25 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:16 
 前スレ560(だと思う)の続き

 当てもなく歩き続けて、もうどれ位経ったのか。
 長井の足取りは重かった。
 先ほどの嘔吐するほどの嫌悪感が未だに身体に纏わりついているようだった。
 せっかく取った水だが口をすすぐため三分の一ほど使ってしまった。
 しかし今はそれはどうでも良かった。
 彼は自分の精神状態に不安や疑問を感じていた。
 『ゲーム』開始からいくらか経ったときは、死体を見ることに慣れてしまっていた。
 人を殺すのにも慣れてしまいそうになった(しかしそれはユリオカが食い止めてくれたが)。
 そして今、バラバラ死体を目の当たりにしたときの、あの嫌悪感――。
 自分の心の中で、相反した感情が存在しているのが解った。
 それでも、これだけは頑なに思っていた。
 『生きる』と。
 
 そんなことを考えながら歩いていると、進行方向から銃声が聞こえた。
 と同時に悲鳴が―断末魔の叫び、と表現した方が適切な位のものが―聞こえた。
 きっと撃ち殺されたのだろう、と長井は思った。
 しかし今はそれを考えている暇はなかった。

26 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:17 
>>25続き 
 
 (誰か、こっちに向かってくるのか?)
 長井は緊張した。咄嗟に辺りの繁みに身を隠したが、先ほどの内場夫妻のように通り過ぎて
くれるとも限らない。しかし引き返すと相手に背中を見せることになる…。
 ポケットからライフルを取り出す。その右手はじわりと汗をかいていた。
 ガサガサガサ、と草を掻き分ける音が聞こえ、相手がかなり自分の近くに来ていると解った。 
 (いつの間に…?)
 そんなことを冷静に考えている暇はなかった。
 ただ、解っているのは『相手はやる気だ』ということ。
 銃声と同時に悲鳴が聞こえたのは恐らく威嚇発射などの類いではないだろう。
 長井はそう判断した。
 今ここで少しでも動いたら、即座に気付かれ蜂の巣だろう。
 だからといってここに長時間じっとしていられるころは不可能であろう。
 これ以上神経をすり減らすと、見付かった場合の対処ができなくなりうる気がしていたからだ。
 長井は―きっと、他の生存者達もそうであろうが―そこまで追い詰められていた。
 一瞬たりとも気が抜けなかった。
 相手がやってきたときに、不意打ちで威嚇発砲をしながら逃げるか?
 それとも、足かなにかを狙って、動きを止めるべきか?
 彼は判断に困っていた。

27 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:19 
>>26続き
 
 瞬間、パアンという破裂音が聞こえた。
 それが銃声だとわかったのはその後だった。
 自分を標的にしたものだと解ったのは、それよりも後だった。

 相手は長井を既に見付け、銃撃してきたのだ。
 「な…んだと…?」
 長井の視界からは相手の姿は見えなかった。恐らく長井の死角をついているのであろう。
 「クソッ、どっから撃ってやがる!!」
 身を隠していても仕方の無いことが解り、長井は立ち上がった。
 こうなったら、弾が無くなるまで撃ってやる。
 ライフルの引き金を思い切り引いた。
 
28 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:21 
>>27続き

 撃った。
 撃った。
 さっさと行ってくれと思いながら、撃った。
 どこにいるのか解らない相手へ向けて、撃った。
 でも、相手はまだ射撃を続けている。
 プロじゃあるまいし、狙ったところに銃弾がいくなんてまずありえない。
 松田を撃ってしまった時のように、相手が至近距離なら話は別なのだが。
 しかし、相手は遠方にいる(長井から見えなかったことから判断して)のにも関わらず
長井をきちんと捉えていたようだ。
 長井の弾が出ない隙に、二発の銃声が響いた。 
 その銃弾は二発とも彼の脇腹を正確に捉えた。
 パンッ、と弾けるように血が噴き出した。
 「うっ…、」
 彼は思わず撃たれた脇腹を押さえた。
 今まで生きてきた中で感じたことの無い感覚が全身を襲う。

29 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:22 
>>28続き
 
 「このヤロウ…っ」
 抜けていくような腕の力を振り絞って、銃声のした方へライフルを撃った。
 弾がなくなるまで、撃ち続けた。
 このままやられっぱなしではいられなかった。
 長井は、心の中で叫んだ。
 何勝手に発砲してんだ。俺はただ生きたいだけなんだよ。
 邪魔すんなよ、誰だか知らないけど。
 俺は生きたいんだよ、それだけなんだよ。
 
 数発、渇いた音がした。
 「ぐわっ」という声がしたのが聞こえ、足音が遠くなっていくのが解った。
 足音の速さからして、腕などを負傷したのだろう。
 (行きやがったか…)
 なんとか攻撃を止められたと思ったのも束の間、思い出したかのように脇腹が
痛みだした。

