9 :新参者@猫まっしぐらをおあずけ :02/05/04 00:54 
前スレの長井話の続き(すみません、スレ死んでるので番号解りません)


 突然、ぱららら…と、乾いた音が聞こえた。
 (銃声?!)
 (結構近いとこで聞こえたぞ…)
 長井は咄嗟に後ろのポケットからライフルを取り出した。
 慎重に辺りを見回してから、大木の側の繁みに隠れた。
 大木にそのままいたのでは見付かる可能性があったからだ。
 息を殺し、途切れそうになる神経をどうにか研ぎ澄まし、物音を探る。
 ガサ、ガサ、と歩く音がした。
 その足音は長井のいる方へ向かってきていた。
 確実に、その音は自分のいる方向へ近づいている。
 長井は緊張した。

10 :新参者@猫まっしぐらをおあずけ :02/05/04 00:55 
>>9の続き

 確かに、襲ってきた松田を(やむをえず)撃ち殺した時には「人を殺してしまった」と
いう罪悪感と共に、快感を得てしまったことは否めない。
 しかし、それはあくまでそのときだけであった、と長井は思った。
 多分、ユリオカと会い、彼を信じることができた時点で長井は『このままでは
人を信じられなくなり、狂ってしまうのではないか』という気持ちが少なからず
消えていた。
 やはりある程度度胸の据わっている長井でもこれほど狂った状況の中で平静を保つのは
難しい。時間が過ぎていくごとに見えない何かに心を蝕まれてゆくような感触すら、多少、
あったのだった。
 その不安や恐れや―まあ、ともかくたくさんのマイナス要素の固まり―が、ユリオカを
信じられたことで侵食を止めた気がしたのだ。少なくとも、彼には。
 自殺したいという者を止める気はしなかったが、やはり好んで人を殺すような真似は
したくない。
 だからといって、人に殺されたいわけでもない。
 いざとなったら、戦わなくてはいけない…。
 ライフルを握る手がじわりと汗をかいていた。
16 :ヒマナスターズ :02/05/07 02:29 
前スレ>124の続き


豊本は思わず小林の顔を覗き込んだ。
「お前、記憶が…」
「思い出したのか!?」
谷井も驚いて声をあげる。
だが、小林は三人のことなど目に入っていないようだった。
痛みの治まらない左足を引きずり、小林は歩き始めた。
その先にあったのは、炎を上げる病院。
「…え…!?」
突拍子もない行動に、今立が慌てて小林の腕を掴む。
「ちょっと待て!おいバカ、どこ行くんだよ!!」
一瞬の間をおいて、
小林の口から飛び出したのは思いがけない一言だった。


「仁に会いたいんだ…」


「……はあ!?」
「バカ言うなよ!だって、あいつは…」
「離してくれ!」
今立の手を振り切り、小林はふらつきながら歩いていく。
体全体に響く足の激痛に倒れそうになっても、
小林は歩くのを止めようとはしなかった。
17 :ヒマナスターズ :02/05/07 02:30 
>16の続き

「…仁の所に…行きたい……!」
息を荒らげ、うわごとのようにそう訴える小林の目には
うっすらと涙が溜まっている。
悲痛な声に、今立の心が揺れた。



振り向きざまに見た、草むらに横たわった片桐の顔。
近づく足音に危険を感じてその場から逃げてしまった。
その足音が小林のものだと知っていながら。

小林と片桐が出会ったらどうなるか、全く見当がついていなかったわけではない。
少なくとも良い方向に向かわないであろうことは薄々感づいていた。
それでも、悪い予感から目を反らして、逃げた。
自分の身を守るために。


”自分がしたかったことは何だっただろう”


大きな疑問符が頭を占領する。
それと同時に、もう今となっては遠い昔の出来事のような
ゲーム開始直後の光景が脳裏をよぎった。
18 :ヒマナスターズ :02/05/07 02:31 
>17の続き

あの時は、普段から時折見せていた鬼のような表情に不安を感じて
谷井を信じるかどうかは正直迷っていた。
でも、結局自分の足は校門で留まったまま彼を待っていた。
程なくしてやって来た彼の、フワフワと揺れる髪を見ながら
まだ生半可な決意を伝えてみる。

『殺されなければ、殺さなくてもいいんだろ。じゃ、しばらくバカやろうぜ』

驚いた顔は次第に、八重歯を覗かせる笑顔に変わった。
彼が心の底から喜んでいる時の顔。
それを見て決意は固まった。
死ぬまで、彼と一緒にバカを通そうと。


”今するべきことは何だろう”


もう迷うことはない。
答えは既に出ているはずだ。



今立は心を決め、小林に歩み寄った。
そして、その左肩を担ぎ上げた。
19 :ヒマナスターズ :02/05/07 02:33 
>18の続き

「え…?」
小林の滲んだ視界に映ったのは、柔らかな微笑。
「連れてくよ」
そう言うと今立は谷井に目配せした。
その顔を見て、谷井が思い付いたように豊本に声をかける。
「とよもとお、お前が出てきた窓が一個だけ空いてるんだよな?
じゃあ俺、誘導係やる!」
谷井もまた、今立と同じ表情を浮かべていた。

「な、…?」
呼びかけられた豊本には一瞬、
彼らが何を言っているのかが飲み込めなかった。
笑いをとる時とまったく同じ口調だったが
冗談が含まれているようには思えない。
その言葉が意味する最終的な結果を理解するや否や、
豊本の中に残っていた、最後の一欠片の平静さが消えた。

「…何言ってんの…?」
21 :ヒマナスターズ :02/05/07 02:34 
>19の続き

必死に彼らの口から嘘だという言葉が出てくるのを待ったが
一向にその気配は感じられない。
豊本は軽いパニックに陥った。
「……ふざけんな!!バカじゃねえの!?」
「豊本」
今立が冷静な口調で話し始める。


