5 :小蠅 :03/01/23 17:24 
スレ6 >>871-873 の続き

十数回目の挑戦で、ようやく車のエンジンが動き出す。
バッテリーを新品と交換し、ガソリンやオイルを詰めたとはいえ、
それを行ったのは整備士でなく素人、しかもこの車は元々廃車だったのだ。
何とか動くだけまだ幸いと思わないといけないだろう。

「どこに行くん。」
後部座席に一人放り込まれた村田は、ボソッと助手席の桶田に問う。

「まずはちょっとだけ、ドライブや。」
律儀にシートベルトを締める松丘を、横目でチラと見やりながら。
桶田は座り心地の悪いシートに身体を沈め、軽い口調で村田に答える。

「・・・答えになってへんぞ。」
納得がいかず、詳しく説明を求めようとバックミラー越しに桶田を睨み付ける村田を。
「じゃ、行こう。まず、そこを右に曲がって。」
当の桶田はまったく相手にせず、隣の松丘に指示を出した。

「・・・・・・・・・。」
無言のまま松丘は小さく頷いて、アクセルを踏み込む。
ギシッと軋む音を一度上げ、それからゆっくりと車は動き出した。
6 :小蠅 :03/01/23 17:25 
>>5

さすがは文明の利器、だろうか。
30分も経たない内に、3人を乗せた車は島の中央よりは北寄りにある山の中腹にある、
一軒の畜産家の裏口へと辿り着いていた。

道中の途中、何人かの芸人の姿も見たけれど。
時速ン10kmで走る車に即座に攻撃を仕掛けてこられる奴などいない。
何なら轢いちゃっても良いんだけどな、とどこか他人事のように桶田は言っていたが。
幸か不幸かそのような事態にも陥る事もなかった。

早速何かの作業をするために車を出て行った桶田と松丘に対し、
周囲に漂う独特の臭いと、車の中に居るという安堵からの空腹で、村田は外に出る気にもならず
二人の作業が終わるまで車の後部座席で眠っていようとしたが。
不器用そうに作業用の一輪車で黒い乾いた物体を運んできた松丘が、村田の側の窓をガンガン叩いて
それすらも村田に許さない。

「何やの。」
「これを車中に詰めぇて・・・桶田さんが。」
ドアを開け、顔を外に出して。
明らかに不機嫌が露骨に声色に現れている、その口調で問いかける村田に。
松丘は虚ろな表情のまま、ぽつりとそう答えた。
「車中に・・・?」

「はい。運転席以外の場所に・・・トランクにも、入るだけ詰めぇと。」
当然の話であるが、松丘の運んできた分だけで早々車内は黒い物体に埋まる物ではない。
ならば、どこかにこの黒い物が車を埋められるほどに大量にある、という事だろうか。
そう思って村田が松丘に訊ねてみると。

「・・・ええ。」
こくりと松丘は頷いて、村田の場所からは母屋の関係で死角になる、その向こうの。
サイロの下にこの黒い物が山のように積み上げてあるのだ、と村田に説明した。
7 :小蠅 :03/01/23 17:29 
>>6

「言っただろ、仕込みが終わったって。」
ここはいつの間に、と言えばいいのか何のために、と言えばいいのか。
数秒ほど思案する村田の耳に、ふとそんな声が聞こえて。
村田は声の主・・・桶田が何かを片手から下げながら近づいてきていた事に気づいた。

「それをみんなこの車に積んで・・・松丘にある場所まで運んで貰う。それで、大体上手く行く。」
薄く笑いながら桶田はそう言って。だから、悪いがその車から出てくれと続ける。

その桶田の言葉に、何とも言えない違和感と気味の悪さを感じながらも。
だからといって村田は何も答えることが出来ず、素直に従って車から降りた。
そして気づく。
桶田がその手からぶら下げていたのは、一羽の首のない鶏。
切断面からは赤い血がぼたぼたと地面へと滴り落ちている。

その瞬間、村田は露骨に厭な顔をしてしまったのだろう。
桶田は浮かべていた笑みを呆れたような表情に変えた。

「どうしたんだよ、これはメシだ。鶏を喰うには殺して・・・さばかないと駄目だろ?」
「そりゃ・・・そうやけど。」
桶田の、その言葉は決して間違ってはいない。
理屈としては村田も理解できる。でも。

・・・何か、変や。
それが何に繋がるのかさえ疑問に感じることもなく、自分が退いた事によって生まれた空間に
早速黒い物体をモタモタと詰め始める松丘の、生気のない横顔を視界の端に留めながら。
村田はその内側に、桶田を起因とする得体の知れない不安が湧き出してきたのを確かに感じていた。
8 :小蠅 :03/01/23 17:32 
>>7

「そぉか。じゃ、終わったら呼んでや。俺ちょっと・・・辺り、見て回ってくるから。」

・・・このままあいつと一緒におったら訳の分からない事を口走ってしまうかも知れへん。
ここはとりあえず、冷静になろう。そして、どうすれば良いのかゆっくりと考えよう。

「大丈夫。そんな遠出はせんし、危なそうなトコも行かへんから。」

村田はそう言うと、二人・・・いや、桶田の返事を待たずに背を向けて、走り出していた。
16 :K2 :03/01/25 21:27 
陣内、引き継がせて頂きます。

前スレ>>536の続き。

「ああもう、またかいな・・・」
仲の良かった芸人が、また一人。
陣内の目の前で死んだ。
目の前に、頭から血を流して山下が倒れている。
(コバん時とおんなじやな)
何度頼りにしないと決めても、やっぱりそこに行き着いてしまう自分のヘタレ具合に、少し笑う。
少し笑って、こんな状況でも笑える自分に気がついて、また笑う。
しばらくの間、陣内はずっと笑っていた。
(なんでこんなテンション上がってんねやろ、俺)
あんなにたくさん、目の前で死んだのに。
あんなにたくさんの人間がいて、一人も守れなかったのに。
自分だけは、のうのうと生きていて。

「ごめんなさい」

この期におよんで何を言うてんねん、と
自分の甘さに、陣内はまた、笑った。



17 :K2 :03/01/25 21:49 
すいません!前スレじゃなくてスレ5の536です。
>>16
ひとしきり笑うと、陣内はゆっくり立ち上がった。
もう、何が出来るかなんて考えてもしょうがない。
考えたところで、結局何も出来へんやないか。誰も助けられへんやないか。

助けられないなら、壊してしまえばいい。
誰も死なないように、このアホらしいゲームを終わらせてしまえばいい。

陣内は、ひとつ息を吐いて、南に向かって歩き出した。

少し歩いたところで、さっき麒麟・川島を殺した場所に出た。
川島の死体。竹若の死体。渡辺の、Jrの死体。
ほんの十分ほど前の惨状が、遠い昔の出来事のように思える。
「すんません、俺、なんも出来ませんでしたわ。後で絶対埋め合わせするんで、もうちょっと
待ってて下さい」
もちろん、返事をする者はいない。
死体に向かって、陣内は静かに手を合わせた。