30 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:24 
>>29続き
 
 「いって…、…」
 青木に刺されたときの傷の上にも銃弾が通ったようで、それが更に傷の深さを
増していた。エレキコミックのふたりに手当てしてもらった包帯の色が、白から
真っ赤なものへと変化しているのが解った。
 脇腹が火を点けられたように熱い。傷口を押さえた手にもその熱さは伝わった。
 「青木め…いいトコ刺しやがって…」
 既に退場してしまった(と、思いたくなかったが)加害者の青木に対して愚痴る。
 「この…まま、外にはいらんねえ、かな…」
 そう判断した長井は辺りをゆっくりと見回した。
 ゆっくりとしか見回せなかった、と表現した方が良いだろうか。
 ふと、少し離れた距離に民家らしきものが目に入った。
 長井は、その民家の物置らしきところまで歩いた。
 歩くたびに、血が滴り落ちる。酷い出血なのが自分でも解る。
 「クソッ…止まんねえ…」
 止まることのない出血に顔をしかめる。

31 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:25 
>>30続き

 ドアを開けると、中に使わなくなった家具やら何やらが置いてあり、誰もいる
気配がしなかった(しかし、今の彼ではそれを判断する力が正確ではなかった)。
 いまさら誰がいようと、もう自分には大した問題でなかったことは彼自身よく
解っていた。
 足を引きずりながらも、どうにか壁に寄りかかる。
 力を振り絞り、ゆっくりと座ろうとする。
 途中、脇腹から大量のまた血が出たが、長井にはもうその痛みすら感じられて
いなかった。
 なんとか床に座り込んだものの、もうここからは一歩も動けないだろうと
長井は感じていた。
 「うっ…」
 ゲホッ、と咳き込むと掌いっぱいに血が拡がった。
 ああ、しょうがねえなあ、と長井は苦笑した。
 こんなときなのに、彼は自虐的に笑ってしまったのだ。
 『生きる』という確固たる意志も、この傷を前にしてどこかへ消えてしまいそうだった。
 正確には、消えてしまいそうというよりは、奪われてしまいそうだった。

32 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:27 
>>31続き
 
 もう駄目だなあ。
 もう帰れねえか。
 しょうがねえなあ。
 ったく、なんでこんなめんどくさい事に…。
 いきなり撃ってきたあいつは結局誰だったんだよ…。
 俺の嫌いなやつだったらイヤだな…。
 俺はここまで来て、やっぱりひとりか…。
 でも、この方が俺らしいかもな…。
 ああ、生きたかったな、もうちょっと。
 せめて、あと、もうちょっと。
 ……。
 ……。

 ぼやいている筈の口からは、何の言葉も出ていなかった。
 もう、喋る力もなくなってしまっていた。
 虚ろになってゆく長井の瞳には、もう何も映せなかったのかもしれない。
 しかし、彼には見えていた(俗に言う走馬灯というものであったが、彼は
それに気付くことはできなかった)。

33 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:30 
>>32続き  

 今まで出会った人々。
 その中でも大事にしていた数少ない友人達。
 長い間側にいた自分の嫁。
 そして彼女と一緒にいるであろう愛猫。
 自分を見守ってくれていた父、そして母。
 今まで立ってきた(彼が好きな小さい規模の)舞台。
 この『ゲーム』下での、信じていた者からの裏切り。
 信頼できる人間を得たときの安堵感。涙。
 その信頼を与えてくれた―ユリオカとの約束。

 そして―――…。
 
 ゆっくりというよりは、一瞬一瞬スライドのように、駆け巡った。 

34 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:32 
>>33続き


 彼の脇腹を押さえていた腕が、だらりと下がった。
 血で真っ赤に染まったその腕はもう、動くこともなかった。
 静かな物置の片隅、血塗れの男の吐息が聞こえなくなった。 


35 :新参者@長井完結編 :02/09/15 01:33 
>>34続き

 暗転していた舞台に照明が下り、ふたりの男が登場する。
 その舞台上には自分によく似ている男と、帽子とメガネが
トレードマークの男がいた。
 短い会話の後、帽子とメガネの男が言う。
 「まあそんなわけでしてね、今回も始まりましたが…」
 次第に聞こえなくなってゆく声。
 でも、そのふたりの男は、楽しそうに笑っていた。
 とりわけ自分に似ている方の男はとても楽しそうに笑っていた。
 そしてその笑顔の映像も、意識と共に途切れた。