「小木さんを助けに行くって言った時のこと思い出してみろよ」


「……」
豊本は言葉に詰まった。

「さっきと立場が逆になってんだよ、俺ら」
今立は静かに、しかしはっきりと一つ一つ言葉を紡いでいった。
「片桐を殺したのは俺らでもあるんだ。
あの時助けたついでに仲間にしておけば、
少なくとも相方に殺されるなんてことにはならなかったかもしれない。
あいつを独りで死なせた罪滅ぼしがしてえっていうのもあるし」
「…んな……」
谷井がいつもの調子で笑いながら、豊本の肩を叩く。
「何しんみりした雰囲気になってんだよ!
俺らは単純に、最後にでかいバカがやりてえだけだって」
「…自分たちのやってきたことに蹴りをつける意味でもな、
ここであいつを放っておきたくねえんだよ」
22 :ヒマナスターズ :02/05/07 02:35 
>21の続き

言及しかけた豊本だったが、何も言えなくなってしまった。
ぶつけようとした言葉はひとつ残らず喉の奥へと押し込まれた。
豊本は強く唇を噛んだ。


短い沈黙の後、谷井が口を開いた。
「そーだ。これやるよ」
出し抜けにそう言ったかと思うと、
谷井は首元につけていた麻紐のネックレスを外して豊本に差し出した。
それは先端にきのこのような形状の飾りがついた、
谷井が何かと身に付けていたものだった。
「どうよこれ。お洒落だろ?大事にしろよ〜お気に入りなんだから」
「あ、じゃあ俺も」
その言葉とともに、今立からは妙な色合いをしたスニーカーの片方が渡される。
「形見に持っててくれよな」
「……」

豊本は、手にもったそれらの確かな感触を感じながら
改めて目の前の二人を見た。
消えゆく幻を見るような目で。
23 :ヒマナスターズ :02/05/07 02:35 
>22の続き

「何で…?」
豊本は俯いて、誰に言うでもなく呟いた。
「さてと。行こうか」
「行きますかあ〜!!」
今立たちの声の合間に、
小林のか細い声が耳に入ってくる。
「…ありがとう…二人とも……」
「何言ってんだよ。なんだかんだ言って長い付き合いじゃん」
そんな会話が徐々に遠ざかっていくのが分かった。

「じゃーな」
おそらく最後の会話になるであろう、二人の別れの挨拶が耳に響いた。
微笑み返しをすることなどできなかった。
アーノルドパーマーのトレーナーを翻して、煙の中へ向かう谷井たち。
炎に照らされ、その赤い色が褪せていく。


止めるなら今しかない。
いま目の前にいるうちしかない。
これを逃したら、もう次はない。

でも、止められない。
それが彼らの通すべき筋なら。


24 :ヒマナスターズ :02/05/07 02:36 
>23の続き

「…なんだよ…」
どうしてこんなにも明るく死んでいけるのか。
死ぬのは怖い、そう言っていたのは自分と同じだったはずなのに
現にもう、自分と彼らとの距離は果てしなく遠い。
自分はまだ、今更のように躊躇している。
死ぬことに躊躇している。

一度は覚悟を決めたはずだったのに。

「……何でなんだよ!!!」
豊本は顔を上げた。
二人が同時に振り返り、声を揃える姿が視界を埋めた。



「──バカだから!」



笑顔の残像が網膜に残った。




消えていく後ろ姿を見守る気にはとてもなれずに、
豊本はその場にうずくまった。
激しい砂埃が舞う感覚が背中を走った。…



25 :ヒマナスターズ :02/05/07 02:38 
>24の続き

しばらくの時間、豊本はそのままの体勢で
生暖かい煙の混じった風に晒されていた。
様々なことが頭の中を渦巻いていた。


自分を庇って倒れた飯塚。
矢作を救うため、彼もろとも命を絶った小木。
死をもって信念を貫いた谷井と今立。

今も鮮明に記憶に残っている彼らの最後の姿が
次々と浮かんでは消え、
ついに、ひとつの考えが導き出された。


何度となく豊本を踏み止まらせてきた足枷は、粉々に砕かれた。


失うものはもう何もない。
しなければならないことが、今は
曇りのない眼鏡の向こうにはっきりと見える。


鼻をつく火の匂いに背を向けて、解けかけた靴紐を結び直す。
きのこ型の首飾りとカビ色のスニーカーを手に、
豊本は意を決して走り出した。

親友であり、敵である
マスノ達の元へ。
26 :ヒマナスターズ :02/05/07 02:39 
>25の続き


自分の耳にも聞こえるか聞こえないかほどの微かな声量で、
小林は讃美歌の続きを口ずさんでいた。


 われらをあらたに つくりきよめて、
 さかえにさかえを いや増しくわえ…


「ん?何だその歌」
今立が耳元で囁く。
「…ううん、何でもない」
不思議そうな表情の今立をよそに、小林はそっと目を閉じて
少しテンポを落としつつ最後のくだりを歌った。
ずっと昔に聴いた、小さな礼拝堂のピアノの音色を耳の中で再生させながら。



 みくににのぼりて みまえに伏す日、

 みかおのひかりを 映させたまえ。

 アーメン…




【小林賢太郎(ラーメンズ)
谷井一郎・今立進(エレキコミック) 死亡】

40 :三つ目が通る :02/05/09 23:15 
前レスどこかの続き《ハリガネロック編》

どこからか入手したトランシーバーから聞こえてきた今田の声に誘われるまま
ハリガネロックの2人は今田の元へと向かっていた。

2人とも無口だった。
狂った川島の元へ陣内や竹若といった仲間を残してきたのだ。
しかも川島も短い間ではあるが同じレギュラー番組を持った仲だ。
皆が生き残るなんてそんな呈の良い事が起こるわけが無い。

大上は手に持っている地図に目をやった。
今田が何処に来いと言っていたのか・・・
その後に起きた出来事に気を取られていて
完全に忘れてしまっている事に気付いた。


「おい、今田さん、どこに来いって言ってた?」

「学校か・・・?  とにかく街やろ?」

松口の声はたんが絡まってしわがれている。

「ちょぉ、地図見せて」

松口に地図を渡そうとした時、タイミングが悪かったのか
地図は手と手の間をすりぬけて地面に落ちた。
そして風に飛ばされて地面をコロコロと転げて行った。
41 :三つ目が通る :02/05/10 00:04 
>>40
大上は地図を追って走った。
地図はコロコロ転がり、やがて遺体にぶつかった。
それが誰の遺体なのかわからなかった。
わからないほど無残な姿になっていた。