そのとき、
何かがきらりと光を反射した。
近づいてみると、それは川島のもっていた刀だった。
陣内は、引き寄せられるように、その刀を手に取る。


頭の中で、誰かの囁く声がした――――。




24 :奥様は社長 ◆XVUp.wHBSo :03/01/26 23:01 
島では真剣にバトロアやってるというのに、お茶菓子まで出てこのノリ
は…(汗)。

前スレ>859から。

「お邪魔します」
 長井の妻がお茶菓子持参で光代と夏美のいる居間に入って来た。
「学生時代の友達が送ってきてくれた、六花亭のレーズンバターサンド、
紅茶にはちょっとくどいので合わないかもですが、コーヒーか何かと一
緒に食べませんか」
「レーズンバターサンドね、後数分したら事務所の子が来るからその時
に食べましょう」
 お湯は沸いているからと静かに光代は言った。
「何夏美ちゃん顔引きつらせているの? 」
 夏美の左横に座った長井の妻は言った。
「裕ちゃんのバカー! 裕ちゃんね、レーズンバターサンド独り占めし
て私にあんまりりくれなかったの」
 どうやらその様子から察するに、田中が差し入れにもらって来た六花
亭のレーズンバターサンドを独り占めして数枚程度しか自分に渡さなかっ
たのを思い出したようだ。
 らしいというか何というか……。
 光代と長井の妻は顔を見合わせて納得とため息を付いた。
「ごめんくださーい! 」
 事務員の声がした。
「はーい、あがんなさい」
 光代が返事をすると、その声通りに彼女は玄関から居間に上がった。
25 :奥様は社長 ◆XVUp.wHBSo :03/01/26 23:12 
「すみません、お邪魔します」
「いえいいのよ、気にしないで」
「あ、社長。沸かしたお茶どうしますか」
「じゃ夏美ちゃん、お茶入れて」
 それぞれ座りたい場所に座る位置をずらして床に座り、お茶を飲みな
がら話をしましょうと光代が棚の中にしまっていた紅茶を夏美が棚から
出してお茶を入れた。
「で、社長。話とは」
 コーヒーを運んできた夏美からコーヒーを受け取った事務員が向かい
に座っている光代に話を切りだした。
「ねえ、単刀直入にいうとね。このバトロア潰そうかと思ってるんだけ
ど、手伝ってもらえないかしら」
 はあ? 
 光代からおおよその内容を聞いていた美奈子はまだ冷静だったが、
はっきりと本題を聞いていなかった夏美と事務員はお互いの顔を見合わ
せた。
「女の私達だから、出来る事もあるでしょう」
 光代は静かに言った。
「確かに私達は、社長にはお世話になっています、お役に立てるなら立
ちたいです。けど今やっている芸人バトルロワイヤルは政府の発表によ
ると国家で制定されているBL法の扱いですし、一体どこから手を付け
れば……」
「そうですよ、社長。あれを潰すのはまさに国家に楯突くような物なん
ですよ、失敗したら、刑務所に確実に入れられちゃいますし、下手した
ら本当に命失いかねないんですよ、本当にやるんですか」
 事務員と夏美は本当にやるんですか。と、光代に聞いた。
「由香里ちゃん、夏美ちゃん。言おうとしていることは確かに分かるわ。
私だって自分は確かに可愛いもの、だけどね、誰かがやらなければこれ
は終わらないし、これが終わって最後の1人が決まっても、BL法が続
く限りはまた繰り返されるから、また同じ苦しみを味わう人が増えるの
はもう私は嫌なの」
 光代は言った後で、この場にいる3人を見た。
26 :奥様は社長 ◆XVUp.wHBSo :03/01/26 23:15 
「社長、すみませんと共に聞きたいのですが、長井の携帯に残っている
連絡先携帯見つけられなかったので、あの人のことだから住所録もない
し、取り合えず年賀状の今年の残してあった全員分、持ってきたんです
が、あれは何でですか」
 美奈子は光代に聞いた。
「それはね、その芸人の奥さんいる人だけに連絡取ってバトルロアイヤ
ルに反対なのかどうか、その連絡先の電話を調べ上げて確認取って欲し
いの」
 夏美ちゃんにも似たようなこと言ったけど、そう言う事よ。
 返事をした光代は、美奈子と夏美の2人を見た。
「それなら私達でも出来ます。そして、最終的にはどうするんですか社
長」
「流れ的にはこうね」
 少しずつ言葉を切り出すつもりで光代はこの場にいる他の3人を見て
から話の続きをし始めた。
「期日は1週間後までに連絡取れる芸人の妻のみでどれだけ集まるかそ
の集まり具合を確認して、更にそれまでにピーちゃんがお世話になって
いた出版社に最終的に仕上げとしてやるつもりの国会議事堂に入っての
デモ記事掲載、どの出版社がデモ記事関係に関してはOKくれるか分か
らないし、もしそれで数社からデモ記事掲載取れたとしても、デモ記事
掲載された雑誌が発売されるまで日にちは約1ヶ月と見て、更に1週間
位掲載から実際のデモにかかる日にちを計算して、どの位一般市民が集
まるか分からないけれど──やってみるしかないわね」
 大まかな流れを説明し終えた後、光代は喉が渇いたからとコーヒーを
一息で飲んだ。
「どれ位、人が集まるのががポイントですね」
 夏美は光代の顔を見直した。
「まあ、他力本願の所もあるでしょうけども、出版社がこの辺りの鍵ね。
後、出来るんだったらネット系の新聞にも記事掲載お願いしましょう」
 出版社とネット系のデモ掲載記事のお願いはあなた──出来るわよね。
 確認の為に光代は事務員に言った。
27 :奥様は社長 ◆XVUp.wHBSo :03/01/26 23:17 
「ネット系のデモ記事掲載と、雑誌社へのデモ記事掲載のお願いはあら
かじめそれぞれ文面のテンプレートさえ作っておけば、会社名をそれぞ
れ変えてBCCでまとめ送りすれば何とかなるんで、ネット系の新聞社
のメールアドレスなら私も調べることが出来ますんでそれで良かったで
すか、社長」
 社長の話を聞いて、今自分が出来る所はここまでですが。
 事務員は光代を見た。
28 :奥様は社長 ◆XVUp.wHBSo :03/01/26 23:23 
えーっと、長井の奥さんの美奈子さんに関しては、ファンサイト系で見たの
をネタ帳コピペしている内に思い出してしまったんでそのまま気付いた時点
で直しましたのと、後事務員さんの名前に関しては出ていないので勝手に名
前付けさせていただいてますゴメソ。

では…ミス晒しまくったまま逝って来ます。
41 :蟹座 :03/01/27 18:01 
>>900の続き

 内村が階段を駆け上がると短い廊下に出た。
 奥の部屋から出てきた大男と出合い頭にぶつかりそうになる。
 途端、白刃が煌めき、内村はとっさに後ろへのけ反った。
 前髪の一部が舞い落ち、額には微かな痛み――。
 
 男は日本刀を手にしたグレート義太夫だった。
 
 狭い廊下でじりじりと間を取りながら互いに睨みあう。
 義太夫が剣道の有段者なのを内村は思い出していた。
 冷や汗が背中を伝う。
 自分も剣道の経験はいくらかあったが、腕が違う。おまけに今は丸腰。
こちらに分がないことは明白だった。最初の一撃をかわすことが出来れば
勝機はある。出来なければ負け。おそらく勝負は一瞬で方が付く。
 全身全霊。
 相手のいかなる動きも見逃すことがないよう感覚を研ぎ澄ませる。
 ――と、
 微かに耳鳴りがした。
 次いで細かい振動、ゆらりと眩暈のように揺れる感覚。地震だ、
 と気付いた刹那、

 義太夫が動いた。

42 :蟹座 :03/01/27 18:02 
>>41
 気合いと共に咽喉元目掛けて突っ込んでくる義太夫を、
 紙一重で右へかわす。
 完全に除けきれず切っ先が左の頬と耳をかすったが、
 そのまま右手で相手の腕を押さえ込み、左で咽喉を思いきり突いた。
 咳き込み、刀を取り落としたところへ
 今度は背後から膝裏と背中に強烈な二段蹴りを入れる。
 義太夫は突き当たりの壁に激突すると反動でよろめき、
 そのまま階段を転がり落ちていった。
 相手にもう起き上がってくる気配がないのを確かめると、内村は
北側の窓から刀を捨てる。
 気が付くと先ほどの揺れはもうおさまっていた。
 地鳴りのような微かな音が続いているような気もしたが、それは
まだ興奮している自分の身体のせいなのかもしれなかった。

 2階の部屋を慎重に調べ、
 ビートたけしがいないことを確認してから内村は3階に続く階段
へと向かった。


53 :名無しさん@外の世界 :03/01/28 21:56 
新喜劇での収入なんてものは些細な物だ
小薮の生活費はほとんどバイトからの物である。
その中で大半を占めているのはこの「くらげBAR」でのバイトである。
たいしておいしくも無い料理と愛想の無いマスター
こんな店でも以前は仕事帰りの芸人達の溜まり場になっていた。
「古高、俺買出しに行ってくるわ」
そうマスターに告げ、小薮は外に出た。
外は薄暗く風が強かった。

ガサッ
突然、物陰から小さい影が飛び出てきた。
「誰や!」
返事はない。
小薮のコンビ時代の事を知ってちょっかいかけにきた素人か?
絡まれるのも厄介なのでその場を立ち去ろうとした。
「・・・・小薮さん・・・」
物陰から聞こえてきた声
「・・・・融季か?」
そこには小さな少年が二人、りあるキッズが座り込んでいた。
「おい、お前ら どうしたんや?こんな所で・・・」
「小薮さん・・・なにか食べさせてください・・・」
そういい残し二人は倒れた


56 :ヒマナスターズ :03/01/30 16:21 
覚えている方がいるかどうかは分かりませんが、
どうもお久しぶりでございます。
一度は引退するなどと言っておきながら、
このスレが恋しくなり、約半年ぶりに帰ってきてしまいました。
相変わらず本編とは絡まない話を延々ダラダラ書いていくことになると思いますので、
本編完結までのおつまみにでもして頂けたら幸いです。

