19 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/11/20 02:19 
前スレ 876-886の続き

それを見つけた時の佐野は。一体何が起こったのか、にわかには信じられなかった。
樹の根元に腰を下ろした桶田と村田の二人の姿。これは良い。
しかし何故、桶田を中心としたその周囲に血が飛び散ってしまっているのだろうか。

「・・・何が・・・あったんです?」
二人に駆け寄り、名前を呼んで。佐野は乾いた声で問いかける。

間近で見やれば、桶田はもう息をしていないようだった。
流れ出た血も、赤から変色しつつあって。随分時間の経過があった事を伺わせている。
「誰にやられたんです? こんな・・・一体・・・。」
佐野は残るもう一人、村田へと言葉を絞り出した。
「信じられない・・・有り得ないですよ、こんなの・・・・・・。」
震える声は、確実に村田の耳には届いているだろう。しかし、村田は俯いたまま動こうとしない。
所々血の飛沫で汚れてはいたけれど、血の通った肌、微かに上下する肩。
佐野の見た所では、彼は確実に生きている筈なのだけれど。

「ねぇ、渚さん。」
村田の正面にしゃがみ込み、訊ねながら、佐野は村田の肩を掴んで揺さぶった。
「・・・一体、ここで何が起こったんです?」

「・・・見ての通りや。」
ようやく、か細い村田の声が返ってくる。
「桶田は死んでしもた。いや、あいつは殺された・・・・・・いや、ちゃうなぁ。」


「俺が、殺した。」


20 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/11/20 02:20 
顔をもたげ、自嘲その物の薄い笑みを口元に湛えながら。告げる村田に、佐野は一瞬言葉を失う。

・・・何で?
何で村田に桶田を殺さねばならない理由がある?
今までずっと側で見てきたこの人は。桶田に対して別に憎しみを抱いてはいなかったはずだ。
袖を分かったあの時でさえも桶田の希望を理解し、それに相応しい行動を自らで取って。
それはいつも通りの彼らのネタやトークでのやり取りのようだったのに。

「全部・・・つまらない、俺の勘違いや。」
内側に疑問が一気に噴出するのが、佐野の表情から見て取れたのだろうか。
村田は力無く告げて、長い息を吐く。
「ホンマ、しょうもない奴やろ。俺は。」
そう呟く村田はもうこの場にしっかりと腰を下ろしたまま、動く気力もないように佐野には思えた。
罪悪感か、それとも自己嫌悪か。
原因はどちらにせよ、今はこれ以上心を閉ざしている場合ではない。
そう、桶田を欠いてもまだ、彼の立てた計画は頓挫してはいないのだから。
現に今この時でさえ、山火事は燃え広がっているのだ。この辺りも、間もなく危険な区域となるだろう。
しかし村田をここに残して一人だけで計画を遂行するには、佐野は傷付きすぎていた。

「・・・・・・・・・・・・。」
荒療治は好きじゃないんだけどな、と口に出さずに一つ呟いて、佐野は右手を村田の顔へと伸ばした。
再び俯こうとするその顔を強引に上を向かせ、間髪入れずに頬へと殴りかかる。

ゴツッと鈍い音が上がり、村田は座り込んだ姿勢のまま、転がるように地面へと倒れた。

「本当に、しょうがない人ですね。」
佐野は倒れたまま動かない村田へ視線をやり、意識して棘のある声を上げる。
「僕を見て驚かなかったって事は・・・少しは計画の事は知っているんでしょう?
 だったら、渚さん。あなたが今何をするべきか・・・御存知の筈、ですよね?」

言った途端、ピクッと村田の肩が震えるのが見て取れた。佐野は更に声を荒げる。
「それをわかってても尚、そこで凹んでいるんだったら・・・桶田さんは完全に無駄死にって事になるんですよ!」
21 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/11/20 02:22 
けれど佐野の作った拳が自らの頬を打つさまを、他人事のように映していた村田の黒い瞳には。
まだ、元のような力強い輝きは戻っていない。
相方、それ以前に古くからの親友である人物を自らのミスで殺しておいて、今すぐに立ち直れと言うのは
確かに無茶な話である事に間違いないし、逆に瞬時に立ち直るようだとそれはそれで考え物ではあるけれど。
今は、この『ゲーム』を崩壊させるための計画の遂行を果たすべく、村田の力がどうしても必要なのだ。
だからこそ。

「思い出して下さい、気付いて下さいよ。あなたがこれから何をするべきか!」
「・・・・・・俺に何が出来るいうんや!」
佐野の声に被せるように、村田が大声を上げた。
「どいつもこいつも・・・俺なんかに何を求めてんねん! じゃあ何や、俺には希望の匂いでもするのか?
 あの鐘を鳴らすのは俺なンか? 冗談やないわ、過剰に期待すんのもエエ加減にせぇ!」

『どうか桶田さんと協力して一緒にみんなを助けたって下さい。』
佐野の言葉に、松丘が携帯に残したメッセージが頭をよぎり、横たわったまま村田は喚く。

「あなたが何と言おうとも・・・あなたはこの島の芸人達をゲームから助け出せる人だと。僕は信じてます。」
けれど、村田の発する大音量にも何一つたじろぐことなく、佐野は村田に告げた。
ドラクロワの自由の女神のように、旗を掲げて群衆の先頭を走れる人間は、そうそう多くはない。
とは言え、かつて光を全身に浴びて、バブルのただ中を駆け抜けたフォークダンスde成子坂のツッコミとして。
そして今またスタートラインへ立ち返り、空へと羽ばたこうとするピン芸人として。
この人なら、村田渚という芸人なら、その任を充分に果たし得る・・・・・・。
そう信じているからこその佐野の訴え。

しかし、村田は。ゆっくりと身を起こしながら、佐野の言葉を軽く鼻で笑って捨てた。
「俺は、桶田を殺した男やぞ。何なら、お前の事も殺すかも知れへんねんで?」
自嘲にまみれた村田の呟き。けれど佐野は退く事なく、村田に微笑んで見せる。
「・・・・・・信じてますから。」

「・・・嘘や!」
村田のヒステリックな叫びと同時に、ヒュッと空気が裂ける音が上がった。
22 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/11/20 02:22 
突き出された村田の右腕。その手に握られているのは血に濡れた懐刀。
桶田の命を奪ったその刃で、村田は佐野をも貫こうとする・・・・・・けれど。

佐野は微動だにしなかった。
それは決して反応できなかったからではない。村田の行動をちゃんと目で、全身で、認識した上での静止。
そして、突き出された刃は、小刻みに震えながらも佐野の胸のすんでの所で止まっていた。

「何で逃げへんねん!」
「・・・言ったでしょう、信じてる、と。」
子供のように喚く村田に答えながら、佐野は懐刀を握る村田の手にそっと触れる。
一本一本、村田の指を刀から引き剥がそうとする佐野に、村田はもう抗う事はできなかった。
23 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/11/20 02:23 
「・・・せぇいっ!」
狙い澄まして投げつけた出刃包丁は獲物を外し、ビィィンと樹の根っこへと突き刺さる。
慌てて包丁を拾いに走った堀部を馬鹿にするように、野兎はぴょこぴょこと藪の中へと駆け去っていった。