遺体の血はまだ乾いておらず血は地図を赤く染めて行った。


できるだけ早くここから離れなければ。
そして松口にこれを見せてはいけない。
大上は本能的にそう感じた。


大上は何もなかったかのように松口の元に戻ると
「地図、泥だらけになってしもたわ」と言った。
松口はリュックの中をごそごそとあさったが松口の地図は出てこなかった。

(これは俺のリュックやない)と気付いたが
松口はそれ以上何も考えないことにした。
自分に都合の悪い事だから。


「今田さんとこ行くんどうする?」
「とりあえず街まで行ってみようや。」
とにかく大上はここから離れたかった。
43 :新参者@徳川埋蔵金はそこじゃない :02/05/11 00:22 
>>10の続き

 「誰もいないのか…。気のせいか」
 この声に聞き覚えはなかった。
 「あなた、これからどないすんの? 武器はあるけど…このままやと…」
 「…ああ、でも、仲間は殆ど死んでもうたし…」
 「……」
 「さっきあった子だって、きっと攻撃する気はなかったんだろうけど…」
 「仕方ないわ」
 (さっきの銃声は威嚇発射だったのか…? それとも…)
 そっと繁みの隙間から様子を窺う。
 どうやら、足音は二人分だったようだ。
 判断も鈍ってきたのかもしれない、と一瞬長井は思ったが、それは今考えるべき
問題ではなかった。

 敵なのか、味方なのか。

 それが重要な問題だった。

44 :新参者@徳川埋蔵金はそこじゃない :02/05/11 00:25 
>>43の続き
 
長井にはまったく気付いていないのか、彼らは会話を交わしていた。
 長井は物音を立てぬよう注意しつつその会話に耳を傾けた。
 「何でこんなことに…」
 「ねえ…」
 「新喜劇のメンバーも殆ど死んでもうた。吉本の芸人を探すにも、面識はあるけど
この状況で協力し合えるか…」
 「でも、ふたりやと危険やし…」
 「…困ったな…」
 「……」
 「でも、いざとなったら俺がやすえを守ったる」
 「でもさっき…」
 「あ…」
 「冗談冗談。嬉しいわ。ありがと、勝則さん」
 「とりあえず、休めるところを探そう。お前も疲れとるやろ?」
 「ええ、そうね…」
 ふたりは長井の側に近づいてきたが、身を隠している長井には気付かず通り過ぎた。
 息を殺していた長井は、開放感からか少し大きく息をついた。
 
45 :新参者@徳川埋蔵金はそこじゃない :02/05/11 00:26 
>>44の続き
 
 (あいつらは吉本新喜劇の夫婦か。内場…カツノリ? っていうのと、その嫁だ)
 長井は会話の内容から察知した。
 そうか、夫婦で行動を共にしているのか…。
 長井はちょっとだけ、自宅にいるであろう自分の嫁のことを考えた。
 (今ごろ何やってんだろうなあ、アイツは…)
 帰ることができたら少し優しくしてやろう…いやむしろ優しくしてもらおう…と
思った長井であった。
 しかし、帰ることができたら、という仮定には、まったく自信がないのは彼自身よく
解っていた…。
 

55 :三つ目が通る :02/05/13 21:50 
>>41

しばらく歩いていると道の遥かかなたに誰か立っているのが見えた。
「誰かおる」大上がポツリとつぶやいた。
大上は立っている男こそが先ほどの無残な遺体を作り上げた
張本人であるに違いないと思った。

そしてその男が自分たちに気付いたのかこっちに近づいて来る。
良く見ると武装しており手にはバズーカ砲をにぎっていた。
大上の脳裏に先ほどの無残な遺体の姿がまざまざとよぎった。

恐怖のあまり足がすくんで動けない。

「何やってるねん、逃げるぞ」
事情を知らない松口が大上をせかすが大上の足は一向に動かなかった。
大上はそこでふとおかしい事に気が付いた。

56 :三つ目が通る :02/05/13 22:01 
>>55
相手はバズーカ砲を持っているのだ。
殺すつもりならわざわざ走ってくる必要はない。
「あいつ、俺ら殺す気ないんちゃう?
 殺す気やったら撃つやろ。あそこから」
今にも逃げようとしている松口の腕をつかんで言った。

男はフルフェイスのヘルメットをしていて誰だかわからない。
男は2・3mほどの距離まで近づいた所で止まり
「こっちはダメだ」と言った。

57 :三つ目が通る :02/05/13 22:01 
>>56

その声は聞いたことあるようなないようなそんな声だった。
(全員芸人だから当たり前か)
しかし松口は「ダンカンさん?」と男に尋ねた。

男はおもむろに「ばれちゃったらしかたないな」
と言いながらヘルメットをはずして
「こっちは殿の陣地だから、それ以上入ると何されるかわからないよ。
 さっきも入ってきた奴がめった刺しにされてねぇ。
 だいぶ逃げたんだけどそれでも追いかけて殺しちゃったから。
 この傷も殿にやられて・・・」
そう言ったダンカンの顔は塩酸でもかけられたかのようにただれていて
皮膚が顔にぶら下がっているのがやっと、と言った状態だった。

「それじゃあ、元の場所に戻らないといけないから」
ダンカンは再びダッシュで去って行った。

58 :三つ目が通る :02/05/13 22:09 
>>57

ダンカンに忠告された通り道を引き戻し、道無き道を歩いていた。
しばらく歩くと海沿いの道に出た。

地図を無くしてしまってる大上と松口にはどちらの方向に行けば街に出るのか
全く検討もつかなかった。
「どうする?」
「どうするって?」
「俺、右行くから大上左行けや」
「え!?別行動するん?」
「その方が時間短縮になるやん」
「あぶないって。絶対危ない」
半泣きの大上に松口は銃を渡しながら
「1時間後にココ集合で20分たっても戻って来んかったら
 逆方向にお互い探しに行くって事で」と言った。
そして右のほうへ歩いて行く。
大上は何故か松口を止める事ができなかった。