今回の登場人物は、
マイマイカブリ(五十嵐/高橋)
ダブルブッキング(川元/黒田)
ビーム(今仁/吉野)
です。
ちなみに、今仁・川元・五十嵐・高橋は同居しているという
予備知識があったりするとより楽しめるかもしれません。
というかそのような前設定で書きます。

それでは参ります。
57 :ヒマナスターズ :03/01/30 16:21 

突きつけられた選択肢は二つだった。
狭い箱の中に閉じ込められていた時と同じ、
前にも後にも進めない状況に、彼はひとり置かれていた。
違っているのは、その二つが「出られるか出られないか」ではなくて
「掛けに出るか、今ここで死ぬか」だということ。
敵の息遣いはすぐ近くから聞こえている。
この藪の中に身を隠していられるのにも、限界が近付いていた。

何度読み返したか知れない、小さな包み紙の裏を
彼は改めて一読してみた。
基本的に人間は信用できるものではない、というのが彼の信念だった。
ましてやこんなものを信じることができるはずはない。
しかし、このまま何の行動を起こさずにいれば確実に息の根を止められてしまうことは、
平常心を失くしかけている今の彼にも充分に分かっていた。
「誰だ、そこにいるの」
生い茂った緑色の向こうで、低い声と足音とが響いた。
人影の手には鉄パイプが握られていて、こびりついた血痕が見え隠れしている。
事態は切迫していた。
「…一か八かだな」
彼は小声で呟いた。
そして、手から伝わる体温でべたつくその赤い飴玉を、一息で飲み込んだ。



58 :ヒマナスターズ :03/01/30 16:21 

「──そういうわけだから、何かあったら一か八かお前が戦ってみてよ。
誰がいつ襲ってくるか分かんないけどね」
「ちょっと、勝手に決めないで下さいよ」
「だって…こんな武器で俺どうやって戦えばいいのさ!」
半ば叫ぶようにそう言い放つと、五十嵐は緑色をした煙草の箱を今仁の目の前に突き出した。
肌荒れ気味の顔をより一層むくれさせながら、五十嵐は続けてまくし立てる。
「そもそも武器じゃないじゃん、こんなの。
吸いたくてもライターもないし、ほんっと何の役にも立たねえよ」
「そんなの俺のせいじゃないっすよ。
だいたい俺の武器だってこれですよ?俺は一昔前のダイエーファンかっつうの」
今仁の手に握られているのは、何の変哲もない生卵1パック。
どちらの”武器”も、この状況を生き抜いていけるような
攻撃力や防御力は皆無に近い。
なのに、ある種の開き直りか、それとも仲間と合流できた安心感からか、
二人は不思議と取り乱すこともなく、
普段と変わらぬどこか抜けたやり取りを延々と繰り広げていた。
「ちーがーうーの、お前の力技を頼りにしてんだって。
こういう時にこそいつもの蹴りを生かすべきじゃないの?
ね、攻撃されたら俺、適当に隠れるからさ。ちゃんと守ってね」
今仁の眼を覗き込んでくるのは満面の笑顔。
軽い口調で彼が押し付けてきているのはよく考えずともとんでもない要求なのだが、
先輩らしさの欠片もないような、人を頼り切ったその表情に
今仁はそれ以上反論する気力をすっかり奪われてしまった。

雑林の中、今のところ周囲に人の気配は無い。
どこか隠れることのできる場所を探して、二人は歩き回っていた。
59 :ヒマナスターズ :03/01/30 16:22 

「ねー今仁〜」
「何すか」
「お腹すいたー」
「……」
嫌な予感が当たった。
あからさまに迷惑そうな顔を向ける今仁だったが、
五十嵐はそれに構うそぶりすら見せない。
「ね〜その卵一個ちょうだい、一個位いいでしょ。
あ、でもそれって生?それともうでてあんの?」
「どう見たって未開封でしょうよ」
「生なんだ…でも別に気にしなくていいよ、何とかして食うし」
「……いや、別にあんたの心配してるんじゃないんですけど…」
「頼む!一個、一個でいいから!」
手を合わせて懇願してくる五十嵐の顔を、今仁は改めてまじまじと見た。
卵を武器に使おうという発想は、彼の頭には存在しないらしい。
単に意地汚いと言ってしまえばそれまでかもしれないが、
彼のそういう考え方が今仁は嫌いではなかった。
「じゃ、一個ですよ」
結局いつもこのパターンで押し切られている。
彼の押しにはなぜか弱い自分にため息をつく間もなく、
やった、ありがとー、というハイトーンの声が今仁の耳に届いた。
60 :ヒマナスターズ :03/01/30 16:22 

「どうやって食うつもりですか」
「ん、何か忘れたけど外国のお祭りであるじゃない、
卵の殻に穴開けて中身だけ抜いて飾るやつ。
あの方式でいけんじゃねえかなーと思ってさ…あれ、しゅっぱいしちゃった」
「”失敗”ね」
思いのほか大きく開いた殻の穴から、間髪を入れずに半透明の白身が流れ出てくる。
舌の回らなさに対する今仁のツッコミも聞こえているのかいないのか、
五十嵐は白身だらけになった両手で、かろうじて原形を留めている卵の下半分を抑えて
必死にその中身をすすり始めた。
不意に落ち込んできた妙な沈黙。
それまで続いていた会話が急に途切れたことで、一瞬隠れていた不安が顔を出しかけたが
隣で不定形な液体を相手に悪戦苦闘する五十嵐を何となしに傍観しているうち、
そのあまりにもプライドの無い姿に、今仁の頬はいつの間にか軽く緩んでいた。

「そういえばさ、吉野はどうしてんの?」
白身のまとわりついた細い指先を舐めながら、五十嵐は今仁を見上げて尋ねた。
突然相方の名前を出され、咄嗟に周囲を見渡す今仁。
心配ではないといえば嘘になる。
しかし、ゲーム開始以来一度も目にしていない彼の消息など
今仁には知る術もなかった。
「んー、分かんないっすね…俺らのだいぶ後に出たはずだから。
たぶん誰かと組んでるんじゃねえかな。
え、高橋さんはどうなんすか」
「あいつ?うーん、俺も分かんないけど、
たぶん誰か先輩に取り入ってお世話になってると思うよ。大竹さんとか三村さんとかね」
あいつそういうの上手いから、と小声で付け加えると、
残った白い殻を投げ捨てて、五十嵐は苦笑いした。
61 :ヒマナスターズ :03/01/30 16:23 

「誰かいねえかなー、大竹さんとか三村さんとか…」
散策を始めてから数時間。
その間に何度この言葉を口にしたかは、既に高橋自身にも分からなくなっていた。
「この際もう誰でもいいんだけどな、
強くて頼りがいがあって優しくて、あと食い物とかくれる人なら誰でも」
この状況の中で果たしてそんな人間がいるのかどうか、
いたとして出会えるのかどうなのかは甚だ疑問ではあったけれど、
ただ一つ支給された武器がマッチ一箱である彼は、
僅かな可能性を信じてひたすら歩き回る他なかった。
「ていうか、どこなんだここ」
立ち止まって辺りを見回すと、あり過ぎるほど見覚えのある景色が視界を埋める。
途端に、脚の重みがどっと増した気がした。
「…やっぱ同じとこぐるぐる回ってるっぽいな……
おっかしいな、なんで何回歩いてもここに来ちゃうんだ?」
幾度首を傾げてみても、原因も脱出方法も到底見つかりそうもない。
途方に暮れた高橋は、とりあえず先ほど進んだ方向とは少しズレた方角に
歩を進めようとして、ふと立ち止まった。


「……あ」


人間が転がっているのが見えた。
それが後輩の屍であることに彼が気付くまで、そう時間は掛からなかった。
62 :ヒマナスターズ :03/01/30 16:24 

仰向けに倒れていた身体には、
生きている人間には決して見られないような薄暗い陰が落ちていた。
かつての面影は残しつつも、
生気も血色も消え失せてしまっているその顔に、自然と声が掠れる。
「あつし…」


今までも何人かの芸人の死体を目にはしていたが、
その度に高橋は目を反らしてきた。
これだけ身近な立場の仲間の死体を、それも間近で見たのは初めてだった。
頭では理解していても、気持ちがついていかない。
軽い眩暈がした。
「……何だよ、もう殺されちゃったのか」
それ以上何も言えず、その場にいるのもいたたまれなくなって
高橋が立ち去ろうとした、その時だった。