 彼の走馬灯の最後に映ったものは、『同行二人』の幕開けであった…。
 
 
 【長井秀和 死亡】

49 :名梨@初参加です :02/09/15 23:16 
「ったく、あの二人どこにいるんだよー?」
雑木林を一人の大柄な女が歩いている。
森三中・大島だった。手には武器として渡された30cm定規が握られていた。
相方の黒澤と村上を探しているのだ。
「まさか死んでないよなー。」
呑気に独り言を言いながら辺りを見回す。
「…ーい、おーい!」
その時、後ろから誰かが呼ぶ声がした。聞き覚えのある声。
大島が振り返ると村上がこっちに向かって走ってくる。
「村上ー!!」
50 :名梨@初参加です :02/09/15 23:28 
>>49
「ハァハァ、会えてよかった…ハァ、疲れた…。」
村上は大島に追いつくと息切れしながらその場に座り込んだ。
「黒澤見なかった?」
「見なかったけど…多分無事だと思うけど…。」
「泣き虫だからなー。まさか自殺してねーだろーなー。」
「ちょっと変なこと言わないでよ!」
「冗談だよ。探しにでも行くか。」
「そうだね。」

【森三中 大島・村上、呑気に黒澤探索開始】
68 :用無し始末屋 :02/09/16 19:46 
板尾ちょっと進めます。

vol.1の203と483の後
vol.2の735から798の間

板尾は歌丸の側を離れてから、黙々と歩き続けた。
あてもなく島をさまよいながら、おそらく共に行動しているであろう松本と木村を探した。
手には支給された暗視スコープ。
暗闇でしか役に立たないうえに、武器としては使えない。
お荷物だが、ないよりはましだろう。
しばらく木々の中を進んで、見知った姿を認め、板尾は声を掛けた。
「何してんねん、Jr。」
長身の後輩が体を縮こまらせるようにして石の上に座っていた。
ゆっくりと振り向いた顔は青ざめ、死人のようだった。
「板尾さん・・。」
生きていたのか。
正直な感想だった。
普通に歩いていてガラスにぶつかるような人が、ここまで誰にも殺されずにいたのは奇跡のように感じた。
69 :用無し始末屋 :02/09/16 19:48 
「お久しぶりです。」
「このまえおうたやん。」
「そうですね。」
ぎこちない言葉の応酬のあと、Jrは聞いた。
「どうしたんですか。」
「松本さん、知らん?探してんねん。」
「いえ。」
やはり、松本のところへ行くのか。
「お前はどうすんねん。」
“一緒に、松本のところへ行くか。”
「どうもしませんわ、このままです。」
“やめときます。”
「そっか、ほな。」
「板尾さん、武器、それだけですか?」
やけに重たく感じる手で板尾が手にしている暗視スコープを指した。
「おお、要るか?」
板尾は持っているほうの手を軽く持ち上げた。
「いえ、それだけやと危なないですか?これ、持ってってください。」
Jrは自分の武器のナイフを差し出した。
「いらんわ、お前がもっとれ。」
「どうせ、そんな必要ちゃいますし。」
他人を殺す気もない殺される気もない。
自分を殺すのは自分だけだ。
「俺もや。」
一瞬、目が合って、互いにそらして、笑った。

70 :用無し始末屋 :02/09/16 19:48 
木村、今田、板尾、浜田。
東野以外はまだ名を呼ばれていない。
皆、松本の所へと向かっているのだろう。
松本が彼らを待つ待たないには関係なく。
行く気は無い。
自分の芸人としての、最後のけじめだった。
森の中へと消えていった板尾の背中を見送って、Jrはまた、目蓋を閉じた。
生きていたころは気にしたこともなかった、兄の笑顔が見えた気がした。

71 :用無し始末屋 :02/09/16 19:51 
板尾ちょっと進めました。
勝手にJr使ってしまって申し訳ない。

板尾手放します。
82 :新人@追加 :02/09/16 23:19 

話をまとめられているコモさんの了解を頂きましたので、
飛石連休藤井のラストシーンを書かせていただきます。
vol.5において藤井も死んだような表記をしていますが
そこは削除してください…
83 :新人@追加 :02/09/16 23:21 

パァン…と、右の方から耳を劈くような大きな音がした
やけに遠くで聞こえたような気がした

いままでどうにか上がっていた腕が、反動から上に上がった後、がっくりと落ちる
全体重を木に預けるようにしていたせいか、自分の体勢はあまり変わらなかった

 岩見は………天国に行けるんかなぁ?