72 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:37 
>>26の続き

先ほどまで晴れていた空にはいつの間にか雲がかかり、
見ているだけで気の滅入るような陰鬱な影を落としていた。


ゆるやかな風に乗って、生暖かくまとわり付くような空気が
力なく垂れ下がった木々の枝を揺らす。
煩わしいほどに聞こえていた人工的な物音はすっかり消え、
水を打ったように不気味に静まり返っている。
だいぶ人口の減ったこの島に生きている人間を見つけることは、
ゲーム開始時からかなりの時間が経った今、当初よりはるかに難しくなっていた。


──居た。

薮の中、豊本は息を殺してしゃがみ込んでいた。
数メートル先たたずんでいるのは、探し続けていた人物、マスノ。
最後に別れた時と変わらない背中にこれからの死闘を思い描いて、
豊本は軽く身震いした。
73 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:38 
>72の続き

今もなお火を噴いている病院から、彼らはそう遠く離れてはいないだろうと踏んだ
豊本の推測は当たっていた。
マスノのことだ。自分で仕掛けた策略が、まるでドミノが倒れるように
次々と軌道を辿っていった末の結末を楽しげに眺めているに違いない。


狂気を帯びたあの笑顔で。


改めてその気違いじみた表情を思い起こすと、鳥肌が立った。


一度しか使えない小さな武器を持つ手に自然と力が入る。
それでなくても体力は限界に近づいており、
彼の持つウージーやノコギリから長時間逃げ続けられる自信は全くない。
できるだけ短時間で彼に近づいて、
一撃で、確実に仕留めなければならない。
74 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:38 
>73の続き

”例え相討ちになってもいい、何としてでも彼の息の根を止める”

固まった意志を再確認すると、
豊本は自分を落ち着けるために小さく深呼吸をした。


額から伝う生温い汗の感覚。
ほぼ丸腰に近い状況に、無言のプレッシャーがのしかかる。
それでも何とか動悸を押さえ、目標の元へ向かおうとした時だった。
背を向けたままのマスノの声が響いた。


「隠れなくてもいいよ、豊本さん」


豊本は息を呑んだ。

75 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:39 
>74の続き

”攻撃を仕掛ける前に見つかってしまう”
何度となくシミュレーションした中での、
最悪にして一番高確率のパターン。
予想済みの展開に、戸惑う余地はなかった。
豊本は苦笑いを浮かべ、ザッと音を立ててその場で立ち上がった。


「何しに来たの?仲間になりに来たの?」
マスノは振り向こうともせずに淡々と尋ねた。
その口調には、聞くまでもないことを聞いているという意思が見え隠れしている。
豊本はそこで改めてマスノの腹黒さを実感した。

彼は自分の意図を解っている。
そして自分もまた、それを知った上で
完璧な青写真をなぞっている。
ゲーム前から変わらない、互いの確信犯ぶりをやや懐かしく思いながら
豊本はゆっくりと首を横に振った。
「ううん」


「マスノくん達を、殺しに来たんだ」


やっとのことで、薄ら笑いが豊本の方に向いた。
それは豊本を鏡を見ているような錯覚に陥らせた。
76 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:40 
>75の続き

ため息をつきながら、マスノは言葉を続ける。
「つまんないな。豊本さんとチーム組んだら楽しいと思ったのに。
負けないことは戦わないことなんじゃなかったの?」
その言葉に、豊本はしばらく黙っていたが
ひとつひとつ単語を噛み締めるようにして
マスノに、そして自分に向かって答えた。
「…そんなの意味ないって気付いたんだ」


「信頼できる仲間はみんな死んじゃった。
これ以上負けないでいることになんか何の意味もないよ」
無意識に声のボリュームが上がるのが自分でも分かる。
「俺だって何かしたい。
やられっぱなしで黙って生き伸びるぐらいなら、
マスノくん達に復讐して死ぬ」
77 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:41 
>76の続き


向き合う二人の間を、穏やかな風が通り抜けた。


「ふーん…」
マスノの顔に表れる不敵な笑み。
不穏な空気に、隣で横たわっていた日村が苦しそうな声で横槍を入れる。
「…豊本、逃げろ!こいつはもう……」
「いいよ」
マスノがその声を遮った。
そして、足元に転がっていたスコップを拾い上げると
豊本の目を見て、言った。


「やりましょうか」


78 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:42 
>77の続き

次の瞬間、マスノは猛然と豊本に襲い掛かった。

接近した機会を狙って攻撃を仕掛けるつもりだった豊本だが、
予測以上に隙のないマスノの動きをかわすことに精一杯で
そのタイミングを掴むことすらできない。
防戦一方の豊本に、マスノは攻撃の手を緩めなかった。
容赦なく振り切られるスコップ。
そのうちの一振りがついに豊本の肩を打つ。
「…あ…!」
衝撃で脚がもつれ、一瞬意識が遠くなった。


避けきれずに食らった一撃に、豊本は傍らの木に体を委ねた。
「……くっ…」
剥れかかった木の皮が肌を刺す感覚もなくなる程、ダメージは大きい。
低い声でうめく豊本を、マスノはふん、と鼻で嗤った。
「こんな状況で、死んだ奴のために復讐するなんて何のメリットもねえじゃん。
バカだよ。あんたのやってる事、何もかも」
心に突き刺さる言葉に、肩から体中に伝う痛みの感覚。
しかしそれに耐えながら、豊本は掠れた声で反論した。
「バカでもいい……」


「バカでいいよ。もう…
もう中途半端なのは嫌なんだ!!」


79 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:42 
>78の続き


”可もなく、不可もなく”

いつだってそうだった。
「アルファルファ」というコンビにおいて、
何をするにも自分は心のどこかで必ず冷めていた。
漫然とした日々にピリオドを打てなかったのは他でもない自分。
思い返せば、周囲に迷惑をかけてばかりだった。

この生活に終わりが来ることなど考えもしなかった。
ステージを無くして初めて、やる気のなかった自分を心底悔やんだが
既に後の祭り。
結局自分は、芸人という職業に対して
一度もバカみたいに熱くなることができないまま、
舞台を失い、相方を失い、
おそらくもう二度と今までのように客の前に立つことはできない。
後悔ばかりが占める心にカタをつける最後の手段。


