせた。
「・・・伊藤ちゃん。」
伊藤の様子を見、田上はゆっくりとつぶやいた。
ちょうどその頃。伊藤達が休憩を取っている小屋がある
森の中をひとりの女性が大慌てで走っていた。
「た、田上さ〜ん!伊藤さ〜ん!」
この女性の名は鈴樹 志保。
カンカラのメンバーのひとり。
の、ハズなのだが何故か他の4人がおらず1人だけで走っていた。
「?どした?田上と伊藤になんの用だ?」
小屋の外で見張っていたピン芸人ユリオカ超特Qが話し掛ける。
「あ、今の仲間の方ですか?ちょっと伊藤さんと田上さんに話が・・・。」
「とりあえず、中に入れ。」
そうユリオカは言い、戸を開ける。
72 :名無しさんお腹いっぱい :02/04/03 13:16 
>>72の続き
鈴樹が入ったのを確認し、彼はゆっくりと戸を締める。
そして、外から中の様子をうかがった。
 「どうしたの?鈴樹ちゃん・・・。」
田上は鈴樹に問う。
「あの・・・松井さんと石田さんと杉林さんと・・・入山さんが・・・。」
「つまり、鈴樹ちゃん以外の他の4名てわけ?」
「はい。で・・・松井さんと石田さんとすぎば・・・」
「いちいちくりかえさなくていいのっ!」
「・・・ひぃっ。田上さんすみませんでした。
で、入山さん達が・・・お互いにケンカを始めて…。
私にも止められないような状況で・・・。」
「そんで私たちに救いを求めた・・・ってわけね。
いいわ。協力してあげる。」
と、田上。
「俺も協力する!トモも協力するよな?!」
「あ、ああ。」
「テツトモさん…。田上さん・・・。」
と、鈴樹。
「伊藤ちゃんはどうする?」
田上に話し掛けられる伊藤。
その時、彼女は頭の中が真っ白になっていた。
どうして仲間同士が争わなければいけないのか。
仲間を失ってしまってもいいのか。
そう彼女は考えていた・・・。
73 :名無しさんお腹いっぱい :02/04/03 13:21 
>>72の続き
「ねぇ、伊藤ちゃん?」
「よしえさん??」
「今からカンカラの鈴樹ちゃん以外の4名のケンカを止めに行くっての!
伊藤ちゃんはここの小屋に残る?それとも・・・」
「私・・・行く。」
布団から起き上がり、伊藤は言う。
「よしっ!これで全員・・・。」
「田上〜。ダンディの存在は?!」
「あ、ごめん!」
「同じピンなのにぃ!」
かちゃ。戸を開け、、トモはユリオカに尋ねる。
「ユリオカさんは・・・。」
「話はすべて聞いた。俺も行く。」
「・・・ユリオカさん・・・。立ち聞きはダメ!」
「・・・・とにかく。さっさと荷物をまとめて出発!
はやく入山達を止めに行こう!」

(続く)



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