藤井は軽く首を傾け、ぼんやりと煙の上がる拳銃を見ていた
あえてその先にある光景は見なかった
最後に残ったもう一発は、岩見が自分自身を守る為ではなく、藤井の為に残してくれたもの
それを知りながら、藤井は腕を上げることはできなかった。

死に対する恐怖…というものは殆どなかった
全身の血液が殆ど流れ落ち、指先すら自由に動かせない状態になって
こめかみに拳銃を運ぶことすらままならなくなっていたのだ
84 :新人@追加 :02/09/16 23:22 

刺し損…とは岩見もよく言ったものだ。
まだ鈍痛が脇腹から、鳥居に刺された胸から伝わってくる
このままゆっくりと最後の時を迎えろと言うのか、神様という奴は
それでも、あのまま安らかな眠りを経て…というのは自分にはあっていないと思っていたから

 それに比べたら…結果、オーライっちゅうことなんかなぁ…

自分はいままで『芸人』として生きてきた中で、他の芸人とは多少違ったの経験をして来たと思う
NSCに入学したこととか、数多くの相方と出会い、別れてきたことであるとか…
そして岩見に出会い『飛石連休』として東京でデビューし、そこそこ売れてきて…今…こうやって死の淵に立っている
つくづく、人生というものはわからないものだ。
85 :新人@追加 :02/09/16 23:23 

目の前の景色がぐらりと歪む…拳銃を見つめていた瞳が…瞳孔が、ゆっくりと広がっていく
先に行った岩見は、入り口で待っていてくれているのだろうか
いつものようにゆったりとした口調で、『遅い』と笑って見せるのだろうか

そこに、NSC時代の友人はいるのだろうか
福田哲平くんは、いるのだろうか

『続き』はそこでできるのだろうか
馬鹿馬鹿しくも…期待をして良いのだろうか

意識が急激に薄れていく
最後の最後に浮かんだのは、やはり最後にして最高の相方の姿だった


 岩見……

 俺も…お前とコンビ組めて……よかった…


唇が小さく、小さくそう言いきると同時に
藤井宏和の人生は終わりを告げた

その表情は、とても安らかだった


【藤井宏和(飛石連休) 死亡】
87 :65@太田さん、サモハンキンポー今晩は。 :02/09/16 23:39 
>77
快いお返事ありがとうございます。
ではさっそく>5-660の田中編&>4-49の名倉編の続き。
この話が本編に続くかどうかはその後の書き手さんに全てお任せします。


「あ、潤こんなとこにいたのかよ」
田中は名倉が休んでいる洞窟に迷い込んだ。
「いたんも何もないわ、太田はどこ行ったんや太田は」
何でこんな所に迷いこんでんのやと名倉は返事をした。
「……泰造のせいで死んじまったのに良くそんな事言えんな」
苦虫をかみつぶした顔で田中は言った。
「それを言ったらこっちも一緒や」
泰造も太田に殺されていわば相打ちだからあいこだと名倉も返事をした。
「潤、俺は光、お前は泰造と健死んじまったけどよ、お前はもし生きて帰って
来れたらどうするつもりよ」
どうするんだと田中は名倉の顔を見ながら言った。
「──分からへんわ、田中はどうするん」
その時にならへんと。
名倉は田中の顔を見返した。
88 :65@太田さん、サモハンキンポー今晩は。 :02/09/16 23:41 
その時にならへんと。
名倉は田中の顔を見返した。
「昔みてえにコンビニレジ打ちでもすっかなあ、お前もツッコミだから相方い
ねえとどうもならねえだろ」
田中の返事に名倉は少し考え込んだ。
「それを考えたらそうやな、ネプにしたって泰造に頼み込まれて来たんやし、
その辺考えつかへんわ」
考えさせてくれる。
 名倉は勿論生きて帰るつもりでいたが、その後自分がどうするかは田中に言
われるまで考えてもいなかった。
「あだだだだだ」
田中は頭を抱え込んだ。
89 :65@太田さん、サモハンキンポー今晩は。 :02/09/16 23:43 
「何や一体」
名倉は一体なんやと田中を見ていると、起き上がった田中は相方の太田の鋭い
目線で名倉を見た。
「潤、おめえは俺が『日本一のツッコミ』と思う男だかんな、こいつは俺がい
ねえと箸にも棒にも掛かんねえからともかく、おめえは生きて帰って来れたら
誰か相方見つけれ」
そしたらあの世から見てっからよ。
明らかに太田の口調で田中は言うと、名倉はあっけに取られた顔をした。
「俺はこれ以上しゃしゃり出る気はなかったけどよ、こいつがお前に会ったか
らつい出て来ちまったんだわ」
ボキャブラの時はお前に世話になった所もあっからよ。
田中はその後で嬉しそうな顔をしたが、
「あだだだだ、一体今なんなのよ」
はー。
ため息を付いていつもの口調で続けて言った。
90 :65@太田さん、サモハンキンポー今晩は。 :02/09/16 23:46 
「さあわからへんわ」
 今までの事を田中は知らない方がいいと思った名倉は分からない振りをした
が、まだ言い足りないことがあったのか田中は、
「あー、このバカ元に出しゃばんなっつーの」
 太田の口調で言った。
「相変わらずやな」
 名倉はそう言いながら、生きていた時のやりとりそのまんまやと思った。
「この世にいた時は本とお前には世話になったな。それとよ、こいつにはお前
の守護霊にはなれねえってカッコ付けたんだけどよ、この世にいた時に将門塚
の石碑けっ飛ばしたのとこのバトルで何人か俺殺してるからそのペナルティな
くなるまであの世に上げらんねえとかあの世で言われちまってな、結局これが
無くなるまでこいつの背後霊化してんのはみっともねえから誰にも絶対に言う
んじゃねえぞ」
──じゃあな。
太田の口調で全てを言い終えた田中は、満足げに目を閉じた。
91 :65@太田さん、サモハンキンポー今晩は。 :02/09/16 23:50 
「こんな話、信じられへんから誰にも言えんわ」
泰造の話聞いた時もあれやけど、どうして俺にこんなの回って来るやろ。
ネプチューンの中でも年かさであり、かつ一番の常識人である名倉にはこのバ
トルが始まってからの出来事が未だに現実味を持てない部分が多々あったが、
それが全て現実かと思わず名倉がため息を付いたその時、再び目を開けた田中
は、 
「しっかし何よこれ。今もズキズキ頭痛くなった後で一瞬喋れたと思ったらま
た喋れねえし、さっきはさっきで目の前が眩しいからって手で避けようとした
だけなのによ、気が付いたらふかわが俺の目の前半泣きで逃げてっし、何よこ
れ」
すぐにいつもの口調で名倉に言った。
「太田にでも守られてんやないの」
名倉は呆れ顔をした。
「んな事ねえだろ、とおの昔に光は死んじまったんだからよ」
田中はんな訳ねえだろうと言い終えた後、五番六番が田中を呼ぶ声がしたので、
「じゃ悪い潤、五番六番が探しに来てくれたみてえだから俺戻るわ」
その声を頼りに田中は彼らのいる所へ戻って行った。
「相変わらず鈍いやつやな」
名倉は田中が仲間の元に戻って行った後、独り言を──呟いた。
95 :勝手に新規参入@81 :02/09/17 03:12 
勝手に書いちゃったんですけど、つじつま合わなかったら
あぼーんしてください。