それは仲間の仇を討つこと。


悲しいけれどそれしかない。
自分にはもう、煤けた手に握られた唯一つの武器以外に
何も残ってはいないから。
80 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:44 
>79の続き

「ま、何でもいいや」
その声が豊本の耳に届いた瞬間、
体が傾き、その上にマスノが馬乗りになった。
両腕を膝で固定され、抵抗することもできなくなってしまい
豊本は咄嗟にマスノの顔を見上げた。


ほんの数秒が、考えられないほど長く感じられた。


鈍く光る眼に、歓喜を称える口元。
そこにいる”マスノ”の全てが目に焼きつく。
これが人生で最後に見る光景なんだろうか。


「豊本さんはイイヒトだからね。
せめてあんまり苦しまないように死なせてあげる」
マスノはそう言って、スコップを空中で構えた。


──ああ、殺される──


豊本は目を瞑った。



81 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:45 
>80の続き

ところが、スコップは豊本の頭を反れ
ドスン、と音を立てて地面に落ちた。
「え?」
反射的に豊本は瞼を開いた。
自分の上でマスノがうずくまっているのが見えた。



”ヒデ”



「うう……っ!!」



”ヒデ…もういいよ”



突如として再び襲った頭痛に、マスノは後頭部を抑え、悶えた。
途切れ途切れになりながら、やっとのことで言葉を繋ぐ。
「……どういうつもりなんだよ…さっきから…」
「な、何!?どうしたの、マスノく…」
面食らってマスノの顔を覗き込む豊本。
見開かれたその瞳に、豊本の姿は映っていない。
突然のことに、今自分が殺されそうになっていたことも、
彼への憎しみさえ、忘れた。
82 :ヒマナスターズ@最終回一歩手前 :02/05/19 09:45 
>81の続き

一定のリズムを保って脳に響き渡る激痛。
マスノにはもはや、
今の今まで殺そうとしていた対象のことを考える余裕すらなかった。
茫然とする豊本を一瞥もせずに、
マスノは自分の腹部をきつく睨みつけた。
「何とか言え……」



「…マ…ツシタ……!」





(続く)
96 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/05/26 04:31 
『マスノ編サイドストーリー ダイノジ大地の場合』

「腹減ったなぁ…」

森に入ってからどのくらいたったのだろう。
もうどこを歩いているのかわからない。
ダイノジ大地が迷いながら探しているのは、
敵、仲間、武器の何物でもない。
とにかく腹を満たす何かが欲しくてたまらなかった。

「なんか食いもん…。はぁ〜、殺される前に餓死しそうだぜ」
もう足元はフラフラだ。
「それにしても武器がフライパンだなんてふざけてやがるぜ、クソッ!」
苛立ちは余計に大地の腹の虫を泣かせた。
バックに入っていた食料は1食分にも満たない。
ただひとつの武器である大型のフライパンの重みがずしりと肩にのしかかる。
97 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/05/26 04:33 
>96 の続き

しばらく経ち、夜も更けはじめた頃、目前に小屋を見つけた。
何やらいい匂いが漂ってくる…。
「この匂いは…シチューだ!」
豚骨スープとネタにされた大地の脂汗が冷や汗に変わり始めても
鼻は確実に食べ物の匂いを嗅ぎわけることができたのである。

猛然と小屋に走りより扉をあけると、料理していた小柄な男が振り返った。
「わっ!びっくりしたー」
見かけのある顔、大地は安心した。
「マスノくん!そのシチュー食わせてくれ!」
「いいよ。ちょうどできたところなんだ。是非味見してみてよ…」

98 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/05/26 04:34 
>97 の続き

バックを投げ出し、出されたシチューをむさぼる大地。
中からフライパンが転げ落ちたが気にもならなかった。

「どう?おいしい?」
「うん!うめーよ!最高!」
味なんてほとんどわからなかった。とにかく食べ続けた。
「おかわりあるから」
2杯目は味わって食べよう。とにかく大地は腹が減っていた…。

99 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/05/26 05:07 
>98 の続き

「このシチュー、レバーが入ってるんだ」

レバーだと思われる肉が生だったのか、
大地の口から血がしたたり落ちた。
「ごめん、まだ肉が生だったみたいだね」
「大丈夫!上手かったから!でも、この肉食べたことない味だね…」
一度食べた味は絶対忘れない自信があった大地でもわからない味だった。
でも、この血の味は覚えがある…。
なんだろう…とても身近な味だったはずだが?

100 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/05/26 05:07 
>99 の続き
「これから野菜炒めを作ろうと思うんだけど、食べる?」
ありがたい。シチューでは少し物足りなさがあった。
「いいの?悪いねー。俺もなんかできること手伝うよ」
「じゃあ、このフライパン貸してくれる?」
マスノは落ちているフライパンを拾い上げた。
「もちろん!」
「あと豚肉も借りていいかな?」
「うん!…え?俺、食料持ってないぜ?」

「持ってるじゃん」

マスノの手にしているフライパンが鈍い音をたてた。

ゴロンと横たわる、大地。
(へへっ、ホントに豚肉になっちまったぜ…)

頭部からの血で赤かった目の前が暗闇になる。
右手の親指を立てながら振り向かずに
教室を出ていった大谷の後姿が浮かんだ。

「食べ過ぎんなよデブ」


       【ダイノジ・大地 死亡】
101 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/05/26 05:44 
>>96-100
vol.1の>>611のサイドストーリーでした。
102 :三つ目が通る :02/05/26 16:44 
最近、規制されてて書き込めませんでした・・・(何故だ?)