生い茂った雑草の陰で、
何かが光ったのが目に入った。


それは飴玉だった。


63 :ヒマナスターズ :03/01/30 16:24 

「飴……?あつしが落としたのかな?」
引き込まれるようにして橙色の包装紙の端を摘み、拾い上げる。
いかにも駄菓子屋で売っていそうな、しごくありふれた物だったが
腹の虫が泣きっ放しだった高橋にとっては思わぬ収穫だった。
「…ひとまず毒とかは入ってなさそうだし、貰っちゃってもいっかな」
念のため包み紙を取ってくまなく観察し、不都合がないのを確認すると
高橋は躊躇することなくそれを口内に放り込んだ。
口から鼻にかけて一気に、人口的な柑橘系の香りが広がる。
久しぶりに戻って来た味覚は涙が出るほど嬉しかったけれど、
それでも、素直に顔を緩める気にはなれなかった。
「それにしてもあつし、なんで死んじゃったんだろうな…」
オレンジ味の硬い球体を舌の上で転がしながら、
高橋は外傷の全くない死体のことをぼんやりと思い返していた。
64 :ヒマナスターズ :03/01/30 16:25 

「あつしはなんで死んじゃったんだろう…」
吉野の頭からは、先ほど目にした仲間の死体の姿が未だ離れずにいた。
今でも鮮明に思い出すことのできる、
天を仰ぐ形で横たわっていた、傷一つついていない身体。
それは鮮血にまみれた屍よりもずっと不気味なものだった。

吉野には懸念があった。
あつしの露出した肌に見られた、ひとつの異常。
凝視しなければ気付かない程度のごく微かなものだったけれど、
それにはある恐ろしい可能性が考えられた。
「まさかとは思うけど、もしかしたら…あれが……?」
ほぼ同時に、先ほど偶然耳にした会話が脳裏に思い起こされる。
その意味を反芻する間もなく、本能的な身震いに襲われて
吉野は頭を振り、浮かびかけたビジョンをすぐさま打ち消した。
77 :小蠅 :03/01/31 01:34 
>>5-8 の続き

取りあえずのあてもなく。
場所柄もあり、仕方のない事かも知れないが、周囲を飛び回る蠅を鬱陶しげに手で払いながら。
村田は目に付いた近くの林の中へと駆け込んでいった。
そのまま、桶田と松丘が残る畜産農家の建物の位置を木々の間から確認しつつ、
まずは一人きりになれる場所を求めて歩き続けていると。
ドォ・・・ン
山の方からそんな爆発音が微かに聞こえて、村田は思わず立ち止まった。
やはり、今もどこかで戦いは行われているのだ。

『こんな馬鹿なゲームぶっ潰したらなアカンやろ? 』
桶田は確かにそう言った。それはこのゲームに放り込まれた村田の望みでもあった。
それは、今も変わりはない。
何度も聴かされた死亡者を伝える放送で、一体何人の知り合いの名前がそこで告げられていた?
GAHAHAの頃に、ボキャブラの頃に、そしてピンになってからそれぞれ出会った連中。
これ以上の死者は出したくない。出て欲しくない。
でも、殺されたくもない。狙われたら先手を打つしかない。殺すしかない。

「それは、わかっとんねん。それは・・・・・・」
一つ溜息をついて、村田は薄暗い木陰で一旦腰を下ろす事にした。
殺す事も殺される事も止めさせるには、ゲーム自体を潰して終わらせるしかない。
その為に、桶田が思いついたという計画を早く実行する必要がある・・・けれど。
果たしてこのままで良いのか、というどこか奇妙な不安を村田は改めて感じざるを得なかった。

・・・何を、躊躇う必要があるっちゅーねん。阿呆らし。
ふぅ、と村田は再び溜息をつくと、タバコを取りだしてライターで火を付ける。
自分が持っていた奴はとっくの昔に吸い尽くしてしまっていたため、
このタバコは廃車置き場の側の仮設事務所に残されていた奴であった。
決して好みの味ではないが、これもまた仕方のない所だろう。吸えるだけまだマシなのだ。
78 :小蠅 :03/01/31 01:36 
>77

一本をゆっくりと吸い終えて。ニコチンが補給され、少しばかり村田の感覚がハッキリしてくる。
ついでに腰を下ろして視界が変わった事もあって、立って歩いていた時には気づかなかった
下草の藪の間から、うつ伏せになって倒れている若い男の姿が見えた。

自分にとって脅威になるかならないかを見極めるために、村田が男の側に近づいてみると
男の背中には銃に撃たれたのだろう傷が複数見られて、流れ出て服を染めた血は
すでに変色して固まってしまっている。もちろん、息はしていない。
「こんな所でも・・・」
彼の顔はどこかで村田も見た覚えがあったが、名前は生憎思い出せなかった。
むしろ、思い出さない方が良いのかも知れない。
下手に名前を思い出してしまえば、彼にまつわる記憶までもが蘇ってきてしまうだろうから。
それが、必ずしも幸福なものとは限らないから。

けれど尚も、村田は男の・・・死体の様子をジッと見やる。
そう言えば、今までは長い間死体を見ている余裕はなかった。
桶田と一緒にいる時は、桶田が松丘の拳銃でサクッと撃ち殺しても、観察する間もなく
先を急いでしまっていたから。

男は死んでもまだ、何かを右手に握りしめていた。
それはさして長くはないが、棒状の・・・
そうだ。時代劇でよく武家の娘が懐中に隠し持っている、そんな一振りの小刀。
これが彼の武器だったのだろう。
「刃物か・・・・・・。」
悪いけど、と小さく前置きしてから村田は小刀を男の手から抜き取った。
ついでに鞘から刀を出して光に翳してみると、どうやらサビも大きな刃こぼれもないようだ。

これは、使える・・・そう判断して村田は小刀を鞘に戻し、今度は鞘ごとズボンのベルトに挟んだ。
その上から被せるように、着ていたグレーのトレーナーの裾を下へと引っ張ってみる。
フードの付いた、薄地のそれは村田の力に従って伸び、腰の小刀をきれいに隠匿した。
79 :小蠅 :03/01/31 01:40 
>78

「ん、エエ感じやな。」
・・・せやけど何で俺、こいつを隠さなアカンのやろ。
満足したと同時に、ふと村田の脳裏を疑問がよぎる。
別に、桶田や松丘に堂々と「これ拾ってきたで」と言えば良いのに。
やはり、内心のどこかで桶田達を信用しきっていないとでもいうのだろうか。

・・・そうや。
俺は今も・・・いや、今だからこそ。どこかであいつら・・・違う、あいつを恐れとる。
それに決して俺は忘れた訳やない。あの日あの時あいつが何を選んでいったかを。
そのあいつが、何で今になってこの場に・・・そう、この芸人達の墓場に現れた?

・・・何や、そういう事やったのか。
それを自覚した途端、村田の口元に思わず苦笑が滲んだ。
「要は『オレは・・・オレに依って立っているっ・・・!』・・・やな。」
いつか読んだ漫画の、主人公の台詞が口をついて出る。

「その通りやな、忘れる所やった。俺も・・・もうちょっと俺に依って立っとかな。」
一度目を閉じ、自身の心に、全身の細胞にまで刻み込むように村田は呟いて。
ずっと漠然と感じていた不安や違和感を、ぬぐい去ろうとする。
桶田の計画が果たしてどういうモノで、どんな結末に終わるのかは定かではないが。
それに縋るだけではなく、どんなトラブルが途中で発生しようとも
逆に自分の力で前途を切り拓いて行くぐらいの自覚と意志を持たなければ。

そう言えば、変に安全策に走るよりも無謀と思えるほどに強気でいる方が、
えてして良い牌が転がり込んでくるものだ。

いつしか村田の顔に浮かんでいた苦笑は、自然な笑みに変わっていた。
80 :小蠅 :03/01/31 01:44 
>79

その後、適当に時間を潰してから、村田が畜産農家の建物まで戻ってくると。
桶田は青いタオルを首に掛けたまま、母屋の壁により掛かって一人鼻歌に興じているようだった。
「お帰り。」
「ん、あぁ・・・。」
早速の桶田との対面に、村田は腰の小刀の存在がバレないか一瞬不安を覚えたけれど
変に取り繕おうとすれば、その分逆に怪しくなってしまう。
「松丘は? もう作業は終わったンか?」
バレたらその時はその時だ、ぐらいの意識でいればいい。そう村田は平然と桶田に訊ねる。

「あれなら・・・まだ裏の方にいると思うけど。」
桶田の言葉に「あ、そう。」と小さく応え、村田は彼の指さした方向へと歩を進めた。
母屋を通り過ぎ、家畜小屋の角を曲がればすぐに裏手へと出る。