時間的には18KIN大滝とノンバスが合流してからノンバスが松口に殺される間。
ノンキーズ山崎が坂本ちゃんに殺された後、って感じです。
96 :勝手に新規参入@81 :02/09/17 03:14 
「やめろって言ってんだろ!」
升野や日村に別れを告げてから半日。
あてもなく山中を歩き続け、目の前に急な岩場が現れた、その時だった。


その声には聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えなんてものではない。
何度も同じ舞台を踏んだ事務所の先輩、桑原の声に違いない。
「桑原さん?」
西条も気づいたのか、顔を上げて呼びかけた。
「もう生きてたってしょうがないんだよ!ほっといてくれよ!」
「お前の相方はそんなこと望んでねぇよ!」
こちらの呼びかけにはまったく気づく様子はなく、
桑原は誰かと言い争っている。
「どこだろう?」
雨宮がきょろきょろと周りを見回す。
聞こえてくる声の大きさから言って、かなり近くにいるはずなのだが
言い争う二人の姿はまったく見えない。
97 :勝手に新規参入@81 :02/09/17 03:15 
「おー・・・」
おーい、と呼びかけようとした雨宮の口元を大滝は手のひらで封じた。
大声を出せば誰に見つかるかわからない。
いや、すでにこの言い争う声を聞きつけた誰かが
こっちへ向かっているかもしれない。
早く二人を見つけて言い争いをやめさせなければ
こちらの身にも危険が降りかかりかねない。

大滝が慎重に声の方向を聞き分けていると、急にピタリと声が止んだ。
その代わり、うっ・・うっ・・と嗚咽を漏らす声と
その横でぼそぼそと慰めるような、おさえた声が聞こえてきた。
同じように耳をすませていた西条が、岩場の片隅を指差して
こっち、と二人にジェスチャーで伝えた。
98 :勝手に新規参入@81 :02/09/17 03:15 
切り立った岩場の裾、濃い緑色の葉をびっしりと貼り付けた繁みの陰に
西条がひょいっと顔を突っ込んだ
「桑原さん?」と小声で声をかける。
大滝は拳銃を構え自分達の後ろを見張りながら、返事を待った。
数秒の沈黙の後、カチャリと銃を構える音。
「・・・誰だ?」
殺気のこもった桑原の声。
ふるえていると思うのは気のせいだろうか?
「西条です。ノンストップバスの。相方と大滝さんもいます。」
「大滝?」
桑原の声がトーンを上げた。
西条は後ろで見張る大滝の袖をひっぱり、代わるよう目で合図した。
大滝は西条がしていたように繁みの陰に頭を入れた。
そこには人工的に削ったと見える空洞が、奥へと続いていた。
入り口にはしめ縄が張られ、ぼろぼろになった紙垂には
誰かの血液と思しきシミが黒くにじんでいた。
「桑原さん、俺です。」
空洞の奥の暗闇に声をかける。
「大滝・・・無事だったか・・・」
明らかに安堵の混じった声。
「ちょっと今、手が離せないんだ。入ってこいよ。」
大滝は後ろを振り返り、様子を伺う雨宮にこの場で待つよう手振りで伝えると
腰をかがめて空洞へと足を踏み入れた。