>>58

大上は松口が見えなくなるまで松口の背中を見つめていた。
そしてそれから歩き出した。
波の音があたり一面にひびき渡っている。
バトルロワイヤルと言う忌わしい企画さえなければどれだけ素晴らしい場所だろう。
死体さえ転がっていなければ後楽気分を味わえるのに。
そう思いながらそこらじゅうに転がっている死体を見ながら歩いていた。


するとその中の一体がすくっと起きあがった。
何をしているのか?
遠くからながめているとどうやら死体を一体一体確認しているようだ。
相手も自分に気付いたらしい。
2,3秒こちらを見た後ダッシュで逃げて行った。
逃げられると追いかけたくなるのが世の常。
大上はそいつを追いかけた。

そしてやっとのことで追いつくと服をぐいっとつかんだ。
そいつはCOWCOWの多田だった。

(多田、何度も登場ですいません)
103 :三つ目が通る :02/05/26 16:56 
>>102

多田は息を切らせながら
「大上さんだけですか?松口さんは?」と尋ねた。
「今は俺だけやけど、何やねん?」
「いえ、それやったら良いんです。別に」
「なんや、松口おったらあかんのか?」
「あかんわけちゃいますけど」
「けどなんやねん? なんやはっきり言えや」
「大上さん・・・松口さんとおったら 殺されますよ。」
あまりに突拍子のないことだった。

「なんでお前にそんなこといわれなあかんねん?」
「前、松口さんにあった時」
「前?」そんな話は聞いたことがナイ。

「ええ、大上さんがたおれてて、そん時の松口さん、まるで殺人鬼みたいに・・・怖くて。」
「せやからって俺を殺す理由にならんやん」
「そりゃそうですけど・・・」けどあの時の松口さんに理性があったとは思えない。
「でも大上さんは松口さんから僕とあったこと聞いてないんでしょ?」
確かに俺が倒れてる間松口が何をしていたのか聞いてない。
気にならないと言えばウソになる。
163 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/08 23:54 
突然の物音に、小島忍(底ぬけAIR−LINE)は飛び起きた。
いつの間にか眠っていたらしい。
横では、レーダーをチェックしていた筈の相方、古坂和仁も同じように寝ている。
モニターを除き込み、小島は愕然とした。
「おい古坂!起きろ!」
「……っせぇなぁ…何だよ」
「すぐ近くに桐畑がいる!」
「…は?マジかよ!?」

2人が潜伏していたのは、自動車修理工場の一角にある建物。
未だにレーダーと盗聴器以外の武器を所持していない(まあ、その2つは自らの改造の甲斐もあってかなり高性能なものになっていたが)2人は、武器と隠れ家の確保の為にこの工場にやって来た。
幸いそこは無人だったものの、整備用の手袋や“面”のような防具しか見つからず、目的は半分しか達成されなかった。
おかげでまた、余裕も持てずにレーダーと盗聴器のチェックに意識を集中するはめになったのだが、それに疲れてウトウトしていたところをこんなに接近されるとは…
小島は自分達の不運を呪った。


164 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/08 23:57 
「どうやら…向こうのドアのすぐ手前みてぇだな…」
「待てよ!」
ゆっくりとドアに向かって歩き出す古坂を、盗聴器を耳にあてた小島が制した。
「あいつ…なんかメチャメチャ息上がってるよ。
イカレてる感じだ…近付くとやばいんじゃないの?」
「いや…もう逃げらんねぇよ。ここ出入口はあのドアしかねぇし」
(…そう言えばそうだった…何で気付かなかったんだ?せめて工場内部なら…
ってか、こいつも先に気付いてたんなら移動するよう言わねーか?)小島は相方を呪った。
その相方は既にドアの前にいて、ノブを握っている。
「桐畑1人ならなんとかなんだろ。息上がってるなら尚更だ」
「でも…」
「どうせ見つかっちまう。やるっきゃねぇよ」

深呼吸し、一気にドアを引き開けた瞬間、外にいた桐畑亭(熊本キリン)が………
バタリと中に倒れ込んだ。



165 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/08 23:59 
古坂が首筋に手をあててみると、まだ息がある。
「んー、でももう駄目だわな…」
ふと、古坂が相方に目をやると、何やら考えているようだった。
「どうした?忍」
やがて小島は、支給品の地図の裏に、何かを猛烈な勢いで書き始めた。
「おい、何やってんだよ?」
ペンを止めた小島が古坂に見せた地図の裏には、乱雑な字でこう書かれていた。
『これからしばらく声出さないで。筆談して』

面食らいかけた古坂だったが、首輪に盗聴器が仕掛けられている事についてはレーダーと盗聴器(これは支給品)を改造した際に気付いていたので、本部に聞かれてはまずい重要事項を話したいのだとすぐに納得した。
『分かった。で、何?』古坂も自分の地図の裏に書く。
小島は桐畑を指差し、こう書いた。
『こいつ、この建物の中に入れる』
「はぁ!?」思わず声に出してしまった。
「しぃっ!!」慌てて小島が口の前に指を立てる。





166 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/09 00:06 
数分後、建物の中に運び込んだ桐畑(依然として意識はない)の体を傍らに無造作に置き、
筆談している2人の姿があった。
『どういうつもりだよ?こんな奴ほっといても死ぬし、助けたところで何の得もないぜ』
小島はこの質問には答えず、少し間を置いて書いた。
『お前、生き残る自信ある?』
古坂は一瞬悩んだ後、書いた。
『まあこのレーダーと盗聴器さえあれば、かなり安全に逃げられるのは間違いないだろ』
『いや、もう開始からかなり日数経つし、動けるエリアも狭まってる。
今頃はキレた奴らが、血眼になって生存者を探してても全然おかしくない』
小島の言葉に、古坂は数日前何気なく補足したダウンタウン浜田、よゐこ濱口らの動向を思い出した。モニター上では、彼らの行く先々で、周囲の芸人の生存を示すマークが次々と消えていった。
『あー、DT浜田さんとか、よゐこの濱口さんとか、ロザンの菅とか、麒麟の川島とかな』
×−GUNの2人を殺した相手が川島である事までは知らなかった。


167 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/09 00:15 
『そう。もう逃げ切れるもんでもないと思う。かといってその殺人鬼に勝てる自信はないし、それ以前に俺、やっぱり人殺しなんかできない』
『甘いんじゃねぇの』と書こうとした古坂だったが、内心は同感だった。
生き延びる為とはいえ、自分には殺人は…
『そこでだ。首輪を外す』