「・・・・・・松丘?」
煙突から煙を吐いている焼却炉の側で、地面に座り込んでいる松丘の姿が視界の中に映って。
思わず村田は松丘へと呼び掛けた。

「・・・・・・・・・!!」
けれど、その何の気ない村田の声に、過敏なほどに松丘は反応して俯き気味だった頭を上げた。
向けられるのは、食傷気味なほど見慣れてしまった、潤んで充血した瞳。
81 :小蠅 :03/01/31 01:45 
>80

・・・相変わらずこいつ、林の事を吹っ切りきれてへんのか?
1時間前ほどの自分を棚に上げて思わず呆れそうになる村田だったけれど
松丘に近づくにつれて、少し彼の様子が先程までとは違っている事に気づいた。

彼の表情から伝わってくるのは呆然と抜け殻になっていたが故の奇妙さではなく、過剰な怯え。
さっきまでは決して、彼の唇は小刻みに震えてなんかいなかった。

「どないしてん? 何か不味い事やらかしたんちゃうやろな。」
「・・・いえ、何でも、ホンマに、何でもないんです!」
敢えて冗談混じりに訊ねてみた、村田の言葉の語尾に被さるように。
松丘はそれが『何かがあった』証明にしかならない事もわからないぐらいの
テンパリきった口振りで叫び、慌てて立ち上がると村田から逃げるように走り去っていく。

走る事すらおぼつかないのか、数m毎に転びそうになる松丘の後ろ姿がやがて見えなくなり。
一人残された村田は訳が分からない、といった様子で小さく首を振った。

「一体・・・何があったんや?」
ただ一つだけ村田にもわかっているのは、桶田は何も答えてはくれないだろう事、だけである。
109 :書き手見習い :03/02/03 21:44 

大滝の相方 ― 今泉の名前は、放送で今村の次に呼ばれていた。
「久仁人と一緒に名前呼ばれてたやんか。一緒だったんかと思ったんやけど。」
ギリ、と大滝が唇を噛みしめた。

「もしかしてお前・・・」
桑原の心に不安がよぎる。
「あいつも・・殺したんか?」

大滝は何も言わない。






111 :書き手見習い :03/02/03 21:44 
「・・・殺してませんよ。」
しばらくの沈黙の後やっと口を開いた大滝の言葉に、桑原はほっと胸をなでおろす。
だが続く大滝の冷ややかな声が、その一瞬の安堵を覆した。

「見捨てただけです。」

「は?」
思わず耳を疑う。

「確かにあいつに会いましたよ。久仁さんと一緒にいましたから。
 でも、使えないと思ったから見捨てた。それだけです。」
信じられない言葉を聞いた気がした。
「俺いつも言ってたじゃないですか。あいつは使えないって。」
今泉の名前を出した桑原を責めるような視線が向けられている。
なぜこんなことを語らせるのか、と。
「案の定、それからすぐに放送で名前を呼ばれてましたよ。
 あんな足手まといを抱えて戦えるわけがない。俺の判断は正しかったんです。」

どうしてそこまで割り切れる?
麻痺したはずの感情が、再び熱を帯びるのを感じた。
「使えんて・・・確かによお言うとったなぁ。・・・でも。
 それでも!お前は、あいつを見捨てるような奴やなか・・ッ」

激昂しかけた桑原の体から、突然力が抜けた。
ガクッと地面に膝をつく。
「?」
大滝が訝しげな目で桑原を見やった。

112 :書き手見習い :03/02/03 21:46 

腹が熱い。
体に力が入らない。
急にどうしたというのか。

熱を持った腹部に、冷たい鉄の感触が蘇った。
自分を庇った山崎の体を貫通して自分の体に突き刺さった刀。
しかし傷はそんなに深くなかったはずだ。
なんで・・・と口に出そうとして、桑原はある回の放送を思い出した。

『どんな小さな傷も感染症につながりますので、十分注意してくださいね。
 感染症で自滅されても面白くありませんから。』

放送の声は確か、おちょくるような口調でそう言っていた。


113 :書き手見習い :03/02/03 21:48 

「負傷・・・してたんですか。」
大滝は少し驚いたようにそう呟いた。
「山崎が殺された時、俺もやられてん。」
「返り血かと思ってましたよ。」

お前とは違う。
そう言おうとして、やめた。

「それでよく俺のこと殴れましたね。」
「根性が違うわ。」
痛みに顔をしかめながらもニヤリと笑ってみせた桑原に、
大滝が苦笑しながら手を差し出した。
その手につかまろうとして、寸前で止める。

「・・どうしてこの手を、あいつにも差し出してやれなかった?」

桑原の問いに大滝の目が冷たさを取り戻した。
差し出されていた手は下ろされ、大滝は答えないままくるりと背を向けた。


しょうがなく自力で体を引きずるようにして這い、ひんやりとした岩壁に背中を預ける。
再び沈黙の戻った洞窟に、荒くなってきた自分の呼吸だけが響くのを感じた。


114 :書き手見習い :03/02/03 21:50 

「先に裏切ったのは、あいつなんです。」

沈黙を破ったその声が悔しげに聞こえたのは、
やっと大滝が感情を見せてくれたからなのか
それとも朦朧としてきた自分の頭のせいなのか。
桑原には判断できなかった。



115 :書き手見習い :03/02/03 21:54 

一体こいつらに何があったというのだろう。
聞きたかったが、体を侵蝕しつくした熱はすでにそんな気力さえも桑原から奪っていた。


霞むような頭の中で、何年も見てきた二人の姿を記憶の中に探す。

確かにこいつらは仲が悪いと公言してはばからず、
実際仲が悪いわけではないのに、意識的に距離をとろうとする所があった。
(まぁ芸人のコンビなんてのは大概そんなものだが。)
しかし20年来の幼馴染と言うものは、時々思いも寄らない絆を見せることがある。
多分それは、共有した思い出が多いほど強いものかもしれない。
それを少しだけ、うらやましいと思っていた。

だが、このゲームは20年以上かけてこいつらが積み上げてきたもの・・・
信頼という名のそれを、いとも簡単にぶち破ったのだろう。
大滝が口にした「裏切り」という言葉から、それだけは想像できた。
116 :書き手見習い :03/02/03 21:56 

自分達だったらどうだったろうか、と考えてみる。
大学で今村に出会ってから10年と少し。
もしこのゲームで運良く今村と合流できていたとして、自分たちはうまくやれただろうか。
ゲームが始まった時、無条件で信頼できるのはあいつしかいないと思ったけれど
裏切りと憎しみが満ちたこの島で、疑心暗鬼にならず信じ続けることができただろうか。

・・・確信は、持てない。

それでも。
できることならもう一度会いたかったと、そう思う。

なぁ、久仁。
決して答えの返らない相手に心の中で呼びかける。
大学で知り合って意気投合してから、何すんのも一緒だったやんか。
バンドやるのも、東京出てきたのも、お笑い始めたのも。
なのにこんな時ばっか先に行きよって。ズルイわお前。

117 :書き手見習い :03/02/03 22:12 

この島に来て初めての泣き言だった。

先に根をあげたのは気持ちなのか体なのかはわからない。
けれど面白いくらいに、桑原からは「生きよう」と思う心が消えていた。
白川が自殺しようとするのを必死で引き止めていたのは何だったのだと思うほどに。