99 :勝手に新規参入@81 :02/09/17 03:16 
ゆるやかなカーブを描く壁伝いに手探りで暗闇の奥へ歩を進めると、
薄明かりの中にしゃがみこむ二つの人影が現れた。
「桑原さん?」
左側の影が明かりをかざした。
明らかに憔悴した桑原の顔が浮かび上がる。
「大滝!」
「桑原さん・・・そっちの人は・・・?」
大滝は桑原の隣にしゃがみこむ人影に視線を移した。
彼は大滝が入ってきたのにも関わらず、顔を上げようとさえしない。
「白川だよ、ノンキーズの。」
「ああ・・・。」
親しくはなかったが、顔と名前くらいは知っていた。
「どうかしたんですか?手が離せないって・・」
よく見れば言葉どおり、桑原の片手は白川の両腕をまとめてつかんでいる。
「どうもこうもねぇよ。ちょっと目ぇ離すと死のうとするんだよコイツ。」
「そりゃまたどうして・・・」
大滝の問いに桑原は顔を少ししかめ、白川越しに壁際を照らして見せた。

100 :勝手に新規参入@81 :02/09/17 03:17 
そこには、上半身に上着をかけられた遺体が置かれていた。
丁寧に胸の上で手を組ませてある。
「それは・・・?」
別段動じることもなく大滝は尋ねた。
「山崎。」
桑原は忌々しそうに答えた。
「俺のこと庇ってやられた。・・・バカだよ。」
白川の相方であり桑原の友人である彼は、大滝の頭の片隅で
コンビ名そのままの「ノンキ」な笑顔で記憶されていた。
(コンビ名の意味は実際のところ違うのだが、大滝はそれを知らない。)
「もういいんだよ・・・」
それまで黙りこくっていた白川が、俯いたまま搾り出すように声を発した。
「コイツ死んじゃったし、どうせ生きて帰れるわけねーんだからさ」
死なせてよ・・・と、彼は再びしゃくり上げ始めた。
山崎が自分を守って死んだと言う負い目があるのだろう桑原は
唇を噛みしめ、悔しさと悲しさの入り混じった目で
俯いている白川の後頭部を見つめている。
大滝は何も言わずその光景を遠いもののように見ていた。

大滝には、ここで果たさなければならない使命がある。
それは大滝にわずかに残された誠意かもしれなかった。
110 :名梨@初参加です :02/09/18 16:51 
>>50
一方、黒澤は暗い倉庫の中に身を潜めていた。
体中泥だらけで両手でしっかりと拳銃を構えている。
しかし、その手は震えていた。
(絶対死ぬのはイヤ…これでも無人島で生活してきたんだから…
 死にたくない、死にたくない、死にたくない……)

その時、誰かの足音が聞こえてきた。
だんだんその音はこちらに近づいてくるようだった。
黒澤の胸の鼓動は一気に速まる。
息を殺しながら倉庫の入り口の方を見ると、そこには次長課長・河本がいた。
112 :名梨@初参加です :02/09/18 17:12 
>>110
河本の方はこちらには気付いてないようだ。
黒澤はじっと山積みにされたダンボールの影から河本の様子をうかがう。
「くそっ…聡…なんで自殺なんかすんねん!!アホォ!!」
いきなり河本は空を見上げ、叫んだ。
(…井上さん…死んだんだ…)
よく見ると河本の目からは一筋の涙が流れている。
すると河本はフラッと倉庫の中に入ってきた。
「!」
黒澤の体は硬直した。
(どうしよう…もし見つかったら…。殺さなきゃ、そうしないと殺される…!)