「畜生、何だよ・・・なぁ。」
根っこから包丁を引き抜きながら、堀部は恨めしそうに唸る。
「こんな、一杯いるんだからそろそろ一匹ぐらい取れても良い筈なんだけど・・・。」
世の中には、何でもない切り株に蹴躓いて死ぬ兎もいるというのに。
先ほどから小動物狩りに勤しむ彼のスコアは、未だにゼロのままであった。

「人の肉なら、別にこんなに苦労しなくて済むんだけどなぁ・・・。」
堀部に飯の調達を命じた男が最後に付け加えた言葉。
『何があろうとも人肉だけは材料に使うな。』
それを忠実に守りながらも、彼に精の付く肉料理を食べて貰うために。
堀部はずっと、こうして出刃包丁を片手に森の中を右往左往しているのである。

島の中央で起こった山火事は、ジワジワとその範囲を広げていた。
そして、今も時折この島は強い地震に見舞われていて。
本能的に危機を察したのか、先刻から島中の鳥や小動物がしきりに南の方へと大移動を行っている。
だから、狩猟の経験などはあろう筈がない自分でも、今なら芸人を襲った経験を活かして
多少の獲物は確保できるのではないか。
そんな当初の堀部の安易な予想も、現実には容易に裏切られてしまっていた。

堀部の苛立ちは徐々に焦りに変わる。
もしも、このまま一匹も獲物を狩る事が出来なかったらどうすればいいのだろう。
いや、仮にこの後、何とか獲物を狩る事が出来たとしても、持って帰った時に浜田が空腹の余り
機嫌を損ねてしまっていたら?
仮定の想像をしてみる度、堀部が辿り着くのは自身が斬り殺される、そのヴィジョンで。
そんなはずはない、と自らに言い聞かせる呟きは、しかしして彼の心の平安を揺るがせる呪文のようであった。
24 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/11/20 02:24 
ガササッと藪をひっきりなしにかき分けながら、堀部は野ネズミや野兎の気配を探す。
本来上策である筈の、一所でジッと小動物がやってくるのを待ちかまえるなどと言う作戦は、
もう今の堀部には採っている余裕など無かった。
とにかく早く獲物を見つけなければ。そして捕らえなければ。
強迫観念に取りつかれたかのように、慌ただしい動きで茂みをうろうろしていると。
急に開けた場所にたどり着いてしまい、堀部はチラッと視界に入った人の姿に慌てて茂みに身を隠した。

それは森を通る比較的広い道の側。
堀部からは20m程離れた、一本の樹の根元に三人がそれぞれ腰を下ろしているようである。
・・・どこかのトリオだろうか。
茂みからひょこっと顔を出して、彼らを観察しながら堀部は小さく呟いた。
幸い、彼らからは堀部に気づいた様子が感じられない。
一人は仮眠でもしているのか、樹により掛かったままピクリとも動いていないようだったし。
そしてもう一人はどうも三人目に左腕へ布を巻き付けられているようである。

幾ら向こうが万全の調子でなさそうだとしても、三対一で勝てる自信は堀部にはない。
食料を奪うチャンスではあるけれど、ここはまぁ気づかれなくて良かった・・・・・・
そう思いながら、茂みの中に戻っていこうとした、その時。

二人目の包帯を巻いて貰っていた男が動き、三人目の男の姿が堀部の目に留まった。
小柄な男。その頭には大振りの白い布が、バンダナのように巻き付けられている。

ドクン。

堀部の心臓が一際大きい音を立てた。
25 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/11/20 02:26 
男の黒い髪に、布の白さは良く栄える。堀部の目は、アッという間にその白さへと釘付けになった。

ドクン、ドクン、ドクン・・・・・・
早く目を背けよと訴えるかのように、堀部の心臓が激しく音を立てる。

ねぇ、僕をバラバラにしたのは、誰?
・・・・・・ねぇ、僕をバラバラにしたのは、誰?

聞き覚えのある、しかしここでは聞こえる筈のない声が、堀部の耳に届く。

君、僕の太股の肉でロールキャベツ作っただろ。
・・・・・・君、僕の太股の肉でロールキャベツ作っただろ。

あれ、違うな。腕の肉だったっけ?
・・・・・・あれ、違うな。腕の肉だったっけ?

囁く声と共に聞こえる、ノイズじみたピアノの音色が堀部の思考をかき乱す。
知らず知らずの内に、堀部の全身から汗が滲み出していた。
それでも堀部の鼓動をメトロノーム代わりにでもしているかのように、なおも乱れた音色は堀部を包み込む。
それは彼の心に再び狂気を呼び覚ます、革命のエチュード。
何とか逃れようと両手で耳を塞ぎ、その場にうずくまる堀部の脳裏に光が瞬くように何かがちらつきだした。
ウィンドウなりタブなりを閉じ、キャッシュから削除しても尚、記憶から排除する事が出来ないグロ画像のように。
いや、それはグロ画像その物であっただろう。
赤い血、裂ける肉、覗く骨。蠢く器官、そして・・・・・・一面の闇。

ねぇ、僕の身体、不味かったとは言わせないよ?
・・・・・・ねぇ、僕の身体、不味かったとは言わせないよ?

囁く声はピアノの音色と入り交じって決して止む事はない。
正常な精神には不快以外の何物でもない、この苛めから逃れる方法はただ一つだけ。

右手に握っていた出刃包丁を振り上げながら、堀部の口からもはや人ならざる声が、上がった。
26 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/11/20 02:29 
木々の枝の隙間から見上げた大陽は、真上の方へと移行しつつあった。
村田は自分のバッグから取り出したヘネシーで佐野の左腕の傷を消毒し、
畜産農家から盗ってきた着替え用のシャツを裂いて作った、包帯代わりの布を巻き付けていた。
指先に付いた琥珀色の液体をちろっと舌で舐め、村田は一つため息を付く。

「ホンマは・・・これ、『ゲーム』から上手く逃げ出せた時・・・みんなで飲もうって思ってた。」
「大丈夫ですよ。まだ半分以上残ってますし、後で飲みましょう。」
「・・・せやな。」
答えながらも村田の視線はチラチラと桶田へと向けられていた。
佐野もそれに気づいてはいたけれど、その事については敢えて口を閉ざしている。
正直、どれだけあと生きられるのかも分からないけれど。彼の残りの人生に於いて、
確かにそれは常に意識していかなければならない自らを縛する鎖・・・いや、彼の心を拘束する十字架に似ていて。

けれど今だけは。もうしばらくの間だけはその鎖の存在を忘れていて欲しい。
一人で十字架を背負わねばならないのなら、その一端に触れ、支える事を許して欲しい。
口には決して出せないけれど、そんな事を佐野は漠然と考えていた。
何せ、結果的にではあるが彼をこの『ゲーム』に引き込んだのは佐野なのだから。

「渚さん。」
記憶を頼りに何とかそれらしく包帯を巻き終えた村田に、佐野は呼び掛けた。

「・・・ん?」
「さっきは、殴ったりしてすみませんでした。」
「・・・エエよ。気にせんといて。」
薄く赤みを帯びている自分の頬に軽く手で触れ、村田は答える。

「ホンマにお前には助けられてばっかりやな・・・」
ありがとう、と呟きながら佐野を見上げようとするその表情が、不意に強張った。
27 :小蠅 ◆ekt663D/rE :03/11/20 02:30 
それは奇声、としかあらわしようのない音。
間近で突如上がったかと思うと、それは急にかき消えて。