古坂は驚いて相方の顔を見た。
『外せる自信は正直な所あまりない。でも1回成功すればあとは確実に出来る』
支給品をこともなげに改造した2人の腕ならそれも可能かもしれない。だが。
『成功すればって、失敗したらどーすんだよ?』
小島の視線の先には……桐畑がいた。
『まずあいつを実験台にする。ここで見つけた手袋と面があれば、
失敗して爆発しても大した怪我にはならないはずだ』
なるほど。確かに今の桐畑なら抵抗される心配はない。

168 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/09 00:16 
『外せれば、あとはじっとしてればいい。水と食料はかき集めた分が大分あるし、
誰かが入って来て俺らの姿を見ても、1度放送で“死者”として名前が呼ばれた後なら、
桐畑の血を服に付けて普通に死んだふりしてればバレない。
まあ、その放送までには何としてでも姿を見られないようにしなきゃなんないけど』
『そうか』古坂は腕を組み、軽く唸った。
『じゃあすぐ作業開始しようぜ。あいつもう死んじゃうかもしんないし』
「よしっ!」
最後の台詞は声に出し、早速小島は工具を取りに走った。
その時、
「ん…痛ぇ……あ、あれ?古坂さんに小島さん?何でここに?
あ、俺のこと助けてくれるんすね!!ありがとうござい…」
古坂のラリアットを受け、再び桐畑は意識を失った。


169 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/09 00:21 
スマソ、>>164と>>165の間に以下の文章挿入

思わず身構えた古坂も、これには拍子抜けした。
「何だよ…驚かせやがって」
「いや驚けよ!こいつ両腕ねえんだぞ!」
相方とは対照的に、ドアが開いた瞬間物陰に隠れていた小島が叫ぶ。
「ゲッ!?うわ、ほんとだ!」
桐畑の両腕は鋭利な刃物で切断され、どす黒い血で固まっているが、
モニターに表示されている通り、ぜえぜえと荒い息を吐きながら生きている。
「スゲぇな、こいつ…」
だがさすがにここまで辿り着くのがやっとだったらしく、
しばらくすると意識を失ってしまった。



180 :名無しさんお腹いっぱい  :02/06/13 17:57 
「は?!」
テツの裏返った声が森の中に響く。
「ごめんなさ〜い…。」
カンカラの女性メンバー鈴樹は両手を合わせ謝った。
「他のメンバーがケンカしている場所がわからない・・・って・・。」
ダンディも思わず呆れている。
「・・・急いでいたんで・・・。すっかり忘れてしまったんです。」
と、鈴樹。
「・・・・・・。」
一斉に固まる伊藤たち。
「思い出しなさ〜い!」
田上は思いっきり鈴樹にツッコんだ。
「・・・思い出します・・・。」
鈴樹は頭を抱え、右へ左へと歩き出した。
で。数十分後。
「とりあえず、歩いてみましょ〜。」
と、鈴樹。
「・・・・・・。」
再び固まる伊藤達。
そういうわけで彼女たちは適当に歩いてみる事にしたのであった。
181 :名無しさんお腹いっぱい  :02/06/13 18:17 
ある場所に差し掛かったとき、伊藤は足を止めた。
「伊藤ちゃん?」
先に行っていた田上が伊藤に話し掛ける。
「…どうしたっつーの?急に止まって。」
「ちょっと…ね。」
伊藤は田上から視線をずらし、今伊藤が立つ場所の全景を見渡す。
(…虻ちゃん…)
伊藤は心の中でゆっくりとつぶやく。
そこは伊藤の相方、虻川が歌丸に殺られた場所であった。
―「!伊藤ちゃん、逃げて!」
―「虻ちゃん・・・!?」
―「いいから・・・。」
あの時の場面が伊藤の頭の中で何度も映し出される。
もう思い出したくない。
相方が殺された事を思い出したくない。
伊藤はゆっくりと座り込み、涙を流した。
「・・・・・・。」
田上は伊藤にどうする事もできず立っていた。
182 :名無しさんお腹いっぱい  :02/06/13 18:30 
「田上〜。伊藤〜。」
ユリオカが慌てて戻ってくる。
「2人共、カンカラ4人のケンカを・・・。」
「そんなことよりも・・・伊藤ちゃんが。」
ユリオカは伊藤に視線を移す。
伊藤はその場に座り込み、静かに涙を流している。
「多分、虻川の事を思い出したんだな・・・。」
「・・・そうなんだ・・・。」
ユリオカと田上は伊藤を見つめたまま沈黙する。
「伊藤ちゃん・・・。」
しばしの沈黙の後、田上が口を開く。
「・・・よしえさん?」
顔を上げ、伊藤は言う。
「虻ちゃんが殺された事、歌丸のこと・・・さっさと忘れな!」
「でも・・・・どうしても・・・どうしても忘れられない!
忘れ去ろうと思っても・・・嫌でも思い出してしまう・・・。」
「・・・・・・・。」
伊藤の言葉を聞き、再び沈黙状態に陥るユリオカと田上。
2人は伊藤の心の傷を取る術が見つからず
ただただ涙を流し続ける伊藤を見つめるばかりであった。

(続く)
189 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/14 22:43 
>>169続き

作業開始から十数分。
小島は工場内で見つけた手袋と面で完全防備した上で桐畑の首輪の解除にあたり、
少し離れた場所では古坂が、レーダーと支給の盗聴器のチェックをしている。
桐畑の息は時間を追うごとに弱々しくなっている。
両腕を紛失してから今まで生き延びてきた強靭な生命力にも、
遂に限界が訪れつつあった。
(さっきのラリアットが悪かったんじゃねぇのかな…)
小島は一瞬そう考えたが、無論、口には出さずにいた。
首輪の構造はやはり難解だ。
いつ爆発するともしれない恐怖に加え、実験台の桐畑の生命力も懸念され、
軽いパニック状態に陥りながらも、今の所は順調に解除を進めていった。

ふと、肩をトントンと叩かれた。
何事かと顔を上げると、古坂が以下の文章をさっきの地図の裏に書き加えていた。
『今気付いたんだけど、ずーっと無言ってのはやばくねぇ?』
息を呑む。そこまで考えが回っていなかった。