「河本さん。」
黒澤は自らダンボールの影から河本の前へ進み出た。
113 :隊員名無し :02/09/18 18:01 
>3スレ目の649

「キムー」
「はい」
「その、廃校?まであとどんくらいなん?」
「ちょお待って下さい、地図見ますわ」
 松本の言葉を受け、木村がポケットから几帳面に折り畳まれた地図を出した。
持っていたコンパスと道順を照らし合わせる。
「っと…4〜5キロですかね、直線距離で」
「ほなここらで一服しようやぁ。そないよう歩かれへんわ。年やし」
「年て…兄やん、俺の一個下やないすか。実質」
「うっさいボケ、儂ゃか弱いんじゃ。それはもうマリモのごとく。淡水で飼え!」
「…何ですのそれは」
「とにかく、休む」
 大きめの岩にどっかと腰を下ろし煙草を取り出す松本を見て、
木村の険しかった表情がふっと緩んだ。
苦笑しつつ、構えていた日本刀を下ろして松本の隣に腰掛ける。
田中もその場に崩れるようにへたり込んだ。
半日以上、ろくに舗装もされていない道を歩き続けたせいで、
正直、下半身が限界に来ていたのだ。
かくかくと細かく踊る膝に、日頃の運動不足を実感する。
「あー…、もう殆ど無いやーん…」
 煙草の箱を覗き込み、苦々しげに舌打つ松本。
そんな彼の姿がこの状況に置かれて尚、普段通り日常を踏襲していたので。
田中はまたほんの少しだけ、安堵した。

114 :隊員名無し :02/09/18 18:02 
 松本の燻らす煙草の紫煙が、ゆらゆらと空に溶ける。
田中はそれをぼんやり眺めながら、最後かも知れない休息を身体で貪っていた。
皆、疲労しているのだろう。会話は無い。
木村も、時々周囲に気を配りつつ、やはり黙って項垂れていた。
じいじいと蝉の合唱が蒸し暑い空気を裂く。
一週間しか生きられない蝉。
ただひたすらその存在を誇示するよう鳴き続けて。
その儚さが、俄な現実味を帯びて心の奥底をちくちく突き刺す。
…こんな事になるまでは、鬱陶しいとすら思っていたのに。
「…俺は」
「はい?」
 その時、唐突に松本が口を開いた。
木村と同時に顔を上げ、視線を向ける。
「俺はなあ、自分の事だけで手一杯や。昔たけしさん言うてたみたいに
下のモン身体張って守るとかー…そういうん、絶対無理。約束もでけへん」
「腕相撲最弱ですしね」
「うっさいわ。それに男なん守ってもイマイチ…達成感ちうか、
満足感がないやん?それやった子犬助けてバイク引かれた方がなんぼかマシや」
「酷っ」
「せやから、お前らも…自分の事だけ考えろ。自分が生きる事だけ考えろ。
他人より自分の命やぞ。それが何より最優先や。
このくそ下らんゲームに飲み込まれんな。…お前らだけでも」
115 :隊員名無し :02/09/18 18:03 
 そう言って、松本はすっかり短くなった煙草を投げ捨てた。
木村は一拍置いて、はい、と小さく笑った。
田中は何も言わず、黙って視線を下に落とした。

 そんな事を言っても、世間のイメージよりも本当はずっと、損なくらい優しい松本は
僕達3人が皆生きて帰る為に、最大限の努力をするのだろう。
そして、木村はそんな松本を、…助けなくていいと釘を刺されていても
やはり身体を張って守るのだろう。

…僕は?

僕は、何ができる?

「あー、鍋、鍋食べたいわあー…もつ鍋」
「ええですねえ、もつ」
「もうこんなんちゃっちゃと終わらして、帰って鍋しようやあ。
キムんち鍋あったよな?土鍋」
「作りましょかー。あ、でも本場福岡に食べに行くのもまた」
「博多かぁー…ちょお面倒やなそれは」
「ピロシキ食いにロシアまで行った人が何言いまんの」
「あはははは、まあまあそんな事もあったけども」

 松本と木村の会話を何処か遠くに聞きつつ、田中は空を見上げた。
嫌になる程青く澄んだ空に、もう居ない相方が滲んで見えた。

138 :用無し始末屋 :02/09/19 20:32 
ハリガネロック引き継がせていただきます。

vol.5 の>>58
大上と別れ、右側の道を歩き始めてから三十分が経っていた。
あちらこちらに屍体が転がり腐臭や弾薬の臭いが漂う道は、
どれだけ歩いても松口を街へと導く気は無いらしく、ひたすら気分を滅入らせしかしない。
「もう、戻らなあかんな。」
信頼できる相手ならば、大人数で行動する方が安全に決まっている。
けれども、松口はわざわざ大上との別行動を選んだ。
おかしいんや、俺。
松口は気付いていた。
何度も記憶が飛び、その前後には感情がコントロールできない。
残されたのは死体と相方の心配そうな顔。
確実に、自分はこの馬鹿げたゲームのせいで、どこかおかしくなってきている。
『お前は誰か、殺したんか?』
今田の問いに自信を持って答えられなかった。
おそらく、自分は記憶のない空白の時間に人を殺した。
それでも、迷いなく自分を信じて頷いてくれた大上。
その、たった一人の相方も殺してしまうのではないか。
自分が信じられなかった。
海岸へと引き返す足取りは重く、松口の曇る気持に比例するように、
見上げた空は苛立だしいほど青かった。