「渚さん!」
ぶつぶつと何かを呟きながら誰かが足早に近づいてくる気配に、佐野が村田の名を呼ぶ。
そうだ、まだ『ゲーム』は終わってはいないのだ。

「誰かを助けるために・・・誰かと戦わなアカンのって。」
つらいな、と誰に言うでもなくポツリともらし、村田は地面に転がる佐野の日本刀へと手を伸ばした。
本来の持ち主が拾い上げようとするそれよりも早く、鞘に収まったままの重たいそれを何とか両手で掴み上げて。
即座に佐野の脇を掠めたその向こう側へと村田は日本刀を突き出す。

どうやら佐野の身体で向こうは村田の動きが見えなかったらしい。
カウンター気味に村田の突きは佐野へと包丁を振り下ろそうとしていた男の腹部に命中した。

「・・・渚さんっ!」
「怪我人は黙って見とき。」
予想外の攻撃に、男が腹を押さえてうずくまるその隙に。素早く立ち上がり、佐野と位置を入れ替えて。
男を・・・堀部を睨み付けながら村田は不安げに声を上げた佐野へ言い放つ。
柔らかい口調ながらもその奥底に凛とした芯のような物が感じられ、佐野は懐刀を構えながらも
自ら堀部へと斬りかかろうとするのは止めた。

「・・・今までずっと考えてた。でももう迷わない。少なくとも今、そう決めた。」
村田は日本刀を鞘から抜き払う。
「誰に何と言われようとも、僕は僕のやるべき事をやる。だから・・・・・・」
落ち着いた口振りで告げながら、村田は一度傍らの桶田へと視線をやった。
桶田のその口元に、ふっと笑みが浮かんだように見えたのは、村田の気のせいだろうか。

「僕らの邪魔する奴は・・・もう、容赦せぇへん!」
堀部へと視線を戻し、村田は声を張り上げる。
同時に刀を振り上げて、堀部へと斬りかかった。
34 :@挙動不審 :03/11/20 20:37 
得体の知れない気持ち悪さとはこういうことを言うのだろうか。
生ぬるい風が全身を包み込み、体中の組織が徐々に熱を帯びていく。
だが、不思議と汗は出なかった。


――――― あれから、どれくらい経っただろう。


男はゆっくりとあの時の光景を思い出した。
このゲームが始まって、そう間もないころの記憶。


――――― 俺は、悪くない。


頭ではわかっている。あれは俺のせいじゃない。
けれど、あの瞬間は今も鮮明に俺の脳に焼きついている。
あいつの顔、あいつの声、あいつの呼吸、あいつの……血。
思わず自分の手を見る。今でもはっきりと思い出せる感触。
あいつを刺したときの、妙にやわらかい、あの手応え。
35 :@挙動不審 :03/11/20 20:38 


――――― 悪いのは、あいつだ。


何回も何回もそう自分に言い聞かせる。
だが、どこか体の奥の部分に、罪の意識が巣食っていた。
それは、俺があの時を思い出すたびに、確実に大きくなっていく。
きっかけを作ったのはあいつだ。
あいつが突然襲い掛かったりしなければ、こんなことにはならなかった。
正当防衛だ。俺に非なんてどこにもない。

だけど、俺は、確かに、手をかけた。
偶然なんかじゃない。自分の意思で、あいつを刺した。
それは紛れもない真実だった。


「……!」


涙が出た。あいつを殺してから、初めての涙だった。
少し冷静になったからだろうか。
別に、悲しんでいるわけじゃない。
ただ、怖かった。
怖くて怖くてしょうがなかった。
男は震える手でメガネを外し、スポイトでたらしたようなその一滴の涙を、
何度も何度も、強く擦った。
36 :@挙動不審 :03/11/20 20:40 


『Nと!』
『Sで!』
『ビタッ!!』


ふと、漫才をやってたころの自分を思い出す。
楽しかった、それなりに幸せだった自分。
相方の顔。ちょっとケンカ腰のつっこみ。
俺が考えたどうしようもないボケ。
ネタあわせ。お客さんの笑い声。
なんだか全てが懐かしかった。

その途端、涙があふれ出た。
スポイトだったはずの涙が、途端に大量に流れ出た。
流れた涙は頬を伝い首を伝い、赤い布地にそっと染み込む。
……佐々木は、今の俺を見たら何て言うだろうか?
放送で名前は呼ばれていない、だからきっと生きている。
会おうと思えば会えるかもしれない。
けれど、その時の俺は、本当に俺でいられるだろうか?

磁石の永沢喬之は、声を殺して、泣き続けていた。
37 :@挙動不審 :03/11/20 20:49 
「もう、死体ばっかりですね」
至極冷静な様子でカリカの林克治が呟いた。
「やめろよその言い方。笑い事じゃないんだから」
それに反発するように返したのは同じくカリカの家城啓之。
「これでもまだそこそこの数生き残ってるんですよね……信じられない」
後ろにいる2人の会話を聞きながら、磁石の佐々木優介は独り言のように呟いた。
視線の先には、中身は違えど幾度となく見た死体の山がまた広がっていた。


「これは……コージーさんですね、こっちは……星野卓也さんですか」
やはり冷静に林が呟く。
「星野さん……天国でも自分実況してるんでしょうかねえ」
「ま〜た不謹慎なことを〜」
相変わらずのカリカのやりとりが繰り広げられる。

この2人と佐々木が出会ったのはほんの数十分ほど前のことだった。
別にどちらから声をかけたというわけではない。
歩いている途中に偶然出会い、そのままなんとなく行動を共にしている。
磁石とは事務所も芸風も違うカリカ。
危険だといえば危険だが、佐々木には雰囲気でわかるものがあった。
ああ、この2人は、流れに身を任せているだけなのだなあと。
誰かを狙うでもなく、何か目的があるわけでもなく、
それこそ散歩でもしてるかのような雰囲気がカリカにはあった。
少なくとも、佐々木にはそう感じられていた。
38 :@挙動不審 :03/11/20 20:51 
佐々木がそう思うのは、自分にも似たところがあったからなのかもしれない。
今の佐々木には、不思議と生への執着心が薄れていた。
それは、1番最初に鉄拳が殺されたときからそうだった。
眼前に広がった光景とは対照的に、不思議と、落ち着いていた。
他の芸人が殺された現場に偶然出くわしてしまったときも、
物陰から冷静にそれを見ていたこともある。
心のどこかが冷め切っていたのだ。

ただ、1つ気がかりなのは……


「どこにいますかね、永沢さん」
急に乾いた風が頬を掠めた。
「さあ……どうでしょうね」
佐々木は前を向いたまま答える。無意識のうちに青い袖口を握り締めていた。

永沢がまだ生きていることは確かだった。
このゲームに参加して、佐々木は一度も放送を聞き逃したことはない。
だが、依然として永沢の姿は見当たらなかった。
それなりに探し回っていたのにもかかわらず、である。
別にそれほどコンビ仲が良かったわけではないが、
このまま相方に合えないまま死んでいくことを想像すると、
微かにやるせない気持ちになる。
39 :@挙動不審 :03/11/20 20:53 