久仁、ともう一度相方の名を呼ぶ。


もう、俺もそっち行ってええやろ?
・・・限界や。



背を向けている後輩に、桑原はひとつの決心をして声をかけた。
「なぁ、もうええわ。もう・・・何も聞かん。
 その代わり、ひとつだけお願い聞いてくれへんか。」

その言葉に大滝が振り返る。

「・・・俺のことも、殺してくれ。」


死のまぎわに笑みを浮かべた白川の気持ちが、やっと理解できた気がした。

118 :書き手見習い :03/02/03 22:14 
今回はここまでです。
もう今泉編とはどんどんかけ離れていってます;
書いた方、申し訳ありません。

あと2回ほどで終わりにできるかと思いますので
もう少しばかりお付き合いのほどを・・・。
139 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/06 22:40 
森の中にひっそりと身を隠す一人の男がいた。
その姿は敵から身を守るために自然と同化し身を隠すカメレオンや
その他の生物さながら森に溶け込んでいる。
笑い飯西田だ。
彼は教室を出てから一目散に森の中へ入り、多くのメンバーが死んでいく中
今日まで生き延びてきた。
他のガブンチョメンバーは川島の集合で集まっていたようだが
(西田も声はかけられたが)そこには行かなかった。
基本的に人間はあまり信用できない性質だし、ましてやこんな事態のなか
で人を信じるという事が危険な事になることくらい分かりきっている。
それに過去、ひきこもってた時期があるせいか孤独というものに
そんなに恐怖感もないし、なんなら大勢で群れるよりも一人でいるほうが
妙に落ち着く。
生活には困らなかった。サバイバルの知識もひきこもり時代たしなんだし
支給された武器である鉈の他に自分がいつも肌身離さず持っているナイフ
(空港で見つかり大騒ぎにもなった事のある代物)も役にたった。
食料に困るとそこら辺に生えてる草を食べた。
食べていて発見したのだが草も一つ一つ味が違う。
苦いのもあれば酸味がきいてるものもあった。
何も味がしないものも多かったが一番驚いたのはマーガリンの味が
したものだ。「なんでマーガリンやねん!?」とツッこんでみたものの草が
答えるはずもなく、その時はさすがに≪何してんねん…俺≫と憂鬱になった。
まぁ、そんな事をしながら西田は森の中で時を過ごしていた。
幸い誰かに見つかり殺し合いになることも芸人同士の殺し合いに巻き込まれる
ことも今のところなかった。
しかし遠くで銃声が響くのを聞くとハッと息を呑み心拍数が上がるのを
感じた。
140 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/06 22:43 
正直、西田はまだ自分の感情をうまく把握できていなかった。
教室で鉄拳の頭にナイフが刺さり死んでいく姿を見た時
「うわぁ」と思ったものの「うわぁ」が恐怖の感情だったか?と考えると
そうじゃない。ハラハラドキドキというのか、興奮に近かったように思える。
あの感情はなんだったんだろう?
放送で仲間やお世話になってる先輩の名前が呼ばれても何も感じなかった。
悲しみも殺した奴への憎しみもなかった。
まるで業務連絡のようにそれらの名前は西田の中を通過しただけだった。
≪俺ってこんな人間味のない奴やったか?こんな中でおかしなってもうたんか?≫
考えるが思考回路はまともなような気がするし、考えてみたら昔から
こんな人間だったような気がしないでもない。
そんな事を考えていたその時!!
    ガサガサ ガサガサ ガサガサ
と草をかき分けながら歩いてくる音がする。
西田は咄嗟に鉈を握り体を低くし身をひそめた。

向こうからガサガサ音をたてながら歩いてくるのは西田が誰よりも
見覚えのある男――――相方の哲夫だった。
なんていう偶然なんだろう。
しかし西田は躊躇していた。この場合、どう動くのが賢いのだろう?
西田の頭の中で『相方やぞ。はよ声かけな』と天使の西田が囁くと
悪魔の西田が『なに言うてんねん。相方といえどお前アイツの何知って
んねん。信用できるかいな。』声をあげる。
『お前、何年も一緒にやってきた相方信じられへんのか!』
『そんなん言うてもこっちは命かかっとんねん!』
『こっちも命かかっとるわ!』と喧嘩を始める始末・・・。
西田の葛藤は続く。
141 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/06 22:44 
哲夫が西田の少し前を通り過ぎた時

    プゥ〜〜〜〜〜〜〜

間の抜けたその音は臭いと共に辺りをつつむ。
「誰や!」哲夫は武器らしいヌンチャクを香港映画さながら
かまえ音がした方に向かって叫んだ。
≪わ、最悪や。屁で見つかった≫
もう隠れる事は不可能だ。
「哲夫、俺や」諦めて名乗り出る。
「なんや、お前か。驚かすなよ。」
「おぉ」
と、なんともあっさりとした再会を果たした。
 そうだ考えようによってはラッキーだ。きっと
哲夫じゃない他の誰かなら今ごろ殺し合いになっていても
おかしくない。結果オーライで天使君の勝ちだ。
143 :蟹座 :03/02/07 17:51 
>>42の続き

 ガダルカナル・タカが隠れ家に戻ってくると、建物の手前に
そのまんま東が倒れていた。
 顔に火傷のあとがあり、両手をベルトで後ろ手に縛られている。
 同じように2階へ続く入り口のところにも、まるでそこから
先への進入を防ぐバリケードのように、軍団が何人か折り重なって
倒れているのが見えた。
 「行かせませんよ」
 行く手に立ちふさがる細身の男。手にしたブーメランは彼自身が
流す血で既に赤く染まっていた。
 「南原か…」
 タカは意外そうな表情を浮かべた。そして気を引き締める。
 「まさかおまえらが特攻してくるとは思わなかったよ……。
 いつから宗旨替えしたんだ?」

144 :蟹座 :03/02/07 17:52 
>>143

 タカはウンナンのもう一人の片割れ、内村の顔を思い浮かべた。
 その気になったとすれば、あいつは手強い。
 南原がこうしてここにいる以上、おそらくもう建物の中だろう。
 野放しにはしておけない――。
 タカの心中を察したのか南原が言い添えた。
 「別に、たけしさんをどうこうするつもりはありませんよ。ただ…」
 南原は呼吸を整え、血でぬめるブーメランを握り直す。
 「内村の話が済むまで、みなさんにはここにいてもらいたいだけです」
 「そうはいかない」
 タカは南原の手元を注視しながらゆっくりと言葉を返す。
 「こっちにも殿を守るというお役目があるんでね……」
 いくら普段が温厚な男でも、人間切羽詰まるとどんな行動に出るかは
わからない。南原の言葉を鵜呑みにするわけにはいかなかった。
 ナイフを構え、タカがじりじりと間を詰める。
 「あんまり時間がないんですよ。タカさんにばっか時間をかけると
 残りの人たちが戻ってきちゃうんで」
 そう言うが早いか、南原はブーメランを大きく一振りした。

145 :蟹座 :03/02/07 17:53 
>>144

 相手がのけぞったところを出足払いでバランスを崩し、
 ブーメランでしたたかにこめかみを打ち据える。
 赤い飛沫が飛び、タカがよろけて数歩後ろに下がった。
 間を置かずナイフを持つ右手に一撃加える。
 タカが取り落としたナイフを南原が遠くへ蹴り飛ばしたところで、
 建物の中から銃声が聞こえた。
 二人の動きが一瞬止まる。
 
 「行かないのか…?」
 
 タカが南原の顔を見る。南原は動かない。
 「ここで踏ん張るのが僕の役目なんで…。背中を見せるわけには
 いかないんですよ」
 タカを見据えたまま視線さえ微動だにしない南原。その面魂を見て、
目に入ってくる血を拭いながらタカはにやりと笑った。

 「たいしたもんだよ…、おまえら」
 
 もう内村のことなど吹き飛んでいた。
 目の前のこの男を倒さない限り、自分が先へ行けることはありえないのだから。

150 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/08 20:10 
>>141
とりあえず哲夫を自分の隠れが(といっても草むらの中)に
招き入れ自分が一番美味しいと感じた草を差し出した。
哲夫は躊躇する様子もなく草を口に放り込み≪さすが俺の相方≫
「マズっ」と言ってペッと吐き出した。≪なんて失礼な奴≫
そして哲夫はなにくわぬ顔で自分のカバンからパンを出す。
「おい!なんやねん、それ」
「ああ、これ?街が開放された時かっぱらってきてん」
「クリームパンやん・・・」
哲夫は西田を気にする様子もなくパンを食べ始める。
「ちょい一口くれや、ってクリームだけ先ねぶるな!!変われ」
西田は哲夫からパンを奪い取る。
「ちょお返せや・・・食いおわるなーーー!!ってなんでお前と
こんなとこで漫才せなあかんねん」
「ええやん、腹もふくれたし」
「俺のパン食うたからやろ」
その時、哲夫が顔をしかめ西田の後ろを指差し
「あれ・・・なんや?」と言った。
西田は哲夫の指差す方を見るが何も変わった所はない。
「何もないやんけ」と哲夫の方を振り返った時、
ブンと音をたて何かがすごい勢いで降りてきた
    ガン
ヌンチャクが西田の頭をかすめ木にぶつかる。
木の幹はその衝撃でえぐられる。
151 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/08 20:12 
「いたい!いたい!いたい!いたい!いたいわ、アホ!!」
ヌンチャクの鎖の部分に西田の髪がからまり引っぱられたのだ。
「あっ、ごめん。ジッとしてて取ったるわ」
西田は哲夫の膝の上に無理やり寝かされ、哲夫はヌンチャクに
からまった髪を器用にほどいていく。
「とれたで」哲夫は西田の頭をはじいた。
「ありがとう・・やない!お前、危ないやないか!?」
「うん」
「うんて何やねん!」
「あぁ、ごめん。殺してええか?」