143 :名無しさん@書き手見習い :02/09/19 23:22 
♪〜♪〜♪〜

枕元で電子音が鳴り響いている。
お気に入りの着メロだけれども、眠りを侵害されたことで
覚めきらない頭が軽く苛立ちを覚えた。
この着メロは相方かマネージャーだ。
こんな時間に仕事の連絡?
部屋の中はまだ薄暗く、携帯に手をのばしながらチラリと
見た時計の針は5時半を指していた。

「何やねんな、こんな早よから」
画面に映し出された名前は相方、長田のものだったから
不機嫌さを隠す気もない。

『安田?!何やねんやあらへんわ!テレビ!テレビ見ろ!!』
「はァ?!」
『ええから、早く!大変なんや!!』

144 :名無しさん@書き手見習い :02/09/19 23:23 
こんな時間に電話してきてテレビを見ろとは。
これでくだらんもんしか映ってなかったら今度シメたろ。
渋々と起き上がり、薄闇の中部屋を移動する。
「ほんま何なんよ?」
移動しながら、家族を起こさないよう小声でたずねる。
『もう…何て説明していいかわからん…』
「は?何泣いてるんオマエ…」
尋常でない彼の様子に、部屋の電気よりも先にテレビの電源を入れた。

【…というわけでして、昨日1日かけて全国の芸人たちが一挙に会場に集められ
現在は首輪の装着などの準備が進められている、とのことです。
ゲームの開始は今晩6時。それでは、会場の上空からのリポートが入っています。
会場上空の、高島さーん?】

芸人集めて大運動会でもやるんやろか。
「これがどないしてん。」
『わからんのか?!』
「わからんのかって言われても」
その時テレビから聞こえてきた言葉に、一瞬にして体が総毛立つのがわかった。
【これからこの島で、芸人同士の殺し合いが行われるわけです!】
は?
【そもそもこれは犯罪者に適用されるBR法を・・・】
BR法は中学んときに習ったな。
【国を上げての一大エンターテイメントということで・・・】
エンターテイメント?
【何と言っても参加者全員が芸人と言うことで、
どれだけおもしろおかしい殺し合いを見せてもらえるか
国中の期待が集まっています!】
145 :名無しさん@書き手見習い :02/09/19 23:24 
「何っやねん、コレ!!」
悪フザケにも程があるやろ。
乱暴にチャンネルを変える。
でも、どのチャンネルに回しても話題はそればかりだった。
【賭けに乗ってみようという視聴者の皆さんは、全国の銀行やコンビニからお申し込みが…】
【現在のオッズは…】
【当局ではEメールやFAXで応援メッセージを募集しております…】
【首相は今朝未明の会見で…】

悪い夢を見てるみたいだ。
芸人全員による殺し合い?
吉本の先輩たちぜーんぶ、これから殺し合いさせられるんか?
オレらは?
オレらかて芸人やんか。
何でこんなとこでのほほんとテレビなんか見てられんねん。

146 :名無しさん@書き手見習い :02/09/19 23:25 
「おい、これから大阪行くから、オマエも学校休め」
『どうするつもりやねん』
「マネージャーでも誰でもいいから吉本の人間に会って
どーゆーことなんか聞くんや」
『でもこれ吉本主催やないで』
大阪に行って、吉本の社員を問い詰めたところで
どうにもならないことは分かりきってる。
でも!
何にもせぇへんで見てろって言うんか?
せんべい齧りながら、茶の間で。
大事な人たちが殺しあって死んでいくのを。
ただ、見てろって言うんか?!
オレはそんなんイヤや!!

「着いたら連絡するわ」
それだけ言って電話を切った。
忌々しく騒ぎ立てるテレビの電源も切って、立ち上がる。

今までかわいがってくれた先輩たちの顔や
よく遊んだ年上だけど後輩な人たちの顔が
次から次へと頭に浮かんだ。

147 :名無しさん@書き手見習い :02/09/19 23:26 
取るものもとりあえず、家を出る。
走りながら見た町並みが、いつもと変わらぬ朝日を反射して
神々しく輝いていた。

どうか、どうか死なないで。

カバンにつけたお守りを力いっぱい握り締めた。



【ゲーム開始まであと12時間】



長くなってスミマセン;
後日、後半書かせていただきたいと思ってます。






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