「しかし重いなあ〜これ!」


突然家城が、両手に持っているものを振り回しながら叫びだした。
「おい、物騒なもの振り回すなよ」
見るからに無骨なその武器が風を切る。
チェーンソーである。
「佐々木さんは軽そうでいいですね〜」
家城は佐々木の右手に包まれた拳銃に目をやった。
そして次に林を見る。
「……俺の武器のほうが軽いだろう」
家城はその言葉を待っていたかのようにケラケラと笑った。
そういえば武器がなんなのか聞いてないな。と思いながら、
とりあえずろくなものではないことを佐々木は悟った。


「笑ったね」
突然家城が佐々木を振り返ったと思うと、妙ににやけた顔で近づく。
「今、かすかに笑ったでしょう」
「……?」
佐々木は何のことを言われているのかわからない。
大体、話の流れ上、なぜここで佐々木自身に会話がふられるのかが理解できなかった。
「その笑顔、好きです。15アイル獲得」
家城はそう言ってまた林に視線を戻し、何事もなかったかのように歩き始めた。
少々呆気にとられた佐々木ではあったが、自分の前を歩いていく2人の背中を見た後、
再び、佐々木は小さく笑った。
43 :@挙動不審 :03/11/21 00:29 
書き忘れました。

>>39
【結合】
佐々木優介(磁石)・カリカ
50 :@挙動不審 :03/11/22 02:23 
「俺ってさあ……悪いことしてるのかなあ」
それが目の前にいる男への最後の言葉だった。
その直後、「ゴキッ」という鈍い音が響く。
「と……東京は怖いところとです…」
顔面を血に染めた熊本訛りの男は、そう言ってあっけなくその場に崩れ落ちた。
鼻は完膚なきまでに叩き潰され、
脇腹には何か鋭いもので貫かれたような傷がある。
どちらにも共通していることは、今なお血が溢れ続けていること。
「俺に会ったのが運の尽き……? 残念だったねえ。でもよく頑張ったほうかな」
ハマカーンの神田伸一郎はそう言うや否やおもむろに金槌を振り上げ、
もう動くことない標的めがけて再度振り下ろした。
金槌は仰向けになった標的のちょうど眼球のあたりに命中し、
「グシャ」っという先刻とはまた違った音を響かせる。
「ほら、拳銃ばかり使うと弾が勿体無いから……ね」
神田はそう言った後、天使のような顔で笑った。

「じゃ、次はあなたの番ですよ」
神田は横目でちらりとそばに倒れている男に目をやった。
「や……やめてくれ…助けてくれ……頼む」
急に矛先を向けられた男の顔が恐怖で歪む。
だが、その流れ出る血の量を見れば、
どのみち男が助からないだろうことは誰の目にも明らかだった。
「ふふ……じゃあ、なんか面白いものまねやってくださいよ」
神田が、今度は悪魔の笑顔で呟く。
「……じゃ、じゃあ、えなりかず」
男の声が唐突に止まった。
51 :@挙動不審 :03/11/22 02:25 
「……それ、もう見飽きました」
男は何が何だかわからない様子で眼球をぎょろぎょろと動かした後、
「キュヘッ」という短い音を口から出して、そのまま絶命した。
「死に際だからとっておきのものでも出してくれると思ったんだけど」
神田はそう言いながら、男の首に突き刺した槍をゆっくりと抜いた。
「つまんないなあ……ムカツク」
一瞬、左腕が疼く。かすり傷程度の銃弾の通り道がそこにはあった。
「まともに当たらないでよかったな……けどあんな武器持ってるなんてさ」
神田はいつぞや狙った獲物のことを思い出していた。
「何にも考えないで狙ったからな〜。今後の教訓かあ?」
最初に自分の銃弾が命中していたから油断してしまったのだろうかと考える。
だが、神田はすぐにその記憶をかき消した。
今となってはどうでもいいこと。その獲物はもう死んでいるのだから。

神田は槍と金槌を足元に放り投げ、天を仰いだ。
両手をゆっくりと広げむせ返るような血の匂いを嗅ぐ。
「俺ってさあ……悪いことしてるのかなあ」

堕ちた天使か、悪魔の落とし子か、正気を失った人間か。
その区別はもう誰にもつかなかった。


【ヒロシ ホリ 死亡】

76 :@挙動不審 :03/11/23 15:54 
生い茂る背の高い草木の中から、一人の女が顔を出していた。
「気づかれなくて……よかった」
そう呟いたのはだいたひかるだった。

だいたは視界の隅に収められているその異様な光景に、何とも言えない感情を覚えていた。
気持ち悪いとも違う、怒りでも悲しみでも驚きでもない、不思議な感情。
だいたはつい先刻に見たその一部始終を思い出し、身震いした。

数メートル先に転がるのは、見るも無残な死体。ヒロシ、そして、ホリ。
ハマカーン神田に嬲り殺された2つの人間が転がっていた。
あたり一面血の赤で染まり、ある種芸術的なものを感じさせられるほどでもあった。
「どうして……こんなことができるんだろう」
だいたはある意味で尊敬に近い気持ちを覚えた。


とりあえずいつまでもここでのんびりしていても仕方がない。
またここに神田が戻ってこないと言う確証なんてどこにもないのだ。
そうして、だいたが立ち上がろうとしたその時。

「……あれ」

低い男の声がした。

77 :@挙動不審 :03/11/23 15:55 


「……これ……ホリ?」
モジモジハンターの肖田シロは目を細めながらそう言った。
「う……そんな、やっぱり……う、うえええええええ!!!」
肖田の後ろに立っていた男が胃液を吐き散らした。

だいたは息を潜めてその2人を見ていたが、後ろの男を見て再び鳥肌を立てた。
嘔吐を終えて肖田を見上げるその顔は、殺戮を繰り返した男の相方。
ハマカーンの浜谷健治であった。

「……何回死体見たんだ。そろそろ慣れたら……」
肖田は浜谷の方を見ずに呟く。
浜谷はその言葉に対して何かを言いかけたようだったが、
再び出かかった胃液と共にその言葉を飲み込んだ。

「……神田の仕業か?」
肖田が質問を変える。
「……わ、わからない。けど、あのとき確かにホリさんは言ってた。
神田に殺されそうになったって……」
浜谷が切れ切れといった感じで言葉を発する。
どうやら2人はこの惨状が神田の行いによるものだと感づいてるようだった。

78 :@挙動不審 :03/11/23 15:59 

「狙った獲物は逃がさないってか」
今度は浜谷に視線を合わせながら言う。
「……あいつは、そういうところがあるんですよ。」
浜谷は肖田のほうを見なかった。何か別のことを思い出しているような顔だった。
「……ハローバイバイの2人から、神田がぜんじろうさんやクールズを襲ってたって、
それ聞いたとき、あいつなら正直やりかねないような気がしたんです。」
浜谷が今にも泣きそうな顔で言う。
「けど、俺、まさか……まさかそんなことって思ってて、信じたくなくて、でも、でも……」
浜谷の声が震えた。