≪何言うてんねん・・・こいつ≫
考える間もなく哲夫のヌンチャクが飛んでき西田の頭に命中する。
「たっ」
頭に手をやると激しい痛みと共にジュクジュクとした手触りが
手の中に広がる。
「俺、天才やからな、死んだらあかんねん。選ばれた特別な人間やねん」
哲夫が再びヌンチャクを振り上げる。
しかし西田の意識は別の世界へ飛んでいた。

≪血血血血血血血血血血血血血血血血皿
 血血血血血血血血血血血血血血血血血―――死。
 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
 死死死死死死死死死死死死死死死死死
 死死死死死死死死死死死死死死死死死
              ジーザス≫

152 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/08 20:15 
全てが一瞬だった。
西田が脇に置いてあった鉈を拾い上げ哲夫の首の
左側つけ根から胸にかけて振り下ろした。
味わった事のない手触り―――それはまるで電気が走ったようだった。
哲夫は「あ」と言うと西田を見ながら立ち尽くし
そのまま、ゆっくり後ろに倒れた。
「うわぁぁーーーー哲夫!哲夫!」
西田は倒れた哲夫に駆け寄った。
哲夫は左肩からドバドバ血を流し
まるで赤い服を着ているようだ。
「めっさ痛いわ」表情を変えずポツリとつぶやく。
「アホぉ!もっと痛がれ!」
「お前がやっといて・・何言うてんねん」
哲夫の顔は血の気が引き人形のようだ。
「なぁ・・最後に頼みごとしてええか?」
「言え!みな 叶えたるわ」
「殺してくれへんか?」
「・・・な・なに言うてんねん。そんな事できるわけないやないか!?」
「頼むわ・・意識あるうちに死にたいねん」
「意味わからんわ!変われ!・・・変われ。
俺が肩に鉈刺して倒れてボケるからお前ツッこめ。変われぇぇーー」

   はっ――――哲夫が笑ってる。

153 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/08 20:17 
「ええねん、もう。それよりマジで痛いから、はよやれ、お前。
どうせこのままやったら・・痛い思いしながら死ぬねん・・・ふぅ。
それやっ・・たら、一思いに・はよ死にたい・・。」
「哲夫・・・ええんか?」
哲夫は何も言わない。
言葉なんてなくても目が全てを語っている。
血まみれになって転がっている鉈を拾い上げる。
「俺、天才やろ?」
「お前は天才や」




   ザシュ



154 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/08 20:18 
哲夫が死んだ

哲夫が死んだ

俺が殺した


涙・・・?


「お前は天才ちゃう・・アホや・・アホやーー!」
息絶えた哲夫を抱き寄せる。

今わかった鉄拳が死んでいく姿も放送で流れる知り合いの死も
すべて【リアル】じゃなかったんだ。
だから第三者でいられた。今までの自分はテレビを見て
「かわいそうやなぁ〜あんた気つけなあかんで」と軽く言い放つ
だけど実際危険な事なんて起こるわけないと思い込んでいるオカンと
なんら変わりなかったのだ。
しかし今、目の前に【リアルな死】がある。

最後に自分が切り裂いた哲夫の腹に手をもっていく。
そして切り裂かれた傷口の中に手を入れる。

「あったかい・・・」

死・死・死―――これが死だ。
腹の傷に入れていた手を引き抜く。
手は血まみれだ。
血まみれの手を顔にやる。
そして血を顔に塗りつける。
155 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/08 20:18 
ここは死にあふれた地だ。
数限りない芸人の魂が消費される、死の百貨店だ。
≪そうや・・死や。いろんな死を探しに行こ≫
西田は哲夫を木陰に引きずっていき人目につかないようにし
自前のナイフで木を削り棒のような板のような物を
作った。そして支給されたボールペンでそこに

『哲夫の墓  哲夫ここに眠る』

と汚い字で書きなぐり地面に刺した。

「ほんなら行くわ」西田はポツっとつぶやき
自分と哲夫のバックを肩にさげ歩き出した――――。

【笑い飯 哲夫 死亡】

178 :名無しのB9さん@お腹いっぱい。 :03/02/14 19:11 
>>155
西田は歩き続けた。森を抜けるとここが「戦場」なんだという現実が
西田にも否応に突きつけられた。転がる死体・・・。
銃殺、刺殺、絞殺、撲殺、自殺、さまざまな【死】
その一つ一つを吟味していく。
山林で見覚えのある服が見えた。慌てて駆け寄る。
「木村さん・・・」
そこにはバッファロー吾郎の木村が倒れていた。
もちろん息はしていない。そんなことは放送を聞いていたので
知っている。ずっしりとした体にポツリと小さな穴が開き
そこを中心に赤黒く服が変色している。
木村は笑い飯にとって一番お世話になった先輩だ。
自分達のネタを褒めてくれ舞台のチャンスを多く与えてもらい可愛がってもらった。
バッファロー吾郎がいなかったら今の自分達がいなかったといっても
過言じゃない。(といっても相方はもういない)
そんな木村の【死】が目の前にある。
≪なんでや・・・なんでや・・・何でなにも感じひんねん!
おかしい、おかしい、おかしい・・そんなはずない≫
頭をかきむしる、ボサボサの髪がさらにボサボサになる。
「ねぇ・・木村さん?木村さん?そうですよね・・そんなはずないですよね。
答えてくださいよ。ねぇ・・ねぇ・ねぇ!!答えろ!答えろぉぉーー!」
木村の襟首をつかんで揺さぶるが、もちろん木村は答えない。
≪なんで答えはらへんねやろ?そうか・・コレは木村さんちゃうんやわ。
ほんなら関係ないわ≫
西田は木村を乱暴に突き飛ばし、またゆっくり歩き出した。

179 :名無しのB9さん@お腹いっぱい。 :03/02/14 19:12 
西田は歩いた。歩けば歩くほど一つの疑問が西田の中で大きくなっていった。
≪なんでや―――なんでや!!≫
目の前にある死体、こんなにも【リアルな死】が目の前にあるのに
何も・・・何も感じない。

  ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ

  なんでや?なんでや?なんでや?

死体・死体・死体―――こんなに死体が転がっているのに、
そこには間違いなく【死】が溢れているのに・・
西田の心は錆びついて動かなくなった機械のように
これっぽちも動かない。
その一方で、もどかしい気持ちが渦巻き激しい苛立ちがこみ上げてくる。
 ギリ ギリ ギリ  歯が音を鳴らす。
目の前に転がっている死体を鉈でズタズタに切り裂く。

  ハァ ハァ ハァ

ふぅ・・脱力したようにその場にへたりこむ。
疲労感と共に空腹感が襲ってくる。
考えてみれば哲夫を殺し森を出てから数日間、何も食べてない。
カバンを漁るが食べれそうな物は何もない。
その時、西田の目にズタズタになった死体――いや肉塊がうつった。
西田は笑みを溢しながら立ち上がった。

それからの西田の行動は語るまでもない。
エヴァがエデンの園で禁断の果実をかじってしまったように
西田も禁断の味を知ってしまっただけのことである。
知識の果実を食べたエヴァは永遠の命を失ってしまった。
西田は・・・―――――――。

184 :蟹座 :03/02/15 18:16 
>>145の続き

 出合い頭の発砲を受け、内村はその場にたたらを踏んだ。
 3階に続く階段の踊り場、
 待ち受けていたのは階段に座り込み、ライフルを構えたラッシャー板前。
 
 防弾チョッキの恩恵で内村に怪我はない。
 それでも衝撃で胸の辺りが軋んだ。一瞬息が詰まる。
 一方、至近距離で胸を撃ち抜かれても倒れない内村にラッシャーは狼狽した様子だった。
 本来ならば安静にしていなければならないほどの負傷なのだろう、
 すぐには次の動作に移れない。
 蒼白な顔に脂汗が浮かび、呼吸もままならないその様子を見て、
 内村が一気に間を詰める。
 ライフルの銃身を両手で掴み、ラッシャーの身体ごと思いきり下へ引っぱった。
 拍子に銃弾が内村の右足をかすめる。
 二人は諸共に階段から転がり落ち、踊り場の壁に激突した。
 
 訪れたしばしの静寂。
 その静寂を破り、
 荒い呼吸でライフルを杖代わりに、その場に立ち上がったのは内村だった。

185 :蟹座 :03/02/15 18:17 
>>184

 階段から落ちる衝撃に備え、とっさに防御の体勢をとったものの、
やはり身体のあちこちが悲鳴をあげていた。初日に負った古傷が再び
痛み出す。被弾した右足は脛の辺りが出血し、感覚が鈍かった。
 傍らに横たわるのは、苦痛に顔を歪め、動かなくなったラッシャー。
 その姿に内村は黙って頭を垂れた。
 最後の階段を登りきり、杖代わりにしていたライフルをしばし見つめる。
 自分がもはや清廉潔白な傍観者でないことはわかっていた。
 それは眼下のラッシャーが証明している。
 それでも……。
 