190 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/14 22:50 
“瀕死の桐畑を建物に入れたまま、ずっと無言でいる”というのは極めて不自然だ。
(どうすりゃいいんだ?どうすりゃいいんだ?どうすりゃいいんだ?
こうしている間にも桐畑が…畜生、どうすりゃあ…)頭が破裂しそうだ。

「なぁ?こいつどうやって殺すよ?」突然、古坂が声を張り上げた。

驚いた小島が相方の目を見ると、その目は必死に「合わせろ!」と訴えている。
「………そ、そ、そうだなぁ。やっぱり両手が千切れてるからには、
りょ、両足も同じようにしようよ」
「よっしゃ、なぶり殺しってわけだな!」
こうして2人は、猟奇殺人鬼の役を演じる羽目になった。
十数分のタイムラグは今更埋めようもないが、無言でいるよりはましかもしれない。
「おっ、こいつ脅えて口も利けないみてぇだな」
「だろうなぁ。まさか両腕無くした上に、これ以上の生き地獄を味わうんだもんなぁ」







191 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/14 22:55 
しかし、元々進んで人を殺す気など毛頭ない上に、
片や爆発物処理、片やレーダーチェックという重大任務を抱えた上での演技である。
「やっぱ、殺す時は…なぶり殺しが一番だよな」
「んー……そうだな。両手両足がないってのがいいよな、やっぱ」
「えーと…その、なんだ……両手両足が無いって、あー…生き地獄…だよな」
「そう…だな。口も利けなくなる、よな…」
会話は瞬く間に堂々巡りになり、無言でいるより余程不自然な状態になってしまった。
だが…

(よし…ここを切って……………出来た!!!!!!)
首輪が外れた。
当の桐畑は、まだ僅かに、ほんの僅かにだが、息がある。
急いでレーダーのモニターを見ると、桐畑の生存を示す表示が………消えていた。


192 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/14 23:02 
2人は歓喜の咆哮を上げたくなる衝動を必死に堪えた。
喜んでばかりはいられない。いよいよここからが正念場だ。
「あ――――っ!何すんだよ!?俺がとどめ刺そうと思ってたのに!」
「うるせぇな!俺の勝手だろ!」
演技を続けつつ、小島は相方の首輪の解除にかかった。
「痛ぇ!やりやがったなこの野郎!」
「てめぇこそやりやがったなこの野郎!」
やはり極めて不自然な会話だが、もはやそんな事は微塵も気にならなかった。
ノウハウを掴んだ小島は、先程よりも遥かに速いスピードで首輪を解除していく。

数分後。
首輪が外れる寸前に、
「ぐあああああああ!!!」
古坂は“断末魔の叫び”を上げた。


193 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/14 23:11 
台詞とは裏腹な満面の笑みをたたえながら、小島が口を開いた。
「はぁ、はぁ、はぁ…おい古坂?死んじまったのかよ?おい!?
俺、本当はお前を殺す気なんか…うわあああああああああ!!!」
下手糞な演技もこれが最後だ。鏡を見ながら自分の首輪の解除にあたる。

「ごめん、ごめんよ古坂。俺も今すぐそっち行くからな…」
笑いを必死で噛み殺す相方を横目で見ながら、
自分も漏らしそうになる忍び笑いを堪えつつ、作業を続行する。
ふと、古坂がテーブルの上に乗り、ズボンのベルトを脱ぎ始めた。
ジェスチャーから察するに
「ベルトで首吊りをする」という芝居の効果音を演出しているらしい。
こみ上げてくる爆笑の発作を苦労して抑え込み、ついに解除は最終段階へ。
「ああ、目が霞んできた…もうすぐ会えるな…」

遂に、全ての首輪が外れた。
モニター上では、この自動車修理工場には、誰もいない。


194 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/14 23:15 
「よっしゃああああああ!!!!!」
「凄ぇよ!!!まさか本当に成功するとは思わなかったよ!!!」

2人は床に転がり、手足をばたつかせて大爆笑した。
桐畑は古坂の首輪が外れた直後に事切れていたが、そんな事はどうでもいい。
「なぁ、どうするよ!これで俺らほぼ完全に死ななくてすむんだぜ!」
「俺らにレーダーと盗聴器なんか支給したのが運の尽きだよな、あはははははははは!」
爆笑はいつ果てるともなく続いた。
ただこの瞬間に酔っていたかった。

入口のドアが、静かに開き、迷彩服に自動小銃を構えた数人の男達がいつの間にか建物に侵入してきたのにも気付く事無く、2人は笑い続けた。


ブラウン管の向こうで…

「浜田さんへの賭け金は現在は落ち着いていますが、依然としてトップの…………………えー、たった今入った情報によりますと、底ぬけAIR−LINEのお2人が、ゲーム執行本部の兵士数名によって射殺された模様です。繰り返します…」

キャスター、安藤優子は事務的にニュースを読み上げ、隣に目をやった。
195 :名無しさん@お腹いっぱい。 :02/06/14 23:18 
「どうですか、木村さん?」

このゲームが始まるまでは名前を耳にする事も無かった若手の死である。
さほど興味が無いのだろう、木村太郎はやや面倒臭そうに話し始めた。
「うーん、ま、致し方なしですね。
基本的にこのゲームに反則はありませんが、生きたまま本部のレーダーから離脱するとなると、さすがに進行に影響が出ますから。
盗聴器に目をつけたのは良かったんですが、
隠しカメラの存在には気付かなかったみたいですね。
まさか彼らが作業してた部屋の中だけで6台もあるとは思わなかったでしょう。
彼ら、ほとんど賭け金ゼロでしたね。ここで殺しても賭けには影響ないでしょうし、
悪い芽は早い内に摘んでおくに限ります」

「ありがとうございました。しかし、わざわざ解除し終わるのを待ってから射殺するのは、
ちょっと人が悪いような気もしますね。では、賭け金の一覧に戻ります…」

【古坂和仁・小島忍(底ぬけAIR−LINE)桐畑亭(熊本キリン)死亡】






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