「……本当に止められるのか?」
肖田が問う。
「……わからない、わからないけど、会わなきゃ……とにかく会わないと……」
浜谷の目から涙が溢れ出た。
その大量の涙は、撒き散らした胃液の上にポチャンポチャンと落ちていく。

「……頼りないんじゃないか?」
肖田が一歩踏み出す。
「俺は…まだ死にたくない。もし神田に襲われたらそのときは……」
肖田は手に収めた小さな銃をクルッと回転させ……受け止め損ねた。
「あっ」という肖田の小さな呟きと同時に、銃は地面にカツンと落下する。

79 :@挙動不審 :03/11/23 16:00 

「プッ……」
浜谷が思わず吹きだす。
「……笑う元気があるんならさっさと行くぞ、おい。」
肖田が銃を拾いながら言う。
「もっと完璧にかっこつけてくださいよ」
浜谷が立ち上がりながら笑った。
「……潰すぞ」
肖田もまた、笑っていた。



だいたは去っていく2人に声をかけようか最後まで悩んだが、結局そのまま見過ごした。
会ったら、きっと神田のことを言わなければいけなくなるような気がした。
ここで見た神田の殺戮を伝えなければいけなくなるような気がした。
それがだいたには少し抵抗があった。
それに、自分が加わったところでお邪魔虫になるに違いない。
けれど。

だいたは最初に支給された武器である虫除けスプレーを手に持った。
手に収めたそれをクルッと回転させ……受け止め損ねた。
スプレーはそのまま茂みの中に落ちてゆく。
だいたはそのスプレーを拾いながら、静かに笑った。

事の顛末を見届けたいというただの好奇心か、2人に情が移ったのか、
だいたはこっそり2人の後をつけることにした。

80 :@挙動不審 :03/11/23 16:01 
だいたひかるが潜んでいた茂みのすぐ近く、
土の壁に開いた、人が2人入れるくらいのそこそこ大きな横穴の中。
磁石の永沢はそこにいた。

涙は既に止まっている。
とにかく、音を出すわけにはいかなかったから。
永沢もだいたと同じく、近くにいながらも神田との対峙を回避していたのだ。
背の高い草やツタに覆われているため、この穴の存在は外からはほとんど気づかれない。
永沢自身、この穴を発見したのは運のいい偶然としか言いようがなかった。

そっと穴から顔を出す。
そこには、2つの死体が転がっている他には何もなかった。
「ふぅ……」
永沢は安堵のため息をつき、再び穴に潜り込む。
そして、神田の豹変ぶりを思い出した。
「怖いなあ……本当に」
そう言いながら、ちらりと傍らに目をやる。
そこには永沢に支給された武器である、穴あき万能包丁があった。
「……俺も……同罪かあ」
神田ばかり非難はできないなと思った。自分だって人を殺しているのだから。


81 :@挙動不審 :03/11/23 16:02 
あのとき、いつのまにか寝てしまっていた永沢を起こしたのは、
1発の銃声と、悲鳴だった。
それを聞いた瞬間、永沢は体を強張らせた。
近くで何かが起こっている。寝起きの永沢でもそれはすんなり理解できた。
そっと顔を出した永沢の目に映ったのは、ヒロシとホリに襲いかかっている神田の姿。
すぐに顔を引っ込めた永沢は、そのまま時が過ぎるのをじっと待っていた。

それからどのくらいたったか。
物音が聞こえなくなって数分後、今度は誰かの話し声が聞こえてきた。
見ると、モジモジハンターの肖田と、ハマカーンの浜谷。
そしてそれを茂みの陰から見ているだいたひかるが目に映った。
3人とも敵意がないことは一目でわかったが、
永沢は神田のときと同じようにすぐに顔を引っ込めた。

―――――――― もしもあの時と同じようになったら……

そう考えると、誰かと接触する気にはなれなかった。

もっとも、ここが禁止エリアに指定でもされない限り、
最初から永沢はここを出るつもりはなかったのだが。



「佐々木は……正気でいるかな。」
永沢は神田の姿を思い出しながら呟いた。


【浜谷健治(ハマカーン) 肖田シロ(モジモジハンター) 結合】
89 :不法投棄 :03/11/24 00:01 
バタン
森枝の目の前で人が倒れて死んだ。

とどめを刺される前に逃げてきたのだろうか。
胸部を刺されたらしく、出血部分押さえている。
洋服が真っ赤に染め上げられていた。
だらだらと赤い血が噴き出していた。

「死にたくない」

ヒューヒューと息が奇妙な音を立てて漏れた。
その音も次第に止んでしまった。
一応これがダイイングメッセージになるのだろうか。
倒れた男の腹を足蹴にしてその死を確かめる。

死にたくないそう言って同業者の男は死んだ。
お互い誰か名も知らない、ただ同じ芸人であるという事しか分からない。
侘びしさと恐怖と見ず知らずの人間に看取られてひっそり死んでいくのだ。
外にいる人間にこそ悲しんでもらえるものの、
中にいる人間にはただ、1人の男が死んだ。
ただそれだけのことでしかない。
90 :不法投棄 :03/11/24 00:03 
殺されるか?
生きるか?
ならば殺せ。
選択肢はそれ程多くはない。

男の顔がもの凄い形相のまま死後硬直を起こしだした。

ああ、俺もこうなるんだな。

一瞬、死んだ男の顔が自分の顔にダブって見えた。
背筋を冷たい汗が流れて落ちる。
その汗を出した原因が恐怖なのだろうか…。

数人ごと呼ばれて吐き出された荒野。
森枝が呼ばれる前に出ていったハズの誰も自分を待った形跡はなかった。
このまま1人で時間を過ごしていったところで生き残れるとは思えない。

まだゲームは始まったばかり。
何をするにしても、それまでの時間人を殺す以外やる事はない。

ふと相方の大川原や、同期、先輩後輩の顔が次々と思い出される。
誰かを探してみようと思った。
生きているだろうか。
その中の誰かに殺されるだろうか。
見ず知らずの誰かに殺されるくらいなら。

それでも、
「俺だってまだ死にたかねーよ。」
ぎゅ、と唇を噛んで震える体を押さえた。
91 :不法投棄 :03/11/24 00:08 
芸人バトルロワイアル。
その説明を聞いた時の大川原の顔が忘れられなかった。

鉄拳が質問をして、殺された瞬間。
ただでさえ重かった空気が、さらに異様なものとなった。
その中で1人…大川原は笑った。
薄く口角をあげただけで一見だけでは笑ったようには見えない。
でも、森枝はあれは笑ったのだと、妙に確信した。
どうして笑ったのか。
会う事ができれば、聞きたいと思う。

殺す以外にやる事がなければあとは殺されるだけだ。
それまでの時間の生き甲斐を見つけた気がした。
人間生きる目的さえ見いだせばその目的のために必死になって足掻く。

この場においてはそれが単なる気休めだとしても、だ。

とりあえずこの場所から去らなければ。
死んだ男を殺し損ねたと思った誰かが血の跡を追ってやってこないとも限らない。
92 :不法投棄 :03/11/24 00:12 
歩いて行く内に木立が並ぶ一カ所で塊を見つけた。
生臭い、鉄の臭いを発する塊を見つけた。