 内村は迷いを振り払う。
 ライフルを近くの窓から投げ捨てた。

 目標まではあと少し――。

 自分はたけしさんに会ったらいったい何と言うつもりなのだろうか。
 
 それは内村自身にもわからなかった。
 実際に会い、
 ビートたけしの顔を見るまでは――。

 
 【ラッシャー板前 数時間後に死亡】

190 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/17 18:53 
>>179
アレから何かがおかしかった。
哲夫を殺した時から少しづつおかしくなっているのは感じていたが、
段違いだ。自分じゃない自分が自分を喰い荒したような・・・
とりあえず、もうマトモじゃない。理性などどこにもない。
目についた芸人は殺した。そこら辺に何体も転がっているモノも
全部潰してやった。なんにも思わなかった。
そう、アレからだ・・・人もモノも顔がない。
普通に考えるとそんな事ありえない。でも顔がついてないのだ。
まるで肌色のクレヨンで塗りつぶしたみたいに顔がなかった。
顔がないモノを傷つけるのに抵抗はなかった。
いや・・楽しかった。
西田は欲望のおもむくままに鉈を振り回し続けた。

191 :名無しのB9さん@笑い飯&千鳥 :03/02/17 18:56 
小さな小屋が一つポツリと建っている。
人が住むというより倉庫のような感じだ。
その中に一人の男が膝を抱え座っている。千鳥のノブだ。
「遅いな〜あいつ・・。」ノブは相方の大悟とおちあい、この小屋で
生活していた。「ちょお便所してくるけ、お前ここおれ」と言って
この小屋を出てから大悟がなかなか帰ってこない。
一人というのがこんなに心細いということを思い知り
相方にこっそり感謝しつつ、それ以上に相方に何かあったんじゃ
ないかと不安になりながら一人先ほどからソワソワしていた。
その時  ギィーー  と扉が開く音がした。
「お前、遅いんや」とパッと顔を上げたが、そこに立っていたのは
相方ではなかった。「わぁ、びっくりした!誰じゃあ!?」
逆光になってて顔がはっきり見えないが目を凝らし、
その人物を確認するとノブは安堵の表情を見せた。
「西田さん・・・」
千鳥は笑い飯の後輩で、その昔まだインディーズで漫才していた頃から
お世話になっており今でも共にbaseよしもとの舞台に立っている。
(いや、こんな状態では立っていた。と表現する方が正しいのかもしれない)
その分、他の芸人よりその絆は深い。なんと言ってもノブは西田の相方・哲夫と
一緒に住んでいる。(いや、もう哲夫は死んだからこの表現はおかしいのだが)
それほどの仲なのだ。

192 :名無しのB9さん@笑い飯&千鳥 :03/02/17 18:57 
目が慣れてくるとノブは西田が血まみれな事に気付いた。
「どないしたんですー!?怪我でもしたんですか?」
西田はピクリとも動かない。
「西田さん?ワシですよ!ノブです」
ノブは西田に駆け寄り手を握った。
  ぬるっ
生ぬるい感触が手の中に広がる。
その感触はノブを一気に冷静にさせた。
≪こんな血出てて生きとる人間おるわけない・・≫
次の瞬間、ノブに鉈が襲い掛かってきた。
ノブは間一髪でそれを避けたが腕をザックリと切られた。
(避けてなかったら首が飛んでいただろう・・)
「いっ・・た・・なんなん・・」
西田は表情を変えない。いや、もう表情なんてない能面のようだ。
「ノブです!西田さん!西田さん!!」
必死に呼びかけながらも、どこかでもう全てを理解できてる
冷静な自分がいる。
≪狂っとる。ワシはここで殺されるんじゃ≫
だけどそんなこと受け入れられない。
「嫌じゃ。死にとうない・・・嫌じゃあぁぁーーーーー!!」
  サクっ
小気味良い音が響いた。能面の西田の顔に笑顔が生まれる。
そして西田は小屋を後にした。

【千鳥 ノブ 死亡】
193 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/17 18:59 
結局、西田は森の中に帰ってきた。
遊び(殺し)は飽きたし疲れた。
死は楽しかったけど、そこに何もないことに気付くと
なんだか全てが無意味に思え虚しさを覚えた。
捨てたはずの犬がボロボロになりながらも飼い主のもとに
帰ってくるように西田も気がつくと森に向かって歩き出していた。
隠れがに戻って西田は唖然とした。
≪どういうことや・・!!?≫
顔がある、顔がある、顔が―――哲夫に顔がある。
≪お・・俺は・・・ウッ≫
激しい吐き気が襲い掛かる。

う・・うっぷ・おえっ・・げぼっ・・・

まるで自分の中にいるナニカを必死に吐き出そうとするかのように
嘔吐し続ける。
涙が溢れてくる。
凍りついていた心が一斉にとけだしたように、いろんな感情が一気に
動き出す。
≪ハァ・・ハ・・う・ふぅぅ・・≫
感情達はジグゾーパズルのように一つの形を作り上げようとしている。

194 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/17 19:00 



―悲しい―



悲しい・悲しい・悲しい・悲しい・・・
誰かの死やなくて【哲夫の死】が・・悲しかったんや・・。
なんでこんな単純な事わからんかってん・・お・俺は何てことしてもうたんや!
あいつは「選ばれた特別な人間」って自分で言うとったけど
俺にとってはアイツは特別やったんや。
お互い感情、表に出すの下手くそやったから・・・
こっ恥かしいかったから・・俺は・・俺は・・俺は・・



 ドン



195 :名無しのB9さん@笑い飯 :03/02/17 19:01 
後ろから何かが、ぶつかってきた。
背中に鈍い痛みが走る。
西田は振り返ろうとし、
体をひねったひょうしに血がスプレーのようにほとばしった。
ドサっ
そのまま西田は前方に倒れた。
西田の背中からは包丁がはえていた。
急所は、ずれているのか意識はまだある。
≪俺死ぬんか・・・?何もできひんでこのまま・・・≫
哲夫の顔が目にうつる。
西田は激痛に耐えながらも必死に手を伸ばした・・あるものをつかむために。
「ぐうぅう・・」
もう少し・・もう少し・・
ガシっ――西田は哲夫の固く冷たくなった手をつかんだ。
「やっぱり、お前はあったかいわ・・・」
その言葉を最後に西田は息絶えた。
しかしその顔には安らかな笑みがこぼれていた。

【笑い飯 西田 死亡】
196 :名無しのB9さん@千鳥 :03/02/17 19:03 
小屋から一人の男が出て行くのが見えた。
遠目では『千と千尋の○隠し』に出てくるばけもんかと思うたが
その後姿には見覚えがあった。
「西田さん・・?」
鉈を片手にフラフラと歩く姿に嫌な予感を覚え、急いで小屋へ戻った。
しかし全てが遅かりしだった。小屋の中には血まみれのノブが倒れていた。
「ノブ!ノブ!!しっかりせい!!ノブ!」
ノブは「ぐぅ・・」と呻くと薄く目を開いた。
そして大悟を見ると軽く笑い「気ぃ・・つ・け・・ぇ」と言うと
目を閉じた。それからノブが目を開けることはなかった。
「ノブーーー!!!・・・おめぇ、自分が死ぬ時になに人の心配
しとるんじゃ・・アホか・・・アホか・・うっうう・くぅぅ・・」
涙が出た。男は泣くもんじゃねえ、という考えの大悟が見せた数年ぶりの涙だった。
そしてノブに復讐を約束し西田の後をこっそりつけてチャンスを
うかがっていたのだ。
殺意・殺意・殺意・殺意・殺意・殺意・殺意
それだけが大悟の心を覆った。
先輩、後輩、義理、人情・・そんなもの関係なかった。
「覚悟せいや」
そう呟くと武器である包丁を西田の背中に刺しいれた。
それだけだった。あっけない死。
復讐を果たしたというのに心にぽっかり穴が開いたような虚無感、虚しさに襲われる。
「ノブぅ。仇はとったったからのぉ、成仏せいや。寂しがらんでもワシもすぐそっちに逝っちゃる。
ろくでもねぇ人生じゃったけど、てめぇと漫才できてよかった」そう言うと大悟はノブの武器である
劇薬を取り出し口の中に放り込みガリガリと乱暴に噛み砕いた。
味なんてあるわけないのに何だか甘く感じた。
きっとこれが死の味なんだろな・・・と柄にもない事を考えながら
大悟はゆっくりと目を閉じた。

【千鳥 大悟 死亡】






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