「!」
低い鼻を摘みその塊に近付く。

殺された人間の塊だった。
人数など数えられない程積み上げられた、ただの塊としか称しようがない。
1番上に置かれた人間に恐る恐る触れてみる。
血はまだ固まっておらず、生暖かい。
殺されてそう時間がたっていない証拠だろうか。

心臓がドンドンと早くなって、キンと耳鳴りが頭の中を占拠する。

よく塊を観察し、誰か知った顔がないか見つけようとする。
だが、ランダムに置かれた体は顔を隠しそれが一体誰なのか全く把握できない。
ただでさえ、混乱した頭。
知った顔と選別する事は元より困難だった。

その時、そう遠くなく近くない所で生きている人間の気配が分かった。
足音、荒い息遣い。

森枝は死体の塊とその足音の方とに頭を交互に動かす。
もう、どうしたらいいのか考える思考は残されていない。

殺すか、殺されるか。

は、っと塊に目をやり1体、2体と死体を動かす。
だんだん足音が近付いてくる。
早く早く、気だけが急いて手が震えて行動がままならない。

ガサガサ
93 :不法投棄 :03/11/24 00:17 
「くそ、くそ、何で俺がこんな目にっ。」
男の声はイントネーションからして関西のものだ。
森枝は死体の中に隠れてその声に耳を傾けた。

「死にたない、死にたない…」
男はぶつぶつ、それだけを呟いていた。

俺はここにいない。
俺はここにいない。
俺はここにいない。
森枝は目をつむって自分に言い聞かせた。
死体の塊の、死体に扮装して、死体の役を演じて、死体のように、息を殺した。
今、少しでも生きた人間である気配を出してしまえば、全てが終わる。
終わってしまうのだ。
カタカタと震える体を必死になって押さえつけた。

「殺す 殺す 殺す 殺さな俺が殺される。
はははははははははははははは」
震えた声で呟いたかと思えば、とたんに甲高い声で笑い出した。
「何や皆そこにおるんやろ!
出てこいや!俺を殺すんやったらはよやらんかい!」

狂っていく様が声だけでありありと分かった。
その声に、震えていた体がぴたと動きを止めた。
血の動きすらも止まっていくかのようだった。
94 :不法投棄 :03/11/24 00:26 
「ぐぇ」
ガツンと、何かがぶつかった音がして、
同時に蛙が潰されて出すような声を発し、男の悲鳴が止まった。
死体の中にいる森枝には何が起きているのか全く分からなかった。
また別の誰かが来て狂った男を殺したのだろうか。

じっと、息を殺しその誰かが誰であるかを探る。
「おーナイスコントロール。」
この声には聞き覚えがある。
森枝は死体を動かしてその男の名前を呼んだ。

「森っ森だろ?」
死体の中から這い出て後輩であるフラットの森を見つけた。
「森枝さん!何してんですか!」
中途半端に高い声。
驚いて目を丸くする森の顔にどれだけ胸をなでおろしたか分からない。
「おいおい、俺を殺すなよ。」
「驚かさないで下さいよ!」
森は戦闘態勢に入っていた目を和らげた。
95 :不法投棄 :03/11/24 00:29 
「うわ、臭っ!」
「死体ん中に隠れてたからなー。」
血塗れになった顔を拭こうとして、洋服すら血塗れになっているのを見る。
死体の中1番上にあった人間の中からそんなに汚れていないものを選び、剥ぐ。
それで顔と手を拭いた。

「これ誰?」
森が殺した男、狂っていった男の顔を覗き聞いた。
「さぁ、俺関西の人間と縁ないから全然知らないです。」
「ていうかお前よく殺せたなぁ。」
「死んでないですよ、多分。」
「はぁ?」
「俺石投げただけですもん。」
森はにか、と笑って男の側に落ちた石を拾った。
「渡されたバッグにでかい石1つしか入ってなかったんですよね。」
さぁ、と血の気が引いていくのが分かった。
「おい、逃げるぞ!」
うーん、と男が唸り声をあげて起きようとしていた。
森枝は咄嗟に男の武器と思われる猟銃を拾って叫んだ。
もつれそうな足を叱咤し、森の腕をつかんで走り出した。

【アメデオ森枝 フラット森 合体】
108 :B9@天津 :03/11/25 23:30 
前スレ>>865続き。

『痛い!痛い!怖い!嫌や!もう嫌や!!もう!!なんやねん!!!』

向は走る。ただ、ひたすら走る。
中岡に撃たれた左肩からは血が溢れ、ぬるぬると上着を真っ赤に染めるが血は止まることなく流れる。
激しい痛み。肩に同調したのか、はたまた中岡の顔を見たせいか背中の傷までもが疼きだす。
それでも向が足を止めることはない。

はぁ……はぁ……はぁ……

息をきらし、時折うしろを振り返りながら向は走る。向が走る。
何が向をそんなに焦燥さしているのか向自身もよく分からないかった。
死ぬ事なんぞ怖くなかったのではないのか?死に直面して臆病になっているのか?
確かに『死にたくない』それは大きい。しかし、それよりも今の向にとって怖いのは
【死】よりも【中岡】だった。鎌で背中を切り裂かれた時からあった予感。
『なに』とは口では説明しにくいが感覚的なものが本能に訴えてきていた。

ドスン

木の根に躓き、向は音をたてて倒れる。
頬を地面でこすったのかチリッとした痛みが頬に走り、「くそっ!」と呟くと握りこぶしを地面に叩きつけた。
銃もナイフもカバンも石田の所へ置いてきてしまった今、【策士】でしかない向が体一つで
180cmで整った体格と銃を所持した中岡とやりあうのは、いくらなんでも勝算がなさすぎる。
(おまけに左肩はもう動かすのもままならないほど深い傷を負っている)
向はギシギシと歯ぎしりをすると、もう一度地面を殴りつけた。
その時……足音が聞こえた気がした。
気のせいかと思ったが耳を澄ませば間違いなく一歩、一歩、土を踏みしめるような音が
近づいてくるのが聞こえる。
109 :B9@天津 :03/11/25 23:31 
「向さ〜ん。向さ〜ん。隠れても無駄ですよ〜。早く出てきてくださ〜い。ぶち殺してあげますから」

『中岡!!?』
向は慌てて木陰に隠れた。
高鳴る心臓。全神経を中岡の方へ集中させる。

「向さ〜ん。潔く出てきたらどうですか〜?」

そう言いながら中岡はクスクスと笑っている。
『なんやねん、あいつ……』
畏怖嫌厭の情。なんと表現したらよいのだろう。
出口のない迷路の中に放りこまれ、こちらの手の内や心理をすべて上から眺められた上で
追い詰められていく感覚……否、それも適切な表現ではない。
底知れぬ深さ……暗闇の中で気がつけば背後に立たれているような不気味な……そっちの方がまだ近い。
あいつは『リアル』だ。反吐が出るほど不快で、もどかしく、イライラばかりが募る。

「向さ〜ん。いるんでしょ?殺してあげますから出てきてくださ〜い」

幸い、まだこちらがどこにいるのか気付かれていないようだ。
下手に動くと見つかってしまうが、だからと言ってこの状態で此処でジッとしてるのも得策とも思えない。
『どうすればええねん?』
そんな時、向の目にサクが飛び込んできた。
自然の木々に囲まれたこの場所で違和感を放っている人工物。
向のヘソあたりの高さの柵。
110 :B9@天津 :03/11/25 23:32 
中岡に気をはらいながら、向は音をたてないように近づき柵の外を覗き込んだ。
向は自分のいる場所は森だと思いこんでいたが少しばかり傾斜がついていたのか?それとも柵より
むこうの土地が一段低いのか?柵のむこう側は高さ約3〜4メートル位の傾斜面になっており、
その下には建物が何軒か立っているのが見える。

『これはチャンスちゃうか?』
中岡に気付かれないようにここから下へ降り、建物の中に逃げて隠れれば助かるのではないか?
ただ傾斜は急で下手すれば……しかし迷っている暇はない。
中岡の声が少し遠ざかった所を見計らって向は柵をこえ、ゆっくりと降りていく。
が、お約束のごとくズルッと足を踏み外すと、綺麗なフォームでゴロゴロと転がりながら落下しお尻で着地。
「痛ったぁ!!」と思わず声をあげてしまい、慌てて自ら口を手でふさぐ。
そして、急いで立ち上がると一番に目についたクリーム色の建物の中に駆けこんだ。
111 :B9@天津 :03/11/25 23:33 


幸運なことに建物の入口は開けっぱなしにされており、駆けこむやいなや向は辺りを見回し
人がいないことを確認すると、その場にしゃがみこんだ。
『はぁ……はぁ……しんど。でも助かった……。ここは……図書館?いや、市民会館か?』
そこはロビーのような場所で、監守用か案内用か?小さな窓まであり、電源の切られた自動販売機が
いくつか並んでいる。閑散とした館内は所々に空き缶やゴミくずが落ちており、お世辞にも綺麗とは言えない。
しかし、ここはどこか凛とした空気を放ち、独特の空間を作り出している。
向はそんなこの場所の不思議な雰囲気に好奇心をあおられ、立ち上がると館内を歩きはじめた。
すると1人の男が倒れているのを発見する。
もうすでに息をひきとっており、髪の毛をつかみ顔を覗き込んだが知らない顔だった。
しかし向は一気に警戒の色を強める。敵は中岡だけではないのだ。
気を抜いたら殺される、そういう戦場にいるという事を忘れてはいけない。おまけに自分には武器がない。
気を張りながら徘徊する。すると、あちらこちらヒビ割れが目立つ卵色の壁にポスターが数枚、
間隔をあけて貼られてあるのに気付く。
近づいて見てみると【劇団ミツバチ公演 ライ麦畑でつかまえて】と表記されている。
そういえば、ここに入る瞬間に入口のところに同じポスターが貼ってあるのを見た気がする。
慌てて中にかけこんだので、まじまじと見る時間はなかったが……。

「劇場?」

どうやら向が図書館か市民会館だと思っていた此処は、小さな劇団が使っていた劇場のようだった。
「……ということは」
向は肩の傷のことも忘れて軽やかな足取りで走り出す。
ここが劇場なら、かならずあるはずだ。楽屋や化粧室、さまざまな扉を次々開けていき、ついに大きな扉を発見する。
向はその大きな扉を勢いよく開いた。

「あった……」

客席とその先に広がる舞台。

112 :B9@天津 :03/11/25 23:34 
こんな辺鄙な地の劇場なので当たり前のようにキャパは小さいが間違いなく客席と舞台がそこにあった。
向はおおきく深呼吸すると、客席を一歩一歩踏みしめ舞台へとむかう。
静寂に包まれた薄暗い舞台、人っ子一人いない客席を前に一人立つ。

舞台からの客席。

向はハッと息をのんだ。

頭が真っ白になる。

懐かしい古里に帰ってきたような感覚

懐古の情で心がいっぱいになる。

ドクンと心臓が脈打った。

「え〜、天津と申しまして、こうして漫才してるんですけど。」

無意識に口から零れる台詞。

「ちょいと聞いとくれ、木村くん。おい?木村?きむ……ら?」

返事がない。木村がいない。

なぜ?
113 :B9@天津 :03/11/25 23:35 
『お前が殺したからやん』
 

耳の奥から聞こえてくるは、聞き覚えのある相方の声。

「俺が……殺した?」



      『殺した』  『殺した』  『殺した』

          
          『向が木村を殺した。』
            
          『向がみんなを殺した』


 『もっと生きたかった』 『死にたくなかった』 『お前が殺した』
114 :B9@天津 :03/11/25 23:36 


『殺  死に く   命の   なな  イラナイ   死   ココロ かったのに   
  す  た  尊い    死  汚い  存在    に  の  死ねば  たい
      ない    炎  く スンダ   なんで  お前が 生きて  やり
  人殺し    れば    て    のに  ?  たく  痛み   て  
      いなけ  呪い 言葉  謳え  悪く ない  カラダの  殺し
 お前がさえ    憎い の   死を  望め のに 死んだ 悲鳴 いた
   人生   お前の   すべき   最低  嫌い    死    で  イ
      ガラクタ  せいで  嫌だ    刺 いや に   な    痛 
 終わり      死刑  殺さないで  自殺 殺 い  た さ  い 
       罪人    に  僕は  奪った  醜 く  殺  な    死』


無数の声が向を襲う。それらの声は全て聞き覚えのある彼らのものだった……。

「あ、ああ……あっ…あ、嫌や。やめろ……やめろーーー!!」


115 :B9@天津 :03/11/25 23:37 


        『死にたなかったのにお前に殺されてん』

          『向さんの事、信じてたのに』  

           『痛い』  『苦しい』


「そんなん……だって……ちゃう…やん。だって……それが…」


            『こんだけ殺して』
 

         『『『『マンゾクシタ?』』』』


「うわぁぁぁぁぁぁぁああああああーーーーーーーー!!!!!!!!!」

向は頭をかきむしると胎児のように体を小さく丸くし、その場に崩れ落ちた。
目を大きく見開き、その瞳から止めどなく涙が流れる。滴が眼鏡のレンズに落ち、視界が滲んだ。

116 :B9@天津 :03/11/25 23:37 
「う……うっうう……ああああ……ああああああぁ!!」

嗚咽を洩らし、鼻水をたらしながら子供のように大声を上げて泣く。

怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!
ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!

慟哭する向は、左肩の傷口に自分の指をめり込ませる。
グチュと生々しい音がし激痛に「ぐわぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!」と叫び声を上げる。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。傷が痛い。心が痛い。
恐怖より痛みの方がまだましだ。自虐と自己保身を意味するところの行為。
止まりかけていた血が再び向の手を伝った。

綺麗な紅色。

これはきっと夢や。目ぇ覚めたら、いつもの汚い布団の上で。
劇場に行けば芸人がいて相方がいてお客さんがいて……漫才をする。
そうやろ?答えてや。なぁ?なぁ!!もう嫌や。
なんでこんな事になってんな?俺が悪いん?なぁ!答えろって!!
117 :B9@天津 :03/11/25 23:39 


「こんな所にいはったんですね」

泣いている向の上から声が降ってくる。
顔をあげると中岡が静かに冷たい笑顔で自分を見下ろしている。
「そんな顔をドロドロにして、なにしてはるんですか?」

神様、こいつが俺を死者にするための使者ですか?
不思議なことに中岡の顔を見たとたん涙が止まり、驚くほど心が落ち着く。
あぁ、そういう事か。

「俺を殺すんか?」
「はい。」
「なんで?」
「唐戸を殺したからですよ」
「唐戸以外にもいっぱい殺したで。いや、殺したっていうのはあれか……死に追いやった」
「僕は正義の味方じゃないんで。復讐ってそんなもんでしょう」
「俺を殺しても唐戸は生き返らへんで」
「…………………。」
「俺を殺しても何の意味もない」
「わかってますよ!!だって唐戸は死んだんですからね!!
あなたを殺しても何もならないかもしれません!何も変わらないかもしれません!!
そんな事わかってます!でも……」
118 :B9@天津 :03/11/25 23:40 
中岡は大声でまくしたてると呼吸を乱し、下唇を噛みしめる。
そこにはもう中岡の余裕の笑顔はどこにもなかった。

「唐戸が殺されて、野口が病んで、それなのに貴方が……のうのうと生きてるんが許せないんです」

苦しそうで、辛そうで、今まで見えなかった中岡の感情が手にとるように分かる。
そんな中岡に向は安堵の笑みを洩らした。
「何が可笑しいんですか!」中岡は鋭い口調でそう言うと、向の襟首を乱暴につかんだ。

「なんや、ちゃんと中岡なんや。よかった」向のその言葉に、中岡は怪訝な顔をする。

119 :B9@天津 :03/11/25 23:42 

向はため息をつき、目を閉じた。もう涙も枯れて出ない。
でも……悲しい。今さらながらに全てが悲しい。
自分が死へと追いやった人たち。仲間。自分とは関係のないところで死んでいった川島さんや松ちゃん。
舞台で共に笑って、時に漫才を武器に戦って、楽屋でつまらないやり取りで遊んだり、
飲み屋でお笑いについて熱く語ったり。

なんであの瞬間をつまらないと思えたんだろう?
なんで人を殺すスリルにとりつかれてしまったのだろう?
その時はそれが最高の楽しみ、自分が特別であるための最高の手段だと思った。
綺麗な花を咲かすためには他の花を切り落とさないといけないはずだった。
美しく咲く唯一の花になりたかった。枯れてしまうのが怖かった。
そのためには犠牲はいとわなかった。それがたとえ身内であっても……。
それがルールだったはずだ。自分はルールに則っただけだ。

『死ぬんが怖いから人を殺すんや!』

そうや、それがどうした?
怖かった。ほんまは大声出して叫びたいほど毎日が怖くて仕方がなかった。
狂えば……発狂すれば、狂人になれれば恐怖から解放されると思った。
ゲームの主人公に永遠の死は訪れない。戦うという条件のもとにそういう呪いをかけられているから。
でも勇者になんてなれるわけなかった……。勇者もきっといつか気づくに違いない。
モンスターを殺し殺戮を繰り返したはての平和と栄光に自分の行動の愚かさを……勇者は勇者でないことを。
でも……
『向さんは向さんでしかないですよ!いいじゃないですか、それで』
そう思えるほど……強くなかった。弱い自分を認めれるほど強くなかった。
いつだってどこかで弱い自分が震えながら見ていた。そんな自分に気付くたび狂うということに
拍車をかけなければいけなかった。
120 :B9@天津 :03/11/25 23:42 
なんで最後まで狂いきれへんかったんやろ……。
もう自分を見失って理性の欠片もないくらいめちゃくちゃになって、自分の悪や罪を正義と信じ、
罪と愚かさに気づく事なく終わりを迎えられたら、どれだけ幸せだっただろう。
なぜ、ここまできてあの頃の自我を取り戻してしまったんだろう。
なんて……なんて残酷な話なんだろう。
罰―――なんだろうか、ストリーク・ランチ・ババリア・ママレンジ・足軽エンペラー・
中山功太・ブロンクス唐戸・NONSTYLE………そして相方木村を殺した罪の罰。
ならば自分はこの罰をあがなってはいけない。罪には罰がついてくる、受け入れなければいけないのだ。
この身をさしだしても贖いきれないほどの罪の重さだが……この命を捧げることが自分ができる限りの最大の償い。
前は死ぬのが怖かった。でも今は違う。
今は自分の罪の重さが怖い。この手が何人もの人の血で染まってるかと思うと怖い。
自分は人の首を切り落とせる人間だったという事実が怖い。怖い。怖い。
狂いきれなかったけど狂ってはいる。じゃないと人の首を切ることなんてできない。ましてや相方の……。

全てが遅い。
でも、もうどうでもいい。死ぬんだから。
修道院で『死は楽園。死は理想郷』なんて戯言を吐いたが、死は無だ。無。無。夢。
舞台の上で死ぬ―――よく芸人が冗談で言ったりするが自分はそれができるのだ。
芸人の死に方としては悪くない……いや最高だ。
おまけに自分を殺してくれるキャストまで用意してもらえている。
不思議とあれだけ怖かった【死】がもう怖くない。
それどころか、死という闇が大きく手をひろげ自分を受け止めてくれるような気がした。
121 :B9@天津 :03/11/25 23:43 
「なにか言い残したいことはないですか?」
最後の慈悲とでも言うように中岡は静かな口調で尋ねた。
言い残したいこと?
いろんな言葉が頭を駆ける。が、その9割がボケである事に気づき
自分はすっかり芸人・向清太朗に戻ったんだと実感させられる。この地に連れてこられてからは
【他者の命の剥奪】という事ばかりが脳裏をかすめ、面白いことなんてなに一つ浮かばなかった。
考えようともしなかった。それが今『死にぎわに言い残した面白い一言とは?』という大喜利のお題でも
出されたかのごとく、ボケばかりが頭に浮かぶ。しかしここでボケてもスベル確立100%。
そんなチャレンジャーな事をして銃弾でつっこまれると言うのも面白さそうだが、いくらなんでも不謹慎だし
中岡に対しては誠意を見せなければいけない身なので残りの1割の中から言葉を選ぶ。

「お前は……間違えんなよ」

ボケに埋もれたその言葉は、今、向が中岡に言える最大のアドバイスだった。

「……もう遅いです」
絶望にちかい表情で答える中岡に「そんな事ないって。お前はまだ大丈夫やって」と慰めの言葉をかけ、
なに自分は今さら良い先輩ぶってるんだろうと惨めになる。中岡がこんな顔をする原因も自分にあるのに。

中岡はため息をつくと「向さんとの無駄話も疲れました」と銃口を向の額に押し付けた。
『カチャ』安全装置の外れる音。

もし死後の世界というものが存在するなら自分は間違いなく地獄行きだろうが
もし木村に会えたら一番に謝ろう。きっと許してはもらえないけど……。
でも何回でも何十回でも何百回でも何千回でも謝ろう。『ごめんなさい』と。

「さよなら」と呟くと中岡はゆっくりと引き金をひいた。

122 :B9@天津 :03/11/25 23:44 



パーーーーン!!!!!



響く銃声。

倒れていく体。

死んでいく細胞。

失われていく体温。



――――――ゴメンナサイ。ミンナ、ゴメンナサイ。



ゴメンナサ…イ……ゴメン…ナ……サ…………




【天津 向清太朗 死亡】






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